第761話 遭遇、エリアボス。今回はスルーでいきます。




「おそろしいてきだった」


 カルアがやや呆然としながらそう言った。


 うむ。そうだな。頭が飛んでいったしな。正確には頭の形をした幹の一部だが。

 しかし、初の上級モンスターがあれでは勘違いさせてしまうかもしれないので断っておく。


「あれはかなり特殊な部類だ。上級では何かを装着することでパワーアップする者もいれば、何かを切り離したりパージすることで強くなる者もいる、まあ、〈トラキ〉は別段パワーアップしないが」


「じゃあ何で頭吹っ飛んだのよ!?」


 ラナがいいツッコミだー。


「相手の動揺を誘うためだな。それ以外は考えられないし」


 むしろそう考えておかないとマジ謎ギミック一発芸になるからな。そういうことにしておくんだ。


「ま、ここのモンスターは樹木型だからな動物の動きに囚われないよう注意だ。木に擬態しておいて近くを通ったら襲いかかってくるモンスターもいるし」


 一応警戒は促しておく。


「とりあえず行きましょ。あまりジッとしていると襲われるのでしょ?」


「だな。カルア、頼む」


「ん、『ソニャー』! 『エージェント猫召喚』!」


 上級のモンスターは奇襲する。

 普通のゲームならジッと動かなければエンカウントはしないが、〈ダン活〉では一定以上ジッとしているとエンカウントしてしまうのだ。しかも奇襲される形で。


 ゲーム時代、休憩するときはメニュー画面を開いておけば一時停止するので問題は無かったが、リアルではそうはいかないからな、これもリアル上級ダンジョンの難易度を押し上げている原因なのかもしれないな。


 とりあえず俺たちも警戒しながら移動する。

 移動は完全にカルア頼りなので、俺たちもカルアの疲労が溜まらないよう、注意して見ておく。

 片手にスポーツドリンク、片手にタオル、準備は万端だ。


「カルア、スポーツドリンク飲むか? 汗かいてないか? 拭こうか?」


「待ちなさいゼフィルス、汗を拭くのは私がやるわ。貸して頂戴?」


「じゃあスポドリは私ね!」


「あれぇ?」


 そしたらシエラにはタオルを、ラナにスポドリを取られた。

 シエラがカルアの汗を拭い、ラナがストローの付いたスポドリをカルアに向けて、カルアがストローから喉を潤している。それ俺の……。


「ゼフィルス殿、こういうのは同性の方が良いかと」


「タオルは分かるが、スポドリもか?」


「はい。あーんと変わりませんから」


 マジか~。

 エステルに断言された。おかしいな。俺の認識が甘い? 女の子にスポドリってあげちゃダメ?


「んふふ。極楽」


「頑張ってねカルア! カルアが頼りよ!」


「むふ、頑張るよ。ね?」


「「「にゃー!」」」


 カルアがやる気だ。そして足元にいる黒猫もいい返事である。

 なら、まあ良いか。ラナたちに任せよう。


「ん~、ん? 前方、1時の方角、何かでっかいの、いる。1体。強い? うん強大な気配、要注意!」


「お、アレがいるのか。今日は戦う予定はなかったがどうするか」


「ねえゼフィルス、アレってなんなの? 教えて頂戴よ」


 俺が勝手に納得して悩んでいると口を尖らせたラナが抗議してきた。

 おっといけない、では説明しよう。


「上級ダンジョンはな、広大なフィールドを自由に探索できる環境がある。そしてそのフィールドをモンスターが自由に跋扈ばっこできるんだが、その中には必ず1層に1体か2体、強大な力を持った特殊なモンスターがいるんだ。これを〈エリアボス〉という」


 ―――〈エリアボス〉。

 別名、モンスターの亜種と呼ばれているボスだ。

 俺の言葉に全員が耳を傾けるのを感じる。


「今までボスと言えば、ダンジョンの最奥に構える〈最奥ボス〉の、〈通常ボス〉と〈レアボス〉。中級からは〈フィールドボス〉が登場し、フィールド10層ごとに配置されている〈守護型〉と下層を徘徊している〈徘徊型〉の4種類がいたが、上級にはさらに〈エリアボス〉と呼ばれるボスが登場する。今回カルアが捉えたのはその一種、各階層毎に登場する〈階層ボス〉だな」


