第720話 ギルド改装完了、〈エデン店〉店長はハンナ!




 無事アルルを【神炎の鍛冶王】に〈上級転職ランクアップ〉した後、俺とアルルはギルド〈エデン〉のギルドハウスへと戻ってきた。

 ダンジョン週間初日の招集でギルドにはメンバーが勢ぞろいしていたため、ここでアルルが上級職になったことを発表する。


「というわけで、前から言っていた通り、アルルが上級職【神炎の鍛冶王】になりました!」


「これからみなはんの上級装備をガンガン作っていくから期待しててや」


「「「おおー!」」」


「「「アルルおめでとう~」」」


 急なことではあったものの、ギルドメンバーからは驚きと祝福の言葉がアルルに贈られた。

 前からアルルを上級職にするって宣言していたからな。上級生産職の必要性もずっと説明していたため納得してもらえている。


 アルルが上級職になれば上級装備をより高いクオリティで作製することが出来るようになる。

 それはつまり戦闘職メンバーの強化に繋がるため受け入れないわけがない、むしろ大歓迎、といった具合だ。


「アルル、〈上級転職ランクアップ〉してから最初の装備はどんなものを作る気なんだい?」


 アルルと仲の良いカイリの質問に俄然メンバーの興味が集中する。

 しかしアルルは参ったといった感じに頭の後ろに手を当てた。


「恥ずかしい話やけどまずは練習やな。新しいスキルをまず試さんと試作も出来んしな」


「そうだった。私としたことが先走りすぎてしまったな」


 アルルの話ももっともだとカイリも少し恥ずかしそうに下がった。

 その後もアルルは大人気で囲まれてしまうと、俺の方にも質問が飛ぶようになる。

 最初は〈エデン〉最強のタンクであり、鎧や盾などアルルの腕が大きく関わるシエラからだ。


「最高峰の鍛冶場は完成したのよね? 装備は誰から整えるつもりなの?」


「さっき見てきたが、鍛冶工房は立派な感じに仕上がってたぞ。あれなら良い装備が作れる。アルルが慣れてきたらまずは前衛陣、特にタンクから装備を仕上げていきたいと考えてるな、防具が何より重要だ」


「私も同意見よ。上級ダンジョンの話を少し聞いたのだけど、いたるところでダメージを負う機会があるみたいね。防具が揃っていなければ進めなくなるわ」


 シエラの言葉に同意の意味を籠めて頷く。

 上級ダンジョンに行くのならまずタンクの防具が優先だ。タンクが崩れるとパーティが一気に瓦解するため、タンクには一番金をかけて最高の防具でがっちがちに仕上げるのが最善だ。


 じゃあ武器はいいのか? と思うかもしれないが優先順位からは多少下がるだけでちゃんと武器も仕上げるぞ。今は俺たちに合う武器のレシピが無いから最悪このまま上級ダンジョンに入ることもあり得るけどな。


 何せパーティの育成は順調で、上級職も順調に増えているのだ。

 言ってしまえばMPを贅沢に使った四段階目ツリーのゴリ押しで多少は何とかなる。

 当然そんな使い方をしたらすぐにMP切れになるし、MPポーションの消費が馬鹿にならないのであまりやりたくはないけどな。


 しかし、防御力が足りずパーティが崩れたらゴリ押し以上のMPを消費することになるし、最悪全滅する可能性もある。

 このリアル〈ダン活〉だと上級ダンジョンの全滅はご法度だ。何しろ救助隊である〈救護委員会〉が上級では活動できないのだから。全滅が本当の意味の全滅になってしまう。


 そのため防具は最優先だ。

 サブマスターであり、自身がタンクであるシエラはしっかり分かっているようだな。


 その後も何人かが方針を聞きに来たので、場が落ち着いた辺りでシエラに説明したことをみんなにも発表する。


「というわけで、最優先になるのは上級ダンジョン攻略メンバーの装備類となる。それがあらかた完成してから、随時攻略階層が装備と合致していない者を優先して装備を整えていく事を考えている。そしてさらに助っ人、ではないが外部協力者を1人紹介したい。マリー先輩、入って来てくれ」


「じゃまするで~」


 ちょうど全員参加のこの場を利用し、ギルドの方針を伝えるためにマリー先輩にもご足労願った。みんながアルルを囲った辺りでチャットで連絡しておいたのだ。

 すぐに来てくれたマリー先輩には感謝しかない。


「知っている人もいるかもしれないが、俺が個人的に持っていた〈上級転職チケット〉をマリー先輩に使ってもらい、その見返りとしてマリー先輩が〈エデン〉専属の防具職人になったことをここに発表する」


「ええええ!?」


「そうなんですか!?」


「ゼフィルスさんの〈上級転職チケット〉を渡してしまった、ですって……」


 発表したらなぜかノエル、ラクリッテ、タバサ先輩を初めとする女性陣から悲鳴が上がった。俺は前にラナから言われた〈嫁チケット〉のことを思い出して説明する。


「ああっとこれを最初に言っておくが今言ったこと以外の他意はまったく無いからな? マリー先輩とは普通に取引するだけのビジネスパートナーだ。それ以上でも以下でもないぞ?」


