第724話 危険な乱入。〈徘徊型ボス参戦現象〉の脅威!




「40層のボスは、〈光の中精霊〉だな」


「精霊? 妖精じゃないの?」


 俺の言葉に首を傾げながらラナが聞いてくる。

 そうなんだ、ラナの言うとおり40層のボスは妖精じゃなくて精霊だ。


 ここ〈四季の妖精ダンジョン〉なのに? と思うかもしれないが精霊が出る。

〈ダン活〉では基本的に妖精と精霊は見た目は近いけど別のもので、妖精が生き物だとすれば精霊は自然の一部、自然が実体化したのが精霊だ。故に自然を相手にするということと同じなため精霊の方が強い。


 ここは〈妖精ダン〉ではあるのだが、後半40層からは精霊も登場するようになる。

 だってここは〈四季ダン〉でもあるからだ。自然の力が強いダンジョンでもあるわけだ。


 そんな理由をメンバーに掻い摘まんで説明する。


「妖精と精霊って違うのね。初めて知ったわ」


「具体的にはまだ理解しきれていない部分もありますが、精霊の方が強いというのは理解しました」


 ラナとエステルが感心した様に頷く。


「じゃあ、少し脱線したがボスの説明だ」


「中精霊って言っていたわね」


「シェリアの大精霊のちっちゃい版?」


「意外にもカルアのそれが的を射ているな」


 身内に精霊を使う人物がいるからな。やっぱり想像しちゃうよな。

 俺もシェリアを引き合いに出して貰った方が説明しやすい。


「シェリアが使う光の大精霊『ルクス』のちっちゃい版で間違ってないな。ただシェリアが使う大精霊は本来の力が制限されているんだ。そして次に戦うボスの中精霊には制限が掛かってない。それじゃどっちが強いのかというと、中精霊の方に軍配が上がる」


「そうなの?」


 まあ、ボスより大精霊の方が強いってなったら【精霊術師】はボスを召喚しているのと同じになってしまうからな。召喚盤でボスを呼び出す時に弱体化するのと同じ現象だ。いや、アイテムを使っていない召喚なので弱体化のレベルは大精霊の方が上だな。

 1対1で戦わせたら普通にボスが勝つ。

 そういうことだ。


「というわけで〈光の中精霊〉の行動パターンだが、『ルクス』と大きくは変わらないと思ってくれていい。魔法攻撃、自己バフ、そして自己回復もする」


「なるほどね。イメージ出来たわ」


「じゃあ、作戦を発表するな」


 こうして作戦を共有してから俺たちは40層ボスへと挑む。

 しかし、そこに予想外の展開が転がり込んでくることになる。


 最初は順調だった。

 シエラのヘイト稼ぎから始まるいつものスタイルだ。


「『シールドフォース』! 『オーラポイント』!」


「――――!」


「シエラ防御、上だ!」


「『マテリアルシールド』!」


 天使の輪のような光を頭上に光らせる〈光の中精霊〉、光るローブを羽織った2メートルほどの女性が片手を振り上げて降ろすと、天から光の柱が降ってきてシエラを中心に周辺が光りに溢れた。ラナの『光の柱』に似ている。範囲攻撃だ。

 シエラはこれに対魔法防御スキルを発動しながら盾を上に掲げて防いだ。


 シエラの今の位置は〈光の中精霊〉からやや離れた地点。

 シエラを中心とした範囲攻撃を放ったとき、他の前衛アタッカーが巻き込まれない距離を保つ。


 そしていつも通り俺たちの攻撃が始まる。


「おっし攻撃開始だ! 大技用意! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「バフを掛けるわね! 『獅子の大加護』! 『耐魔の大加護』! 『迅速の大加護』!」


