第790話 アーロン先輩と合流、次の目的はエリアボス!




 上級職、高の下であり【ハンター】系の上級職最強、【モンスターバスター】のユニークスキルは『モンスターハント』。


 効果は「モンスター以外のHPを削る事が出来ない代わりに、モンスターに対しては与ダメージが最高で3倍になる」というもの。もちろんパッシブ。

 つまり巨城や対人戦ではいくら攻撃しようがHPを1ポイントたりとも削る事は出来ないが、モンスターが相手であれば与ダメージが超上昇するという特化職だ。


 なお、これは全攻撃を対象にしているため、下級職時代に覚えたスキルも通常攻撃ですらダメージを与えられなくなってしまう。とはいえ『モンスターハントLV10』の時、モンスターへは与ダメージ3倍なのでノーカテゴリーの中では安定してめちゃくちゃ強い良職業ジョブでゲーム〈ダン活〉ではかなりの人気があった。

 かく言う俺も何度もお世話になったな。


 しかも強いのは特効効果だけでは無い。そのできる事の多様さもかなり広い。

 先ほど言ったように斥候役ができることはもちろん、ウルフ系か猫系に限られるがモンスターのテイム能力も持っているし騎乗もできる。武器の多様性も強みだろう。魔法系以外の武器はほぼ全種類装備可能なんだ。

 その代わり魔法系はまったく素養の欠片も無いんだけどな。完全に物理特化職だ。


 さらには採集系のスキルも多く持っていて採取、伐採、発掘、釣りもある程度可能。

 マリー先輩が〈サンハンター〉に上級ダンジョン素材の採集を依頼した理由でもある。

 まさにダンジョンで活躍する特化職業ジョブ、と言ったところだろう。

 ソロですら上級ダンジョンの上層に潜れるほどである。まあ、さすがにソロでボスは狩れないのでその先には進めないんだがな。


 そしてこの【モンスターバスター】のアーロン先輩がいるからこそ、Aランクギルドであるにもかかわらず〈サンハンター〉が学園の依頼を受けて上級ダンジョンへ俺たちと共に来た理由でもあった。

【モンスターバスター】は上級ダンジョンでも十分通用する。そして『エリアボス感知』スキルまで覚えるからだ。

 この能力を使い、どこに居るかも分からないエリアボスを安定して狩れるようにしてほしいというのが学園の依頼である。


 そんな重要人物のいきなりの登場に、――まずミューが銃口を向けた。


「よし、撃とう」


「待て待て待て待て。妹よ、それは兄に向けていい物ではないだろう。というかお前今ゲスト中だろ。腕輪壊れるからやめておけ」


「………………むう、じゃあ後で」


「諦めるという選択肢はないのかよ?」


 なんとかギルドマスターアーロン先輩の説得(?)で銃口を下げたミュー。とても不満そうだ。


「おい、バカマスター」


「おいおいダンカン、バカは無いだろう」


「なら大馬鹿野郎だ。この依頼がどれだけ重要なものか分かってないのか大馬鹿野郎」


「こいつ、大馬鹿野郎って二回言いやがったな! だが待て待てダンカン、落ち着け。俺だって自分の欲求に逆らえずにノリで来たわけじゃない。しっかり事前に確認も兼ねて来たんだ。何せしっかりエリアボスの位置を把握しておかなけりゃおちおち探索もできやしないだろ?」


「一理あるが、嘘を混ぜるな。最初は欲望のまま入ダンしたクセに」


「な、なんだと! おいミュー、お前から兄の素晴らしさを語ってやってやれ」


「嫌」


「嫌……?」


「ここに兄の味方はいない。反省するべし」


「本当にエリアボスの居場所を突き止めてきたんだがな……」


 ミューがいつもの変化に乏しい表情を嫌そうに歪めて断っていた。

 兄、哀れ。ちょっと同情するぜ。

 あと、そんなすがるようにこっちに視線を向けても初対面だからな?


 そんな念が通じたのか、二足歩行である〈スピリットニャニャ〉のニャルソンが手に持った〈冷凍魚ソード〉でアーロン先輩のすねをひっぱたいた。ガキンと金属音が鳴る。


「にゃ!」


「おおう、おう。分かった分かった。――すまなかった〈エデン〉の方々。つい先走ってしまった。改めて、〈サンハンター〉のギルドマスターをしているアーロンだ。よろしく頼むぜ」


 やっとまともな会話ができるようになって蚊帳の外から復帰出来たため、俺もアーロン先輩の下に進み挨拶をしながら握手をした。


「〈エデン〉のギルドマスターのゼフィルスという。こちらこそよろしく」


 そこからなんとかメンバーの合同探索というクエストを遂行すべく、まずはメンバーの自己紹介と軽い交流を行なった。


 ここはすでに上級ダンジョンの中だが、まだ入口門の近くなのでモンスターからは襲われない。


「そういえばアーロン先輩、さっきエリアボスを確認してきたって言ってましたっけ?」


「おう。そうだ、確認出来たのは〈階層ボス〉。ここから北西に3キロメートルくらい離れた所にいやがったな。どうする? 早速行くか?」


 アーロン先輩がエリアボスへ挑むか問うてくる。

 元々この合同クエストは〈サンハンター〉が主体で学園から任務を受け、〈上級転職チケット〉の回収部隊、その先駆者となる形でエリアボスの継続的な討伐がその内容だ。俺たち〈エデン〉はそのサポート役。


 学園長にこの話をしたのは俺だし、言い出しっぺだからな。言うだけ言ってそのままというわけにはいかないため、しばらくはサポート役として同行する。

 まだまだ上級ダンジョンというのは未知に近いエリアで、慣れていない者では全滅する危険が常にある。戦闘中に〈転移水晶〉で逃げることは出来ないのだ。

 まだ〈救護委員会〉の助けも当てに出来ないため慎重さは必要だ。


 ま、慣れて俺の手を離れるまではサポートさせてもらう予定だな。

 それで〈上級転職チケット〉が多く普及すればそれだけダンジョンの攻略が進む。

 それは俺たちにも様々なメリットがある。


 現在11月3日、到達階層は上級下位ジョーカー

 これはゲーム〈ダン活〉時代より、かなりペースが早い。

 リアルの恩恵が強いのだ。故にゲーム時代とは考えられない早さでここまで来ていた。


 しかし、それも頭打ち。

 ここから先は未知という扱いでリアルブーストが期待出来ない。むしろスピードダウンするだろう。何しろ上級職の生産職すらおらず、自分で作るしか無いのだから。上級素材も上級アイテムも自分で用意するしかない。

 だが、周りに上級職が増え、ゲームと同じ環境が整えば話は別だ。


 再びリアルブーストが期待出来る。

 どれだけ早く、卒業までに強くなれるかというのは〈ダン活〉の最重要課題なのだ。ふっふっふ。


 さて、時間は無駄にできない。何しろ今日は日曜日で、明日は学園がある。


 俺たちの活動時間の捻出もあるので早速動くとしよう。


「では、エリアボスに挑むとしますか!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る