 初級ダンジョンからは〈通常ボス〉と〈レアボス〉の2種類のボスが現れる。

 中級ダンジョンからは〈守護型〉と〈徘徊型〉の2種類のボスが追加される。

 そして上級ダンジョンでも〈階層ボス〉と〈希少ボス〉追加されるのだ。

 ちなみに最上級ダンジョンでも〈レイドボス〉である〈大型〉と〈連型〉が登場することになる。


「聞いたことがあるわね。そのエリアボスというのはフィールドを跋扈しているとのことだけど、〈徘徊型〉とは違うの?」


「いい質問だなシエラ。〈徘徊型〉の亜種みたいなものだな。エリアボスは〈徘徊型〉とは違い階層を移動しないのが特徴だ。どこにいるか分からないからエンカウントするか分からないし、エンカウントしないということもある。また、モンスターの亜種なんて呼ばれていたりもする」


 ただのモンスターとは違う強大なモンスター、しかしただのモンスターと同じようにエンカウントする、〈徘徊型〉の亜種、それでモンスター亜種と呼ばれるようになったらしい。

 上級最初のボスでもあり、1層に現れるモンスターとしてはかなりの強さのため、ゲーム初期の頃は全滅報告が相次いだ。


 だが倒せばフィールドボスのようにちゃんと宝箱もドロップするので慣れたら狩られる対象に早変わりしてしまったんだがな。


 今回はボスを相手にする予定はなかった不意の発見なので、挑むか否か、悩みどころだ。


「強いの?」


「上級ボスだぜ? そりゃ強いよ。中級上位のレアボス並みだ。たまに近くを通りかかったモンスターが飛び込みでダブルエンカウントすることもあるから、場合によってはレアボス以上の難易度になる」


「何それ、ちょっとずるいわね」


「ゼフィルス、物知り」


「ゼフィルスは、なんでそんな事を知ってるのよ」


「勇者だからな!」


「はぁ」


 シエラの横目のちょっとジト目に俺はいつものように返した。

 おっと、冗談を言っている場合では無かったな。


「ま、対処法はいくらでもあるけどな。何組かのパーティで来て、ボスを相手にしている最中周りのモンスターの掃討を依頼したり、モンスター避けのアイテムをばら撒いてモンスターのエンカウント率を低下させたりとかな」


「ゼフィルス! そのモンスター避けのアイテムは!?」


「あ~今は持って無いな。あれは雑魚戦回避用のアイテムだし、そもそもエリアボスと戦う予定はなかったからな。むしろ発見できる確率は低かったし」


 エリアボスは中級上位チュウジョウのレアボス級。しかもドロップは上級産。

 狙えるなら狙いたい。だが、問題なのはいる場所が分からないってところだな。

 確実に狙うならリーナの『モンスターウォッチング』や、カイリが上級職になった後に覚える『エリアボス探知』などが必要だ。


 レアボスと出会える確率よりかは高いだろうが、エリアボスとの遭遇も、かなりレアなんだぞ? しかも、エンカウントしたいと思ったときほど出会えない。これも妖怪の仕業だ!


「ま、今回はスルーが吉だな。次来るときには用意しておくさ」


「わかったわ。お願いねゼフィルス!」


「おう。でもそういう時に限ってエンカウントしないんだけどな」


「ちょっと! 不吉なこと言わないでよ!」


〈妖怪:物欲センサー〉が怖い怖い。

 俺たちはその足でエリアボスを回避するルートを進み、通常モンスターとは出来るだけエンカウントして素材を集め、採集も少しずつ行ないながら、目的の崖まで進んだのだった。

 慣れない道中に四苦八苦しつつも何とか崖まで到着する。


「さて、この崖を登るぞ」


「え?」




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