第813話 一息吐かぬ間に珍事件? 集団告白で刃傷沙汰?




「また、この〈転移水晶〉は学園が誇る上級職の【錬金術師】殿が大量生産してくれている。販売には制限を掛けさせてもらっているが、ギルド〈エデン〉に協力を頼み、学生の分は〈エデン店〉にて販売してもらう事となった!」


「なんだって!?」


「〈エデン〉!? 上級職の【錬金術師】殿と言えばハンナ様じゃねぇか!!」


「す、すげぇ! ハンナ様は〈転移水晶〉も製作できるのか!!」


「なぜ生産トップギルドの〈青空と女神〉では無く〈エデン〉なんだ? と思ったが、上級アイテムってことは、そもそも上級職しか作れないんだ! 〈転移水晶〉が作れるのは今の所ハンナ様だけかも知れないぞ!」


「なんだと!?」


「なるほど、だから〈エデン〉に協力を頼んだのか」


「ちょっと君、今話が聞こえたのだがね、ハンナ様とは?」


「き、貴族の方ですか!? ええとハンナ様とはですね――」


 ユーリ先輩の言葉に俺の周りでざわめきが一層増えた。

 うむうむ。これで宣伝もバッチリだろう。


〈エデン店〉は学園祭中お休みなので販売は学園祭後になる。もちろん購入者には制限を掛けさせてもらい、まず上級下位ダンジョンの入ダン条件を満たしているかが焦点なので、最初はあまりお客さんは少ないかもしれないが、徐々に増えていくだろう。

 また、最初は学園から応援が来てもらえることになっている。学園主体という体裁も整えないとだしな。


 学園の外への販売は学園を通して行なう。学園にはすでにかなりの数を納品してあるのでユーリ先輩や学園長には頑張ってもらおう。




 学園都市中に響いたんじゃないかという大歓声のパレードがようやく終わり、ようやく解散された時にはもう午後2時になっていた。


 自由時間に色々と食べていたため昼飯は抜き。本当はまた休憩時間のハズなのだが、オペレーターから連絡が入ってそのまま別の場所へと向かうことになった。なんと、大きなトラブルが起きたとのことだ。


「集団告白で刃傷沙汰?」


 オペレーターから応援要請。内容を簡潔に口にするとこんな感じ。

 うん、よく分からんな。

 いったい何が起きたんだ?


 俺たちはとりあえず現場に急行、俺が先頭でリーナが後ろ、真ん中がナギというポジションで、ナギが〈学生手帳〉から情報を抽出する。


「ん~、なんか1人の女子学生を巡って15人の男子が一斉に告白したんだって~」


「なんでそんなことになったんですの?」


「でもすごいよね~。そんなことってあるんだ」


「15人の男子に一斉に告白される女子か~。ちょっと見てみたいな~」


「ゼフィルスさん?」


「おっとそれはともかくだ。ナギ、それで何で刃傷沙汰になったんだ?」


「どうも男子の集団に女子1人が詰め寄られていると勘違いした男子が、女子を守ろうと乱入して? しかも「俺が君を守る」的なピンク系な感じの雰囲気とセリフを言いながら割り込んだことで集団男子がキレたみたい」


「いや、それはキレるな。一世一代? の大告白を勘違い男子にボツにされりゃあ。しかも勘違い男子が告白した女子に色目を使ってるって、もう、どこの昼ドラだよ」


「昼ドラ、ですの?」


「おっといや、まあドロドロの恋愛小説、みたいな?」


「そうですわね。事実は小説よりも奇なりと言いますが、それでナギさん続きは? わたくしたちのすべきことはなんですの?」


「あ、それね。それで最終的に告白されたはずなのに蚊帳の外になった女の子も怒っちゃって大魔法を発動。割り込んできた勘違い男子と集団男子もろともぶっ飛ばして戦闘不能にしたんだって。私たちの仕事はその後始末みたいよ?」


「え? 女の子さんが大魔法? というか強いですわね!?」


「うわ、哀れ男子たち」


 聞く限り、男子たちが哀れでならない。同じ男子として同情する。

 ただ、なぜ15人もの集団で告白なんてしたのか。

 後で知ったのだが、告白というのは早い者勝ちみたいなところがあるので、抜け駆けをさせないために話し合いで合意して、15人という集団で一斉告白になったのだそうだ。なるほど?



