第811話 学園祭開催! お仕事と自由は表裏一体!





 開催と同時に多くの人が行き交い始める。

 道には規制線のようなものが貼られ、まずはパレードがその道を通り、学園祭が始まったことを分からせてくれる。


「ピピィ! そこの人、すみませんがパレード内には入らないでくださいね~」


「さすがナギさんですわ。すぐに気がついてくれますから助かりますね」


「俺たちの仕事はあまりないな」


 ホイッスルを吹いて通行人に注意を促すナギを見て俺とリーナは呟いた。


 やっぱり現場の仕事ではナギが頭一つ抜けている。

 スキルだけじゃない、探知能力が純粋に高いんだ。

 リーナも探知系は持っているのだが、彼女が得意なのは指揮。アイテムなどを使う事で精密で大きな物事を観察する能力に長けてはいるが、こうした現場の能力としてはナギの方に軍配が上がる。


 現在俺たちはパレードに並走しての警備中だ。

 パレードは大きな乗り物やオブジェクトが通るためしっかり「ここから中には入らないでね」と声を掛ける。俺たちとは別に多くの〈秩序風紀委員会〉のメンバーや警邏組がパレードを警備していた。


 ちなみに今回のパレードは仮装パレードだ。ダンジョンでゲットできた様々な装備を着た学生たちが乗り物の上で模擬戦したり、真上に魔法の花火を打ち上げたり、踊ったりしてパフォーマンスをしている。

 それを一目見ようと多くの人たちが詰め掛けていた。


 そんな感じで警備しつつパレードを楽しんでいると『直感』が発動。

 風に飛ばされたと思われる風船を追いかけて小さな幼女が規制線を潜り抜けてきたのだ。


 完全に風船に目が行っている幼女がパレードに近づいてしまう。


「ああ!?」


 多分お母さんだろう、幼女に手を伸ばしているが規制線の向こう側からだ。届くはずがない。少し目を離した隙に行ってしまったのだと分かる光景。


「よっと」


「ふえ?」


 俺はすぐにダッシュ。

 すぐ近くにいたため幼女がパレードと接触する前に抱っこして、ついでに風船も確保してお母さんの下へと届ける。


「ほら、この線より中に入っちゃダメだろ?」


「ふえぇ?」


「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。なんとお礼を言って良いか」


「はは、いいえ、子どもに怪我が無くて良かったです。学園祭楽しんでくださいね。それじゃ」


 状況をよく分かっていなさそうな幼女をお母さんの下に預け、風船をその小さな手にしっかり握らせてから俺は再び持ち場に戻った。

 すると、リーナとナギが駆けてきた。


「危うく大事になるところでしたわね。さすがでしたわゼフィルスさん」


「うん、ビックリしちゃって身体が咄嗟に動かなかったよー」


「ああ。でもほんと大事にならなくて良かった。今後は小さいお子さんが何かの拍子に入ってきてしまう事も考慮して警備しよう。心構えが出来ているのといないのとでは初動がまったく変わるからな」


「アイサー」


「了解しましたわ。……あの女の子、ずっとゼフィルスさんのこと見つめていますわね。パレードそっちのけで」


「まあ、同じ女の子としてちょっと気持ちは分かっちゃうよね。ゼフィルス君、とてもかっこよかったし」


 オペレーターに今の報告をしている間にリーナたちが何か言っていたようだが、ちょっと聞き逃してしまったな。

 でもかっこいいって言葉は聞いたぞ。ふふふ、もっと褒めて良いぜ?



 その後はハプニングも無く、俺たちの担当地区から出ていくパレードに手を振って見送ると、俺たちは一先ず自由時間となった。


 自由時間と言っても呼び出しがあれば即応じなければいけないので基本的にメンバーとの行動になる。

 今日は1日リーナとナギと行動かもしれないな。


「ふう、自由だー!」


「おう! 自由だー!」


「むむ。これはわたくしも乗った方がいいのでしょうか?」


 ナギと俺が片手を挙げて自由を宣言すると、お嬢様のリーナも参加しようとしていた。

 結局逃してしまっていたが。


「さて、どこ行こうか? 2人はどこか行きたい場所あるか?」


「そりゃもういっぱいあるよ!」


「わたくしも少々」


「んじゃ、みんな行きたい場所を挙げて行こうか。お昼も早めに取っておいた方が良いだろうし飲食関係からだな」


「あ! 私食べたい物多いんだよね~。あっちの小籠包はどう? すごい美味しそうでさっきから目が。肉まんもあるし!」


「ナギさんって食べ物の事になると本気度が変わりますわよね」


 なるほど、今日はナギの知らなかった一面が多く見られるな。

 結局、小籠包と肉まんをお買い上げし。その場で実食。


「おお! さすが〈調理課〉の出店! 肉汁がすげぇ!」


「お、美味し~、あったまるね~」


「本当、美味ですわね。お土産にいくつか買っていきたいですわ」


 学園祭では様々な出し物をしている。アトラクションから普通の飲食店なども様々だ。

 だが、やはり〈調理課〉関係の出店はとんでもないな。味のクラスがすでにプロ級だ。

 そりゃ何かしらミニゲームとかロシアンたこ焼きなんかの別路線を狙わないと、正攻法では勝てないよなぁ。筋肉はちょっとどこを狙っているのか分からないが。


 その後、お土産用にいくつか購入して他の場所も回る。


「ここには来てみたかったのですわ。ちょうどいいタイミングでしたわね」


「おお、コスプレコンテスト~」


「さっきのパレードとはまた違う趣があるな」


 リーナの意見でやってきた会場はコスプレコンテスト、通称コスコンだった。

 パレードが実用度の高い装備だとすれば、ここはコスプレデザイン度が高い装備を組み合わせたコスチューム。もしくはネタ装備。デザインペイント変更などで思い思いのコスを作製し、コスを着て、コスを見せ、コスを楽しむ場、のようだ。コンテスト会場の客層はパレードとはまた違った熱を放っている。


 司会者の声が会場に響く。


「続いて28番! 〈天魔シスターズ〉です!」


「やほー、みんな元気ー? 私たちのコスを見て、さらに元気になってしまおうー」


「みんなで学園祭を盛り上げようー」


「「私たち、天魔コスシスターズです!」」


「「「「「おおおおおお!!」」」」」


「ってエリサとフィナじゃん! なんで出場してんの!?」


 そこに出てきたのはギルドメンバーのエリサとフィナだった。

 エリサは確かに普段からコスプレしているしな! というかいつもの衣装装備だ。

 フィナはそれに付き合わされたのか、『大天使フォーム』とは違う天使の輪、天使の翼、そして1枚布のワンピースと青の靴を履いた天使のコスプレをしていた。


 2人がお互いを抱き合う決めポーズもバッチリで会場は大きく盛り上がっていた。

 やっべぇフィナが超可愛い! もちろんエリサもだ! 尊すぎる! 激写だ!? スクショ、スクショ機能はどこだ!!


「彼女たちが出場するから見に来たんですのよ? なんでもクラスメイトが勝手に応募したとか」


「マジか」


「ふふ、サプライズ成功ですわね」


 まさに大成功だな。

 どうやらリーナは時間も確認してピンポイントでこの場に来たらしい。

 さすがだった。

 お、フィナとエリサと目があったぞ。手を振っておこう。

 みんな学園祭を楽しんでるなぁ。



 2人の出番が終わるとリーナに促され、会場を後にするのだった。




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