第723話 初めての雪エリア? 雪ではしゃぐ光景は尊い。
「うん。寒くないわね!」
「ハンナさんには感謝ですね」
31層の冬エリア。
ゲーム〈ダン活〉では冬景色だねで済んでいた環境も、リアルになれば寒くて凍える環境に生まれ変わる。
前回の経験を活かし、ハンナに大量の〈ホカホカドリンク〉を生産してもらっていたため、今回はプルプルせずに済みそうである。
どう見ても寒いだろうという薄着装備のラナが〈ホカホカドリンク〉を飲んで快調だった。
エステルもハンナに感謝を捧げている。
「あたたかいわね。寒い日は飲みたくなるわ」
「ダンジョンで使うアイテムだから普段は飲まないでくれよ?」
「もう、わかっているわよ」
シエラの言葉に思わずツッコむ。
いや、気持ちは分からんでもない。だって全然寒くないし、むしろ身体がホカホカと暖かくなるのだ。俺もここが〈ダン活〉だと思わなければ冬に飲みたいくらいである。
とはいえ
「私、飲んじゃ、ダメ?」
「カルアには〈自然適応ペンダント〉があるじゃん」
「ガーン、失敗したかも……」
食欲旺盛なカルアが1人、〈ホカホカドリンク〉が飲めなくて唸っていた。
〈自然適応ペンダント〉には『環境適応』スキルが備わっていて冬の寒さでも寒いと震えることはない。つまり〈ホカホカドリンク〉を飲むまでもないということ。
仕方ない、後で効果が切れたときにでもペンダントを誰かに貸してあげる形でカルアも〈ホカホカドリンク〉を飲めるよう調整しよう。1人飲めないのは寂しいからな。
ちなみに俺は、一時的に〈自然の
「後で飲ませたげるから、今は我慢な」
「ん。ありがとゼフィルス」
さて、これでダンジョンを進む準備が整った。早速出発だ。
「冬エリアって何にもないかと思ったけれど、結構食材が採れるのね」
「冬を代表する果物と言ったら柑橘類だ! ここでみかんを採りまくるぞ!」
「「おおー!」」
冬と言えばミカンは欠かせない。
ミカン系は大体が冬に集中しているので、見渡す冬エリアは濃い緑の葉に黄色の実が鮮やかなエリアもあるんだ。
どうやら落葉樹ばかりで葉のない寂しい道を想像していたらしいラナがウキウキと果物を採取している。
カルアも食いしん坊のやる気爆発だ。
「あ! あっちにはリンゴがあるわ! あれもいただきよ!」
「ヤー」
ここは〈リンゴダン〉ではないが、じゃあリンゴは採れないのかといえばそんなことはない。ちゃんと採取できる。メインは秋エリアで採取可能だが、冬エリアでも少しだけ実っているのだ。
しかし、あれだけ〈リンゴダン〉でリンゴを回収しまくったのにラナはまだリンゴを集める様子だ。ラナは本当にリンゴが大好きだな。
ちなみに俺とシエラ、エステルはその間にここに登場するモンスター〈アイスフェアリー〉を掃討していた。〈ハイフェアリー〉の配下にいたモンスターだな。
「あんまり遠くへ行くなよラナ~」
「わかってるわ~」
周囲索敵はカルアの仕事なのだが、まあラナについていれば逆に大丈夫か。
最悪囲まれてもカルアのユニークスキルでひとっ跳びだ。はぐれても問題ないし。
俺たちも戦闘後はラナを追いかけつつ伐採や採取に精を出しながら進んでいく。
「ふ~、良い感じに採れたわ」
「ん、たっぷり」
しばらくするとラナもカルアもすがすがしい顔で戻ってきた。
満足したらしい。そりゃああれだけ採ればな!
食いきれるのだろうか? 売っても大丈夫かな?
