第667話 ついに発覚、守りの伯爵の系統。




「ゼフィルス先生! 俺、【正義漢】になりたいんです! どうかご指導ください!」


「あの私は【剣姫つるぎひめ】を目指していまして……」


「任せろ! だがちょっと待ってくれ、順番だ」


 早速何になりたいのか聞いてみたら我先にと生徒たちが押し寄せてきた。


「はいはいそんな詰めかけなくてもゼフィルス先生は逃げませんわ。皆さん、ご自分の立場を思い出してください」


「カタリナの言うとおりだよ。皆、喋るのは一人ずつ、さ、並んで並んで」


「フラウ、こっちは任せて、そっちお願いね」


 おお、助かった。

 カタリナさんが窘め、「犬人」の女子フラーミナさんと「騎士爵」の女子ロゼッタさんがクラスメイトたちの列を整理してくれた。

 元々良いところの子どもたちだ、すぐにハッとして自らの行ないを恥じ、素直に並び始めてくれた。


 結局全員の職業ジョブを指導することになった。

 ふふふ、思惑通りだ。あ、これ秘密な。


 どうやら彼ら彼女らもいつまで経っても高位職になれないラミィ研究員の指導にやきもきしていたようで、勢いがすごい。


「私、【ハイニャイダー】になりたい」


「よしよし、それなら練習場に行って片手剣の二刀流で素振りしてきてくれ。1時間くらいで一度戻ってきてくれ」


「へ?」


「よし次」


「あの、えっと。ぼ、僕は【タイムラビット】になりたくって」


「時計を10個用意しろ。自分の周りに囲むように並べたらその中心で1時間瞑想してみてくれ」


「ほえ?」


「よし次ー!」


「え? えっと、【炎武侯】にはどうやって?」


「今の職業ジョブはなんだ? 何? 【侍】? それはいいことだ。とりあえず〈火属性〉の付いた刀でスキルを使わずにモンスター100体倒して来い。アリーナは開放されているはずだ」


