第863話 上級ダンジョン最奥のボス〈クジャ〉戦、決着。
ダウンからの総攻撃でがっつりダメージを与えたな。
「ギャアアアアアアアオ!」
「『完全魅了盾』!」
起き上がった〈クジャ〉は怒りの声を上げ俺にタゲを向けてきたが、シエラが『完全魅了盾』でタゲを奪い、再びヘイトを集めるいつもの展開でバッチリタンクをこなしてくれた。
「シエラサンキュー!」
「ギャアアアアアアアオ!」
「『城塞盾』! ダメージは、これまでで一番大きいわ。それに物理系と魔法系を使ってくるのかわからないのが厄介ね」
「翼の風は魔法系だな! スキルエフェクトが出てない」
「分かってるわ。『マテリアルシールド』!」
〈クジャ〉の攻撃方法は近距離、中距離、遠距離全てに対応してくる。
近づけば怪獣のくせに中々良いメガトンパンチを繰り出してくるし、上からガブリと噛みついてくる。
しかしそれは〈スキル〉の黄色いエフェクトを見れば比較的対処はしやすい。
問題はそれに魔法攻撃も組み合わせてくることだな。
胸からのビームはもちろん翼による攻撃、主に風などは黄色のエフェクトが見られない、つまり魔法攻撃だ。
タンクは防御力と魔防力の両方をしっかり上げていないと〈クジャ〉相手には苦戦するということだな。
つまり、シエラなら安心して任せられる。
「『大聖光の四宝剣』!」
ズドドドドとラナによる光の剣が降り注ぎ〈クジャ〉がよろけると、俺、エステル、カルアが側面や後方からしっかり攻撃してダメージを稼いでいく。
「ギャアアアアアアアオ!」
「わっぷ!?」
「く~」
「カルアとエステルは無理するな。風は防御姿勢でしっかり防げ!」
〈クジャ〉の風攻撃は唐突に来る。とても厄介な風だ。
何しろ翼をはためかせたり、振り向いたりするだけで大きく風が吹くからだ。
おかげで唐突に吹き飛ばされ掛けたりする。
とはいえダメージは比較的少ないので何とかなっている。
ラナの継続回復のおかげで余裕で回復できる程度のダメージしか負わないため、すぐに戦線に復帰できる。ただいちいち体勢が崩されるのでその辺りは警戒が必要だが。
これがタンクが吹き飛ばされたり、アタッカーの魔防力や装備がイマイチだったりすると大きく苦戦するんだ。
今だってエステルとカルアが吹き飛ばされても装備のおかげで1割程度のダメージで済んでいるが、これがもう少しダメージが多ければ回復魔法を使わなければならず、するとクールタイムでヒーラーが回らなくなってしまう。
上手く回復を回せたとしてもヘイトを溜めすぎてしまい、万が一誰かがやられたとき立て直しがかなりリスキーになる。
だが、そこは安心の我らが【大聖女】様。
継続回復はヘイトが溜まらない。魔法を発動した瞬間ヘイトは溜まるが、後はまったくヘイトを稼がずに数十秒間回復できるのだ。そして1割~2割程度なんて放置しているだけなのに余裕で回復してしまう。
おかげでラナはヘイトをあまり稼がないためヒーラーだけではなく、バッファーの仕事どころかアタッカーまで手が回ってしまうのだ。
【聖女】は回復でヘイトを稼がない。ヒーラーの中で最強は伊達ではない。
「『獅子の大加護』! 『聖光の耀剣』! 『天域の雨』!」
「やっぱラナ強え~。こういうじわじわダメージを与えてくるボスが相手だと継続回復の強みが顕著に現れるな!」
「ふふふ、もっと褒めても良いわ!」
「よ、ラナ様素敵! むっちゃ強い! かっこいい! 『
「ちょっと、最後のどういう意味!?」
いやあ、チャンスだったので攻撃してしまっただけだ。
おかげで2度目のダウン!
総攻撃開始だぜ!
