第742話 『轟波二剣斬』!そんなものシエラには効かん!
「ぐっ!」
「くにゃ!?」
「エステル、カルア、下がって回復しろ! 『ライトニングバースト』!」
「ブオオオオ!!」
さすがは中級最強のボス〈ブモル〉は強く、大剣を振るう範囲攻撃から逃れられなかったエステルとカルアが薙ぎ払われて吹っ飛ばされた。
エステルは4割弱のダメージだが、カルアはたった1撃で6割強もHPが減っている。
追撃されないよう一旦下がれと指示を出す。
「『大回復の祝福』! 『回復の願い』!」
すぐにラナが回復魔法でエステルとカルアを回復して戦線に復帰。
シエラは相変わらずタゲを誰にも取られず、ずっと攻撃を受け続けている。
タンクとヒーラーが安定していればパーティは崩れない。
アタッカーが多少無理してもすぐにリカバリー出来るからだ。
「む、強い」
「少し距離を取りヒットアンドアウェイで攻めますか? ――『トリプルシュート』!」
「カルア、エステル! 攻撃に当たらないのは最善だが難しければ多少の被弾は許容しても構わない! 俺たちには優秀なタンクとヒーラー、シエラとラナがいる! クリティカルさえ取られなければ問題無い!」
「……ん、分かった!」
「! そうですね。あまり時間を掛けすぎてはいけません。行きます。『騎槍突撃』!」
俺の言葉に2人が奮い立つ。
あまり時間を掛けてはいられない。
距離を取ってチャンスを窺うのは悪い事ではないが、時間が掛かる。
ボス戦の時間が掛かるということは消費するMPもそれだけ上がるし周回の時間も減ってしまうということだ。
特にMPが切れれば防御スキルも回復魔法も使えなくなり、ボス戦では致命的となってしまう。
故に、ボス戦のMP切れは何よりも回避しなくてはならない。特にタンク。
本来、MPはポーションで回復するもの。
MPが切れたらポーションを飲めば良いじゃないかと思うかもしれないが、1人、それだと回復できない者がいる。そう、タンクだ。
タンクは常にボスを引きつけているためポーションを飲む隙が無い。
タンクのMPが切れたらパーティが瓦解するのも時間の問題なわけだ。
だからアタッカーはなるべく早めにボスを撃破することが求められる。
たとえ多少の被弾を負おうともだ。とはいえ無理は禁物だけどな。
「ぐっ! 『閃光一閃突き』!」
「『スルースラッシュ』! からの『スターブーストトルネード』!」
エステルが被弾しながらも果敢に良い一撃を入れる。中々のダメージが出た。
やっぱり悪魔に〈光属性〉は効くなぁ。
カルアはヒットアンドアウェイの間隔を狭め、攻撃の回数を上げているようだ。
「いいぞエステル、カルア! 『聖剣』! ラナ、回復を!」
「もう、忙しいわね!? 『回復の願い』! そろそろバフが切れるわ、かけ直すわね!」
「頼む! シエラ!」
「分かってるわ、やって」
「『魂の誓い』! 『病魔払いの大加護』! 『守護の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『迅速の大加護』!」
シエラの言葉にラナの『魂の誓い』が飛ぶ。
これはバフを全て打ち消す代わりに打ち消した分だけMPを回復させる魔法。
タンクのMPを外から回復させる数少ない貴重な魔法だ。バフを六つ解除した事で60ポイントのMPを回復させる事に成功する。
一瞬だけバフが切れるがすぐにラナがバフをかけ直し、元に戻した。
シエラもバフが切れることを承知していたので不備は無い。
ちゃんとボスを抑えられている。
アタッカーもバフが掛かった事で安心して攻撃できる。
ラナの継続回復のおかげですでにアタッカーのHPも全快だ。
多少のダメージは許容範囲。ガンガン攻める。
とその時〈ブモル〉の2本の大剣が特徴的なエフェクトを放った。
「! ユニーク来るぞ! シエラ!」
「! 了解!」
ボスの残りHPが3割を切ったところでユニークスキルが来た。
――『ブレンモール流・
〈ブモル〉が両手の杖を捨て、大剣を二つの手で掴む。
筋肉が盛り上がり、血管が浮き出て力強さが伝わってくるようだ。
「ブモオオオオオオオ!!!!」
〈ブモル〉が大剣をそれぞれ左と右に振りかぶると大声が轟いた。
やっべえ声だ。これだけで気が弱い者なら足が竦んで動けなくなるんじゃないか?
