第702話 夏エリアは炎天下!ヒエヒエドリンクを飲もう!




 続いて、俺たちはその足で真っ直ぐ20層へと向かった。

 今日中に30層まで行きたい。

 時間が足りなければ多少は〈馬車〉を使っても良い。


 11層からは季節が夏になる。

 ランク1ダンジョンの〈夏日の荒野ダンジョン〉に勝るとも劣らない炎天下だ。

 草木の緑が深まり、日が葉に反射してキラキラ輝いている。


「うう、暑いわ!」


「ちょっとこれは、こたえるわね」


「はい。私もちょっと」


「暑い……」


 ラナ、シエラ、エステル、カルアが次々に弱音を吐いた。

 まあ、そうだな。地上の夏はそこまで暑くは無かったが、ダンジョンの夏は本格的だ。

 ゲームでは無かった熱中症に掛かるかもしれない。まさかの事態である。

 しかし、俺の対策は万全だ。


「しかたない。ほら、〈ヒエヒエドリンク〉だ。みんな飲むと良い」


「あ! ゼフィルスいいの持ってるじゃない! ありがとう!」


「これは、体が涼しくなるアイテムね。準備がいいのね」


「一応念のためハンナに作製を依頼していたんだが、まさか役に立つとは」


 この〈ヒエヒエドリンク〉は所謂冷却アイテムだ。飲むと一定時間暑さを感じなくなる優れもので、主に環境が大きく変化し火山や砂漠などが存在する上級ダンジョンで飲まれていたアイテムだった。


 火山や砂漠は暑さでHPにスリップダメージが入る天然の罠なのだが、〈ヒエヒエドリンク〉の効果中はHPが減らなくなるため上級では必須のアイテムだ。

 あとエクストラダンジョンにもこういう環境が一部だが存在する。そのため中級でレシピはゲット可能でハンナに一応作ってもらっていたのだ。


 リアルだと夏の暑さでも厳しいんじゃないかと思った懸念は当たってしまったようで、持って来ておいてよかったよ。


 全員で瓶に入ったカ◯ピス風のジュースを飲む。


「ふう、あ~、相変わらず不思議な飲み物ね、一気に涼しくなったわ」


「生き返りますね」


「ん。極楽」


「ゼフィルス、助かったわ」


 ラナ、エステル、カルア、シエラが〈ヒエヒエドリンク〉を飲んで一気におだやかな笑顔に変わった。

 滴る汗に美少女の良い笑顔。なんか、逆にお礼を言いたくなるのはなぜだろうか?


 とりあえず、これで夏の暑さは問題無くなったな。俺も飲んでみたが、不思議と炎天下でも暑さを感じない。逆にク~と言いたくなるほどの涼しさが身体を包んでいるかのようだ。マジ不思議なドリンクだぜ。


 ちなみに同じく寒さに強いドリンクもある。これは〈ホカホカドリンク〉という。

 これを飲むと体が一定時間温まる素晴らしいアイテムだ。

 これも一応持ってきているが、冬階層では使いそうだな。備えあれば憂いなしだ。


「でも、ほんと、ここを突破するには〈ヒエヒエドリンク〉が必須ね」


「ゼフィルスが用意してなかったらと思うと、ちょっとゾッとするわね。もしかしたら10階層で引き返していたかもしれないわ」


「実際11層に来て様子を見て、無理そうなら帰るのは推奨されていますからね」


「〈馬車〉に逃げ込むという手もある」


「他には『耐暑たいしょ』『耐寒たいかん』のスキルが付いた装備を身に着けたりとかな」


 いつの間にかこの暑さをどう対処するかの話にシフトしちゃったな。

 まあ、この暑さ、マジ対策しておかないとやってられないというのは分かる。ゲームのキャラたちはこんな暑さの中どうやって戦闘をしていたのか。


 だが、暑さ対策として一応アイテムで防げるが、これは一定時間で切れるため切れるたび補給する必要がある。消耗品なのでお金が掛かるやりかただ。

 もしくは『耐暑たいしょ』『耐寒たいかん』のスキル装備を着るという手もある。これがすごくってマジで暑くも寒くもなく快適な温度を提供してくれるパッシブ永続効果である。

