第799話 〈S等地〉。カイリの力が活かせる場所へ訪問。




「ふわ、へ……え? な、なんだか全然実感湧かないね。あ、ステータス、職業ジョブ変わってる」


「そりゃ、上級職になったからな」


「そうだね。あ、ありがとうねゼフィルス君」


 実感湧かなそうに少し呆然気味なカイリだったが、ステータスを開いたのだろう。

 そこに書かれている自分の職業ジョブを見てようやく実感が湧いてきたらしい。

 そこでハッとして俺に向き直りお礼を言ってきた。

 少し、余裕を取り戻してきた様子だな。


 なら、次のステップに進もう。


「どういたしまして。だが、まだ続くぞ?」


「え?」


「何しろ次は育成論の時間だ。SP振りをするぞカイリ! ここかなり重要だから、間違えないでくれよ?」


 というわけで一度とある教室へと向かい、カイリのステータスを振っていくことにした。


 カイリの上級職は【ダンジョンインストラクター】、その名の通りダンジョンの案内、キャリーに特化した職業ジョブだ。

 人やパーティを案内、キャリーするのだから当然安全性の確保のために高いダンジョン探索能力を持っている。


 また上級ダンジョンという、あの道無き広大な土地で他のパーティを見つける迷子探し能力まで完備しているのだから素晴らしい。当然アーロン先輩と同じくエリアボス探知スキルも持っている。

 さらには通常ではたどり着けない木や崖を登る能力や、〈乗り物〉騎乗運搬能力、とあるギミック解除系スキルまで多くの探索系スキルを保有する優良職だな。


 溜めておいたSPの8Pと祝儀の10Pを使ってスキルを取得していってもらう。もちろんどんなスキルでどんなときに有用なのかの説明も忘れない。


 ちなみに戦闘スキルは相変わらず無い。『乗物攻撃の心得』も無い。その代わりにアイテム効果を上昇させるスキルはあるので戦うのなら〈爆弾〉で戦うことになるが、これはいらない。生産職でもないカイリが消耗品で戦闘するのは赤字になるので基本的に戦闘は回避してもらうことになるな。そういう職業ジョブだし。


「で、出来たよ」


「おお! いいね!」


 ステータスを振り終わったカイリが教室備え付けの〈水晶のドラゴン像〉に手を翳してステータスを俺に見えるように表示してくれる。

 うん、いい感じだ。ちゃんとステータスが振れているのを確認して頷いた。


 2ステップ目完了である。では次に行こう。


「それじゃカイリ付いて来てくれ」


「え? どこへ?」


「カイリが活躍できる良いところだ」


「良い、ところ?」


 若干困惑気味のカイリを連れて教室を出ると、俺は目的の場所に向かった。


 悪いなカイリ。少しくらいSPを振ったステータスの余韻に浸りたいことだろう。

 何しろ18Pも振ったからな。ワクワクが止まらないはずだ。俺には分かる!

 俺が振り向くと、カイリが落ち着きを無くして付いて来ているのを見てやはりなと頷く。


「な、なんだか盛大に勘違いされている気がするんだけど」


「ん?」


「いや、なんでもない、かな」


「そうか?」


 どうしたのだろうか? ああ、俺が行き先を言ってないから聞きたがっているのかな?

 しかし、それは着いてからのお楽しみだ。

 今のカイリにとってきっと悪くないところのはずだから。


 そんな感じでカイリを連れて歩きで向かうと、目的地であるそれなりに大きな建物が見えてきた。


 そこはSランクギルドハウスが建つ区画、通称〈S等地〉。学園の一等地いっとうちみたいな場所だ。〈ダンジョン公爵城〉通称:〈中城〉のお膝元でもある。

 とはいえSランクギルドなんて三つしかないため、この区画に立っている建物はそれ以外にもたくさんある。Aランクギルドハウスが建つ区画、〈A地帯〉と同じだな。


 そして俺たちが目指している場所はとあるSランクギルド、というわけではなく、別のギルドである。

 え? 〈S等地〉にSランクギルド以外のギルドなんてあるの? と思うかもしれないが、あるんだなこれが。


「ここだ」


「え? でもここって」


 どうやらカイリもここを知っているらしかった。

 まあ、説明はもうちょっと後にして俺は建物の入口へ向かうとチャイムを鳴らし応答を待つと、3秒もしないうちに伝声管でんせいかんから女性の声が聞こえてくる。


「『はい。どなたですか?』」


「ギルド〈エデン〉のギルドマスター、ゼフィルスです。企画〈上級ダンジョン安全運行〉についてまいりました」


「『あ、あの件ですね。承知いたしました。案内の者を出しますのでお待ちください』」


「ねえ、〈上級ダンジョン安全運行〉って何? 何か壮大な名前なんだけど?」


「ふっふっふ、実はな――」


「待たせたね。案内役をさせてもらうことになった〈救護委員会・・・・・〉第三九救護部隊隊長のリーネシアだ、よろしく願うよ」


 おっと待っている間にカイリに説明しようとしたら出迎えが早い。

 悪いなカイリ、もう少しだけ待っていてくれ。

 俺は片手を上げるジェスチャーでカイリに悪いなと告げるとリーネシアさんに向き直る。


「お久しぶりですねリーネシアさん」


「ゼフィルス君も健勝けんしょうなようで何よりだ」


 そう挨拶を交わして握手する。

 リーネシアさんとは一度、リーナと2人で〈小狼の浅森ダンジョン〉を攻略しているときに会ったことがある。マッスル救助さんが有名な第三九部隊の隊長さんだ。

〈救護委員会〉に所属する姉御肌の女性で、おそらく20代前半くらい。

 少し肌色が多めな薄着の軽装で、腰の左右と後ろに大きな〈空間収納鞄アイテムバッグ〉を計三つ着けている。


 そう、俺がカイリを伴って訪ねたのは公式三大ギルドの一つ、〈救護委員会〉だった。

 実は前々から学園長を通し、色々と上級ダンジョンの運行について話し合っていたのだが、やはり〈救難報告〉で〈救護委員会〉が出動できないというのが最大の課題となっていた。


 ある程度は〈転移水晶〉の実用化により解消されるだろうが、万が一上級ダンジョンで遭難があった場合、助けに行ける組織が無いというのは学園の威信に関わる。


 安全が確保出来なければ、学生全体による上級ダンジョンの探索、攻略なんて夢のまた夢だ。


 それを解消するための一歩として、俺は今日、カイリを〈救護委員会〉へと連れて来たのである。




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