第762話 上級〈マイナス環境〉、だが環境対策は万全だ!
〈山岳の狂樹ダンジョン〉の第2層は崖の上にある。
そう、このダンジョン、どんどん上へ上へと登っていくダンジョンなのだ。
崖がまるで階段のようになっていて、崖を登ればそこには広大なフィールドが、さらに崖を登ってもまた広大なフィールドが広がっている不思議ダンジョン。
どんな地形をしているのか、って思う場所だ。
階段みたいな地形をしているおかげでこのダンジョンは別名〈
さて、目下の問題はこの崖だな。見上げるほどに高い。10階建ての建物クラスはあるか?
「え? これ登るの? 無理じゃない?」
ラナが目を丸くして言う。
多分ラナの頭の中ではロッククライミングして登る光景が見えているのかもしれない。
ただ、その想像は半分当たりで、この崖をショートカットするために、ロッククライミングする探索スキルや、壁走りする移動スキルなんかが存在したりする。後はエレベーターだな。誰かが先に登ってロープで引っ張る方法だ。
しかし、そんな事をしなくても普通に登れるルートはある。大丈夫だ。
「こっち方向に崖を登る道があるんだ。一本道だから道中に遭遇する敵とはエンカウントを回避出来ないし、暗くて〈マイナス環境〉になる道だけどな」
俺が指さす方向をみんなが見る。そこには崖にぽっかりと穴が空いていた。洞窟の入口だ。
しかし、そこは十分な広さがあるとは言いがたい。
初級ダンジョンの洞窟のような広大な地形というわけでは無く、エステルが槍を振り回そうとすれば容易に壁に接触するくらいの洞窟だった。
これでは〈馬車〉も通行することはできないだろう。
シエラの目がまたこっちを向いている気がするが、気のせいということにしておく。
「これが、崖の上に繋がっているの?」
「そういうことだな」
「もう、それなら早く言ってよ! ちょっとビックリしちゃったじゃない!」
ラナが良い反応をくれるのでニヤける。その反応が欲しかった!
ラナはいつでも俺が欲しい反応をくれる。だけどそれは黙っておく。良いリアクションに乾杯。
「ゼフィルス、確認するけれど、洞窟の中にはモンスターがいて、回避は不可能なのね?」
「そうなるな。シエラには先頭で洞窟に入ってほしい」
「分かったわ。あとこれも聞いておくけど、
「出ない出ない。出るのは植物系のモンスターだけだ。ちょっと見た目は悪いかもしれないがオバケじゃ無い、枯れ尾花とでも思っておけば大丈夫だ」
「……そう」
シエラの視線は洞窟に向いている。しかし、なんだか不安に揺れているようにも見える。
「やっぱり俺が最初に入ろう」
「ゼフィルス?」
「ま、狭い洞窟のやり方に慣れるまでの話だよ。シエラはサポートよろしく」
「……分かったわ。ありがとう、ゼフィルス」
「おう」
やっぱりシエラは出そうなところも苦手のようだ。洞窟内はかなり暗いからな。道中戦ったモンスターも不気味と言えば不気味。暗闇の中で会えば、うん、ちょっとしたオバケに見えるだろう。
シエラが慣れてこれは幽霊じゃないと思えるようになるまでは俺が前に出ようと思う。
今回は俺が有無を言わせず断言した事でシエラは大人しく俺に任せてくれることになった。
「ね、ゼフィルス、罠は、ある?」
「所々にな。カルアの『直感』が頼りだ、頼むぞ」
「ん、わかった」
洞窟内は危ない、洞窟が狭いというのも上級ということだな。
ロッククライミングのスキルがショートカットと呼ばれる所以だ。
100%エンカウントや罠を回避できるのだから探索系の
それからもしっかり打ち合わせをして出発した。
洞窟の中は、暗い環境。
上級ダンジョンからは洞窟は明るさが少なくなり、真っ暗とまではいかないが暗くてよく見えない環境になる。これは暑さによるスリップダメージなんかと同じ〈マイナス環境〉の一つで、「暗闇による攻撃命中率低下」を及ぼしてくる環境だ。対策が推奨されている。
「んじゃ、明かりを点けるな」
「本当、あなたは準備がいいわね」
対策は簡単で明かり系のアイテムを持参するか、『暗視』スキルが付いた装備を用意すると良い。
俺は今回のために〈ドローンランタン〉という浮遊するランタンを用意していた。
これは俺たちの上で常に飛んで辺りを照らし、俺たちが移動すると勝手に付いてくるという超ハイテクな代物だ。どんな原理かまったく分からない。
俺は〈ドローンランタン〉を人数分の五つ取り出し、各メンバーの上に浮かばせた。
とりあえず、俺たちの周りは明かりを確保できたのでこれで〈マイナス環境〉の影響は受けないな。
「だが、奥は相変わらず暗いんだな」
「見えにくいわね」
当り前だが明かりを照らすのはメンバーの周辺、奥は
パーティの陣営で先頭を歩く俺とシエラが警戒を強めながら言う。
「カルアはどうだ?」
「ん、見えてる。敵来たら教える」
「頼むぜカルア。カルアの目とスキルが頼りだ」
カルアは『環境適応』の付いた〈自然適応ペンダント〉を装備している。
これは〈マイナス環境〉を無効化してくれる凄まじい効果を持っていて、『暗視』と同じ効力を発揮してくれる。こういう環境下では重宝するんだ。
「ちょっと、私は!?」
「もちろんラナも頼りにしているさ。頼むぜ」
「ふふ、まっかせてよね!」
カルアと同じく〈自然適応ペンダント〉を身に着けているラナが胸を張る。
この2人は敵を一早く発見するからな(ラナはなぜ発見出来るのかは知らない)。〈自然適応ペンダント〉は2人が装備することになっている。
やっぱり斥候にこそ必要な効果だよな。
「ん! 前から――」
「前から敵よ! 数は4体!」
あ、カルアが張り切って言おうとしたところでラナに取られた。
こういうこともある。
「2人ともさんきゅ! 前に出るぜ」
「ここは通さないわ。『
俺が前に出ると、その左右に二つずつシエラの小盾が展開する。
まるでスクラムのような壁だな。後ろには通さないという気概をヒシヒシ感じるぜ。
そう思っていると、近づいてきたためにそのモンスターが俺でも目視で見えるようになった。
「シャァァァ!」
「グオオオ!」
「〈ヘビキ〉と〈オニキ〉の構成か! 『アピール』!」
現れたのはヘビのような樹木の〈ヘビキ〉2体と、鬼のような姿をした〈オニキ〉2体だった。
開発陣のネーミングセンスよ。
俺はすぐにヘイトを取って指示を出す。
「フレンドリーファイアには十分気をつけてくれよ! エステルは突き系で攻め、ラナはエリア攻撃限定で頼む!」
「はい、了解しました」
「分かってるわ! まずはバフよね、『守護の大加護』! 『迅速の大加護』!」
「『ロングスラスト』!」
「『ライトニングスラッシュ』! 『ガードラッシュ』!」
「シャァァァ!?」
「グオオオ!?」
洞窟に入る前にしっかり打ち合わせは完了していたため、全員が役割通りに動く。
先頭は俺だ。
絶対にしてはいけないのが乱戦で、俺とシエラの小盾で後衛に行かないよう足止めする。
そうして俺たちが止めている間にエステル、カルアがヒットアンドアウェイでダメージを与えていき、1体ずつ確実に倒していった。
「楽勝ね!」
「みんなお疲れ様」
すぐに戦闘も終了。
元々プレイヤースキルの高いメンバーたちだ。
少し前までならこの狭い環境にあわあわしたかもしれないが、すでに十分な対応力を身につけていて、つっかえずに倒すことができた。
みんなの成長を感じるなぁ。
「シエラは、どうだった?」
「そうね……あの〈ヘビキ〉だったかしら、切ったら分裂していたし。〈オニキ〉は腕があらぬ方向に曲がっていたし……」
「大丈夫そうか?」
「所詮は木、と思えばなんとか。でもここに登場するモンスターはアレで全部では無いのよね?」
「ああ。後二種類いるな」
「そう……、それが見られるまで頼らせてもらってもいいかしら?」
「!! おう! 任せとけ、むしろどんどん頼ってくれ」
シエラから頼るなんて言葉をもらったぞ!
なんだかテンションが上がるな!
「むう、ゼフィルスはシエラに甘いと思うわ」
「よっしゃ! このまま行くぞ! みんな付いて来ーい!」
「あ、ちょっとゼフィルス、待ちなさいよね!」
ラナが口を尖らせていたがテンションが高くなった俺はそれに気がつかず、そのまま洞窟をどんどん登っていったのだった。
途中カルアからの罠の発見報告があっても足が止まらなかった時は危なかったぜ。浮かれるの危険。
まあ『地雷罠耐性LV6』のおかげで踏み抜いても微々たるダメージで問題無かったが、今度からは気をつけよう。
洞窟も途中からはシエラが前に出る形となり、その陣形でモンスターを軽く捻りながら進んでいき、俺たちはようやく崖の上に到着したのだった。
そこはだだっ広い荒野と深い霧、そして〈階層門〉のみある空間だ。
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