第789話 〈サンハンター〉合同探索、上級ダンジョン突入




「まったくあの兄はバカ。――みんなごめんね」


「大丈夫よミュー。どうせ行くことにしていたのだもの。むしろダンジョンで打ち合わせした方が効率が良いかもしれないわ」


「ラナ殿下、ありがとう」


 静かにいきどおるミューも初めて見るが、ラナの斬新な発想にはいつも感心するな。

 確かに、ここで話し合いをするより現場で実地を交えないと分からない事も多いだろう。


 とはいえ、だ。


「でも1人って、そのギルドマスターは大丈夫なのかしら?」


「ミュー、ここのギルドマスターは探索系の職業ジョブなの?」


 シエラとラナの言葉が全てを物語るな。

 いやマジで。上級ダンジョンにソロとか、探索系や斥候職じゃないと厳しいものがある。

 戦闘職が1人でダンジョンとかマジで危険だ。


「兄はそう、探索も採集も得意な職業ジョブ。でも戦闘力も化け物。上級モンスターでも1人で狩って素材持って帰ってくる」


「それどんな職業ジョブよ!」


 本当にな。

 ソロで上級に挑んでモンスターをソロ討伐して生き残り、採集も狩りもして素材を入手して帰ってくる。

 そんな強職業ジョブあるのかと。

 しかし、俺にはそういう職業ジョブに心当たりが有るんだよなぁ。


「とにかくすでに出発準備は出来ているわ。追いかけましょ。先輩方、準備は?」


「いつでも行けますぜ」


 リャアナが声を掛けると中からとても学生に見えないおっさんのような見た目の男が出てきた。いや、その後ろにもぞろぞろと3人を連れていて、おそらくこの人たちが元々俺たちと一緒に上級下位ジョーカーに挑む予定だった人たちなのだろう。

 向こうの準備は万端のようだ。

 リャアナがこっちにも目配せしてくるので頷く。


「〈エデン〉もいつでも行けるぜ」


「それじゃ、すぐに行きましょう」


「リャアナとミューも行くのか?」


「私たちはサポートね。素材とか運ばないといけないし、ゲストとして行くわ。それとミューはギルドマスターの制御のために必要なのよ」


「制御?」


「そ、制御。兄、従わなかったら、撃つ」


「まさかの物理!?」


 ミューが物騒だった。クラスメイトのまさかの一面に面食らう。

 その人ギルドマスターなんだよな? そしてここのギルマスはミューの兄のはずだが、扱いが……。


「あの人はミューに弱いからね。行きましょうか?」


 なんだか自由奔放のようだなギルドマスターさんは。

 リャアナの言葉に俺たちは頷く。

 ま、とりあえず、行ってみますか!




 そうして俺たちと〈サンハンター〉6人は〈上下ダン〉に到着した、管理人のケルばあさんに聞くと、やっぱりギルドマスターは1人で登録して、すでに〈山岳の狂樹ダンジョン〉へ入ダンしてしまったらしい。

 ソロとか許可が下りるのかと思ったが。


「アーロンちゃんだけは特別だかんねぇ」


 とのことだ。まあ、俺の予想通りの職業ジョブならソロでもボスとさえ戦闘しなけりゃ上層くらい楽勝だろうさ。実際、今までもソロで何度か入ダンして無事に帰って来ているらしい。

 最近はギルドバトルの申し込みの件でバタバタしていて上級ダンジョンには潜れていなかったようだが、それも昨日〈アークアルカディア〉のギルドバトルの後に防衛戦で勝ち、1ヶ月挑戦されない権利を勝ち取っている。


 昨日〈サンハンター〉のギルドバトルが行なわれたのもおそらく学園の意向だろうな。

 この依頼はとても重要なもののため、憂いを排除しておきたかったんだろう。〈サンハンター〉が負けていればとても上級ダンジョン探索どころではなかったハズだが、幸いにも挑んできたBランクギルドはBランクの中でも下の方のギルドで、Aランクに上がれるだけの実力は持っていなかったのだそうだ。それも昨日ギルドバトルが行なわれた理由の一つだな。


 おかげで憂いの無くなった〈サンハンター〉のギルドマスターは今までの鬱憤を爆発させてしまい、こうして先にダンジョンに潜ってしまったようだとはリャアナのげんだ。


「他の人たちはギルドバトルである程度暴れましたからそれほどストレスは溜まっていなかったのですが、ギルドマスターはギルドバトルに参加出来ないからね」


 まあ、そうだろうなぁ。あの職業ジョブであればそれも分かる。

 あれ、対人ではまったく使えないからなぁ。


「ほら、無駄なおしゃべりはここまでだリャアナちゃん。ダンジョンに潜るぞ。引き締めろ」


「はい! ダンカンさん」


 おっさん顔の先輩の言葉にリャアナが背筋を伸ばして頷いた。

 このダンカン先輩は、こんな顔をしているがちゃんと18歳の学生だ。

 しかもAランクギルド〈サンハンター〉のサブマスターを務めている豪傑である。

 なお、ミューいわく、18歳なのに30代にも見られるおっさん顔を気にしているとのことで、普通に先輩と接してあげてとのことだった。

 哀しい! 俺は普通に学生と話すときのような態度で接することに決めた!


