第800話 企画〈上級ダンジョン安全運行〉の件で話し合い
―――企画〈上級ダンジョン安全運行〉。
要は名前の通りであるが、肝は〈救護委員会〉とカイリにある。
カイリを【ダンジョンインストラクター】へ〈
リーネシアさんに案内されて付いていくと、とある豪華な一室へとたどり着く。
そのドアをコンコンコンとノックするリーネシアさんが背筋をピシっと伸ばした。
「はい」
「リーネシアです。〈エデン〉のギルドマスターゼフィルス様及びカイリ嬢をお連れいたしました」
「話は聞いています。入ってきてください」
室内から許可が聞こえたので入室する。リーネシアさんはどうやらここまでのようで俺たちだけの入室だ。
「「失礼します」」
中に入ると、そこは司令室のような空間。
ここは学園の公式三大ギルドの一つ〈救護委員会〉の会長室だ。
中にいたのは黒髪を一つに纏め背中に流し、スーツを着た、いかにもできそうなキャリアウーマンといった30代前半と思わしき女性である。
彼女が〈救護委員会〉を纏める会長だろう。俺も初対面である。
そのまま座ったまま対応するのかと思ったが会長の方は優雅に立ち上がり自己紹介をしてくれた。
「私が〈救護委員会〉の会長をしています。ヴィアラン・ファグナーですわ。ゼフィルスさん、カイリさん、以後お見知りおきくださいね」
「ふぁ、ファグナー!?」
「カイリ落ち着け、俺たちも自己紹介だ。――初めまして、〈戦闘課1年1組〉所属、ギルド〈エデン〉のギルドマスターをしていますゼフィルスです」
「あ、わ、私は〈支援課1年1組〉所属、〈エデン〉の下部
「今日はよろしくお願いします」
向こうの自己紹介にカイリがビックリして声を出したが、すぐにそれを押しとどめこちらも自己紹介する。
「こちらこそよろしくお願いしますね。私のことは会長とでも呼んでください。まずは落ち着いて話しましょうか、そこのソファーを使ってください」
会長さんはそう言うと長テーブルに対面ソファーが組まれた場所に移る。
俺とカイリが長ソファーに隣り合って座ると、ほふっと音がして体が沈んだ。
おお、沈む。良いソファーですね!
そんな俺の心境と裏腹に、カイリは落ち着きを無くして俺の腕を掴んでクイクイと引っ張ってくる。
「ね、ねえゼフィルス君、ファグナーって、この方はもしかして」
「ああ。学園長のお孫さんだな」
「おふ」
ファグナー公爵家、この学園の学生なら誰でも知っている。だってこの学園を治めているのはヴァンダムド・ファグナー学園長だからな。
さて、ここで少し〈救護委員会〉の説明をしようと思う。
学園の公式三大ギルド、その一つであり、主な活動はダンジョンの安全な運営管理。
ダンジョンでの全滅、遭難、救難報告などがあった場合、
他にも、以前リーネシアさんがダンジョンのボス部屋前の
その仕事内容を見て分かる通り、学生に任せる領分を大きく超えている。
そのため同じ三大ギルドの中でも〈救護委員会〉は最も巨大な組織であり、運営も大人が主導している。
元々はギルドではなく、そう言った組織だったそうだが、学生をメンバーとして扱う事になった時に学生と別の組織では初動が遅れるとして、無理矢理一つの組織としてギルド化したのだという。
他の三大ギルドはトップも肩書きは隊長となっているが、〈救護委員会〉では隊長とはリーネシアさんのように各部隊を任せる部隊長の意味であり、その上にはこうして会長、副会長などの役職の方がいたりする。それほど大きな
とそこで対面に座った会長の視線がカイリへと向く。
「カイリさん、先日ぶりですね」
「は、はい! まさか〈救護委員会〉の会長でファグナー家の方だったとは知らず、失礼いたしました」
その言葉に俺は、え? カイリってヴィアラン会長と知り合いなの? と言葉が出かける。
「カイリさん、いつも学生の安全なキャリー、助かっていますよ」
「い、いえいえいえ滅相もありません。わ、私は出来る事をしただけですから」
続く会話を聞いてどこで会ったのかを察した。
カイリは学生の安全なキャリーを学園の
しかし、その依頼は元々〈救護委員会〉に持ち込まれた仕事だったらしい。実際キャリー役はカイリだけではなく、〈救護委員会〉も一緒に行なったとのことを聞いている。
