第782話 東側決着。オリヒメ、カタリナのユニークスキル
Dランク昇格試験、中盤戦。
上空に浮かぶスクリーンに映された残り人数を見て、〈ファイトオブソードマン〉の東部隊に動揺が走った。
「な!? 西が全滅だと!?」
「ば、バカなぁ!? あの我こそはアイアムソードマンがやられたというのか!?」
「ギルマス!?」
「うっそだろソードマン!?」
「ビリビリ痺れるぅぅぅ!?」
いったい何が起きたというのか。
スクリーンに映し出された数字は、――〈赤チーム:残り5人〉。
衝撃的な数字だった。
それは東側にいる〈ファイトオブソードマン〉の人数と同じ。つまりはこのギルドバトルで唯一の上級職であり、ソードマンの中のソードマンと自他共に認め称えられているソードマンがやられてしまったことを意味していた。
単騎で2年生の
もちろん、そこを見逃す〈アークアルカディア〉ではない。
それまでフラーミナの後ろで一緒にチーちゃんに『仲間騎乗』していたオリヒメが仕掛ける。
「隙有りですね。『沈没の道案内』!」
「ぐあっ!?」
「しまった! 強力な〈混乱〉だ! すぐに直せ!」
「『気付けビンタ』!」
「はうっ!?」
『沈没の道案内』は相手を〈混乱〉状態にする強力な歌スキル。
しかもなんと範囲攻撃である。
聞いた者は一定の確率で〈混乱〉してしまい、仲間に襲い掛かるのだ。
男子が男子に襲い掛かる光景に観客席の一部から黄色い声が上がったが、すぐにビンタで対処したため事なきを得る。いろんな意味で。
しかし、もちろんこれだけでは終わらない。
「『広域歌唱』! 『魅了歌』! 『子守唄』!」
「うおお『ソードクロスガード』! ぐう、今度は〈魅了〉に〈睡眠〉だと!? いったいいくつ状態異常攻撃を使うんだ! しかもすべてが広範囲の攻撃だと!?」
ノエルも覚えている『広域歌唱』は少しの時間、歌系範囲スキルを全体スキルに昇華する効果を持つ強力なスキルだ。
これにより、普通なら範囲を対象にした『魅了歌』や『子守唄』まで〈ファイトオブソードマン〉全員が対象となる。
防御スキルを使った戦士男子のサブマスとRESの高い【魔法剣士】男子1人はレジストに成功したが、他の3人はそれぞれ状態異常に掛かってしまう。
「うっひょあー!!」
「こんの! 目を覚ませや!」
〈魅了〉に掛かった男子が再び、否、今度は目をハートマークにして戦士男子に飛び掛り、先ほどより大きい黄色い声が観客席から上がる。
「いいぞーいいぞー」
「はい! どんどん行きますね。『テノール』! 『バリトン』! 『バス』! 『呪歌』!」
フラーミナからの声援(?)で勢いに乗ったオリヒメが今度は更なるスキルを使う。
「今度はデバフ!?」
「あいつを、止めろ!」
「やろうにもモチッコが止められねえんだって!」
「チーちゃん、GOー!」
「プルプルー!」
「ぶびゃら!?」
オリヒメがスキルを発動すると紫の水の玉が合計三つ、オリヒメの周りに浮かんだ。そしてそれぞれが男声を発したのだ。
瞬間、〈ファイトオブソードマン〉全員にデバフのアイコンが付く。
オリヒメのスキル『テノール』『バリトン』『バス』はデバフ効果があり、それぞれ攻撃力防御力、魔法力魔防力、素早さ移動速度をダウンさせる効果がある。
さらに『呪歌』のコンボ。『呪歌』は【人魚姫】によって与えられたデバフの効果継続時間が延びる優秀なスキルだ。
「今度はバフですよ! 『ソプラノ』! 『メゾソプラノ』! 『アルト』! 『祝歌』!」
オリヒメの次のスキルは先ほどの『呪歌』とは正反対のバフスキル。
再び三つの、今度は白い水の玉がオリヒメの周りに浮かんで今度は女声を出し始めたのだ。
瞬間、〈アークアルカディア〉のメンバー全員にバフのアイコンが付く。
これも先ほどの『呪歌』と反対なだけで効果は同じだ。
『ソプラノ』は攻撃力防御力、『メゾソプラノ』は魔法力魔防力、『アルト』は素早さ移動速度をアップさせる。そして『祝歌』によって効果継続時間も延びた。
オリヒメの周りに浮かぶ六つの球体は、自動でオリヒメに付いてくる。これを浮かべている限り敵にはデバフが、味方にはバフが維持されるのだ。
