第862話 〈嵐ダン〉最奥ボス〈暴風爬怪獣・クジャ〉!




 ここの最奥ボスは〈暴風爬怪獣はかいじゅう・クジャ〉。


 階層エリアボスや守護型フィールドボスのような中ボスとは違う、正真正銘のこのダンジョンを司る最後のボスだ。

 当然階層ボスや守護型よりだいぶ強い。

 しかもエリアボスやフィールドボスが複数パーティで当たれるのに対し、最奥ボスは5人までしか参加出来ない。

 複数パーティでボスを相手取ることを前提とした、もしくは慣れきってしまったギルドではまず勝ち目の無い相手だ。


〈クジャ〉の見た目はトカゲ型怪獣に翼が生えている、一見竜にも見える姿をしているが、よく見ると二足歩行の怪獣がメインだと分かる。こいつは怪獣だ。


 体長は5メートル強、胸には水晶体が光を放っていて、そこから繰り出されるのはビームだ。竜なら間違ってもそこからビームは出ないだろう。こいつは怪獣だ。間違いない。


 顔はイグアナをより凶暴にした怖さ増し増しの迫力ある見た目をしており、翼は広げれば体長の2倍以上まで伸びるため威圧感がすごい。

 おかげで、しっかり事前に鼓舞しておかないと、ボス部屋に入った途端呑まれそうになってしまうらしい。

 ユーリ先輩も最初はパーティメンバーが上手く動けなかったとこぼしていたからな。


 さらにその迫力を後押しするように、HPバーが現れる。

 そこにはなんと本来バーが1本のハズが、3本も現れていた。


 これが上級の最奥ボス。

 上級の最奥ボスはHPバーが3本に増えるのだ。

 それだけタフになり、難易度は跳ね上がる。


 しかし、〈エデン〉のパーティはむしろそんな相手に臆することなく、むしろ気合いが高まっていた。


「ギャアアアアアアアオ!」


 まずは〈クジャ〉の第一声。

 声だけでビリビリくるような迫力のある咆哮だ。

 しかし、俺たちにはなんの影響も無い。


「シエラ頼むぜ!」


「任せて。――『オーラポイント』! 『シールドフォース』! 『四聖操盾しせいそうじゅん』! 『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』!」


「ラナ、守護、耐魔、魔払いの順に全部掛けろ!」


「分かってるわ! 『守護の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『病魔払いの大加護』! 『迅速の大加護』!」


 まずはいつも通り、シエラのヘイト稼ぎからの自在盾とラナのバフ。

 シエラがヘイトを稼いだ途端、中空に叫んでいた〈クジャ〉の視線がシエラを捉えた。

 胸の水晶体に光を溜めていく様子がここからでもハッキリ見える。


「来るぞ!」


「『ディバインシールド』!」


 ターゲットはシエラ。

 俺の言葉にシエラは迷わず一番強い防御スキルを使って小盾を前に出し、守る。

 瞬間、〈クジャ〉の胸からビームが発射され、四つの小盾が合体して作られた強固な盾に激突した。しかし、当然のように自在盾はビームを防いだ。

 傍から見ていたら無茶苦茶かっこいい光景だぞこれ!? って言ってる場合じゃ無いな。


「行くぞ! アタッカー、今だ!」


「『ドライブ全開』! 『騎槍突撃』!」


「『突風』! 『スルースラッシュ』!」


 それを見て俺、エステル、カルアが側面から回り込むような形で〈クジャ〉に接近。

 ビームを放って隙だらけな〈クジャ〉を攻撃する。


「『ソニックソード』! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「ギャアアアアアアアオ!」


 しかし、俺たちが攻撃した直後、〈クジャ〉がその巨大な翼をはためかせた。

 飛べもしないのになぜ翼が付いているのかと言えば、〈嵐ダン〉の突風の元凶はこいつだからである。


 こいつが翼をはためかせればダンジョン中に突風が吹き荒れる。と設定に書かれていたはずだ。今はボス部屋が閉まっているのでダンジョンには影響しないだろうが、密室でそんな事をすれば、ボス部屋中に突風をまき散らすのと同等の行為になってしまう。要は全体攻撃である。


「にゃっぷ!?」


「きゃ!?」


「『ディフェンス』! ラナも障壁を張れ!」


「うん! ――『聖守の障壁』!」


 部屋中にまき散らされた風によってカルアとエステルが吹き飛ばされた。

 部屋の壁まで吹き飛ぶが、そこはAGIの良く育った2人だ、上手く壁に着地を決めて叩き付けられることは無かった。


 俺、シエラ、ラナは防御スキルで乗り切った。これの正体は全体攻撃なので防御スキルさえ発動しておけば防御できる。


「そういう事ね。次来たら『カバー』するわ! だから遠慮無く攻撃して頂戴」


「了解しました!」


「ん! やりかえす!」


 シエラから声が上がる。

 珍しいが、それほど気合いが入っているということだろう。


「全員に継続回復を掛けるわ! 『生命の雨』!」


 ラナがすぐに全員に継続回復を付与する。

 ユニーク効果で継続が二つ乗って、HPが見る見る回復していった。

 ラナの継続回復はボス戦で非常に有効だ。

 ヘイトを稼ぎすぎる心配が無く、バフや攻撃に参加しても狙われにくいからだ。


「前へ出るわ!」


「おう、正面は任せるぜシエラ! 『ライトニングバニッシュ』だ!」


「ギャアアアアアアアオ!」


 シエラが〈クジャ〉に向かっていき正面に立ってタンクをする。

 本当は相手が突進をしてきてくれれば、それを受け止める、もしくは弾いた隙に攻撃出来るので突進してくれた方がありがたいが、〈クジャ〉は遠距離攻撃を多数持つボスモンスターだ。突進攻撃はほとんどしない。

 距離が離れていると俺たちが反撃などでダメージを負う可能性が上がるため、シエラは前に進み出た形だ。


〈クジャ〉が怪獣とは思えない、地面を蜘蛛の巣割れさせるパンチでシエラを攻撃してくるが、シエラは待ってましたと言わんばかりに〈流盾技ながしたてアーツ〉で受流し、メイスで怪獣の腕を横から叩く。


「『ショックハンマー』!」


「ギャアアアアアアアオ!?」


 すると、前のめりに〈クジャ〉がバランスを崩しそうになった。

 これはチャンスとばかりに俺が軸足を斬る。


「うおらっしゃー! 『聖剣』!」


「ギャアアアアアアアオ!?」


 瞬間、運良くクリティカルが発生。

 足を完全に掬われた〈クジャ〉がずしんと前のめりにすっころんだ。あ、そこシエラが居たところ!?


「シエラ殿!?」


「大丈夫、助けた」


「助かったわカルア」


 危うく下敷きになりそうだったもののカルアがユニークスキルでシエラを助けてなんとか無事。


 だが、ホッと一息吐いている暇は無い。

 何しろ〈クジャ〉は初のダウンをしているのだから。


「総攻撃だ!」


「「「「おおー!」」」」


 総攻撃でHPを削る。

〈エデン〉はいつもの動きがしっかり出来ていた。




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