第812話 ユーリ先輩の大発表!この日、学園は震撼した。
コスコンというとても目の保養とテンションの上がるイベントを名残惜しさ120%で途中で抜け出し、また警邏の仕事に戻る。
今度警邏する場所は〈ダンジョン公爵城〉の前だ。
例のパレードが学園をグルリと一周して学園都市の中心地、終着点である〈ダンジョン公爵城〉に近い場所へ到着し、そこでユーリ先輩や学園からとても重要な発表を予定しているために大混雑が予想されている。
〈迷宮学園祭〉が始まって最初の難関だ。
そのために俺たち1年生だけではなく、2年生、3年生と多くの警邏組人員がここに集っていた。近くにはシエラの班やリカの班までいる。
パレードが到着する前にたどり着き、規制線を張って場所を確保していると、なんだか俺たちを中心に人がざわざわ集まってくるのを感じた。
「なあリーナ、なんだか注目されてないか俺たち? 気のせい?」
「いいえ、気のせいでは無いと思いますわ」
「私たちを中心にサークルが出来てるよね」
いや、実はパレードの時からなんとなく俺たちに注目する人が多い気がしていたんだが、ここに来てそれが顕著に表れている気がしている。多分気のせいじゃない。
少し耳を傾けてみよう。
「いた! あれがギルド〈エデン〉のギルドマスター、勇者のゼフィルス君よ」
「おお、あの子が。最近学園を賑わす中心人物と噂されている」
「思ったよりずっとかっこいいわね! お近づきになれないかしら?」
「キャー! 勇者君がいるわ! 生勇者君よ!」
「働いている姿もいいわ~」
なんだか褒められている気がする。手を振っておこう。
来賓のお姉さん方や先輩たちに手を振ってあげると黄色い悲鳴が返ってきた。
俺はとても気分が良くなった。
さらに別の場所ではなんだか質の高そうなスーツやら衣装のような服を着込んだ紳士たちが俺を見て何やら話している。
「中々優秀そうじゃな。1年生にも関わらず非常に高い知識を持ち、すでに〈育成論〉という教員の仕事もこなしておるとか」
「彼の授業を受けたいために学園外からも多く人が押し寄せたとも聞きましたな」
「それだけではない。彼が率いるギルド〈エデン〉は現在上級ダンジョンに潜っているというではないか。実力だけでもかなりのものだぞ?」
「うむ、〈転職制度〉や高位職の発現条件の発見、さらには今回発表される重要な事柄にも関わっているとの話だ」
「是非我が身内に囲いたいものだ」
「娘の婿になってほしいが」
「いや、すでにラナ殿下が目を光らせておる。今勇者氏に近づけばラナ殿下を怒らせることになるぞ。連鎖的に仲の良い王太子殿下の機嫌も悪くなるだろうて」
「むむむ、歯がゆいのう」
「マルグリット伯が羨ましいですな」
「マルグリット伯の娘さんは勇者氏に一番近い位置にいるからの」
「それを言うのでしたらリアクトネー侯のところの末娘さんにもチャンスがあるのでは?」
「嘆かわしいことに、うちの娘たちときたら揃いも揃って婿捜しにまったく興味を示さなくての。いっそ勇者氏を掴まえた者が家を継げるようにしようかと本気で悩むほどじゃ」
「やはりマルグリット伯の娘さんが一番勇者氏に近いですかね。我々からすれば羨ましいかぎりだ」
「まあ、娘には是非頑張ってもらいたい所ではありますな。はっはっは」
なんだか紳士たちが集まって交流していた。あそこだけ紳士パーティみたいだ。
あれ? なぜかシエラとリカが早歩きでそこへ向かったぞ? どうしたのだろうか?
あ、紳士の2人が膝から崩れた! 大丈夫か? 俺もサポートに行った方がいいか?
