第781話 東側の戦い。フラーミナとチーちゃん大暴れ中。




「はぁ、はぁ、疲れたぁ。みんな、大丈夫、だった?」


 荒い息を吐いてメンバーの状態を見渡すサチ。

 今まで経験が無いくらいの強敵を相手に全員が無事だったというのは僥倖だった。

 誰か1人でもやられていれば、そこから雪崩のように壊滅していたかもしれない。

 誰も欠けなかったからの勝利だと、その場の全員が実感していた。


「ふへぇ、しんどかった~。HPもMPもカツカツなんだけど~」


「はぁ、でも、なんとか、倒せました、ね」


 前衛組のトモヨとフィナリナがサチの問いに答える。

 相手の猛攻に対しずっと気を張って防いでいたトモヨは座り込んでしまい、体力気力共に消耗の激しさを思わせる。HPバーも残り2割弱しか残っていなかった。


 フィナリナはHPこそ5割と、半分ほど残ってはいたが、MPは度重なるスキルの使用で残り1割にも満たなかった。


 他のメンバーも似たようなもので、大体のメンバーがHPか、MPが枯渇している状態だ。


 ソードマンがそれだけ強敵だったということだ。

 恐ろしいのはこれだけ全力を持って撃破したソードマンが10分もすれば〈敗者復活〉ルールによって復活して来る所なのだが、今は考えたくない6人だった。


「とりあえず、みんな回復するね。『魔本・オールヒーリング』! 『魔装武装』! これでMPすっからかん~『魔本・ビッグヒーリング』!」


「エリサちゃんの回復も食らえ~『ダークエリアハイヒール』! んじゃ、私のMPをエミにあげるわ。『MP譲渡』エミ!」


「わ、MPが回復した! ありがとうエリサっち~」


 エミとエリサがパーティのHPを回復させると、エリサはエミに自分のMPをまるっと譲渡する。仲間のMPを回復させるヒーラー魔法だ。その代わり回復した数値分自分のMPが減るが。


「それと減ったMPを回復させて貰うわね『MP大睡吸』!」


「!」


 忘れているかもしれないが、実は魔砲使い男子君は先ほどから離れた所で〈睡眠〉中だ。

 あの熱き戦闘が近くで巻き起こっているのに寝ているとは幸せな男である。

 そのおしおきかは知らないが、ちょうどMPの貯蔵庫があるぞとばかりにエリサは魔砲使い男子君からMPを吸収することにした様子だ。


 ユニークスキル『ナイトメア・大睡吸』で眠ったわけでは無いので吸収速度は普通だが、じわじわとMPを吸い取り、エリサのMPが回復していく。同時に魔砲使い男子君はうなされるように呻き、びくんびくんした。


「うわぁ。これはたまったものではないね」


 ユウカがそれを見て【悪魔】の職業ジョブの本質を垣間見た、みたいな顔をしていたがエリサの視界には入らない。


 そのまま全員がギルドから貰っていた回復系ポーション、上級薬〈エリクサー〉を使い、MPをガンガン回復させる。

〈城取り〉に〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の持ち込みは不可であるが、普通のバッグ類は持ち込み有りである。全員が行動の邪魔にならないほどコンパクトな鞄、その身に装着しているベルトポーチのような所から瓶を取りだしてグイっと補給していく。


〈エリクサー〉は1人5本支給されていて、本来の回復量はMP300を回復する素晴らしい性能だが、これはハンナ特製回復薬なために回復量はパワーアップしてMP570となっている。2本飲めば全回復だ。ヤバい。


 ハンナは『薬回復量上昇付与LV7』でポーション系の効力を、元々の性能の40%の数値を上乗せ出来る。高品質で5割増しになった数値にそれが加わるために、この数値をたたき出していた。しかも大量生産が可能だ。本当にヤバい。


 ありがたくそれで回復しつつ、全員がHPとMPを全回復させると次の行動に移ることにした。

 ちなみに魔砲使い男子君は『MP大睡吸』の後、『夢喰い』『ダークドレインエナジー』によってHPもMPも吸いつくされ、退場してしまった。


 こうして中央西側の戦いは〈アークアルカディア〉側の勝利に終わったのだった。



 ◇ ◇ ◇



 所変わって中央東側。少し時間は巻き戻り、こちらは4人で〈ファイトオブソードマン〉の5人を止めなくてはいけない難しい箇所だった。

 しかも〈アークアルカディア〉全員のレベルが58であり、相手は全員がレベルカンストと思われる。

 そのため足止めがメインの作戦となっていた。


 そのはずだったのだが。


「チーちゃんゴーゴー! 行くよ! 『サンダーレイ』! 『ライトニングボール』!」


「ぐおっ!?」


「おい! 誰かあのモチモチを止めろ!」


「やってる! だがあのモチッコ、『斬撃耐性』が異様に高いぞ!?」


「プルプル」


「いっけーチーちゃん! 体当たりだよー!」


「プルプルー!」


「ぐおお!?」


 蓋を開けてみれば、フラーミナのテイムしているモチッコが大活躍していた。

 現在のモチッコチーちゃんは〈スーパーモチッコ〉からさらに進化して〈スパプルモチ〉という、大きさ3メートル、重量不明の重量級タンクとして威厳を発揮している。

 能力も強化され、特にスーパーボディでスパスパされないプルプルモチッコとして『斬撃耐性LV10』を獲得。やたらと斬撃に強くなり、剣が主体の〈ファイトオブソードマン〉メンバーを苦しめていた。


