第664話 突撃のゼフィルス先生、〈51組〉へ訪問!
「着きましたわゼフィルスさん。ちょっと待っていてくださいまし」
「おう」
〈51組〉に到着し、まずリーナが先に中へと入る。俺たちの訪問の許可を得るためだ。
思い立ったが吉日。
ということで俺たちはあれからすぐに〈51組〉へと向かっていた。
何しろ〈転職制度〉を希望する学生、というか中位職以下の学生は大半が通学しているからな。
これには〈転職制度〉のとある取り決めが関係している。
それは「転職し高位職に就いた学生は2年半の間、学園に通うことが許可される」というものだ。
これは全学年で共通であり、今まで
今までは一度
しかし学園が面倒を見てくれるというのなら話は別だ。
最初から学びなおせるために、〈転職〉へのハードルを大きく下げることになり、今では中位職以下のクラスの学生はほぼ全てがこの制度に応募している。
つまり、現在〈51組〉にはリーナ以外全員が通学しているということだ。
「ゼフィルスよ、ここはエリートになりきれなかったクラスとしてそこそこ名が知れたクラスだ。大丈夫なのか?」
「俺に不可能は無い」
「たははは~」
同行するのはメルトとミサトだ。付いてきてほしいと頼んでいた。
そのうちメルトがチラッと俺を見て言ってくる。
今でこそクラス対抗戦の影響で〈51組〉はやはりエリートだったと言われているが、少し前まではメルトの言うとおり、「エリートになれなかったクラス」なんて呼ばれていた。
その理由は隣のクラス、〈50組〉までが高位職のクラスであり、〈51組〉からが中位職クラスというのが関係している。
しかし逆に言えば、高位職になれなかった者たちの中で最も上位にいる人物たちのクラス、――それこそが〈51組〉だ。
もし高位職であったならエリートと言われていた人たち。
そして、メルトたちの本当のエリートクラス〈8組〉みたいにカテゴリー持ちが多く集まっているクラスでもある。
そんなクラスに学年最高峰の〈1組〉所属である俺、ミサト、そしてエリートクラスの〈8組〉所属のメルトが訪問する。
メルトが心配しているのはそういうことだ。
しかし、その心配は無用だと思うぞ。
瞬間、リーナが入った教室の扉が勢い良く開かれた。
「ゼフィルス氏が来たというのは本当かーーーー!!!!」
「うるさい」
「たははは~」
本人が目の前にいるのに高らかに叫んだのは白衣を着た、見るからに研究員という容貌の若い女性。
おそらく〈51組〉の担当研究員だろう。白衣の胸の位置に地図模様のラバーワッペンのシンボルが見える、ってこの人「公爵」持ちかよ!
メルトがけたたましい叫びに抗議をしているほどテンションが高いんだが。
本当に「公爵」「姫」なのだろうか?
取り合えず返事をする。
「俺がゼフィルスですよ。初めまして」
「いや久しぶりだ。私は何度かあっているぞ。いつも所長の後ろに控えていたから話したのはこれが初めてになるがな」
おや、それは失礼。気が付かなかった。
いや、あの横一列にならぶ研究員を覚えるとか不可能だわ。
それともミストン所長が濃すぎたということだろうか? どっちもあるな。
「私はラミィエラス。ラミィ研究員と呼んでくれ。今日はこの〈51組〉の担当研究員をしている」
自己紹介をされたが、俺のことはすでに知っているという事なのでこちらの自己紹介は省略する。
「ラミィ研究員、突然邪魔してすみません。ちょっと頼まれごとをされまして――」
「安心してくれ、ゼフィルス氏を邪魔なんて思ったこともない。いつでも来てくれて構わないぞ」
いや、仕事の邪魔はしないぞ?
「ささ、中に入ってくれたまえ」
そうして俺たちは〈51組〉に案内された。
「さて諸君、大変嬉しいお知らせだ。この〈転職制度〉のきっかけとなる高位職の――」
「ごほんごほん」
「――あーっと〈転職〉の素晴らしい影響、効果について独自の見解を発表したゼフィルス氏だ! 今日は貴重なアドバイスをいただけるぞ」
今このラミィ研究員、俺が高位職の一角を教えたと言いそうになったな?
それは内緒だっちゅうに。
ただ、〈転職〉の本来の意味やなんやについてはゼフィルス先生の講義で説明しているので問題はない。
俺たちが教室に入ると教室内がざわざわする。
「あ!」
「うそ、ほんとに!?」
「本物のゼフィルスさんだ!」
「勇者だ!」
はい。勇者です。
うむ、大体の人たちには受け入れられているな。
教室内にいたのは、やはり〈51組〉のほとんど全員だった。
こうして俺が受け入れられているのはやはりゼフィルス先生として講義していたことが大きいだろう。教員としての実績があるからだな。
俺が受け持った学生もそこそこ多いんだぞ。メルトが気にしていることにはならない。
「みなさんお静かに願いますわ」
教壇近くまで進むとリーナが前に出てクラスメイトに言い聞かせる。
すると先ほどのざわめきがピタリと止んだ。リーナがクラスを掌握している件。
「今日ゼフィルスさんが来たのは、その、わたくしがカタリナさんの件で頼んだのがきっかけですわ」
リーナがそう言うとクラスの視線が1人に集まった。あれが「侯爵」のカテゴリー持ち、カタリナさん。黒く長い髪が印象的な美少女だ。
儚く俯く姿はやまとなでしこを思わせる、今は上目遣いで希望にすがるように俺を見つめていた。
「例の発現していた
ラミィ研究員が見解を述べる。
それを聞いてカタリナさんは再び肩を落とした。
そう、ラミィ研究員の言うことは正しい。
実は〈ダン活〉には、発現していた
例えば【盾姫】の特殊条件〈【
これはつまりLV29までは【盾姫】は発現しているが、LVが30になった時点でジョブ一覧から消えてしまうということだ。
そして一度消えたら再び発現することは、ない。
こういう〈経験したことがない〉系は一度ジョブ一覧から消えたら二度と再発現しないのでやっかいなのだ。
その代わり、これで就けた
さすがの俺でも、こればっかりはどうしようもない。が、しかしである。
「侯爵」には少なくともその条件はないので安心してほしい。
「大丈夫だ、俺に任せろ。とりあえずカタリナさんはこれ持ってもう一度測定室に行って来てくれ」
「……へ?」
そう言って俺が渡したのは〈ギフトボックス〉と呼ばれる、手乗りサイズのただの箱だった。
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