第744話 周回終了で夕食の時間。最高カレーいただきます




「周回だ! 上級ダンジョンに行くにはまず装備を調える事が先決! 故に周回だ!」


「わかった、わかったから落ち着き、落ち着いてゼフィルス、きゃ!」


 ハイテンション止まらず。

 周回して数十回目、今度の〈金箱〉では〈レアモンの笛(ボス用)〉とカルアの装備となった上級武器〈結氷短剣・ヒウレェラ〉がドロップしてしまい、テンションが抑えきれず宝箱を開けたシエラにクルクルダンスを申し込んだのだが、盾で防がれてしまう。


 腰と肩に腕を回そうとするとカイトシールドを前に出して必死に防御するシエラ、顔はやや赤く染まっている。

 どうやらクルクルダンスするのが恥ずかしいようだ。恥ずかしがっていてはゲームは楽しめないんだぜ! さあ、テンションに身を任せるんだ!


「さあ! シエラも一緒に踊ろう! こっちの道に足を踏み入れるんだ、新しい世界が開けるぜ!」


「落ち着きなさいゼフィルス!」


「おおふ?」


 なぜか盾を挟んで押し合いみたいな構図になりつつあった俺とシエラだったが、そこに目をつり上げたラナが割り込んで俺の肩にチョップをかましてきたのだ。

 全然痛くない。むしろ手の感触が気持ちよかったのは内緒。肩叩きにも似た絶妙な気持ちよさだった。おかげで俺の衝動が少し収まる。


「はぁはぁ。やっと止まったわね。もう……」


 シエラが少し息を乱して右手で胸を押さえていた。

 顔が赤い。しかし、俺の眼には嫌そうにしているわけじゃないように見えるんだよ。

 このまま押せばいつか一緒にクルクルしてくれるだろうと思っている。


「もう、ゼフィルスは。時間も時間だし、そろそろ帰るわよ」


「え? もうそんな時間? せっかく〈笛〉をドロップしたのに?」


「もうすぐ19時ですね。ここのダンジョンは光度が一定で日がありませんから、時間の感覚が狂ってしまうのでしょう」


「ん。薄暗いから。でも私のお腹時計は正確」


 エステルが時計を見せてくれ、カルアがそんな言葉を言いながら腹を鳴らす。

 楽しい時間というものは瞬く間に過ぎていくものだ。

 特にテンションがハイになっていると本当に時間の感覚が無くなるので要注意だ。まあ、ハイテンション中に注意なんてできないのだけどな。

 テンション上がってゲームをやり続けた結果、気づいたら夜が明けていたなんてことは普通に起こりえる。恐ろしい事だ。


 危ない危ない。

 俺は夜には彼女たちを無事に寮へ送り届けるという義務がある。カルアとの約束もある。


 まだまだ周回したくてたまらない気持ちはあるものの、今日はここで終わるとしよう。


「ふう……。そうだな。帰ってカレー食べるか」


「賛成!」


 元気の良いカルアのセリフで今日はお開きになった。

 カルアの瞳が輝きっぱなしだ。よほどカレーを心待ちにしていたのか。


「よし! 今日はここまでだ! みんなお疲れ様!」


「乙カレー様!」


 おい、今カルアのお疲れ様が違う言葉に聞こえた気がしたぞ? 気のせいか?




 帰還後はギルドハウスで食事を取る事になった。

 ここはシャワーもあるので女性陣も安心だ。


「ふう、上がったわよ」


「気持ちよかったです」


「ギルドハウスにシャワーがあるって便利よね。こうして解散の時間が過ぎて話し合うときなんかに重宝するわ。問題は、少し男子の目がある事ね」


「カレーの準備整ってるぜ~」


「幸い、このギルドにはそんな視線を送る男子はいないけれど、ゼフィルスはもう少しくらい気にしても良いと思うのよ」


「分かるわ」


 シエラとラナが俺をジトッとした目で見つめてくる。なぜだ? 鋼の精神力で目が行きそうなのを耐えているのに!

 風呂上がりの女子ってなんでこう魅力が上がるんだろうね? 素で魅了のスキルでも発動しているんじゃないかと思ってしまう。

 今の女子たちの姿は制服だ。装備は浄化中。いつも学園で見慣れているはずなのに色っぽい不思議。いけない、平常心だ。


 ちなみに俺はギルドハウスに入ってすぐ〈スッキリン〉で浄化しているのでシャワーは後回し。先に夕食の準備をしている。

 ミリアス先輩に作って貰った本職の最高カレー料理アイテム〈レッツカレーライス〉を準備することに集中し、邪念を取っ払う。


「これが! 最高カレー!」


「〈カレーレシピ全集〉の中でも最高カレーに分類される上位のカレーだ。これは〈カレーのテツジン〉で生産できない難易度だからな。俺もずっと食べたかったんだ。味も最高に美味いらしいぞ。バフの効果時間は1日ではなく24時間だから今から食べても明日まで持つ。そして効果が強力になればなるほど味も美味となると言われているからな」


 俺は料理をカルアの前に出しながら説明する。

 ちなみに料理効果の1日とは今日1日という意味だ。日付が変われば効果が無くなってしまう。しかし24時間なら文字通り明日のこの時間まで持つので夜に食べても安心。

 最高だな! ちなみにバフは「攻撃力12%増」だ。中々の良スキルである。


 当然〈幸猫様〉と〈仔猫様〉にもお供えする。……そういえば〈幸猫様〉がパワーアップしたらどうなってしまうのだろう?