「え、ええ?」


 こんな感じに次々指示を出しては〈竜の像〉に触れさせていく。

 最初はまあ、発現しないだろう、そんな子には何が足りていないのかを探るべく一個ずつ調べてはまた条件を満たす行動を取らせていく。


 そしてしばらくすると。


「え、わあああああ―――!!」


 廊下に大きな声が響いた。空き教室からだ。

 どうやら高位職発現者、記念すべき第一号が現れたらしいな。


「何事だ!」


「どうした!?」


 教室にいる〈51組〉生徒たちが騒ぐが、それもすぐに発覚する。

〈51組〉の扉をはしたなくバーンと開いて入ってきた三つ編みカチューシャの女子が涙ながらに叫んだからだ。


「【剣姫】! 私、【剣姫】が発現したよ!」


 おお、なかなかアグレッシブな女子だ。見た目からおとなしい系かと思ったがブンブン剣を振り回す系の姫だったか。うむ。


 そんな【剣姫】さんに一斉に集まるクラスメイトたちが口々に「ほ、本当か!?」「おめでとう!」と祝う。これで一気に俺を見る目が変わった。


「ゼフィルス君、本当にありがとうー!」


「いいってことよ。良かったな」


「うう、ゼフィルスくーん―――」


「はいはいそこまで。おさわりは禁止よ」


「代わりに私たちが抱っこされてあげるからねー」


「落ち着いてねー」


 感極まったっぽい【剣姫】さんが両手を広げて飛びつこうとしてきたがすぐにカタリナさん、フラーミナさん、ロゼッタさんの3人が間に入り込んでガードしてしまう。

 おお、ちょっと残念。


「ぶうー。でもフラーミナちゃんの尻尾は癒し」


「はいはい、貴族の息女がぶぅ言わない。豚になるわよ」


「ちょ、それはひどいんじゃない!?」


「あはははは」


 いい雰囲気だな。

 さっきまで、微妙に陰気いんきな雰囲気が教室に湧いていたが、今はみんなやる気にたぎっている。


 そしてその後、続々と高位職の発現者が出始めてからはまさにお祭り状態になった。


「おっしゃああああ! 俺は【正義漢】だぁぁぁぁ!!」


「私【ハイニャイダー】最強」


「【炎武侯】、本当になっちゃったんだけど!?」


 もうクラス中がフィーバータイムに突入していた。

 ガンガンカテゴリー持ちの高位職が生まれていく様は凄まじい光景だな。

 ゲーム〈ダン活〉時代も経験したことのない興奮した生の熱気が押し寄せてきてちょっと気持ちがいい。


 しかし、その中でも一番フィーバーしているのはやはりこの人だろう。


「フォーウ!! フォ、フォーーーゥ!!」


 さっきから人語を失ってフォウフォウ言っているのは、ラミィ研究員だ。

 可哀想に、あとで【ドクター】の下へ届けてあげないと。


 冗談だ。テンションが振り切れすぎて戻ってこれなくなっているだけだ。

 俺も経験があるので分かる。まあ落ち着けば戻ってくるはずなのでそっとしておこう。


 さて、次は誰かな?


「ゼフィルス、次の指示を頼む」


「おっとメルトか」


 そこにやって来たのはサポート役に連れて来たメルトだ。

 メルトにはとあるミッションを与えていた。それは、「伯爵」の息女を勧誘することだ。


 前々から、「伯爵」の職業ジョブはどうしても欲しかった。シエラは特殊ルートの職業ジョブだしメルトは「貴人」系の職業ジョブ持ちだからな。

 正統派の職業ジョブが欲しかったのだ。


 しかし調べた限り、俺が求める〈姫職〉を持つ人は全学年で見つからなかった。

 ユミキ先輩にも協力を仰いでみたがやっぱり見つからず。在校生ではその職業ジョブに就く人は存在しないようだった。


 ならば〈転職〉してもらうしかない。

 しかし、それも問題があった。

「伯爵」のカテゴリーを持ち、かつ自分の今の職業ジョブに不満があり、なおかつ現所属ギルドを脱退してでも〈エデン〉に参加してくれる女子、という条件をクリアした子じゃないといけない。


 そして該当する女子が1人だけいた。

 というわけでメルトにはその子を確実に勧誘するために接触し、親睦を深めるように指示していたのだ。ミサトの助けもあって感触は良いらしいと報告を受けていた。

 その子が〈51組〉所属なためメルトには付いて来てもらい、「伯爵」の子の高位職発現を補助してもらっていた。


 そしてその「伯爵」がメルトの後ろにいる女子だ。


「ゼフィルス君、終わったよ~」


 そう言ってメルトの背後から顔を出すのは、俺も今日が初対面になるのだが「伯爵」のシンボル〈白の羽根飾り〉を肩に着け、パッツン前髪に薄紫系のボブヘアーと赤系の瞳をして明るい雰囲気を持つ女子。


「お疲れ様シャロン。まだ発現してなかったか?」


 名前はシャロンという。シャロンは若干肩を落としダメ~という雰囲気を出して言った。


「まただめだった~。だから次もアドバイスお願い~」


「もちろんだ。じゃあ次は、アリーナで巨城を背にして盾で100回攻撃を受けてみてくれ。メルト」


「分かっている。まかせろ」


「メルト君にはいつもお世話になってるよ~」


 シャロンのカテゴリー「伯爵」は通称〈守りの伯爵〉とも呼ばれるタンク系統の職業ジョブなため、攻撃役が必要だ。

 スライムキャッチボールでも良いんだが、「巨城を背にして」というのがみそなので、さすがにスラリポは控える形だな。


 さて、そこまで欲しい伯爵の系統とはいったいなんなのか、そろそろネタバラシしよう。


〈ダン活〉では、貴人のカテゴリーは系統がある程度決まっている。

「公爵」なら武官系、「侯爵」は武士系、「子爵」ならヒーロー系、「男爵」はアイドル系、などと呼ばれていた。

 そして「伯爵」は〈ダン活〉ではこう呼ばれていた。

 城を守り、城を回復し、防衛モンスターを強化して、アリーナを中心にして最も活躍する職業ジョブ


「伯爵」カテゴリーは―――城主系、と。


 発現条件の最後の一つ、〈城をかばって盾で100回攻撃を受ける〉。

 これを達成すれば、晴れてシャロンも【姫城主】だ。




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