第719話 上級職ランクアップ! アルル編!
「アルル、入って来てや」
「はいよ~」
マリー先輩が俺の後方の扉に向けて言うと、ガチャリと開いてアルルが入ってきた。
アルルとマリー先輩は同郷で、学園に来る前からアルルはマリー先輩のことを姉のように慕っていたとのことなので、こうしてアルルがマリー先輩の下を訪ねているのは不思議なことではない。
しかし、このタイミングでアルルを呼ぶということは驚く理由がアルルにあるということか? まさか。
「聞いてや、なんとアルルがな、ついにLVカンストに届いたんや!」
「やりきったで!」
「おお! マジか!」
俺は驚愕に目を見開いた。
アルルのレベル上げは急務だったため、〈
これは祝いだ! 祝いをしないと!
「アルルでかしたー! でかした、でかしたぞー! そしておめでとうー!」
「ちょ、待ちい兄さん! あかん、また兄さんが狂った!?」
「なんやなんや!? わ、わ、持ち上げんといて!? ちょ~!? 何がどうなってんやー!?」
「最後の生産職が揃ったぞー!!」
気付けば俺はアルルの背中に手を回し、ひょいっとマリー先輩並みの小さな身体を持ち上げてクルクル回っていた。
「マリー姉、ちょ、助けて!? なんやこれ!?」
「あ~、アルルは知らんかったんやな。兄さんはな、たまにむっちゃうれしいことがあるとこうやって狂ってしまうんや。うちもやられたことがあるで」
「そうなん!? というか、これいつ終わるん!?」
「うちの時は大体10分くらいやったけど、うちが止めてなかったらずっと止まらなかった気がするわ。まあ、しばらくすれば落ち着くやろ。アルルは兄さんの相手をよろしゅうな」
「マリー姉!?」
「そうれクルクルクル~」
「あはははは」
「笑い事なんこれ!? ちょ、ゼフィルス兄さん落ち着いてやー!?」
そんなこんなで10分後。
俺はアルルと盛大にクルクルしまくってしまった。
ちなみにマリー先輩にも手を伸ばそうとしたのだが、逃げられてしまった。残念。
しかし、アルルは最初こそ驚いてわたわたしていたものの、少しすれば落ち着いたのか俺に合わせてくれた。アルルの足が地面から浮いていたので合わせたというより身を任せたという感じな気がしなくもなかったが、多分気のせいだ。一緒に喜びを分かち合ったんだ。
「さて、ようやっと話ができるな」
「マリー姉、うちを見捨てた所業、忘れへんで。まだ世界が回ってる気がするわ~」
「細かいこと気にしぃなて。それよりもや兄さんもっと大切なことがあるんやろ? アルルがLVカンストになったんやで!」
「そうだな! これからアルルの〈
マリー先輩の言葉に俺は頷きグッと拳を握って力を籠める。
ついに、ついに、三種の生産職が揃うのだ。
これで上級ダンジョン進出が、また一歩近づいたぞ!
いや待て焦るな俺。確認が先だ!
「アルル、まずは聞いておきたい。アルルに就いてほしいのは、【
「ふう、そんなん答えは決もうとる。うちはここ〈アークアルカディア〉に来たときからその【神炎の鍛冶王】に就くことを了承しとったで、その気持ちは今も変わってへんわ」
俺の質問に真摯に答えるアルル。
そう、実は俺はアルルにスカウトを掛けた際、アルルには〈
通常ルートの【工匠ハイドワーフ】より鍛冶に特化した上級職で、最高ランクの装備、特に武器を作るためにはなくてはならない
とはいえアルルにこの話をしたのはもう4ヶ月も前の話だ。今も心変わりが無いか聞いておきたかった。心変わりがなくて何よりだ。
「オーケーだ! それなら話は早い。これからすぐにアルルの条件を満たして測定室に行くぞ!」
「って今からか!」
「即断即決は兄さんの美点やな。アルル、頑張ってきいや。終わった際は、多分また兄さんから新たな指示を出されるかんな」
「さすがマリー先輩、よく分かってる! 三種の生産職が全部揃ったんだ。アルルの〈
「わかったわぁ」
これでよし、俺はアルルを引きつれ〈ワッペンシールステッカー〉ギルドを出ると、一度〈エデン〉に戻る。
そして錬金工房で作業中のハンナを訪問した。
「ハンナ、店の準備中に悪いが後で少し時間をくれないか?」
「突然どうしたのゼフィルス君? 別にいいけど」
「おっしゃ、じゃあ30分くらいで戻ると思うからまた後でな!」
「あ、ゼフィルス君!? 新しい錬金工房が完成したの、見ていかないの!?」
「後で見るー」
慌しくもハンナに約束を取り付けて〈上級転職チケット〉1枚を回収し、今度は鍛冶場に寄る。
