第864話 上級攻略。そしてありがとうと告げたい。
「おっしゃ倒したーー!!」
「やったわねー!!」
「ん!!」
「みんな、お疲れ様。私はこのパーティに加われたことを誇りに思うわ」
「みなさん、おめでとうございます」
ボスを倒しテンション爆発。
やっと上級ダンジョンのボスを倒せるところまで来たかぁと、とても感慨深い気持ちになった。
ここまで長かったような、短かったような。でもあっという間だった気もしないでもない。
そんなしみじみとした感想を思う。しかし感慨にふけるのは早い。まだアレが終わっていない。
さて、第二ラウンドと行こうか。
「上級最奥の〈金箱〉だー!」
「〈金箱〉よー!」
「ん、〈金箱〉!」
そう〈金箱〉です!
やっぱり55層の〈木箱〉はここで〈金箱〉がドロップするフリだったか!
俺は知ってたんだ!
「ちょっとゼフィルス、ラナ殿下、カルア? もうちょっと上級ダンジョンを攻略したことをかみ締めなさい?」
「これは、歴史的偉業なのですけどね……」
〈金箱〉が出たことでボスのことなんてすっかり忘れ、目の前の〈金箱〉にやったしている俺、ラナ、カルアと上級ダンジョンを攻略したことで感動しているシエラとエステルの温度差がすごい。
いけないいけない。ちょっと〈金箱〉の魔性に取り憑かれた。
俺も上級ダンジョン攻略の喜びを分かち合わないと!
俺は咳払いして空気をリセットしつつ真面目にパーティメンバーを見渡した。
「こほん! みんな、お疲れ様だ。本当によく頑張った。俺たちは上級ダンジョンを無事攻略出来たんだ。〈エデン〉の目標の一つ、上級ダンジョンの攻略をまず達成出来たこと、とても嬉しく思う」
キリッとしてそう言った。
すると宝箱にばかり目が行っていたラナがなぜか赤くなり、シエラは表情を引き締めてしまう。あ、ちょっと失敗したかも。ここはテンション高めにお疲れ様って言った方が良かったか?
いや、いいのか。シエラたちは多分こういうことを言われたいと思っているはずだ。
俺は真面目モードで続けることにした。
「シエラ、ありがとう。シエラのタンクとしての腕がなければ上級ボスにはもっと苦戦を強いられていたはずだ。俺たちが安全に、1人の戦闘不能者もなくここまで来られたのもシエラがいたからだ」
「私の方こそ、ありがとうと言わせて。ゼフィルスが導いてくれたから今の私たちがいるのよ。本当にありがとうゼフィルス」
シエラの言葉には万感の思いが宿っているようだった。
手を胸に当て、思い出に浸るようにしたシエラは今何を思っているのだろう?
聞きたい気もするし、聞かない方がいい気もする。
ただ今聞くと照れが限界を突破しそうなので、次にラナの方に向いた。
「ラナ、ありがとう。ヒーラーとしてパーティを支えてくれるだけじゃなく、バフによる支援や攻撃にも加わって、パーティに大きく貢献してくれた。ラナがいなければ俺たちはここまで自由に動けなかったはずだ」
「ヒーラーは思ったより考えることが多くて大変だけれど、ゼフィルスたちの役に立てて私も嬉しいわよ。私に遠慮なんてしなくてもいいから、ゼフィルスは好きなようにボスを相手取りなさい。私があなたを支えてあげるわ!」
おお! ラナがこんなことを言うなんて!
