第703話 30層Fボス、〈ハイフェアリー〉の鬼回復。




〈ハイフェアリー〉はフェアリーがさらに進化したような見た目をしている。

 大きさは〈妖精長〉と同じくらいだが、背中の羽は蝶々タテハ蝶の羽に酷似し、基本的に飛行している。両手に装備しているのは木の枝のような両手杖。先端に青く光る結晶を携えた細い杖だ。


〈ハイフェアリー〉はフェアリー種の頂の一つ。

 様々なフェアリー種を配下に置き、使役することが可能。

 そしてここからが重要。このボス、回復魔法が得意なのである。


「――――!」


「『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』! 『カバーシールド』!」


〈ハイフェアリー〉に使役された〈フレイムフェアリー〉〈アイスフェアリー〉〈サンダーフェアリー〉たちがそれぞれの属性で攻撃を放ってくる。

 それをシエラはいつも通り、冷静に受けた。


「一点集中攻撃だ! まずは〈フレイムフェアリー〉から!」


「ん、分かった。『フォースソニック』!」


「――――!」


 全員でまず狙ったのは〈フレイムフェアリー〉だった。

 カルアがまず斬り込み、シエラへ攻撃中の〈フレイムフェアリー〉を側面から切り裂く。

〈フレイムフェアリー〉は道中にもでた通常種ではあるが、ボスの配下になって戦闘力が上昇しているためこれくらいではやられない。

 すぐに炎を渦巻くようにした攻撃で反撃してくる。


 そして傷ついた〈フレイムフェアリー〉を〈ハイフェアリー〉が魔法で回復しようと試みた。

 これが厄介なところで、この〈ハイフェアリー〉は回復魔法で配下を回復させてしまうのだ。ボス本体がヒーラーというところがみそで、ヒーラーをまず退場させるというセオリーが使えない。


〈ハイフェアリー〉自体のHPが高いというのもあるが、ボスに攻撃を集中するとヘイト関係なく攻撃した者を配下のフェアリーが反撃してくるというおまけ付き。さらに、〈ハイフェアリー〉は自分のダメージも回復してしまう。最初にヒーラーを狙うのは難しいというわけだな。


 攻略法は配下のフェアリーを1体ずつ集中攻撃して順に倒していき、全滅させてから〈ハイフェアリー〉と戦うこと。

 実は〈ハイフェアリー〉自体はさほど強くはなく、配下を倒せば後は楽に倒せるくらいには弱いボスだ。ただ、時間を掛けすぎるとまた配下を呼び、自分のダメージを回復するという鬼仕様なのが要注意である。

 へたをすれば倒せずに一生バトルが終わらない無限ループに陥る。


 まあフィールドボスなので最悪逃げればいいんだけどな。もしくは階層を突破するでも可。

 その時はショートカット転移陣が起動しないので、本来ならこんな夕方に挑戦してはいけないボスとしても知られていたりする。最悪帰れなくなるからだ。


 というわけで、今回は本気で倒しに行く。


「『ドライブ全開』! 『ロングスラスト』!」


「『ソニックソード』! 『ハヤブサストライク』!」


「――――!」


 カルアの後に続き、エステルが〈蒼き歯車〉を唸らせて回り込んで正確な一突きを叩き込む。すぐに俺も『ソニックソード』で斬り込み一閃、逃げようとする〈フレイムフェアリー〉を逃がすこと無く、超速の二連斬でそのHPを刈り取った。

 まずは〈フレイムフェアリー〉がエフェクトになって消える。


 さすがに復活系は無いので、回復を上回る速度で一点集中狙いで倒せば問題は無い。


「次私の番ね! 『光の柱』!」


「――――!」


 ラナの『光の柱』はエリア魔法、小範囲攻撃。

 配下のフェアリーはわりと固まっていることが多いので範囲攻撃でダメージを与える事が出来る。

 すると〈ハイフェアリー〉がすぐに回復させようと動く。ただ、回復させる対象は1体ずつなのだ。〈ハイフェアリー〉がまず回復しようとしたのは、〈サンダーフェアリー〉だった。


「ナイス! 次〈アイスフェアリー〉行くぞ!」


「おおー」


〈ハイフェアリー〉が〈サンダーフェアリー〉を回復させて気を逸らしているうちに、俺たち3人のアタッカー組は〈アイスフェアリー〉を狙う!