 ただ装備枠を一つ占領するのがちょっと微妙。どっちを使うかは時と場合によるな。


「そういえば、その装備は一つ当たってたわね。レアボス〈スリーネ〉の〈金箱〉で」


「シエラよく覚えてるな」


 タバサ先輩の採用試験で挑んだ〈枯木の邪花ダンジョン〉、そこのレアボス〈邪球根・ネネネバナ〉を撃破したときの〈金箱〉で〈自然の葉飾はかざり〉というアクセサリーがドロップしていた。レアボス〈金箱〉産なだけあってこれには『耐暑たいしょ』『耐寒たいかん』『毒耐性LV9』の三つのスキルが付いている素晴らしい効果を持つ。


 そういえばゲットしたのを忘れていたな。


「今はギルドにあるから次の機会に持ってくるか」


「一つしかないけど、その方が良さそうね」


 ゲームでは〈四季の妖精ダンジョン〉で環境ダメージを受けるなんてことはなかったので〈自然の葉飾はかざり〉はギルドの中だ。

 次は持ってこようと決める。


「――――!」


「ほら、モンスターが来たぞ、迎撃準備!」


「ちょうどいいタイミングね! けっちょんけっちょんにしてやるわ!」


〈ヒエヒエドリンク〉で復活したラナのテンションが高い。


「相手は〈フレイムフェアリー〉と〈はぐれ妖精〉だな」


〈フレイムフェアリー〉は人型である〈フェアリー〉種の火属性版だ。赤い体に頭が燃えている〈フェアリー〉だな。〈氷属性〉が弱点だ。


 しかし、もはや弱点とか関係無し。

 通常モンスターは敵ではないので普通に殲滅しながら進んでいく。


 途中、宝箱を見つけたり、隠し扉を開けたり、採取しながら階層を降りていく。


 そのまま20層フィールドボス、初老の姿で杖を振りかざし魔法の雨を降らせる〈マスターフェアリー〉を撃破し、俺たちは21層から30層に広がる、秋エリアへと突入した。


「ここは、採取するものが全て食べ物になったわね」


「いいわね! たくさん食材を持って帰りましょ! 食卓を彩るのよ!」


 シエラとラナの言うとおり、秋エリアは採取物が全て食べ物になる。

 夏は葉物系が主なので、階層エリアごとに採取物が異なるのだ。


 秋エリアは紅葉深まり、見渡す限りの山々が色とりどりで、まさに錦秋きんしゅうと言うにふさわしい。こういう光景も良いものだ。


 出てくる妖精も種類が増え、無属性の〈アクアフェアリー〉や〈アースフェアリー〉などが登場し、雨や地形が変わる攻撃で翻弄してくるようになった。


 雨攻撃が厄介だ。装備が濡れると結構困る。

 一応〈スッキリン〉で脱水は可能なんだが、いちいち戦闘後に使っていたらすぐなくなってしまう。金も掛かる。

 なので〈アクアフェアリー〉はカルアが見つけ次第、ラナと俺が遠距離攻撃で確殺するようになった。慈悲は無い。


 しかし、中級上位ダンジョン30層は長く、さすがにのんびり探索も難しくなってきたので途中からは〈サンダージャベリン号〉でショートカット、時間を節約して俺たちは目的地である30層に到着した。


「よし、ショートカットして採取時間を確保できたからここで採取をしまくるぞ! 〈薬用キノコ〉を取りまくるんだ!」


「おおー」


 30層ボスを倒せばショートカット転移陣で帰還する予定だが、その前に出来るだけ採取したい。

 今日の目的の一つ、〈薬用キノコ〉の採取だ。


 これはHPとMP両方が回復できるポーションが作れるほか、料理にも使え、そのまま食べても少し回復出来るため、秋エリアではMPの回復に困らないとまで言われる良食材だ!

 秋エリアでしか採れないので出来るだけ、というか時間いっぱいまで取りまくったのだった。


「そろそろ時間かしら」


「だな。これだけ集まれば…………本当はもうちょっと欲しいところだが時間も無いか」


「ですね。ボスへ挑みましょう」


「やっとボスね!」


「食材も、たんまり」


 シエラの言葉に確認すると、もう良い時間だった。ほんとダンジョンにいると時間の流れが早い。

 時間も迫ってきたので残念ながら今日はここまでだ。とはいえ30層はショートカット転移陣があるのでまた来ればいいかと思いなおし、俺たちはここのフィールドボス、〈ハイフェアリー〉戦へと挑むことにした。




 ―――――――――――――

 後書き失礼します。補足説明。


〈ダン活〉では属性は6種類、火、氷、雷、光、闇、聖、であり、他は無属性となります。

 水属性や土属性は無いため、無属性ですよという説明のため〈アクアフェアリー〉と〈アースフェアリー〉が今回登場しました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る