それからもガンガンHPを削って行くと、とうとう一つ目のHPが完全に消え、二つ目のHPバーが削れ始めた。
「ギャアアアアアアアオ!」
「! ボスの挙動が変わるぞ! シエラカバー!」
「『カバーシールド』!」
一つ目のHPバーが消えると大概のボスは挙動が変化する。
〈クジャ〉も例に漏れず、変身など劇的な変化はしないものの、先ほどより攻撃が苛烈へと変化するのだ。
シエラがカバーを発動した瞬間、胸の水晶が光ったかと思うと、今までビーム1本を撃つだけだったのが、今度はレーザーを無数に拡散して放ってきた。
それはレーザーのショットガン。
シエラはしっかりと盾でガードし、その後ろにいる形になったラナも『カバーシールド』の小盾が2枚掛かりでレーザーのショットガンを防いでくれる。
「何今の!」
「ダメージが高くなってるわ」
「今度は翼に気をつけろ!」
レーザーのショットガンなんて希有な攻撃を体験したラナが驚いた声を出し、シエラが今のダメージ数値を冷静に見て報告してくるが、〈クジャ〉の攻撃は止まらない。今度は翼を広げたかと思うと前方に紫色の息を吐き出し、それを風で広範囲に広げたのだ。
「毒の全体攻撃!?」
「『勇猛結界』! 反撃のチャンス来たぞ!」
毒の吐息が風に乗り一気に押し寄せるが俺の『勇猛結界』は状態異常専用の防御スキル。
これで全員への毒は完全に防ぎきった。
「反撃です! 『トリプルシュート』! 『閃光一閃突き』!」
「ん! 『鱗剝ぎ』! 『デルタストリーム』!」
「『大聖光の四宝剣』! 『光の刃』!」
「『ショックハンマー』!」
相手の攻撃を防げば反撃のチャンス。
挙動が変わってもその事実だけは変わらない。俺が全員を守っている間にすかさずエステルとカルアが飛び込み側面から削る。ラナも遠距離から魔法で攻撃し、シエラもチャンスにメイスで足をひっ叩く。
「ギャアアアアアアアオ!」
「もう、本当にタフね!」
まだまだ元気な〈クジャ〉にラナが悪態を吐いた。
まあ、普通のボスならそろそろ倒れている頃だからな。
実際にはやっと2本目のHPバーが削れ始めた所だから何か言いたくはなる。
「長期戦になるぞ! MPが厳しければ隙を見て余裕のあるうちに〈エリクサー〉で回復しておけ!」
「ん!」
「了解です!」
「分かったわ!」
「シエラはポーションを飲む暇が無さそうなら俺が足止めするから言ってくれ」
「大丈夫よ。『ディバインシールド』! これで少しの間持つから――」
さすがにHPバー3本が相手ともなるとMPの心配があった。特にタンクのシエラはそう簡単に補給はできないからな。
だが、シエラは四つの小盾をクロスさせて守る『ディバインシールド』で防いで〈エリクサー〉を飲む時間を捻出していた。さすがはシエラだぜ。
さて、仕切り直しだ!
二つ目のHPバーに突入した〈クジャ〉の挙動はいくつか代わり、レーザーのショットガンや毒霧散布。さらにメガトンキックまでするようになった。これがまたダメージが大きいのだ。特にキック。
しかし、シエラの防御力は非常に高い。全ての攻撃を盾で受け、あるいは受流し、または避ける動作もしてHPが5割を割り込むことも無かった。
シエラつっよっ!
おかげで俺たちは安心してアタッカーに集中し、ついに二つ目のHPが消え去る。
最後のHPバーだ。
「ギャアアアアアアアオ!」
「また挙動が変わったわ! 来るわよ!」
「! ラナ! 障壁を張れ! カルア退避!」
「! 『聖守の障壁』!」
「ん!」
最後のHPバーになるとまたまた〈クジャ〉の挙動が変わる。
1回目と同じく水晶に光が集まったと思ったら極太ビームを放ち、さらに放ったままグルリと回れ右しやがったのだ。
ビームによる薙払いだ!
「きゃあ!?」
「ビックリ!」
OK。ラナとカルアは障壁の向こうだ。
ラナが多少フィードバックを受けたようだが微々たるもの。カルアももちろんノーダメージ。カルアは『直感』によってラナの壁が一番安全だと見抜いたようだ。
正面にいたシエラも普通に盾で防ぎきっていた。
俺とエステルは範囲外だったのでセーフだが、非常に範囲の広い攻撃にシエラが難しい顔をした。全員をどう守れば良いか見当が付かないのだろう。
そういうときは俺の出番だ。
「ボスの左右と正面には居るな! 全員後ろか後ろ斜めに移動しろ! ボスは正面しか攻撃してないぞ!」
「! そうね!」
ボスの攻撃範囲はターゲットを中心にして左から右へ180度半周しながらビームを放射する。
つまり後ろは安全圏だ。
シエラがすぐに動いて俺たちと場所をチェンジし、ボスはラナに対して後ろを向いた図となった。
よし、上手いことポジションを誘導できたな。
ラナからシエラが見えづらくなってしまう欠点はあるが、ヤバそうなら俺がシエラを回復すれば良い。
さて、そろそろラストスパートに備えなければ!
〈クジャ〉の攻撃パターンは増えに増え、突風による攻撃が強力になった。
ボスの近くで吹き飛ばされると割と頻繁にスリップダウンするほどの暴風になってしまった。
しかも、今度は〈クジャ〉がグルリとその場で回り。全方向に攻撃してきたためにエステルとカルアがよく吹き飛ばされてしまうようになる。
「きゃ!?」
「にゃう!?」
「エステル、カルア!?」
「シエラ、完全魅了盾!」
「『完全魅了盾』!」
「ギャアアアアアアアオ!」
これは仕方ない。
今まで回転攻撃してくる敵はいたが、回転しながら暴風を放ってくる敵はいなかった。範囲が広すぎて避けることもままならない。
おかげでエステルとカルアが大きく吹き飛ばされ、スリップダウンを取られてしまう。
本来ならダウンした人にタゲが向き、アタッカーがやられてしまうまでセットだが、俺たちには強制的にタゲを引きつけるシエラがいる。
すぐに気を引いてもらい、エステルとカルアは無事狙われる前にダウンから復帰できた。
「あの暴風が来たら防御姿勢で耐えろ! 吹き飛ばされなければ問題は無い!」
「はい!」
「ん!」
「また、ボスは右回りに回るクセがあるぞ! シエラの右を向いたら要注意だ!」
全員にボスの挙動や対応方法を指示しながら俺も攻撃に加わる。
本当はボス戦前に教えたいのだが、さすがに「勇者だからな」でごまかせなくなると困るので戦いながら説いていった。
「『ライトニングスラッシュ』!」
「ギャアアアアアアアオ!」
「あ! 怒りモードに入ったわ!」
「焦って突撃するなよ!」
三つ目のHPバーが残り15%程になった時、〈クジャ〉が怒りモードに突入した。
たまにヘイト無視の無差別攻撃も出る、危険なモードだ。
HPはもう少しだからといって俺たちは決して焦らない。
ただ、初見の攻撃には対処が難しいときもある。
「ギャアアアアアアアオ!」
「んな!? 飛んだわよ!?」
なんと、怪獣、跳ぶ。
しかしあれは飛んだんじゃ無い。跳んだのだ。つまり、直ぐ落ちてくる。
「防御姿勢だ! 『ディフェンス』!」
「きゃあ!?」
「にゃあ!?」
ズドーンと巨体が地面に落ちたかと思うと大地が揺れた。
エステルとカルアがバランスを崩す。
さらに怒りモードで攻撃力の上がった突風攻撃。
今までは翼をはためかせて攻撃していたのに、今回は〈クジャ〉が振り向いただけで翼から暴風が吹いた。
「ギャアアアアアアアオ!」
「くう!」
「風、強い!」
しかし、ギリギリでエステルとカルアの防御姿勢が間に合う。
だが、〈クジャ〉の水晶が光った。極太ビームを放つ気だろう。狙いは防御姿勢で動けなくなっているエステルとカルアだ。
地響き、突風、極太ビームは〈クジャ〉の凶悪なコンボ攻撃。
これがメガヒットしたら2人は大きなダメージを受けるだろう。何しろ怒りモードの攻撃だ。そこからダウンすれば戦いはどうなるか分からない。
しかし、〈クジャ〉怒りの攻撃は儚い夢と散る。
「いい加減シビレなさい! 『ショックハンマー』!」
「ギャアオアアア!?」
シエラのメイスによる攻撃。蓄積型で、何度か当てると相手を〈麻痺〉状態にしてしまう『ショックハンマー』が、ようやく耐性を貫通してボスに効いたのだ。
ボスは強い体内耐性を持つと言っても完全に無効化するわけではない。
蓄積型だと、少しずつ蓄積していき、限界を超えるとこのように状態異常に陥るのだ。
水晶に貯まった光は霧散し、〈麻痺〉状態になった〈クジャ〉が情けない声を上げて固まった。
「ふはははは! 超ナイスだシエラ! 締めるぞ! 『
「チャンスです! 『姫騎士覚醒』! 『騎槍突撃』! 『閃光一閃突き』!」
「やる! 『64フォース』! 『スターバースト・レインエッジ』!」
「トドメよ! 『大聖光の四宝剣』! 『聖光の耀剣』! 行っけー!!」
「行くわ! 『インパクトバッシュ』! 『シールドスマイト』!」
「ギャオオオオオオ!? ギャオオオオオオオ!! ……オオ……」
〈麻痺〉状態で動けなくなった〈クジャ〉に俺たちの総攻撃が入る。
大きくダメージを受けた〈クジャ〉は一気にHPを減らしていき、とうとうHPがゼロになって膨大なエフェクトを振りまいて消えていったのだった。
そしてその後には金色に輝く宝箱とドロップ。
俺たちの手の中には、初の上級ダンジョン攻略者の証が握られていた。
―――〈エデン〉、上級ダンジョンボス、初攻略。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます