第743話 〈金箱回〉! まさか、勇者と竜が揃った!?




「「「〈金箱〉!!」」」


「ゼフィルスたちは、最後の攻略者の証を手に入れたときでも変わらないのね……まずは目的だった上級ダンジョン入ダンの条件を満たしたことを喜びましょうよ」


「んなもん、ここの〈金箱〉も目的の一つだ!」


「目的は二つあっても良いのよシエラ! 攻略者の証の方はまた後で喜びましょ! 今は〈金箱〉のドロップを喜ぶのよ!」


「さすがはラナ様です。深い考えです」


「そうね。ラナ殿下の言うことも一理あるわね」


「ボス後のカレーも合わされば、三度美味しい」


「さすがはカルア、良いこと言うな!」


 シエラも納得したところで順番に喜びを分かち合い三つの喜びを手に入れるのだと決まる。


「中級最難関のダンジョンの〈金箱〉。当然開けるのは私よね?」


 ラナがいつも通り、妙な自信と当たり前よねという雰囲気を持って俺の方に振り返る。

 いつもならここから俺が待ったを掛けて少し話し合う場面ではあるが、俺は答えをもう決めていた。


「いいぞ」


「ダメだって言うなら――え? いいの?」


 俺が素直に頷くと意外だったのかぽけっとするラナ。

 見ればシエラやエステル、そしてカルアまでもが俺を意外そうに見つめていた。

 そしてだんだん何か理解しがたいことを言ったかのような不審な表情に変わる。

 なぜ?


「何か悪いものでも食べたのかしら?」


「そんなもの食べてねぇよ!?」


「いえ、その、ごめんなさい」


「なんか謝られるのもそれはそれで違う気がする!?」


 あまりに意外すぎる故かシエラが妙なことを口走った。

 さすがにバツが悪かったのかすぐにごめんなさいしたが、謝られるほうが心にくるのはなんでだろうか?


「シエラは間違ったことを言っていないわ! まったくゼフィルスが〈金箱〉を素直に譲るなんて、いったいどういうことよ? 白状しなさい!」


「ラナたちが俺をどんな目で見ているかよく分かった!」


 まあ、俺だってラナが「〈金箱〉を開ける権利? 良いわよ、あげるわ」なんて言った日にはおでこをくっつけて熱を測るかもしれないしな。シエラとラナの心境もなんとなく分かる気がしないでもない。

 しかし、ちゃんと理由がある。


「その代わり上級ダンジョン初の〈金箱〉は俺が開ける。これは絶対に譲らない」


 そう、これが理由だ。

 俺は今までも中級下位チュカ中級中位チュウチュウ中級上位チュウジョウと、ダンジョンの位階が上がるたびに初の〈金箱〉は常に最初に開けてきた。


 これは〈エデン〉のギルドマスターとして、そしてリアル〈ダン活〉を歩む者として絶対に譲れない一歩。

 踏み込まれたことの無い雪原に最初の一歩を踏み出すのと同じく、リアルの新しいステージへ登るたびにその一歩目は常にギルドマスターである俺が先を歩むのだ。これだけは譲れない。


 俺の確固たる意思を聞いてみんなの反応は。


「それならいいわ! 今回は私が開けるわね!」


「いつものゼフィルスで安心したわ。そうね、なら今回はエステル、開けてみるかしら?」


「私ですか? ラナ様と共に開ける幸運をいただき、ありがとうございます。是非お受けします」


「ん、私も後でカレーあるから、今回は譲る」


「みんな反応が軽くね? もうちょっと反応してくれてもいいんだよ?」


 まるでそうなんだみたいな扱いで俺は少し悲しいです。

 これは結構重要なことなんだぞ?

 まあ、最初の一歩は譲ってくれるとのことなのでそれはまあいいのだが。


 そんな心の葛藤をしている間に宝箱の前に座ったラナが祈る。


「〈幸猫様〉今日も良い物ください。お願いします!」


 良い祈りだ。

 きっと〈幸猫様〉は良い物を授けてくれるだろう。

 切り替えて行こう、俺からも祈る。お願いします!

 祈り終わるとラナがパカリと〈金箱〉を開ける。


「これは、またレシピ!?」


「レシピのツモ率が高い! 素晴らしい!」


 レアボス〈金箱〉産のレシピ――――キタッ!!

 すげぇよ、マジスゲェよ! これだからレアボスはやめられないんだよ!


「これは後で解読だ!」


「良い物来ると良いわね。楽しみだわ!」


 装備に難が出始めていたときにこのレシピ。

 しかも開けたのはラナだ。これは期待が高まる!

 今、風は俺に向いている! 乗るしかない、このビッグウェーブに!

 帰ったら早速解読しないとな!!