「じゃあ行くぜ!」


「「「「おおー!」」」」


 俺は務めて明るい声を出して門を潜った。


「ここが、〈山岳の狂樹ダンジョン〉!」


「リャアナとミューは落ち着いて地図を書いていけよ」


「「はい!」」


〈サンハンター〉のメンバーは〈山岳の狂樹ダンジョン〉の入ダンは初めてだ。

 ここのギルドマスターもいつもはランク1の〈嵐後の倒森ダンジョン〉の上層で素材集めをしているらしい。

 しかし、上級ダンジョン入ダン経験が豊富であるということには変わりなく、前に学園長に提案した〈上級転職チケット〉回収専用の組織を作るに当たって、〈サンハンター〉はその第一候補に認定されていたりする。

 なぜSランクギルドや公式三大ギルドを差し置いて最初にAランクギルドの〈サンハンター〉が選ばれたのか。

 それはもう少ししたら話そう。


 俺たち〈エデン〉の役割はこの〈サンハンター〉を立派な周回ハンターに仕上げることだ。

 冗談だ。そこまでは求められていない。せいぜい最初の経験を積ませるサポート役というところだ。彼らが慣れるまでは〈エデン〉と共にエリアボスを周回することになる。


「周辺警戒。ミューは索敵スキルを使うなよ。全部こっちでやる」


「おけ」


 1年生のミューとリャアナはまだ下級職であり、攻略階層も上級に届いていない。

 つまりは〈『ゲスト』の腕輪〉を使って便乗している状態だ。

 そして『索敵』スキルは戦闘スキルの一つに分類されている。戦うためのスキルだからだ。戦闘スキルを使えば〈『ゲスト』の腕輪〉は壊れてしまうため、荷物もちや、地図を書くのに力を入れてもらうらしい。2人が地図を書けば書き漏れが少なくなり精度が増すのだそうだ。


 なるほど。これが本来のギルドの攻略の仕方なのか。参考になるな。

空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉の鞄は大きく、戦闘に邪魔になる。奇襲がメインの上級ではそれが原因で敗北する可能性すらあるため、ゲストに大荷物を預け、戦闘メンバーは小さなポーチ型の〈空間収納鞄アイテムバッグ〉を携帯していた。


 また上級ダンジョンでは迷ったら一大事だ。これが道のある中級ダンジョンであれば何とかなるが、道の無い上級ダンジョンでは自分の位置を見失ったが最後、戻ることもままならなくなる。精度の高い地図は必須ということだろう。

 とはいえ、今回は戻りの心配はない。いや、むしろ一生心配無い。

 今の俺たちはハンナが作ってくれた〈転移水晶〉があるからな!


「さって、俺たちのボスギルマスはどこに――」


「よーお前ら! 遅かったじゃねぇか!」


「ウォン!」


「ニャア!」


 とそこでドスンと何かが降ってきた。それは上級ウルフ系の〈ラウルフ〉。

 そしてそれに跨がった大剣を背負う大男と、上級猫系の〈スピリットニャニャ〉だった。


 この2体は〈山ダン〉では登場しない。テイムモンスターだな。


 大剣を背負った大男が〈ラウルフ〉から飛び降りて片手を挙げて挨拶する。


「〈エデン〉のメンバーと見受けるぜ? 俺が〈サンハンター〉のギルドマスター、アーロン、職業ジョブは【モンスターバスター】だ! こいつらはテイムモンスターのジェイウォンとニャルソン。よろしくな!」


 降ってきたのは〈サンハンター〉のギルドマスター、アーロン。


 そしてその職業ジョブは予想通り、【ハンター】系の上級職最強、

 ――【モンスターバスター】だった。




 ―――――――――――――

 後書き失礼します!

 みなさんの言いたいことは分かる!

【ハンター】の上級職と言ったら【モンスターハンター】だろ!

 これ以上のハンターは無い!!

 その気持ちはとても良く理解しております。

 作者もできれば【モンスターハンター】にしたかった。

 ですが、さすがにちょっと怖いので【モンスターバスター】とさせていただきました。

 これなら多分セーフ?




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