「ねえゼフィルス、あれは何かしら?」
ラナが戻ってきた方に指差して聞いてくるのでその指を辿ると、なだらかな丘の斜面が白く染まっていた。
「あれが雪エリアだな。つまりあの白いのは雪だ。前も説明したかもしれないが、雪エリアは寒さが尋常でなく、〈ホカホカドリンク〉などを飲んで耐性を付けておかないとランダムにバッドステータスを受けてしまうから気をつけなくちゃいけないエリアだ」
俺は全員に注目させる意味で山に指を差してラナの問いに答えた。
雪エリアはこの〈四季の妖精ダンジョン〉で唯一の〈ハザードエリア〉だ。
〈ハザードエリア〉とは、何かマイナスの影響を受ける環境群のことだ、対策無しに突っ込めば様々なダメージを受ける。
冬エリアは階層ごとにほんの少しだけ雪エリアがあるため、近づかなければ問題は無い。
「雪エリア、ゼフィルス殿、行くのですか?」
「いや、あっちは道から逸れるからな。行かないほうが良い。雪エリアは採取出来る物も少ないしあまり魅力がないんだ。まあ氷属性の武器なんかを作るときの〈氷鉱石〉とかは使えるが」
「氷属性武器、欲しい!」
「そういえばカルアは氷属性の武器に目覚めたんだったか」
カルアが珍しく要望を言ってきたので聞く。
カルアの装備は〈アイススプラッシュ〉と〈流氷短剣・アシャ〉という氷属性の短剣だ。
前から〈アイスミー〉を始め氷属性の武器を使っていたため、最近のカルアは氷属性に凝り始めているらしい。
「んじゃ、道中の39層で近道するならどうしても通らなきゃいけない雪道があるからそこで採集しておくか」
「ん、ゼフィルス大好き」
大好きいただきました~。
他にも氷属性で武器を作りたい人がいるかもしれないし、少し多めに採集しておこう!
「もうカルア! そ、そんな気軽に大好きなんて、言っちゃダメでしょ!」
「あ、あーれー」
そんな事を思っていたらカルアの後ろから接近したラナによって捕まり、カルアは抱きかかえられてどこかに運ばれていった。
シエラがそれに付いていったので大事にはならないだろう。
そのまま採取したり、時には狩りをしたりしながら39層までいき、雪エリアに突入した。
「これが雪なのね。初めて見たわ」
「氷とは違うのね、柔らかいし、踏むと足が沈むわ」
「わ、これは、動きにくいですね」
このリアル〈ダン活〉の世界にも四季はある。
しかし、前世と比べると気温差はかなり優しい。
夏はせいぜい30度までしか届かないし、冬はそもそも氷点下まで下がらないとのことだ。そのためこの辺りは雪も降らないらしい。
雪が見たければこうしてダンジョンの奥地へ来る必要があるみたいだな。
ラナやシエラ、エステルは初めて見て触る雪に驚いていた。
なんだか新鮮な反応にちょっと面白い。
「きゃー、ちょっと冷たいわよこれ!」
「ラナ様、あまり触らないほうがよろしいかと。しもやけになってしまいますよ」
「エステル、しもやけって何かしら?」
試しに雪を掌で
俺も中に入りたいが、新鮮な反応をする女子たちをここで見守っていたい気もする。
どうしよう――く、迷う!
「ゼフィルス、モンスター、来た」
「邪魔すんなし! 『サンダーボルト』!」
「――――!?」
つい本気の〈四ツリ〉を使ってしまった。
〈アイスフェアリー〉の群れが今の一撃で大ダメージを受けていたので俺とカルアで殲滅する。
キャッキャしているラナたちの尊い光景は、俺が守る!
「雪の中でどれだけ動けるか試したかったのだけど……」
そう思って振り向けばキャッキャした光景はいつの間にかどこかに消え、3人とも臨戦態勢だった。しかもシエラに文句を言われてしまうおまけ付だ。そんなー。
まあ、タンクのシエラからすると雪道での戦いも試しておきたかったという気持ちは分かる。
キャッキャはお預けのようだ。無念。
その後はモンスターを狩りつつ、発掘ポイントで〈優しいピッケル〉を使い〈氷鉱石〉や〈氷結晶球〉などの素材を採集してアルルのお土産をたんまり回収した。
そうして俺たちは40層へと突入。
そして俺たちは40層で、とっても危険な現象とかち合うことになる。
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