「私も続きましょう。お願いいたします〈幸猫様〉。ギルド全体がパワーアップするようなものをいただけると嬉しいです」


 む? エステルは抽象的お願い事作戦か。

 方向性を定めつつも曖昧にすることで〈妖怪:物欲センサー〉を避けつつ良いのが当たることを祈る高度な作戦だ。下手をすればセンサーに引っかかるのでやや危険度が高い。

 しかし、上手く避ければ聞き届けてくれた〈幸猫様〉がギルドをパワーアップさせてくれる素敵アイテムを下さるはずだ。


 俺も〈幸猫様〉に願いが届くよう祈る。


「行きます――」


 エステルがパカリと〈金箱〉を開ける。

 さて、中身はなんだ? エステルの願いは届いたのか?

 そしてそれが取り出されたところで俺は驚愕に固まった。


「これ、どっかで見たこと、ある?」


 最初にそんなことを言ったのはカルアだった。エステルが取り出すそれは、当然見た事があるだろう。マリー先輩の店が至宝としている一品、「竜」の名を持つ超鑑定アイテム、その名も――。


「〈幼若竜〉来ちゃったーー!?!?」


 そこにあったのはまごうことなき〈幼若竜〉だった。『解析』『解読』『看破』『絵解き』という四つのスキルを持つ上級の超鑑定アイテムだ。

 ちょ、マジかよ!?

 マリー先輩の店で幾度も使わせてもらった〈幼若竜〉が来ちゃったの!?


「あ、思い出したわ! これマリー先輩が使っていたやつね!」


「はい。これはまた、凄まじい物をドロップしましたね」


「本当、なんでこんなものばかり当たるのかしら? やっぱり〈幸猫様〉の力なの?」


「エステルよくやった! 素晴らしいぞよくやったな!」


 俺はエステルをとても労って褒めちぎる。

 どうやらラナたちもこれの正体に気が付いたようだ。

 シエラだけ悩ましそうだが、〈幸猫様〉に掛かればこの程度は造作もないことよ。

 あれだけのお供え物をしたからか〈幸猫様〉が答えてくれたのだ。間違いない!


「ねぇねぇ、早速使ってみない?」


「ではラナ様が当てられたこのレシピを試してみましょう。良いですか?」


「ん、使うとこ、見たい」


「もちろん許可するぜ、俺にも見せてくれよ?」


 もちろん許可を出し、慌ててシエラも引っ張ってラナが掲げるレシピがよく見える位置まで移動する。


「みんな、準備は良いわね? エステル、やってみて」


「はい! ……えっと、これ、どうやって使えばよろしいのですか?」


「知らなかったんかい! 『解読』だ『解読』。『解読』のスキルを使えばレシピが解読できるから」


「わかりました! 『解読』!」


 気がはやるのを押さえながら待っていると、すぐにレシピが光りだし、ミミズがのたくったような読めなかった文字が読める日本語に変化した。


「〈幸猫様〉〈仔猫様〉、どうかラナ、エステル、シエラの防具に使えるシリーズ全集でお願いします! 後で最高カレーをお供えさせていただきますのでどうかシリーズ全集をお願いします!」


「ちょっとゼフィルス、私の装備をそんな熱心に願うなんてやめてよ、ちょっと恥ずかしいじゃない!」


「ちょっと恥ずかしがるラナ様、可愛らしいです」


「でも確かにちょっと、ね。そういうのは心の中で言っててほしいわ」


 3人が何か言っているが俺の耳には入らず。

 俺の熱心なお願いをどうか聞き届けてくださいと祈りつつ、解読が済んだレシピを読む。

 そこにはこう書かれていた。


 ――――〈勇銀装備ブレイブミスリルシリーズ全集(男子版)〉。


「ってまさかの俺か!?」


 ちょ! ちょちょちょ!?


 確かにレアボス〈金箱〉産の装備シリーズ全集ではある!

 でも俺が思っていたのとちょっと違う!?

 いやでもそれでもいい!

 この〈勇銀装備シリーズ全集〉は見た目勇者っぽいかっこいい鎧系装備シリーズなのだ!  別に【勇者】専用装備というわけでは無いが、見た目がすごく勇者っぽい。スキルも能力値も超優秀な上級装備シリーズである! ここでドロップするシリーズ装備の中でも上位、というかほぼトップクラスの防具だ。え、マジで来ちゃったの!?


 つまり〈幸猫様〉と〈仔猫様〉はまず俺に装備を整えろとプレゼントしてくれたわけだ。


「〈幸猫様〉! 〈仔猫様〉! ありがとうございます! 仰せのとおり、まずは俺の装備を整えさせていただきます!」


 そう言って両手を合わせると〈幸猫様〉と〈仔猫様〉がニコリと笑った気がした。


 その後、あまりのテンションにクルクルダンスを踊りたくなった俺はエステルとダンスしようとしてラナとシエラに止められてしまったものの、そのままのハイテンションのままでボス周回に突入したのだった。




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