「本当なんですのシエラさん!?」


「シエラさん!?」


「ええ、本当よ。だから安心してみんな」


 リーナ、アイギス、なんで真偽をシエラに聞くのか? おかしいな。

 しかし、再びあの時のシエラとラナのようにギルドメンバーに詰め寄られたら敵わないので黙っておく。


「じゃあマリー先輩も〈エデン〉に加入するんですか?」


「いんや、うちは移籍はせず〈ワッペンシールステッカー〉所属のままや、所謂外注やな。〈エデン〉の依頼を専属で請け負って、時には〈エデン〉の生産組と協力して防具を作りだすんがうちの役目やな。後、うちと兄さんの関係はそれ以上でもそれ以下でも無いと、改めてうちからも明言しておくで」


 ハンナの言葉にマリー先輩が自分の立場を明確に伝えていた。

 女性陣がなぜか露骨にホッとしている人たちが多いのでマリー先輩の補足説明には意味があったのだろう。おかしいな、俺も同じことを説明したのに。


「こほん、まあアルルだけだと鎧と金属武器は作れるが他の加工ができないからな。マリー先輩の腕には期待しているぜ」


「任せてや。うちに話を持ち込んだこと、後悔はさせへんから」


「頼もしいな」


 外部協力者の説明を終えたところでギルドの今後の方針も話す。

 それが終われば次はお待ちかねのギルドハウスについてだ。


「昨日やっとギルドハウスの改装が終わった。みんなも店構えは来るとき見たと思う」


「もちろんよ! すっごく良かったわ! あれが〈エデン〉のお店なのね!」


 ラナの食いつきが良い。そうだろう、そうだろう。そうだろうとも。

 自分たちのお店を持つってなんだかワクワクするよな!


「そして〈エデン〉のお店、〈エデン店〉の管理だが、ハンナを店長に任命する」


 俺がビシッと視線を投げるとあわあわした様子のハンナが立ち上がり、気を付けをする。


「は、はい! 拝命? しました! 精一杯頑張ります!」


「そこまで緊張しなくてもいいんだぞ? 基本はマリアとメリーナ先輩が店を回してくれるからハンナは生産に集中していいし」


「そうは言っても、ゼフィルス君~」


 ハンナがすがるような視線を投げてくるが、俺は心を鬼にしてハンナに店長を任せた。

 ハンナはギルド〈エデン〉の古株だし、〈生産専攻〉では〈マート〉というフリーマーケットの施設で物の売り買いを実践しているという話を聞き及んでいる。

 それに今いったように実際の運営はマリアとメリーナ先輩に任せるので、ハンナは形だけの店長でも問題は無い。ではなぜマリアかメリーナ先輩が店長ではないのかというと、マリアとメリーナ先輩は〈エデン〉所属ではないので、店長は〈エデン〉の誰かがやらなくてはいけないためだ。


 少し前から話していたのだが、ハンナの不安は拭えないらしいな。

 しかし、ハンナからは〈生産専攻〉で組んでいるパーティメンバーも店で働かせてほしいと要望があった辺り前向きの様子だ。


 ちなみにハンナの〈生産専攻〉のパーティメンバーとは生産職で組んだ〈エデン〉とは別のパーティだ。

 先ほど言った〈マート〉での販売などもそのパーティで作って売り買いしていたらしい。

〈生産専攻〉ではこうしてパーティを組んで生産、商売をすることは推奨されているらしいからな。


 つまりハンナは、そのパーティの活動を〈エデン店〉で行なえないかと打診してきたのだ。

 俺はもちろんオーケーした。

〈エデン店〉の運営は基本的にマリアとメリーナ先輩だが、店に毎日いるわけにはいかない。

 店番などをハンナのパーティに任せられればこちらにも利があるからな。

 その代わり、ハンナパーティの子が作製した商品も店の一部に置かせる約束も取り付けてある。もちろん、店番をしてくれればお給金も払う。

 その辺の取り決めはメリーナ先輩の管轄だ。


 とりあえず〈エデン店〉の話はここまでだな。


「ハンナがんばってね、応援しているから!」


「お客さん、たくさん来てほしいわね」


「は、はい!」


 ラナとシエラに挟まれ、さらにあわわするハンナ。頑張れハンナ。俺も少しは店番手伝うから。


 さて、三種の生産職も揃った。

 ギルドの改装も終わって〈エデン店〉も最高峰の工房も出来た。

 準備は着々と進んでいるな!


 さて、生産組が自分の能力を試しているうちに、俺たちは中級上位ダンジョンの攻略を進めよう。

 今回俺たちが向かうのは、〈四季の妖精ダンジョン〉。


 すでに30層をクリアしてあるこのダンジョンを今日中に攻略しよう。




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