第659話 北西方向激突戦、闇バーサクVSアポカリプス
時間は少し巻き戻り、場所は西側。
Z型の観客席の西の位置にて、〈テンプルセイバー〉が集まり、攻めに出ていた。
二巨城同時攻撃だ。
〈テンプルセイバー〉の西の人数は7人。騎乗しているメンバーが6人、ヒーラーが1人の構成だった。
対するは〈エデン〉メンバーであるエステルとカルア。
リーナの指示を受けて真っ先に到着したのは西側で小城集めをしていた2人だった。
後スリーマンセルで行動しているはずのシエラ、シズ、メルトはまだ到着していない。
少し遠くにいたのだ。
そして本拠地にはラナとリーナが控え、万が一に備えている。
「『エステルさん、無理しなくても良いですわ。〈北西巨城〉は渡しても問題ありません』」
「了解しました。ではシエラ殿の部隊との合流を優先いたします」
〈テンプルセイバー〉の対人での錬度は目を見張るものがある。
6人一塊になって動くその姿は完璧な騎馬突撃だった。
元Aランクは伊達ではない。
「カルア、下がりましょう、保護バリアを張ります」
「ん。あれ、手ごわい」
ゼフィルスからも対人には十分注意し、無理なら素早く撤退するよう指示されている。
一見ヒーラーが孤立しているようにも見えるが、だからといって討ち取りに行けば、エステルとカルアは戻ってきた6人の騎馬に蹂躙されてしまうだろう。対人戦を仕掛けるときでは無い。
こういうときのために赤マスを少数残してあり、エステルたちは東へと引いてそれを取得することで保護期間を張って身を守る。
あとはシエラたちが追いつき合流する予定だった。
保護期間中のマスを通ることは出来ない。
〈テンプルセイバー〉はエステルたちを追わず、そのまま巨城の攻略に入った。
そのときにはすでにエステルたち5人は集合していた。
「アレには、手が出ないな。強い」
メルトが単眼鏡で〈テンプルセイバー〉の7人を見つめてそう呟いた。
「相手は上級職が5人はいますね。有名どころの方々です。上級職のLV15だとか」
「こっちの上級職は4人。人数差もあるがレベルが一番ネックか」
シズの言葉にメルトも頷いて返すしかない。
さすがは上級生。メンバー全員が中級上位ダンジョンのLV限界である上級職LV15とは恐れ入る。
〈エデン〉の上級職はシエラ、エステル、カルア、そして新しく上級職に就いたシズだ。
まだ〈エデン〉はエステル以外LVが低く、レベルの差も、人数差も不利だった。ならば対人戦は難しい。
「『メルトさん、対人戦が出来ないのであれば』」
「小城マスで有利を取るチャンスだろう」
小城マスは手分けして取得するからこそポイントが溜まる。あんなに部隊をまとめていては小城マスは取りにくい。
〈エデン〉はこの機会に小城マスをガンガン取得することにした。離されていた小城マスの有利を取り返す。
相手が巨城攻略中に少しでも小城マスの差を縮めたい狙いだ。
相手を警戒しつつも再びエステルたちは部隊で別れ、小城を取り続けていると、リーナからまたも通信が入る。
「『〈テンプルセイバー〉動きましたわ! 二つに分かれ〈北東巨城〉と〈本拠地〉へ向かってきます!』」
「どっちに対応したらいいリーナ?」
「『本拠地ですわ! みなさん東へ向かってください。本拠地から西へ6マスの地点で迎え撃ちます!』」(図S-13)
「了解した」
〈北西巨城〉を落とした〈テンプルセイバー〉は部隊を分け、白チームが保有する〈北東巨城〉を狙う部隊と、本拠地へ向かう部隊へと分かれた。メルトたちにとって本拠地に向かう部隊を止めることが重要だ。
リーナの指示にすぐに目的のマスへとたどり着き、5人は陣形を組む。
〈テンプルセイバー〉は4人。騎乗した騎士は3人と、後ろを追いかけるヒーラーが1人のようだ。
〈本拠地〉へ向かおうとする4人をメルトたち5人で迎え撃つ。
「待ち伏せだ!」
カサンドがメルトたちに気が付く。
まるで〈テンプルセイバー〉の動きを察知していたかのような素早い展開だった。
いや、実際察知していたのだろう。あのクラス対抗戦決勝戦はカサンドも見ていた。
〈エデン〉のメンバーが使っていた〈竜の箱庭〉によってこちらの動きは把握されているだろうことはわかっていた。
だからこそ、〈テンプルセイバー〉が人数を分ければ対人を仕掛けてくることは予想の範囲内だ。
「笑止! 我ら〈テンプルセイバー〉の実力侮らないでもらおうか! ゆくぞ!」
「「応!!」」
カサンドの檄にメンバーが気合を返す。
〈テンプルセイバー〉とて弱いということは無い。むしろ対人は得意分野だ。
伊達に今まで対人でギルドバトルを制覇してきたわけではないのだ。
「「「『ホースドライブ』!」」」
3人がスキルを発動。〈馬〉に乗っているときに発動するドライブ系だ。
グンっと加速したかと思うとメルトたちに向かって突撃する。
対人戦上等だった。
「来るぞ! 『クイックマジック』! 『ヘイストサークル』! 『フリズドスロウ』!」
「『
「撃ちます。目に注意してください――『閃光弾』!」
対する〈エデン〉組は【賢者】のメルトが素早さ上昇系のバフを発動し、続いて相手を低確率で〈鈍足〉と〈氷結〉にする攻撃魔法を放つ。
さらにシズが『閃光弾』で〈盲目〉を狙うが。
「全て回避するか!」
「〈盲目〉の耐性も持っていますね」
騎馬が素早く左右に分かれたことでメルトの攻撃は回避され、シズの『閃光弾』は誰にもヒットしなかった様子だ。
エステルの言うとおり、『盲目耐性』スキルを用意してきていたようだ。
だが、それで終わるシズではない。
「では罠ではどうでしょう?」
「む!?」
突如として〈馬〉の足が弱まった。
カサンドが下を見ればそこには網目状のロープ罠が張られており、〈馬〉がそれに引っかかりつつも強靱な強さで進もうと奮闘していた。状態異常の一つ〈鈍足〉状態だ。
これはシズの『地雷罠設置』の上位ツリー、〈四ツリ〉の『ミラージュトラップ』で隠していた罠だ。
『地雷罠設置』の時は〈地雷〉しか効果が無かったが、『ミラージュトラップ』は他の〈罠〉カテゴリーでもインビジブルで隠してしまい、見つけにくくしてしまう。
そして、待ち伏せに網目状のロープ罠を張っていたシズは、『閃光弾』などで乗り手を直接狙い足下を疎かにさせたうえで罠に嵌めたのだ。
これによってカサンドらの『ドライブ』系は完全に潰され、いい的のできあがりになる。
「今です! 『マルチバースト』!」
「『フレアバースト』!」
シズとメルトの超威力の攻撃が動きの鈍くなったカサンドらへ向かう、しかし。
「何のこれしき! 『ダークブラッディバスター』!」
カサンドがフレンドリーファイアをものともせず罠に向かって剣から闇の波動を放つと、罠が吹き飛んで破壊された。
「散れい!」
「「応! 『ブーストドライブ』!」」
罠が破壊されたことで自由に動けるようになった騎士たちが慣れた動きで散開し、シズとメルトの攻撃範囲からギリギリで避ける事に成功した。
これでも対人で名を馳せたギルドだ。以前の失敗から罠への警戒度を上げて対処法を練り上げていた。
「やりますね」
「うおおおお!!」
さらに散開して〈エデン〉メンバーが他の騎士たちに気を取られた隙にカサンドが突撃を仕掛けてきた。だが、
「食らえ『ダーククラッシュエッジ』!」
「『鉄壁』!」
前に出てカサンドの攻撃を盾で受けるのはシエラだ。
カサンドだってクラス対抗戦を見て研究していた。シエラは遠距離攻撃にはめっぽう強いが、接近戦をすればまだ抑えることが可能だということを。
そして一番厄介な存在であることも分かっている。
「俺が抑えているうちに討て!」
「『ハイ・ソード』!」
「ん。『64フォース』!」
「『連斬双激突』!」
「『
〈エデン〉メンバーを挟み込むようにして2人の上級職が〈四ツリ〉のスキルを発動し、後衛のメルトとシズに仕掛けてきた。
しかし、これはカルアとエステルによって阻まれる。
いや、阻まれたように思えたが。
「軽い!!」
「ん、んにゃ!?」
長剣を持つ【ペガサスナイト】の男子による一撃が重く、カルアが力負けして吹き飛ばされたのだ。上級職LV15は伊達ではない。
「『ライトニングスタン』!」
「『魔弾』!」
だが、カルアが吹き飛ばされたことに動揺もせず、しっかりメルトとシズは援護を放った。
「くっ!」
【ペガサスナイト】の男子も盾で身をかばいながら駆け抜ける。
もう1人はエステルによって押さえつけられていた。エステルは〈エデン〉でトップのSTRを持つ。簡単に負けることは無い。
まずは一当て、連携では〈エデン〉は負けてはいない。
レベル差があっても互角に近い勝負が出来ていると思われたが、そこへリーナの通信が届いた。
「『北の赤部隊3人が減速、タイミングを図っていますわね。狙いは側面からの突撃ですわ!』」
それは〈テンプルセイバー〉の〈北東巨城〉へ向かった3人が、〈北東巨城〉へ行くと見せかけてメルトたちの側面に奇襲を仕掛けようとしているという連絡だった。
普通ならばマズイ展開だろう。
拮抗した戦場に援軍、しかも側面からの攻撃だ。
分かっていたとしても戦力が足らず、敗北は濃厚となる一撃。
しかし、当然ながらそれはリーナが読んでいた。
「援軍です!」
「行かせはせんぞ!」
エステルの声にカサンドが吠える。北側の側面部隊が突撃してきたところだったのだ。
そこへ、
「『来ました! 今ですわ、シズさん!』」
「『マルチトラップ』発動です!」
リーナの指示によりシズが何かしらのスキルを発動した瞬間。
メルトたちが戦っている戦場の2マス北側でなにやら爆発が起きた。
「な、なあ!? ルーシェ!?」
「『グッジョブですわシズさん! 2人ほど巻き込めました! さすがに固くて一撃では倒しきれませんでしたわね』」
そう、今のは遠隔トラップ爆弾。
シズが持ち込んだハンナお手製地雷アイテムがリーナの指示によりタイミングよく爆発したのだ。
おかげで2人が吹っ飛び、側面からの奇襲が失敗に終わる。しかも、
「『今ですわラナ殿下』!」
リーナの声の後、本拠地から光の四つの宝剣が飛び出した。
それはラナの〈四ツリ〉魔法『大聖光の四宝剣』。
本拠地にて〈白の玉座〉に座ったラナが側面から奇襲しようとして失敗した部隊に向けてぶっ放したのだ。
ここは本拠地に近い、ラナのテリトリーだった。
この攻撃が突き刺さり、トラップに巻き込まれた2人のうち下級職だった1人が退場してしまう。
さらにこの隙を逃さず1人の女子、さきほどレナンドルに助言をしていたルーシェへと、シズが向かう。ルーシェはただ1人トラップの被害を免れていたからだ。
〈テンプルセイバー〉はこれで残り6人。ここはラナの攻撃圏内であり、実質6対6になった。向こうのヒーラーがなんとかダッシュして回復し立て直そうとしているが、足の速さ的に追いついていない。
すべてはリーナの予測の範囲内である。
しかし、ここで予想外が起こった。
「う、うおおぉぉぉぉ!! 〈白の玉座〉を下せぇぇ!! 『ダークナイト・バーサクモード』!」
ラナが座る〈白の玉座〉を見たカサンドが狂化したのだ。
カサンドの
〈闇属性〉を多く操る【騎士】ではあるが、アタッカーに特化し、我を忘れて全身を
カサンドは〈白の玉座〉見た瞬間、反射的にバーサク系スキルを発動。
乗っている〈馬〉が巨大化し、手に持つ剣も巨大化、格好も暗黒色に包まれて、全身暗黒鎧を着る一体の闇の化身へと変身する。
「!! 『ディバインシールド』!」
「おおおおおお!!」
暴走状態となって我を忘れてしまったカサンドをシエラの四つの盾がクロスして合体し防御する、しかし強力な防御スキルを鷲づかみ、無理矢理すり抜けてラナのいる〈本拠地〉へと向かってしまう。
「!! 抜かれた!」
シエラが抜かれた。これすなわち非常事態だ。
怒りモードのモンスターとも違う、攻撃するではなく、我が身を省みず全力で抜こうという行為。
さすがのシエラでも、この行動は経験がなかった。
いや、カサンドの我を忘れても〈白の玉座〉への執念が、最後に不可能を超えてしまったのか。
「ラナ様!」
「行かせん!」
「どきなさい! 『ドライブ全開』!」
珍しく声を荒げるエステル、即『ドライブ全開』によりすり抜けるが、しかし今から追いかけても追いつけない。
闇バーサク状態はスピードも上昇させてしまうからだ。
「ん! ユニークスキル『ナンバーワン・ソニックスター』!」
そこへ追いつくのはカルア。カルアのトップスピードは伊達ではない。しかし、
「止める! ――『スターバースト・レインエッジ』!」
「おおおお!! 邪魔をするなああああ!!」
「あぐっ!」
側面から連続攻撃を〈馬〉に向けて放つカルアだが、鎧によってダメージは軽減され、さらに闇バーサク状態は痛みを忘れノックバックを無効にしてしまう。
カルアの攻撃にほとんど影響を受けていないカサンドが剣を振るうと攻撃中のカルアはろくに防御も出来ず吹っ飛んだ。
しかし、カルアが攻撃した甲斐はあった。メルトが間に合い、立ちふさがったからだ。
「『ホーリーブレイク』!」
相手の攻撃を相殺する『ホーリーブレイク』これは狂化を無効化することは出来ない。
しかし、闇バーサク状態は〈聖属性〉が弱点だ。
先ほどのカルアのときとは違い、大きくダメージが入る。
だが止まらない。カサンドはノックバック無効があることで止まらずに攻撃を受けながらも突き進む。
「『フリズドスロウ』! 『ライトニングスタン』! 『シャイニングフラッシュ』! 『メガホーリー』! 『メガシャイン』!」
「どけえぇぇぇ!!」
メルトの攻撃が何回も直撃するも最後まで受けきってしまう。
もうメルトとカサンドの距離はほとんど無い。
メルトは覚悟を決め最後の攻撃を使うのと、カサンドの闇の剣がメルトを突き刺すのは同時だった。
「『アポカリプス』!」
直後、「ドガァン!!」という巨大な爆発が巻き起こる。
メルトの最後の魔法、ゼロ距離ユニークスキル『アポカリプス』だ。
そして爆発の煙が晴れたとき、そこにはカサンドもメルトもいなかった。
―――――――――――――
後書き失礼いたします。昨日見られなかった方向け。
小説3巻の発売日は2022年9月10日!
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817139555995101415
コミカライズは2022年9月1日です!
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817139555994906935
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