 じゃあ相手にせず召喚者を狙えば良いじゃないかと思うかもしれないが、相手にしなければいけない理由があった。


「くっ!? まさかあのモチッコナイトが本当に実在したとは!! ぐおおっ!?」


「モチッコナイトが異様に強い!?」


「チーちゃん最高ー! 次はあっちに行ってみようー!」


 そう、実はチーちゃんの上にはフラーミナが騎乗していた。

 その姿に何を思ったのか、〈ファイトオブソードマン〉のメンバーが驚愕に震え声を出している。


「プルプルー! ……プル?」


「あ、バフ切れちゃったね、かけ直すよー。『ファーストモンスターGO』!」


 一気呵成に戸惑う相手に追い打ちを掛けようとしたところで、チーちゃんのバフアイコンが消えてしまったことに気がついたフラーミナがバフをかけ直す。

『ファーストモンスターGO』は出しているモンスターが1体の時、そのモンスターを大強化するバフだ。他のモンスターは収納済み。

 これにより、チーちゃんは強く硬く、敵を寄せ付けないタンク騎乗モンスターに化けていた、さらに。


「クールタイム明けの――『ライトニングボール』!」


「うおっ!? あぶねぇ!?」


 騎乗しているテイマーによって魔法攻撃までぶっ放される、なんだかボス並のやっかいな存在になってしまっていた。


 本来なら中級中位チュウチュウ級モンスターである〈スパプルモチ〉は、タンク型ではあるが斬撃じゃなければそこそこダメージは通るのだが、フラーミナの魔法による牽制、『モンスターヒール』や『ファーストモンスターGO』などのサポート、そして斬撃主体の〈ファイトオブソードマン〉という相手により。


 フラーミナとチーちゃんの2人が見事に戦況にハマっていたのだった。



 もちろん活躍しているのはフラーミナだけではない。


「さあ皆様、ゼフィルスさんが見ているところで無様な姿はさらせません。なので、私に大人しくやられてくださいな。――『箱結界』!」


「うお!? 囲まれた!?」


 カタリナの結界魔法が相手の1人を捉えた。

 ちなみに今頃ゼフィルスはソードマンとの戦闘に熱中しているためカタリナの活躍を見ているかは不明である。


 しかし、ゼフィルスから常に見てもらっていると思っているカタリナは両手杖を振ってポーズを決めて魅せ、格好付けつつ、相手に追撃を与えた。


「くっ! 『破壊斬り』!」


「『五重封印』! そして、『電撃結界』ですわ!」


「ぐおおおお!?」


『箱結界』で相手を閉じ込め、追加の『五重封印』で『箱結界』を五重にして強化し、相手を脱出困難にしてから『電撃結界』を発動。結界内に電撃攻撃して中の相手のHPをじわじわ削っていく。

 これが決まると結界の強度以上の大技か連続技で結界を破壊して脱出するしかないため、非常に強力な攻撃だ。

 もしくは、術者を倒すという方法くらいしかない。


「これ以上好き勝手はさせん! 『バーストレイピア』!」


「カタリナはやらせませんよ! 『ガードアクション』!」


 術者であるカタリナ本人を狙う【フェンサー】の男子だが、護衛のように張り付くロゼッタを突破出来ない。ロゼッタはカバー系でカタリナを守ると、すぐに反撃を見舞う。


「『閃光一閃斬り』!」


「ぐう! こいつ【重戦士】か!」


「違います。私は【姫騎士】です! 『ライトクロススラッシュ』!」


「『激烈一突』! くっ、レベルはさほど高くないのに押し通れない!?」


「私もいることを忘れないでくださいな。『箱結界』!」


「『バックダッシュ』!」


 ロゼッタはタンクではあるが、STRも高いアタッカ―&タンクだ。

 主にSTRとVITが高いため、重戦士と勘違いされても仕方がない。

 反撃を掻い潜り、【フェンサー】男子が押し通ろうと身体を屈めたところでカタリナの『箱結界』がその身を囲おうとする。瞬間、先ほど仲間が囚われるのを見ていた男子が反射的に『バックダッシュ』を発動。ギリギリのところで『箱結界』に囚われる前にその場を脱出した。


〈アークアルカディア〉のその連携や千差万別の戦法によって攪乱され、上手く自身の力が発揮出来ない〈ファイトオブソードマン〉。


 ならば戦闘を回避して丸腰の本丸、本拠地を狙えば良いじゃないかと思うかもしれないが、これは試験。

 しかも対人戦を見るのも試験内容なので〈ファイトオブソードマン〉が投げ出すわけにも行かない。

 一度引くのなら良いが、無視するのは試験官の沽券に関わってしまうのだ。


〈ファイトオブソードマン〉は引くかこのまま戦闘を続行するか選択を迫られた。


 そうして中央東部隊の判断は、相手の4人をこのまま足止めするだった。

 自分のギルドマスター、真のソードマンを信じて。


 その数分後、〈ファイトオブソードマン〉の残り人数が5人とスクリーンに表示された。




 ――――――――――

 後書き失礼いたします。


『薬回復量上昇付与LV?』の計算式。

LV1 1.05

LV2 1.1

LV3 1.15

LV4 1.2

LV5 1.3

LV6 1.35

LV7 1.4

LV8 1.45

LV9 1.5

LV10 1.6


〈エリクサー〉回復量300。

 高品質で5割加算=150。

『薬回復量上昇付与LV7』で300の40%の数値加算=120。


〈300+150+120〉=570

 となっております。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る