 そんなこんなで情報共有しているうちに現場に到着。

 規制線が張られ、一般客は兵士の方が通せん坊している。

 俺たちはその兵に腕章を見せて規制線の中に入るとそこはちょっと雰囲気の良い高台。

 大きな木が1本立っており、若者を見守ってくれているような温かさのある場所だった。

 なるほど、告白の場所としては良い感じの場所だな。


 周りを見渡してみると戦闘不能となっている男子が16人。

 シートの上に寝かされていた。

 俺たちと同じ腕章を着けた上級生の方が聴取している様子。


 そしてもう一方で目に付くのが2人の女子。


「だからやりすぎなのだよ。確かにあの者たちに非はあっただろうが、アンジェもあの者のことをもうちょっと考えてやるべきだった。告白だぞ?」


「でも、あの人たちも私の事を考えていませんでした。自業自得という面もあると思います」


「それも一理ある。だがやりすぎはやりすぎだ。この大騒ぎを治めるためにお世話になっている学園の方々や、そして来園するお客さんに迷惑を掛けた。さすがに学園祭の最中は謹慎してもらうことになるぞ」


「それは、そうですけれど。あの人たちの方も私に迷惑を掛けたというのに、私だけ罰を受けるというのはあんまりですよ」


「告白をボツにされたのだ。男子たちは罰という意味ではすでにむごいものを受けているぞ。とはいえ確かにアンジェだけが悪いわけではない。個人的には告白を台無しにした元凶が一番悪いと思う。先生方には私も口添えしてやるからそう落ち込むな」


 そこにいたのは俺たちと同じく腕章をつけているライザ分隊長。そしてライザ分隊長にお説教されているのはおそらく件の集団告白された女の子さんだろう。なるほど、15人が一斉に告白する美少女というのも納得の姿をしていた。

 いや、どちらかというと魔性か? 身長はそれなりに高く童顔の可愛い系、長い金髪をウェーブにしている。瞳は青系で赤のワンピースのような装備を着ている。フリルが付いた赤色のカチューシャがエクセレント。

 また非常にメリハリのあるボディをしている。コルセットのようなもので腰のくびれを最大限に出し、胸がとても強調されていた。端的に言って男子学生たちにとって目の毒だろう。モテるのもすごく良く分かるな。


 なぜかすごい勢いでリーナに見つめられた気がした俺はまったく気にしていませんという態度を装って回避する。

 危ない。俺も魔砲を撃たれたらたまらない。いやリーナは撃たないだろうけど。


 後ナギも、そんなリーナを見てニヤニヤ面白がらないでくれ。俺のピンチだぞ?


 とりあえず指示が欲しいところだ、と思ったところでライザ分隊長と目が合った。


「ゼフィルス班、よく来てくれたな。悪いが〈救護委員会〉と共に後処理を頼む。マニュアルどおりだ」


「承知しました」


 そう答えて後片付けを開始。

 とはいえほとんどやることは終わっているみたいだ。

 途中でやってきた〈救護委員会〉の方々に事情を説明し、転がっていた男子を保健室に連れて行ってもらい報告書を書いて終わりとなる。


「あの方、多分Aランクギルド〈ミーティア〉のギルドマスターじゃないかな? アンジェさんって呼ばれているのを聞いたし」


「やはりナギさんもそう思います?」


 ナギとリーナの言葉に思わず聞き耳を立てる。


「え? あの告白された女の子さんってAランクのギルドマスターなのか?」


「多分ね。強すぎてギルドバトル挑戦者がほとんどいないギルドだし、ギルドバトルが行なわれても超人気過ぎて満席状態でろくに見えなかったから絶対そうだって言い切れないんだけど」


「わたくしも、噂に聞いたことがあるだけですわね。〈ミーティア〉のギルドマスター、〈流星のアンジェ〉さんはとても魅力溢れる可愛い女性だと」


「魅力が溢れて、この大事なのか……とんでもないな」


 これがAランクギルドの一角を担うギルドマスターの力か!

 暴れる16人の学生を一撃で戦闘不能にしたというその腕前、いつか見てみたいぜ。なんとかお近づきになれないかな?


 ただ、そのギルドマスターさんは学園祭で騒ぎを起こしたとして結局謹慎が言い渡され、学園祭は2日目の夜まで寮の部屋で大人しく過ごすことになったのだと後でライザ分隊長から聞いた。


 まさかこんな珍事件が起きるとは、リアル学園祭、侮りがたし。




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