「行きます――『戦槍せんそう乱舞』!」


「攻撃、『64ろくじゅうよんフォース』!」



 まずは大技。

 デカい攻撃で一気にダメージを稼ぐ。

 いきなり大技を使ったのには訳が有り、先ほども言ったように〈光の中精霊〉はバフを使ってくる。まだバフで強化していない今のうちがダメージを稼ぐチャンスなんだ。


「――――!」


「バフをしてきたな。ついでにクリアされたか」


 俺が『勇者の剣ブレイブスラッシュ』でダメージを与えた時に付いた防御力デバフアイコンが消える。〈光の中精霊〉が自身に『クリア』系をかけてデバフを解除したのだ。


 デバフを解除できるということは、デバフが効かないと思うかもしれないが、そんなことはない。


「カルア頼む!」


「ヤー! 『鱗剝ぎ』!」


 カルアの『鱗剝ぎ』も防御力デバフを与えるスキルだ。

 再び防御力デバフのアイコンが〈光の中精霊〉に付く。


 相手のバフがそのままという方がよっぽどまずい。

 たとえ解除されると分かっていてもデバフで相手を弱体化し続けるのが正解だ。

 それに相手はデバフ解除で一手間掛かるため、その間は明確な隙だ。その隙にもダメージを稼げるためデバフは掛けた方が得なんだ。


「――――!」


「シエラの方には寄るなよ! 範囲攻撃に巻き込まれるぞ! カルアはもうちょっとこっち来い!」


 順調にシエラがヘイトを稼ぎ、タゲを取って狙われるが、〈光の中精霊〉の攻撃は範囲がとても広く、シエラが離れていていなければ前衛が巻き込まれかねない規模だ。

 俺もしっかり指示を出し、〈光の中精霊〉とシエラの距離を一定に保ちつつ、俺たちアタッカー陣も位置に気を使う。


〈光の中精霊〉が前進したとして、シエラが動かなかったら範囲攻撃の範囲内に〈光の中精霊〉が入る事になる。つまりは〈光の中精霊〉にアタックしている前衛陣を巻き込むことにも繋がる。

 しかし、ならば距離が離れれば離れるほど良いじゃないかと考えるかもしれないがそれは悪手だ。なぜならば〈光の中精霊〉は一定の距離以内にターゲットがいなければタゲを近いものに移してしまう特性があるからだ。


 これは他のボスも同じで、あんまり離れすぎるタンクはボスからタゲを取れなくなってしまう。これ要注意な。避けタンクはOKでも逃げタンクはNG、ということだな。

 まあ追いかける系ボスもいるのでそういう相手には有効だが、少なくとも〈光の中精霊〉はそんなに動かないので離れすぎるのはよくない。近すぎるのもダメだ。


 だからこそシエラには〈光の中精霊〉の動きに合わせて前進と後退を繰り返し、理想の距離感を維持してもらった。

 ボスとの距離をつかず離れず維持する。そうしてボスの注意を引きつけてくれるからこそ俺たちは安全にボスへ攻撃出来るのだ。


 問題は自己バフの影響で攻撃力や防御力が上がっている点だが、俺たちは上級職、防御力だって高い。一度や二度の攻撃ではHPがゼロまで減る事はない。

 たまに周囲範囲攻撃が来ても、ダメージを受けたらラナが回復してくれるため問題はない。

 相手の防御力も俺とカルアが交代で常にデバフを掛けるためダメージをそれなりに稼げている。


 戦闘が安定し、これは勝ったなと安心しかけた。そんなときだった。

 もう一体のボスが現れたのは。


 そいつが現れたのは突然だった。〈光の中精霊〉が守る、41層へ通じる門から突如スッと現れたのだ。


「え?」


 近くにいたエステルが唖然とした声を出して固まると、突如現れたそいつが近くにいたエステルとカルアに向け真っ黒な杖を翳し、闇の球弾を撃ってきたのだ。


「――――!」


「! あぐ!?」


「フニャ!?」


「!? エステル! カルア!」


 呆気にとられたエステルとカルアもそれを見て回避しようとするが間に合わず直撃、さらに追撃を撃ってくる。


「げっ! このタイミングで来んのかよ!? やべえ! 俺がフォローに入る! 『ソニックソード』!」


「ゼフィルス!? それになんなのあれ!?」


「ラナ殿下、エステルとカルアに回復を!」


「! 分かったわ! 『全体回復の願い』!」


 俺が説明を後回しにして大ダメージを負ったエステルとカルアを庇うようにしてそいつ、〈闇の中精霊〉との間に割り込んで攻撃を受けると、ラナからパーティ全体回復が届いた。ありがたい。


「『ガードラッシュ』!」


「――――!」


 俺は多少の被弾を許容しつつダッシュして切り込み、続いて防御スキルを発動、防御しながら三回相手を斬る『ガードラッシュ』で少々の時間を稼ぐ、そしてこの時間で全員に通達する。


「みんな聞いてくれ! こいつは〈闇の中精霊〉、この〈四季の妖精ダンジョン〉の徘徊型ボスだ!」


「徘徊型!?」


 ラナの驚いた声が俺の耳に届く。

 そう、いきなりエステルに奇襲してきたこの手腕は徘徊型の常套手段。

 俺たち〈ダン活〉プレイヤーは幾度もこれにやられた、恐ろしい攻撃だ。

 その中でも一番やっかいなパターンというのがいくつか存在する。


 その一つが、他のボス戦中に乱入してくる現象、〈徘徊型ボス参戦現象〉だ。

 ボスが途中で増えるアンビリーバボー。


 こんなこと本当にあり得るのかというとあり得る。中級ダンジョンではかなり低い確率だけどな。

 そしてこの〈徘徊型ボス参戦現象〉によってパーティが崩壊させられ全滅した事が、俺はゲーム時代に何度もあった。また、徘徊型ボスによって全滅させられる現象第一位に輝くパターンでもある。


 これで俺たちは〈光の中精霊〉〈闇の中精霊〉、両方を相手にしなくてはならなくなった。




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