俺はちょっと、いや結構感動した。
ラナのヒーラーの腕前は驚くほど向上している。継続回復という
最初の頃は俺もサブヒーラーをこなしたりしていたが、最近では回復魔法を使った記憶が無いほどだ。
ラナには今後もパーティを支えていってほしいと強く思う。
続いてエステルに向きなおった。
「エステルも本当に助かった、とても感謝している。アタッカーとしてとても素晴らしい活躍をしてくれた。それだけじゃなく〈乗り物〉系の運搬で〈エデン〉を大きく支えてくれた。〈エデン〉がこれほど早くここまで成長できたのはエステルの貢献が大きいと思っている。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。私の方こそゼフィルス殿には本当にお世話になりました。【姫騎士】への〈覚職〉から始まり、本当に色々なことを教わり、そしていただいたと思っています。これからもこの恩をお返しできるよう、精一杯がんばります」
エステルがそう言って、胸に手を当て礼をする。
とても純粋な感謝と恩返しがしたいという思いが伝わってきて照れくさい。
俺だってエステルにはたくさん助けてもらってきたというのに、そんな恩返しとかしなくていいぞと言いたい所だが、エステルはそれだと納得しなさそうなんだよなぁ。
まあ、まだまだこれからだ。
エステルにはこれからさらにやってもらわなければいけない事がたくさんある。
〈イブキ〉とかな。
持ちつ持たれつだ。そうやってエステルの期待と恩返しに応えていこうと思う。
最後にカルアへ向きなおる。
「カルアもありがとう。上級ダンジョンでここまで安全に進めたのはカルアと猫たちの貢献がとても大きい。索敵中はとても負担を掛けたと思うが、おかげで俺たちは安全に上級ダンジョンを進む事が出来た」
「ん。役に立てて、嬉しい」
カルアの答えはそれだけだった。
カルアらしいとも思う。
ちゃんと感謝が伝わっているのかも、ちょっと怪しいな。
なら、今度は美味いカレーを作ってあげよう。それで感謝が通じるはずだ。
これで俺がどれだけ感謝しているかみんなに通じたはずだ。
「ふふ、なんだか照れるわね」
「もう、ゼフィルスが真面目な顔をするから、ちょっとドキッとしたわ」
「ゼフィルス殿の感謝とお言葉、しっかり受け取りました」
「ん。照れ照れ」
おいおい、そう言われると照れるじゃないか。
やめやめ、この空気は終わりだ。
何しろ、まだまだこれは始まりで、終わってもいないんだ。
俺たちはこれから、まだやるべきことが残っているんだぞ!
「じゃあ、早速宝箱を開けようか! ラナ、約束通り一緒に開けるぞ!」
「わ! ちょっとゼフィルス、急に手を引かないでよ。心臓が驚いちゃうじゃない!」
あまりに照れくさい雰囲気を誤魔化すべく、俺はラナの手を取り〈金箱〉の前に向かう。
ちょっといきなりすぎたか、ラナが文句を言っているが、嫌そうじゃないので大丈夫だ。
「悪い悪い。んじゃ、右側を頼むな。俺は左側から開けるから」
「分かったわ! それじゃあ〈幸猫様〉たちに祈りましょ!」
「おう!上級ダンジョン最奥ボスの初の宝箱なんです! 良い物ください! お願いします!」
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉! 良い物ください、お願いします!」
宝箱の前にしゃがみ込んだ俺とラナが、我らが〈エデン〉のご神体様に祈る。
〈幸猫様〉や〈仔猫様〉にも本当にお世話になっている。
感謝も一緒に込めてお願いを祈る。
「ゼフィルス、せーので開けるわよ?」
「おう!」
「「せーの!」」
ラナと2人でタイミングを合わせ、宝箱を開ける。
すると中に入っていたのは、金色に輝く鍵だった。
「金色の、鍵!?」
「おお! おおお!」
当然俺はそれを見たことがある。
今まで俺たちは〈鉄〉バージョン、そして〈銀〉バージョンを見たことがあるが、これはそれの〈金〉版。
――〈隠し扉の万能鍵(金)〉。通称〈扉の金鍵〉。
もしくは別名〈最後の鍵〉と呼ばれた代物。
全ての隠し扉の鍵を解錠できる、最強にして最後の万能鍵だった。
マジかよ。最初っからこれが出るとか、まるでこの先もどんどん進めと言われているかのようだ。もちろん〈幸猫様〉に。
俺はすぐに〈幼若竜〉でラナの持つ鍵を『解析』して、情報を共有する。
「全ての隠し扉を開けられる鍵!? やったわね!」
「ああ! これで今後は開けられない扉はないぞ!」
「イエーイ!」とラナとハイタッチ。
もちろんその後シエラ、エステル、カルアともハイタッチだ。
ゲーム時代、これが無いと手に入らなくて泣く泣く逃したお宝は多かった。
それが初っぱなから来たのだからもうな、感動で涙が出てくるよ。
最初っから大当たりだ!
〈幸猫様〉〈仔猫様〉、ありがとうございます!
これでさらなるお宝が手に入ります!
「みんな、初めっからとんでもなくいいお宝が手に入ったな! だがこれはまだ序の口だ。俺たちの目標達成のためにも、次のステップへと進むぞ!」
俺は振り向き、一歩下がってから全員に宣言する。
さて時間はたっぷりあるな。
「さあ、ボス周回の時間だ!」
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