「みんな座って。いただきます、する」


「今日のカルアは迫力がありますね」


 真っ先に席に着いたカルアの表情は真剣だ。

 本当は今すぐにでも食べたいのをみんなが席に着くまで待っている。

 その揺れ動く尻尾が高速で揺れているのが微笑ましい。


 3人もクスリと笑って席に着き、俺も席に着くと両手を合わせていただきます。


「――おかわり!」


「早すぎじゃね!?」


「大変美味」


 俺が二口目を食べようとしたところでカルアの皿がいつの間にか空だった。

 ほっぺにおべんとうをくっつけていることから食べたのは分かるが、分からない不思議。


「んじゃ、はい、おかわりな」


「ん!! ありがとうゼフィルス!」


「次はゆっくり、味わって食べるんだぞ」


 おかわりしたところでバフ効果の内容は変わらないのだが、まあ、今日くらいはいいだろう。

 大変大当たりしたからな!


「これ、本当に美味しいわね! シェフを呼んで頂戴!」


「そういうサービスは無いから」


「しかし、これは辛さと甘さが絶妙です。コクが深く、味わい深いです」


「いくつスパイスを使っているのかしら? カレーは食べ慣れているけれど、この味は初めて食べるわね。とても美味しいわ」


 全員大絶賛だった。


 かく言う俺も内心驚愕。

〈エデン〉には〈カレーのテツジン〉という強力な〈金箱〉産アイテムが存在する。

 これで作れば、そこいらの料理人では太刀打ち出来ないレベルのカレーを作ってしまうのだ。


 しかし、さすがは本職。食べた瞬間思わず「なん、だと!?」と愕然とするほどの美味。

 なるほど。ゲームで何度も食テロを受けたあの最高カレー、予想を上回って想像を超える美味さだった。これ、毎日でも食える。とにかくコクがすごいんだ! これマジで何が入ってるの?

 確か食材の中に〈芳醇な100%リンゴジュース〉が少量使われていたはずだが、それが原因か? それともスパイスが違うのか、それともスキルの影響か。


 今後ミリアス先輩は、もっと多忙になるかもしれないな。


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」


 そんな最高カレーの夕食を終えると解散の時間だ。

 カルアはあの後、このままでは最高カレーを食べ尽くされてしまうと危惧した俺によりおかわりは2回までとされ、残りはアイテムでは無い普通のカレーを出して結局10杯食べていた。


 相変わらずぽっこりと膨らんだ腹がすごい。どうなっているのだろうか気になるところだ。制服が弾けないか心配なところ。


 その後カルアを寮へと送り届け、シエラ、ラナ、エステルも貴族舎に送り、俺は1人とあるギルドの元へと向かう。


「マリー先輩、こんな時間に悪いな」


「何言うてんねん、こんな装備レシピと素材、いつでもたずねて来てええんやで!」


「マリー先輩もテンション高いな!」


 気持ちは俺もよく分かる。何しろ中級ダンジョン最強ボスのドロップレシピだ。

 マリー先輩の【服飾師】系のレシピは〈銀箱〉産で一つしか当たらなかったものの、それでもマリー先輩的には未所持のレシピが手に入るというだけでテンションが溢れている。


 しかし、実は当たったレシピはそれだけでは無いのだ。


「実はマリー先輩、これを見て欲しい」


「ん? んお!? これは、これは、〈勇銀装備シリーズ〉しかも全集やって!?」


 そう、俺が見せたのは例の〈勇銀装備シリーズ全集〉、上級装備にして是非俺が装備したいシリーズ装備の一角だ。

 だがこれはジャンル的には鎧に分類される。鎧は金属やモンスターの甲殻などがあるが、【服飾師】系の担当外になる。つまりはアルルの領分りょうぶんだ。しかし、全てが担当外というわけでは無く、今着ている〈天空の鎧〉のように服という機能も持つ、この部分は【鍛治師】には難しいので【服飾師】に作製してもらうと良いのだ。つまり、


「マリー先輩さえよければ、これをハンナ、アルルと合作で作って貰えないか?」


 上級ダンジョンの準備はちゃくちゃくと進む。




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