〈フレイムフェアリー〉の氷版、という姿をしている〈アイスフェアリー〉だが、完全にシエラにタゲを取られこっちには振り向いてこない。


 シエラが氷のつぶてや雷の攻撃をガンガン受けている隙に一気に攻める、カルアが『32スターストーム』で連続斬りを叩き込むと、エステルが『閃光一閃突き』でHPをごっそり持っていき、最後は俺が『ライトニングバニッシュ』を決めて屠ってやった。


 これで配下は1体。

 その後は〈サンダーフェアリー〉も一点集中狙いで撃破することに成功し、ボスの〈ハイフェアリー〉だけになる。


「――――!」


「攻撃来るぞ!」


 配下を全て倒された〈ハイフェアリー〉が怒って魔法の砲撃を放ってきた。

〈ハイフェアリー〉は確かに回復が得意だが、攻撃してこないわけではない。

 しかし、シエラは絶対に崩されない。


「『ディバインシールド』!」


 空中に浮かぶ四つの自在盾がクロス合体し、1枚の堅固な盾となる『ディバインシールド』。

 シエラがメイスを向けた場所に展開され、〈ハイフェアリー〉の特大の一撃を防いでしまう。


 今度は俺たちのターンだ。


「速攻行くぞ!」


「はい!」


「ヤー!」


 前衛組の力強い返事と共に〈ハイフェアリー〉の前へ踊り出る。


「空中へ逃げられないよう常に意識するんだ! 『ライトニングスラッシュ』!」


「了解です! 『戦槍せんそう乱舞』!」


「上からの――『二刀山猫斬り』!」


〈ハイフェアリー〉の厄介なところは飛行型のところだ。

 飛ばれて逃げられ時間を稼がれたりしたら回復されてしまう。


 俺たちはなるべく意識して上段から叩いて、上に行けないよう気をつけながら立ち回った。

 これまでのボス戦や通常モンスター戦で、上から叩けば下方向にノックバックするとわかっているからこそのリアルならではの対処法だ。


「――――!!」


「あ痛!? こんにゃろ!!」


 当然、〈ハイフェアリー〉はただやられるだけじゃなくしっかり反撃してくる。

 本来なら回避、防御するところだが今回は速攻だ。多少のダメージは覚悟で相手に回復させる隙なく叩く。


「回復された」


「ならば、それを上回るダメージで倒せば良いだけです『レギオンスラスト』!」


 たまに回復されたとしても、回復が追いつかない程のダメージで速攻終わらせに行った。しかし、今回クリティカルが稼げず、ダウンを取れなかったのが残念。

 なんと〈ハイフェアリー〉の残りHPが2割というところで配下の呼び出しを行なってしまったのだ。運が悪く呼び出しが早い!


「あ! 回復されちゃうわ!」


「残り少しだ! 眷属は無視して一気に〈ハイフェアリー〉を倒すぞ! シエラ、カバー頼む!」


「任せて! 『カバーシールド』!」


「全力攻撃だ!」


「『大聖光の四宝剣』! 『聖光の耀剣』!」


「『フォースソニック』! 『64フォース』! 『スターバースト・レインエッジ』! 『スターブーストトルネード』!」


「『属性剣・氷』! ユニークスキル――『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 『ライトニングスラッシュ』! 『聖剣』!」


「ユニークスキル――『姫騎士覚醒』! 『騎槍突撃』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『閃光一閃突き』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『閃光一閃突き』! 『戦槍せんそう乱舞』!」


「―――――!?!?」


 ―――全力攻撃。

 ボスの残りHPが後少しなので後先考えずぶっ放せ戦法である!


 いや、実際はシエラが俺たちに攻撃してくるフェアリーたちの攻撃を防いでくれたためこんな無茶が出来た。

 新たに出現したフェアリー種は4体だった。仲間を呼ぶ系のスキルなので数と種類がランダムなのだ。

 シエラはそれを『カバーシールド』で防ぎ、効果が切れそうになると『インダクションカバー』で全部引き受けて俺たちを攻撃から守ってくれた。


 俺たちは攻撃される心配をまったくせず〈ハイフェアリー〉に全力攻撃を叩き込むことが出来、ついにそのHPがゼロになる。


「――――」


〈ハイフェアリー〉は膨大なエフェクトを振りまきながら消え、配下のフェアリーたちはあわただしく逃げて行ったのだった。


「おっしゃ! 最後少し危なかったが勝利! みんなお疲れ様だ!」


「もう、私も狙われてヒヤッとしたわよ! でもやったわね!」


「シエラ殿、攻撃から守っていただきありがとうございました」


「私は役割を全うしただけよ。エステルもお疲れ様」


「ん、〈金箱〉」


「「〈金箱〉!!」」


 カルアの言葉に俺とラナの顔がぎゅいんとそれに向く。


 そこには、金ピカに輝く宝箱が鎮座していたのだった。


「久しぶりの〈金箱〉だーー!!」




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