とはいえキャリーするには学生数が膨大で、〈救護委員会〉もキャリーだけしているわけにはいかないために他の学生にも依頼がなされた形。その関係でカイリも〈救護委員会〉から挨拶されていたのだろうと思う。それが会長さんだったとは今知ったようだが。
「カイリさんの仕事ぶりや性格はこちらもよく把握しております。そう謙遜することはありませんよ。もし〈エデン〉所属でなければスカウトしたかったくらいです」
「お、お褒めいただいて嬉しいです」
ハンナが〈生徒会〉と掛け持ちしてはいるが、本来ならギルドの掛け持ちは禁止されている。ギルドを掛け持ち出来るのは三大ギルドだけの特権だ。しかし、〈救護委員会〉はその仕事の性質上、〈救護委員会〉の方に力を入れてほしくあり、掛け持ちした場合〈エデン〉〈アークアルカディア〉での活動が大きく制限されてしまうだろう。
それを理解している会長は無理にカイリをスカウトはしなかった様子だ。
「聞けば、カイリさんは上級職【ダンジョンインストラクター】に〈
「ど、どうしてそれを!? まだ30分も経っていませんのに」
「ゼフィルスさんからチャットをいただきました」
「ゼフィルス君~?」
そこで二つの視線が俺の方へ向いた。
ちょうど良い。そろそろ世間話を終えて本題に入ろう。
「まあまあ。それよりも会長。例の企画の件ですが」
「ええ。素晴らしいご提案です。学園長と足並みを揃えられれば〈救護委員会〉は上級ダンジョンでも救助活動ができるでしょう。その計画、前向きに捉えていますよ」
「それはありがたいです」
「ね、ねえゼフィルス君。いい加減にその企画っていうの教えてよ?」
おっと、ここでカイリが脇を突いて訴えてきた。
うむ。機会が整ったしもう話してもいいだろう。
俺だって本当は先に言いたかったが、それに待ったを掛けたのが何しろ前にいる人なんだ。
「カイリさんごめんなさいね。私が口止めしていました。この計画が漏れてしまうと上級ダンジョンという危険な場所に無謀にも突撃する人が出かねないためです。上級ダンジョンというのは、それほど危険な場所なのです」
精鋭が揃う〈救護委員会〉でも二次被害を恐れて入ダンできないダンジョンが上級ダンジョンだ。万が一計画が漏れてしまい、上級ダンジョンを軽く見た学生が入ダンして遭難すれば、無事に帰って来られる確率は低い。
あの学園最強ギルドである〈キングアブソリュート〉だって50人体制で安全を確保し、少しずつ進んでいるほどと言えば上級ダンジョンがどれほど危険なのかわかるだろうか。
とはいえ計画はさほど難しいというわけではない。
「企画〈上級ダンジョン安全運行〉とは、つまり〈救護委員会〉がギルドの上級ダンジョン進出を手助けするという計画です。そのためにはカイリさん、あなたの協力が必要なのです」
そう、会長が言うとおり、カイリは上級ダンジョンの探索において非常に特化した能力を持っている。ゲーム〈ダン活〉時代だって【ダンジョンインストラクター】さえいれば他のメンバーを全員〈採集課〉メンバーに揃えたって余裕で帰還可能だったんだ。その探索能力は俺が保証する。
そして現在、この学園では【シーカー】も少なければ【ダンジョンインストラクター】なんて人材は皆無だという。〈上級転職チケット〉は手に入れた〈戦闘課〉が自分たちで使用してしまう関係で、ほとんど〈支援課〉には出回らないからだ。
そんな背景があり、【ダンジョンインストラクター】はとても貴重なのだ。
〈転移水晶〉があれば全滅しても問題は無い、そう考えるのは早計だ。
その〈転移水晶〉自体、学園に行き渡らせるには素材の供給がまだまだ足りない。今は俺たちか〈サンハンター〉が取ってきているのが現状だ。しかし〈エデン〉だって〈サンハンター〉だってやるべき事がある。
外注出来るのであればしてしまいたい。
そのためには別のギルドが上級に進出して活動してもらった方がありがたく、それを進めるには〈救護委員会〉の助けが必要だ。
というわけで【ダンジョンインストラクター】のカイリには期限条件付きで〈救護委員会〉に〈助っ人〉に行ってもらおうと計画したのである。
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