実はこの2日間でギルドハウスの改装が無事完了しており。例の最高峰の錬金工房と、同じく最高峰の鍛冶場の設置もすでに完了し、店構えもいい感じに出来ていた。後は色々外装に手を加えてお店っぽくすればいい感じになるだろうと思われる。
もっとじっくり見たいところなのだが、それは朝みんなで集まってから、ということになっていた。
今はまだ8時。土曜日の朝8時だ。
まだメンバー全員が集まりきっていないのでギルドハウス鑑賞会も後回し。まずはアルルの〈
「まずは装備だ! アルルが一から十まで作った武器と防具をシリーズで9種揃えて装備するんだ。アクセサリーまで全部だ」
「ええ!? そらあるけんど、残ってるんは練習で作ったもんやから弱いで? 良いもんは全部マリアはんに持っていかれたかんなぁ」
「強い弱いは関係ない、発現条件を満たすのに必要なだけだからな。前に作ったあれを活かすときが来たぞ!」
「あれをうちのサイズぴったりに作らせたんはそういうことか!」
ちなみに普通ならアクセサリーは門外漢。【クラフトマン】などの方が強力に作ることが出来るため【鍛冶師】系が作ったアクセサリーはちょっと性能が微妙なんだ。
しかし、シリーズ装備だと鎧に合わせてアクセサリーまで金属で作る一式というものがあり、鍛冶でも作れるためにアクセサリーだけ外注するのは癪に障るという、生産職独自の感情があるらしい。そのためいくつかアルル作のアクセサリー装備が〈エデン〉にはあったりするし、アルルもアクセサリーを作り慣れていたりする。
話が逸れたが、アルルには以前、武器から盾、鎧、アクセまで全身9種をシリーズで作製するよう依頼していたことがあった。
それは【神炎の鍛冶王】の発現条件の一つ〈全身9種をシリーズ装備で作り、装備している〉というものがあるためだ。この〈9種類のシリーズ〉というのがくせもので、普通は5種とか、アクセ1つと武器を合わせて7種とかなら多いのだが、9種類のシリーズレシピは中々無い。
しかもその9種を一から十まで自分で作製しなくてはならず、それを装備して〈
それと〈上級武器、上級防具、
後は下級職なのに〈DEX700以上〉というとんでも数値と〈【炎雷鋼ドワーフLV75】『ドワーフ鍛冶LV10』『金属加工LV10』『鍛冶マスタリーLV10』『鍛冶品質上昇LV10』を満たす〉という頂にふさわしき腕前を揃えてやれば【神炎の鍛冶王】は発現する。
いや最後に一つ上級職、高の上のため宝玉が必要だ。
使うのは〈
進化を促すために必要と言われているアイテムで、主に「ドワーフ」や「エルフ」で多く使う宝玉だ。
今回ハイドワーフになるのではないのだが……まあ、いい。
ということで準備を終え、許可を取る必要が無くなった測定室にアルルとやってくると、鎧に着せられている感マックスなアルルに〈
アルルは現在フルプレートと言うべき全身甲冑を着て背中には片手斧と盾を背負っていた。
ちょっとかっこよく見えるのは男の
「準備が良すぎるんやけど」
「ずっと前から準備していたからな!」
「……マリー姉が言ってた意味が身に染みてよう分かったわぁ」
なぜか達観した目をしたアルルだったが、コクリと頷き〈
「おお? こりゃあキレイやなぁ。武器の演出にも使えるかもしれん」
「そんなことできるのか!」
何それ? 初耳なんだけど?
「武器なんかでスキルを使うとエフェクトが発生するやろ? そのエフェクトの出し方はある程度弄ることが出来るんや。これみたいにキラキラした粒子を発生させたりとかな。まあ、性能は変わらんから見た目がちょっとキレイになるくらいやけどな」
「いやいやいや、すげぇな!」
ゲーム〈ダン活〉時代、そんな武器のエフェクトの調整なんて出来なかった。
しかしリアルではそこまで細かいことも可能だという。マジか、今度アルルに作ってもらお!
「それで、このまま〈竜の像〉に触ればええんやな」
「おう。そうだな。これ、〈上級転職チケット〉な」
「ありがたく受け取るで……なんや、緊張してきたわ」
前から決めてあったとおり、〈上級転職チケット〉はアルルに渡した。
武器は背中にあるためアルルは両手が空いているのでそのまま片手でチケットを受け取ると、もう片方の手で〈竜の像〉へ触れる。すると、
「マジ出とったで、【神炎の鍛冶王】や!」
「間違えないでくれよ」
「分かってるで! 【神炎の鍛冶王】、君に決めたわ!」
若干震える指でアルルがぽちっと【神炎の鍛冶王】を押すと、他のジョブ一覧がブラックアウトして消え、【神炎の鍛冶王】だけが残る。
これでアルルは上級職、高の上、【神炎の鍛冶王】だ。
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