第815話 500年前の勇者の実話? ラブロマンスの演劇。




「まずは舞台を見に行きましょ! ステージエリアに行くわよ!」


「お供します」


「いいぞ。俺も演劇は見てみたかったんだ」


 満場一致で行くのはステージエリアに決定した。


 ここは昨日、リカが出場した〈剣刀大会〉のエリアだな。

 そこは2日目には舞台やステージとして改装され、演劇などが行なわれる会場となっている。

 ちなみに昨日のリカは3位だったそうだ。あのリカを倒せる人物がいたとは、と驚いたが、優勝はソードマン先輩だったそうだ。なるほど。

 後でリカに試合の様子を聞いておこうと思う。


 そんなこんなで途中露店をめぐりながらわいわいとステージエリアに来た俺たち。

 12箇所のステージからなる演劇ステージエリア、どれを見るべきか悩むところだ。ということで最初に来たいと言ったラナに任せるとする。


「それでラナはどこの演劇が見たいんだ?」


「〈勇者ユウキとドラゴンバスターリティア〉よ!」


「恋物語ですね」


「え? そのタイトルで恋物語なの?」


「はい。ラナ様推しのラブロマンス小説です。過去に実在した人物が題材となっておりまして、中々人気の演目なのですよ」


「ちょっと待て。え? 実在した勇者の話なの?」


【勇者】とは「主人公」のカテゴリーしか就くことのできない職業ジョブだ。

 それに就いていたということは、その人物は「主人公」のカテゴリーを持っていたことになる。

 実は俺も、過去の非公式な勇者の物語や記録などは調べてみたが、どれも憶測の域を出ず、その人物が本当に【勇者】の職業ジョブに就いていたのかは分からなかったんだ。


「ゼフィルス殿も興味がありますか? 500年前に登場したと言われている勇者の話です。ただ、職業ジョブに関しては【勇者】だったのか、他の職業ジョブだったのか分かっていないのですけど。彼はその行ないから、多くの人たちから勇者と呼ばれていたのです」


「ああ。その話なら聞いたことがある」


 それは俺も知っている話だ。

 500年前、この世界には勇者と呼ばれていた人物がいた。非公式の記録によれば、なんと上級上位ダンジョンまで上り詰めたらしい。その偉業から彼は勇者と呼ばれていたそうだ。

 ただ、その人物が本当に【勇者】の職業ジョブに就いていたのかは、実は定かではない。


 まあ500年前だしな。ただ、その人、ユウキさんが起こした偉業の数々は非公式ながらも実際にあっただろうと言われている。


「2人ともこっちよ! あのステージらしいわ!」


「はい、ラナ様!」


「おう、待ってくれ」


「もう。早くしないと始まっちゃうわよ」


 ラナについて行き中に入ると、ステージが見やすい適当な席に付く。

 それから数分もすれば演劇が始まり、男子学生が煌びやかな騎士っぽい衣装を着て登場した。

 あれがこの演劇の主人公、勇者ユウキだろう。


 そして勇者ユウキが出てきた反対側から登場するのは、「侯爵」「姫」の令嬢役、ドラゴンバスターと呼ばれたリティア姫だ。

 うむ、どんな物語なのか、とても気になるところだ。


 勇者役の人が口を開く。


「リティア、ダンジョンへ行こう! ようやく〈氷結の彫刻ダンジョン〉の攻略に目星が付いたんだ!」


 なぜかエステルがこっちをチラッと見た気がした。

 うむ、さすがは勇者と呼ばれた男だ。うむ。勇者とはそうでなくてはいけない。

 俺が言いそうなセリフと被るのはきっと偶然だろう。


 ちなみに〈氷結の彫刻ダンジョン〉とは上級下位ダンジョンの一つ、ランク7に相当するダンジョンだ。〈ホカホカドリンク〉必須ダンジョンだな。

 そしてこれは、彼らが生きていた時代は上級ダンジョンすら攻略されていたという話を肯定する一幕。


「ええ、勇者殿、どこまでもお供いたしましょう。あなたは私がお守りします」


 おお、武人。そして綺麗だ。

 リティア姫役の人は長いポニーテールに高身長、手足が長いスラリとした女性だった。

 実際のリティア姫も同じような体型だったらしい。


 彼女が今回のヒロインだ。


 うむ。実は勇者のヒロイン役は割と多岐に渡る。

 勇者が組んでいたギルドで有名な女性はみんなヒロインだからだ。

 どういうことかと言うと、この演目ではリティアがヒロインだが、他の演目では魔法使いがヒロインだったり、聖女がヒロインだったりするわけだ。

 実際誰と結ばれたのか、それは記録には無いそうで、こうしてifルートの作品がとても多く作られていたりする。


 しかし意外だ。ラナのことならてっきり聖女がヒロインの方を見ると思っていたのだが。この時のヒロイン聖女は王家の公式記録にも載っている初代聖女なのだ。


「この演目はとても人気があるのです。どんなヒロイン派のファンもこの演目が嫌いな人はいないほど、ですね」


 エステルにこっそり聞いたところ、そんな答えが返ってきてなるほどと納得した。


 この〈勇者ユウキとドラゴンバスターリティア〉のストーリーは非常に人気で、勇者パーティが次々と難関ダンジョンを攻略していきながらリティアとの絆を深め、時にはすれ違い、しかし後半に町を襲う強大なドラゴンを勇者とリティアが協力して撃破し、深い絆で結ばれたリティアと勇者がその後結婚するという王道作品だった。