デバフを使って『呪歌』、バフを使って『祝歌』は【人魚姫】の基本的なコンボである。
戦況を有利に働かせ、味方を勝利に近づける支援回復。
さらに三つの紫の玉、三つの白の玉が揃っているとき、ユニークスキル『ハッピーデュエットラブソング』が発動できるようになる。それは強力な全体回復、継続回復の付与、さらに状態異常が解除され、ソング中は状態異常に掛からず最大HPも増える、という最終コンボだ。
これが完成すると、もう敵陣に自軍を突っ込ませれば勝てる状態になる。突撃してもやられない兵士の出来上がりだ。
フラーミナ、カタリナ、ロゼッタもオリヒメがこのコンボを発動すると察して準備万端にする。
「最後に聞いてください。――『ハッピーデュエットラブソング』!」
「たぎってきたわー! チーちゃんいっくよー!」
「プルプルー!」
『ハッピーデュエットラブソング』の効果はテイムモンスターには適用されないのだが、フラーミナは最大の弱点である術者である自分が退場する危険が減ったので一気に攻勢に出たようだ。
「攻撃メインに移りますわ! 『反射結界』! 『箱結界』! ユニークスキル『姫の変幻結界』!」
「『チャージスラッシュ』! ぐあぁ! なにぃ、反射だと!?」
カタリナも防御用のスキルを攻撃に回して攻勢に出た。
反射の効果があり、万が一の時のために残していた切り札を攻勢に使う。
使うのは未だに『五重封印』に囚われた1人を助けようとする戦士男子君だ。
『五重封印』の前に『反射結界』を出して、チャージで突っ込んできた戦士男子を反射で吹っ飛ばす。
続いて『箱結界』を何もない空中に浮かべたかと思うと、ユニークスキル『姫の変幻結界』を発動した。
このスキルはまさに変幻自在。結界の姿を変化させ自由自在に形作ることが出来る、変化形スキルだ。
ゲーム時代は良く分からないウニのようなハリセンボンと成り、敵や全体攻撃を破壊する攻防一体の全体攻撃だったが、リアルでは本当に変幻自在に変化する。
「行きなさい」
「これは!?」
「こなくそ! 『
ぐにゃぐにゃに変化した結界が起こしたのは四角の突撃。
結界の一部が伸びて〈ファイトオブソードマン〉に突撃したのだ。
状態異常から復帰した直後の【戦う
伸びた結界はさらに変化し、回避しようともカタリナが操り追跡するようにまた伸びる。
まるで変幻自在のコンクリートが突撃してくるようなものだ。〈ファイトオブソードマン〉のメンバーがむちゃくちゃビビる。
そうしてとあるポイントに誘い込むと。カタリナは止めを刺した。
「行きますよ、トモヨさん直伝! 結界シンバルプッシュ!」
「囲ま!?」
「しまっ!」
いつの間にか前門の結界と後門の結界に阻まれていた【戦う農士】と【魔法剣士】、それに気が付いた時にはすでに遅く、大きな壁となって接近してきた結界によって、まるでシンバルを叩くがごとくプッシュされてしまう。
「「むぎゅう!?」」
その姿は、なぜか2人が抱き合うような形になってしまったが些細なこと。
「捕まえましたよ! そしてこれをこうして、ああして、ロックします。逃がしません!」
なんとカタリナは挟み込んだ2人を逃がさないために結界を変形。
まるで鉄格子や投網のような網目の形に変えた結界を編みこんで、身動きすら出来ないよう囲い込んでしまった。
「ふう、いい仕事をしましたわ!」
「うわぁ」
対面で抱き合ったまま固定されてしまった男子たちを見て、ロゼッタが「うわぁ」していたがカタリナはおでこを拭う仕草をして一仕事終わりましたという風だ。
カタリナのMPが結界の維持でじわじわ削れていくが、カタリナのMPが尽きるまではこのままだろう。
そして、カタリナの手には1本の〈エリクサー〉が。
男子たちの明日はどっちだろうか。
ちなみにサブマスである戦士男子は不利を悟って〈睡眠〉状態のフェンサー男子を担いで撤退している。
そうしてカタリナたちは捕まえた3人を次々敗者のお部屋に送ったのだった。
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