「ゼフィルスさんは行かない方がよろしいですわ」
「そうだね。ゼフィルス君が行くとシエラさんやリカさんが可愛くなっちゃうから」
「可愛くなっちゃうなら行ってもいいんじゃないか?」
「あはは」と笑うナギに首を傾げていたが、リーナから行くのダメと言われれば行くわけにはいかない。
そうこうしているとパレードが帰ってきた。
人も一緒になって進行しているな。
先導し誘導するのは〈秩序風紀委員会〉隊長のメシリア先輩だ。
よく見ればパレードの一つ、特大の乗り物の上に立っているのはこの国の王太子、ユーリ先輩だ。
パレードの途中で乗り込んだのだろう。
実はこの終着点でユーリ先輩からいくつか大きな発表があるのだ。
あの紳士パーティの人たちもそれが目当てで集まったんだろうな。
パレードと共にどんどん集まってくる人たちを俺たち警邏組が誘導していく。
その際、やたら話し掛けられたが全てを紳士に対応したよ。
少し熱狂的に「ファンなんです! 握手していただけませんか!?」と言われたときは嬉しかったなぁ。なぜかその後黒装束の人たちに連れて行かれてしまったが。
そんなこんなでパレードの車両が全て到着すると、乗り物の上に立つユーリ先輩がマイクを持った。数人の護衛が後ろに立っている前で、堂々と宣言を行なう。
内容はすでに知っている。いくつかは学園によって情報が拡散されているためにここに集まった人は膨大な数だ。警邏組の仕事も多い。
おおう。中々ハードな仕事だぜ。
そんな中ユーリ先輩の演説が始まった。まずは簡単な自己紹介しつつ、本題へと入る。
「―――聞いてほしい。ここ〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉がSランクギルド、〈キングアブソリュート〉は、約半年もの間、上級ダンジョンの攻略に邁進してきた――」
上級ダンジョン攻略は一大事業、その偉業は未だ国王が率いるギルドしか達成した公式記録は無く、ユーリ先輩のギルドが達成すれば、20年ぶりとなる2回目の攻略ギルドの誕生だ。
ユーリ先輩は上級ダンジョンが如何に過酷であり、それに自分たちがどんな風に立ち向かっていったのかを鮮明に語る。そして最後の場面。
「――そして我々はついに最奥のボスを倒し、上級ダンジョンの攻略を果たしたのだ!」
「「「「わああああああ!!」」」」
そう言ってユーリ先輩が攻略者の証が装着された黄金の剣を掲げると、会場は一気に熱狂へと包まれた。
上級ダンジョンの攻略達成。歴史に名が残る、歴代2回目の大偉業だ。
学外から来た人たちは誰もがそう思っていた。
しかし、ユーリ先輩の話はそこで終わらない。もっとビッグなニュース、もしくは爆弾が落とされる。
「だが、上級ダンジョンの攻略は今後難易度が下がっていくだろう。そして行く行くは学園の学生なら誰でも上級ダンジョンの攻略が可能になる可能性がある! 学園がそうなるよう動き出しているからだ!」
ざわり。
ユーリ先輩の宣言はまさに寝耳に水で、軽く情報を掴んでいた者たちもにわかに信じがたいといった雰囲気だ。だが、ユーリ先輩はそれを証明するように〈転移水晶〉をその手に持つ。
「――〈転移水晶〉。これがあれば上級ダンジョンの中から地上まで一瞬で、どこに居ても転移で戻ってくることが出来る」
その言葉に会場がさらなるざわめきに包まれた。
多くの人が上級ダンジョンが如何に過酷かを知っているからだ。
それが〈転移水晶〉によってすぐに離脱出来ると知れば、今後上級ダンジョンの攻略の価値観に大きな革命を起こすことは明らかだと察するだろう。
「〈転移水晶〉は〈転移リング〉のあるダンジョンでしか使えないため、今後は調査を広げる必要があるが、すでに学園の外にあるダンジョンでも使用が可能と報告を受けている。この〈転移水晶〉があればこれまで危険が多く進む事の出来なかった上級ダンジョンの攻略が飛躍的に進むだろう! そして王家はこの〈転移水晶〉のレシピを公開レシピとすると決定した!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
おお!? 瞬間、爆発的な熱狂が広場に広がった。一番熱狂しているのはあの紳士軍団だ。
よく見ればあの紳士たち、みんな体格いいな!? 腕の筋肉とか盛り上がりまくってんじゃん!
ユーリ先輩も昂揚しているのか徐々に口調も強いものへと変化していき、人々のざわめきと熱狂に負けず、さらなる宣言を繰り出す。
「まだ熱狂するのは早い。〈転移水晶〉により学園は学生の上級ダンジョン入ダンを全力でアシストすると決めた! それに備え、〈上級転職チケット〉の入手を専門とする第四の学園公式ギルド〈ハンター委員会〉を発足することを決定! 上級ダンジョンのボスは〈上級転職チケット〉をドロップする確率が、中級より高いと判明している! 今後は〈上級転職チケット〉も手に入りやすくなる! 上級職が増え、学生が普通に上級ダンジョンを攻略する日が来るのだ!」
「「「「おおおおおおお!?」」」」
「さらに、〈霧払い玉〉! これは学園が誇るランク2の上級下位ダンジョン、〈霧雲の高地ダンジョン〉の霧を消すアイテムだ! これにより、上級ダンジョンの難易度が大きく落ちる。現在学園は〈霧雲の高地ダンジョン〉を上級ダンジョンの入門口にしようと動いている! これにより学生は安全に上級ダンジョンへの進出を果たすことが出来ると期待されている!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
「「「ユーリ王太子、万歳!!」」」
「「「シーヤトナ王国、万歳!!」」」
大歓声が轟いた。
ユーリ先輩もいつもの柔らかい口調が引き締まった決意のものになっている。
この日、学園は震撼した。
学園が上級ダンジョンの大規模な攻略へと動き出したのだ。
――――――――――――
後書き失礼いたします。
「〈エデン〉が〈転移水晶〉の発見者だって発表しないの?」という質問が多かったのでお答えします。
この発表はユーリ王太子の王位継承権を盤石にするのにとても重要なこと。
でも〈転移水晶〉の発見者の中にはラナもいるんですよ。
ユーリ「王家は〈転移水晶〉を公開レシピとすると決定した! 発見者はラナだ!」
ヤバいヤバい。これ絶対に言えません。
今は言えないのですが、もちろん〈エデン〉の助力があったことは折を見て大々的に発表する予定ですので、ご安心いただければ幸いです。
以上となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます