第668話 シャロン勧誘と待ちに待った【姫城主】発現!
〈ダン活〉ではギルドバトルの際、主に城を落とすというシステムが導入されている。
〈城取り〉や〈拠点落とし〉に建つ建物は、小城、巨城、本拠地、拠点と、全て〈城〉で統一されているのだ。
当然、城に関する
それが「伯爵」カテゴリーの【城主】系統だな。
この【城主】がいないと正直言って本拠地の守りに不安が残る。
【城主】は城のHPが減れば回復出来るし、城をより頑丈にして防御力も最大HPも上昇させてくれるため、落とされにくくなるのだ。
さらに城迎撃スキルとも言える城からの魔砲攻撃、無人での矢による反撃などを行なうスキルもあり、通常のタンクでは防げない、例えば山なりの攻撃も防ぐスキルが存在するなど、【城主】の有無はギルドバトルの守りに大きく影響する。
また、ダンジョンでもタンクとして中々に優秀な性能を誇り活躍もできる強
しかしその本領が発揮されるのはやはりギルドバトルだろう。
これが俺がずっと欲しかった
Sランクギルドになるため、仲間になればギルドバトルがより有利に進むであろうことは間違いない。
そしてシャロンはメルトのスカウトにより、すでに〈エデン〉に加入しても良いかもと、前向きな反応を頂戴していた。勧誘するならシャロン一択。
他の一年生「伯爵」持ちは全員男なので、シャロンしかいないとも言う。
是非〈エデン〉に【姫城主】を加えたいところだ。
おっと、期待と妄想が膨らんでいる間にシャロンとメルトが帰ってきたようだ。
ちなみにミサトは他の子のギルドの移籍を探っているらしい。
ギルドの移籍を考えている子をピックアップしているようだ。
性格やら
「ゼフィルス、戻ったぞ」
「ゼフィルス君、戻ったよ~。疲れた~」
「お帰り、2人とも。じゃあ早速測定しに行こう」
「ん? ゼフィルス君も来るの?」
「そろそろシャロンがすごいの当てそうだと思ってな」
「えーそんなの分からないよー」
シャロンが俺の同行理由にクスクス笑う。この子、伯爵の姫なのに気取った感じがなくてフレンドリーで付き合いやすいな~。あと距離が若干近い気がするのだが、気のせいかな? うん、仲がいいのは良いことだ。
俺の予想だと、これでシャロンは【姫城主】の条件を満たしたはずだ。
このタイミングで同行することで勧誘の了承を狙うぜ。
ちょうど、〈51組〉の指導が途切れたタイミングだったのでちょうどよかった。
リーナに少しの間抜けることを連絡して、シャロンとメルトと共に測定室へと向かった。
道中近づいてきたメルトがこっそり話しかけてくる。
「ゼフィルス、シャロンは……?」
「ああ、これで満たせたはずだぜ」
「……相変わらずどこでその知識を得たんだか。【姫城主】といえば最高の守りの要とも言われている、我らの家でも滅多に表れない貴重で稀有な
そういえばメルトも「伯爵」子息だったな。
【姫城主】という
「は~、ねぇゼフィルス君、私才能無いのかな~。こんなに頑張っているのにまだ高位職が出ないなんて……」
メルトとこそこそしゃべっていたら後ろに手を組んだシャロンが振り向いて聞いてくる。
その瞳は、なんだか疲れみたいな感情が滲んでいるかのようだった。
ちなみにシャロンの言う高位職とは「伯爵」や「貴人」系統の高位職という意味だ。つまり高位職、高の中以上の
貴族の子はカテゴリー
シャロンもその一人で、なかなか発現しない高位職に落ち込んでいた。
俺はそんなことはないと言って励ます。
「大丈夫だって、今度こそ発現しているさ。何しろ、俺が同行するんだからな」
「あはは、何それ~?」
「シャロンは高位職に就いて〈エデン〉に来る。これは決定事項だからな」
「…………」
俺がそう言うと、廊下の途中でピタリとシャロンの足が止まる。
「ねえ、メルト君にも聞いたけど、何で私なのか聞いてもいい?」
「ん?」
振り向いたシャロンはなんだかさっきの明るさがどこかへ行き、笑顔に元気のなさが現れていた。
「私なんて全然才能無いよ? 未だ高位職も発現しないしさ。〈エデン〉の子たちってみんなすごいでしょ? ゼフィルス君やメルト君だって、あのクラス対抗戦、私だって見てたよ。あんなの、できっこないよ」
堰を切ったかのように俯きがちにシャロンは話し出す。
その言葉からは自信の無さが窺えた。
「ゼフィルス君や、メルト君はとても才能溢れてるっていうのは分かるよ。あれだけの戦いをしていたもの、みんなすごく注目してる。でも高位職に発現しない私じゃあんなこととても無理だよ。他のみんなが次々高位職に発現しているのに私だけまだ中位職しかない、なのになんで私を誘うの?」
どうやら俺は見誤っていたようだ。先ほどのシャロンの元気は、空元気だったのかもしれない。
実際今のシャロンは昔のリーナみたいなものだろう。努力しても高位職が発現せず、ずっと焦っていた、いや違うな。自分に自信が持てないのだろう。
そっと横を見るとメルトも軽く頷く。しかし、メルトは何も言わない。
俺に任せる、ということだろうか?
いいだろう、その粉々の自信、俺が復活させてやる!
「そんなの決まってる。シャロンなら俺たちの求める
俺の宣言にシャロンは少しポカンとしたが、すぐに苦笑してネガティブなセリフを言おうとする。もちろん言わせない。
「でも――」
「でもではない。よし、わかった。なら次のジョブ測定だ。次で俺が【姫城主】に就かせてやる! そしたらシャロン、俺らの〈エデン〉に入れ!」
「!!」
「ふ、さすがは俺たちのギルドマスターだ」
実はシャロンにはどんな
シャロンの現在の
これによりクラス対抗戦では要塞の防御力を上げるなどして貢献したが、「伯爵」の〈標準職〉であるため正直あまり強くはない。
しかし彼女、高位職になれるのであればなんでもいいとすら思っているようだ。
自信の無さ、ここに極まれりだ。伯爵なんだからもっと自信を持とうぜ?
とは言っても、昔のリーナもこんな感じの雰囲気持っていたし、一朝一夕にはいかないだろう、自信をつけるには高位職になるのが一番だ。今のリーナを見れば分かる。強
突然【姫城主】の名前が出てきたことにより、シャロンは呆気に取られて声も出ないという表情で固まった。
うんうん、いいリアクションだ。
そうと決まればさっさと【姫城主】に就けるに限るな。
「こんなところで止まってないで、さっさとジョブ測定に行こうぜ」
そう言って俺はシャロンの腕を取って歩き出す。
引きずられるようにして歩き出したシャロンが困惑の声を出してメルトに助けを求めた。
「へ? でも【姫城主】って、え? え? それにSランクギルドって、私、聞いてないよ、メルト君?」
シャロンが手を引っ張られ混乱しながらメルトに顔を向ける。
「これが俺たちの自慢のギルドマスターだ。騙されたとでも思って身を任せてみるといい。悪い結果にはならないと約束しよう」
「照れるじゃないか」
なんだよメルト、俺を自慢のギルドマスターとか、そんなに褒めて何が欲しいんだ?
「ゼフィルス、シャロンを頼む」
「…………」
真面目な話だったようだ。大丈夫だ、俺は全部分かってた。
だからこそ、俺はメルトに顔だけ振り返り、シャロンを掴む方とは逆の手で親指を上げる。
「任せろ」
そうして困惑顔のシャロンを空き教室に連れて行き、〈竜の像〉の前に立たせた。
ふむ、しかしただ触れさせるだけじゃ芸がない。もう【姫城主】の条件は満たしているはずだが、自信と〈エデン〉ギルドマスターである俺の信頼を得るためにも演出が必要だ。一仕事しよう。
「シャロン。これをやる」
「えっと、これは? ……小判?」
「幸運のお守りだ。きっとシャロンの助けになる」
〈
なんと〈金箱〉のドロップ率とボスの素材ドロップに上昇補正が働くのだ。むちゃくちゃやばかろう。
俺たち〈ダン活〉プレイヤーが幾度も心のよりどころにした装備だ。シャロンの心も助けてくれるはず。そして同時に〈エデン〉の歓迎の証でもある。
小判を渡されたシャロンは俺を見て小判を見て、もう一度俺を見た。
ぽけぇっとした顔をしている。なんだか可愛い反応だ。
「いや、多分いきなり〈小判〉を渡されてよく分かってないだけだと思うぞゼフィルス」
メルトはそんなツッコミをしながらもしっかり自分も〈小判〉を装備していると見せてアピールしていた。俺ももう一つ取り出してお揃いをアピールする。
そして俺はシャロンにウインクしつつ親指を立ててやるのだ。
「これでシャロンはギルド〈エデン〉の幸運を得た。もう何も恐れることはない。〈竜の像〉に触ってみな」
そうして〈竜の像〉へ促す。
小判を持つ片手を胸の前でギュっと握り締めるシャロンが意を決したように反対の手で〈竜の像〉に触れた。そうして表れたジョブ一覧には、しっかり【姫城主】が現れていた。
「う、嘘!」
「おめでとうシャロン。これで君は【姫城主】だ」
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