ラクリッテとか大丈夫かな?
そんな心配も一瞬、まず俺たちから見て左の大剣が、空気を切り裂く音と共に襲撃する。
この一撃目は防御破壊。
一撃目の攻撃で防御スキルを粉砕すると、続く二撃目が本命。タンクすら戦闘不能に追い込む強力なユニークスキルだ。
たとえ距離を取ったとしても、凄まじい速度の突進で距離を詰められる凶悪仕様な上に、剣の間合いに入らないとユニークスキルが解除されない、ずっと追いかけられるという難物。つまり回避が難しい。
しかし、これには当然対策がある。
「――『鉄壁』!」
シエラが選択したのは自身がその場から動けない代わりに一定時間大幅にダメージを減少させる防御スキル。
「ブモオオオオオオ!!」
ズガシャンッ! という衝撃音と共にシエラの
そう、シエラは『鉄壁』スキルを発動し、一撃目との間に四つの小盾を差し込んでいた。
まさかあの自在盾が四つ全て吹き飛ぶとは、これが防御破壊。
しかし小盾で受けたことによってシエラ自身は多少のフィードバックを受けただけだった。防御破壊によるノックバックもない。
そして続く強力な二撃目も『鉄壁』中の
先ほど防御破壊されたのは小盾。これによって防御破壊されていない防御スキル中の大盾で受けることに成功し、『衝撃吸収』も手伝ってダメージは2割ほどしか受けなかった。
「ブモオオオオオ……オオ?」
必殺の攻撃に自信があったのか、完全に防がれて〈ブモル〉が困惑の表情を浮かべた気がした。
今のは【
シエラは自在盾と大盾の二つを操る事が出来る。一撃目を小盾で、二撃目を大盾で防御出来るのでそもそも対策する必要すら無かったりする。なんとも『ブレンモール流・
そう、シエラの
二撃目本命とか、シエラには効かない。
「今だあああああ!! 『
「ブモオオオオ!!」
ユニークスキルの硬直状態中に大きなダメージを受けるとダウンする。
俺のユニークスキルを受けて、〈ブモル〉はなすすべ無くダウンしてしまうのだった。
ダウンゲットだーー!
ダウンを決めたらやる事は一つ。
「総攻撃だーー!! 『
「「おおー!!」」
「『姫騎士覚醒』!」
俺のセリフにカルアとラナの元気の良い返事が聞こえてきた。ついでにエステルの気合いのユニークスキルも聞こえた。
そこからはガンガン削りに削り、ダウンから復活しても削り続けてとうとうHPがレッドゾーンに突入し怒りモードが発動する。
この怒りモード時が厄介で、落ちていた二つの杖を握ると所構わず魔法を撃ちまくり、大剣を乱舞する危ないモンスターとなった。この時ばかりは怒りモードが収まるまでアタッカーは距離を取り、ランダム回避運動で回避に専念。遠距離攻撃のできる俺が攻撃して削り、時間経過で怒りモードが収まってからは、再びアタッカーが攻撃を再開する。
「これで、とどめ! ――『聖剣』!」
「ブモオオ……オオ……」
最後に俺の『聖剣』が〈ブモル〉を斜めに斬り、HPがとうとうゼロになる。
力が抜けるようにしてゆっくり後ろに倒れる〈ブモル〉が膨大なエフェクトの海に沈んで消えていく。
そうして残ったのは二つの〈金箱〉だった。
そして、俺たちの手には五つ目となる中級上位ダンジョンの攻略者の証が握られていた。
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