第十三章 第二回大面接と〈転職制度〉にクラス替え!

第663話 ジョブ一覧からジョブが消えるミステリー。




 ギルドバトルが終わった翌日。

 9月も残り1週間。そしてきたる〈転職制度〉まで1週間に迫ったこの日。


「ゼフィルスさん、た、助けてください! カタ、カタリナさんが、カタリナさんの発現していた高位職が、消えてしまったんですの!」


 その日はリーナの悲痛な叫びから始まった。




「詳しく聞かせてくれリーナ」


 俺はそれを真摯に受け止める。

 デスクに両肘を置いて指を交差させる、いかにも思い耽っているポーズでリーナの言葉を咀嚼した。

 ギルド部屋にいたメンバーがどうしたのと注目する中リーナが状況を説明する。


「今日は例の〈転職制度〉にまつわる第二回目の発現職業ジョブチェックの日でしたわ」


「ああ、重要な日だ」


 俺はうむ、と頷く

 そう、リーナの言うとおり今日は〈転職制度〉を希望する学生を対象にした、第二回目の発現している職業ジョブ一覧をチェックする日だった。


 なぜ第二回目をやるのかというと理由は色々ある。


 一つは単純に研究のためだ。

 この学園で、いや世界中で今最もホットな研究『職業ジョブの発現条件の解明』それに協力するためだ。〈転職制度〉を受ける条件の一つだな。


 この研究が遅れている原因の一つとして、こうして発現条件のチェックを逐一していなかったというものがある。

 俺たち〈ダン活〉プレイヤーからしたら信じられない所業だ。

 ゲーム〈ダン活〉時代、まだ職業ジョブの発現条件が解明されていなかった時代、俺たちはかなりの頻度でどの職業ジョブが発現しているかチェックしたものだ。

 そして見知らぬ職業ジョブが発現していればそれまでの記憶を漁り、何が原因だったのかを突き止めたものである。


 地道なチェックこそが職業ジョブの発現条件を見つけるのだ。

 それがこの世界では〈転職〉は忌避すべきものとしてだーれもチェックしていなかったのである。

 そりゃ研究は進まんわ!

 あまりに当たり前の作業過ぎて研究所がそれをしてないと知ったのもつい最近だったほどである。


 チェックしろよ! というか毎日チェックしろ!?

 とはさすがにゲームではないリアルでは言えないが、それでもチェックの頻度を増やすべきだと進言しておいた。研究所のミストン所長も重々しく頷いていたよ。


 これで1回目にチェックしたとき発現していなかった職業ジョブが2回目に発現していれば、その条件を絞り込みやすくなる。


 そしてもう一つ、大きな理由があった。


「わたくしは〈51組〉の教室でみなさんの結果を待っていたんですの。それで前回のチェックで高位職に発現していたロゼさん、フラウさん、カタリナさんが戻ってきたのですが……、カタリナさんだけジョブ一覧から高位職が消えていて……」


 目を伏せて辛そうにそう語るリーナ。

 何があったのか想像に難くない。

 確かカタリナさんとは、あの夏休みの時にリーナと一緒にいた子にして〈拠点落とし〉では箱入り魔法使いとして拠点の前に立ちはだかった、将来有望な子だったはずだ。


 そう、もう一つの大きな理由とは、一度発現していたのにも関わらず、その職業ジョブが後日消失してしまうことがあるからだ。


 しかも高位職なほど起こりやすい。

 この世界では〈転職〉の即断即決は基本しない。リアル人生が掛かっているからだ。

 だからたとえ高位職が発現していたとしても〈転職〉は悩ましいほど悩むのだ。

 しかし、いざ決めて〈転職〉しようとしたら、以前発現していた職業ジョブが消えていた。

 そんなことが度々報告されている。


 奇奇きき怪怪かいかいのこの現象、この世界では未だに原因が分かっていないのだそうだ。

 それはつまり一度消えた職業ジョブを取り戻したくても原因が分からないので不可能ということを意味する。

 しかしどうしても取り戻したい。そしてリーナが頼ってきたのが、この俺だったというわけのようだ。


 語り終えたリーナが片手を胸に当て俺をまっすぐに見つめて言う。


「お願いしますゼフィルスさん、どうか、どうかカタリナさんの職業ジョブを取り戻してはいただけないでしょうか?」


 大切なギルドメンバーの願い、俺の答えは決まっている。


「俺に任せとけリーナ。必ず職業ジョブを取り戻して見せる!」


「! ゼフィルスさん!」


 俺の宣言にリーナは口に手を当てて潤んだ目で見つめてきた。


 左手の親指を己の心の臓に指差し、任せとけ的な決め顔を作ってみた。

 フッ、かっこよく決まったんじゃないだろうか?


「あれは、いつものゼフィルスね」


「また何人か引っ掛けてきそう。付いて行った方がいいかしら?」


「聞けばリーナ殿のご学友みたいですからね。女学生でしょう」


「う~ん、〈エデン〉の枠は残り1つなんだよね。でも〈アークアルカディア〉なら8枠ある、けど~、これひょっとすると大面接前に埋まっちゃうんじゃないかな? 監視がいないといけないかも」


 メンバーのざわざわとした声が聞こえてくる。

 シエラ、ラナ、エステル、ミサトがこそこそ何かを話していた。どうしたのだろうか?


「あ、でもこれから行くのって〈51組〉なんだよね? そこには例の伯爵さんがいるところだよ?」


「お?」


 ミサトの声が聞こえて反応する。

 メルトとミサトには伯爵の勧誘を頼んでいた。

 メルトが伯爵子息なので、知り合いはいないかと勧誘を頼んでいたのだが、〈51組〉だったのか。

 ふむ、これは俺が自然に〈51組〉に行くチャンスじゃないか?

 俺はリーナに確認を取ってみる。


「リーナ、〈転職〉を希望するクラスメイトはどのくらいいるんだ? というか教室に残ってるか?」


 俺の質問にリーナはキョトンとした。

 今日はダンジョン週間の水曜日だ。本来ならば学園は休みになる。

 しかし、発現条件の研究という名目で、〈転職制度〉を希望する学生はほぼ通学している状況だ。

 対象の学生たちがまだ教室に残っているのかの確認だった。


「は、はい。研究員さんの協力がありますので午前中はいると思いますが」


「よし、なら今から行こう! ついでに新メンバー確保だ! メルトとミサトも付いてきてくれ」


「……へ?」


 俺の言葉にリーナはこてんと首を傾げたのだった。




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