 しかし、ドラゴンが町を襲う展開にはビックリだ。

 ちなみにこれは完全なフィクションである。ドラゴンは幻想に近いモンスターで、伝承や神話などに度々登場するが、記録上はどのダンジョンにもいないとなっているためだ。まあ、実際にはいるのだけどな。


 ではリティア姫がなぜドラゴンバスターと呼ばれていたのか。それは実は分かっていないらしい。

 分かってはいないが、ドラゴンバスターの称号は物語を作るいいアクセントだったため、こうしてドラゴンと勇者たちが戦うという超王道の熱き展開を見せることが出来、結果としてリティア姫がヒロインの物語が一番人気となっているとのことだ。


 うむ、ドラゴンの模型だかからくりだかはわからないが、とんでもなくリアリティのある見た目のドラゴンを用意してきたな! お金かけてやがる。学園祭で見せるものじゃねぇ!

 中々の迫力のあるドラゴン(ちょっと動く)との戦いのシーンも、黄色い声がとても多かった。たくさん練習したのだろう、勇者役の男子が俊敏な動きでドラゴンを抑え、最後はリティア姫がドラゴンの首を落として決着。


 感極まった2人が抱き合ってキスシーン。

 その後は町を守ってくれた褒美を王様に貰い、豪華なお城を建ててリティア姫と勇者ユウキは結婚し幸せに暮らしましたとさ、でおしまい。

 最後の結婚式シーンで感動の涙を流す人がすごく多かった。

 なるほど。BGMも良い。終わり良し。これは良い作品だ。


 良い話だった!


「うう、良いわね。よくできていたわ。リティアは幸せにならなくちゃダメなんだからね」


「ラナ様、こちらのハンカチをどうぞ」


「ありがとエステル」


 ラナが学生たちの演劇を褒めつつ、作品中のキャラクターにも感情移入していらっしゃった。


 こうして演劇は大きな拍手に彩られて閉幕した。余韻が心地良いなぁ。


「ふう。楽しかったわね! 大満足だったわ! 次はどれを見ましょうか?」


「復活早いなラナ!?」


 今さっきまで涙を拭っていたラナがもう立ち直っていた。

 感動に涙を流すラナという貴重なシーンを見逃した!?


 ぐっ、と悔やんでいるとエステルと目が合う。

 ラナのお世話をしていたエステルは存分に目に焼き付けたようで満足そうなほっこリとした顔をしていた。


 ふう。切り替えていこう。


「う~んと? すぐに見られるのは、あれとあれだな」


「それ以外だと少し時間が開きますね。途中で自由時間も終わってしまうようです」


「なら二つに一つね。エステルは何が観たいの?」


「そうですね……どちらも良いものですし、決められませんね。ゼフィルス殿は?」


「と言っても二つともヒロインが違うだけで同じ勇者ものじゃんか。ラナ、決めて良いぞ」


「じゃあこっちにしましょう!」


 残りの二つはヒロインが違うだけの勇者物語だった。シリーズかな?

 俺はどっちでも良かったのでラナに投げると、ラナがすぐに決めた演目に入っていくのだった。二つ目の演目は魔法使いちゃんがヒロイン役のようだ。



 そうして二つ目の演目を観終わった後は自由時間もほとんど無くなり、また警邏の仕事を再開。


 その途中で展示品の巨大〈ダイ王〉1分の1スケールフィギュアが風に煽られて倒れるハプニングに遭遇したときは少し焦ったぜ、倒れた先に幼女がいたからな。

 しかしフィギュアの倒れた先にいた幼女はしっかり俺が助けたのでけが人は無しだった。あぶねぇ、『直感』に感謝だ。あれ? この幼女、昨日も見た気がする。


 なお、フィギュアはラナが四宝剣で破壊してしまった。演劇を見た直後でテンションが上がっていたらしく、思いっきりぶっ壊していたよ。その様子はまさに悪を退ける聖女と勇者。

 その光景に感銘を受けた周りが王女コールと勇者コールに包まれて盛り上がり、鎮めるために警邏の応援を呼ぶハメになったのはご愛嬌だ。


 こうして2日目の学園祭も過ぎていくのだった。




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