第641話 レアボス〈鉄嶽獣・ドンコンガ〉戦、撃破!




「『アピール』! 『ヘイトスラッシュ』!」


 ヘイト稼ぎはなんとか順調だ。今の所ヘイト負けしていない。

 できれば避けタンクした方が溜めたヘイトが減り難くていいのだが、この〈鉄嶽獣てったけじゅう・ドンコンガ〉は素早いうえ、両腕による殴りをメインにしてくるせいで避けづらい。


「ウホ! ウホホ! ウホホホ!!」


 ストレートパンチ、振り下ろし、薙ぎ、アッパー、チョップ、ダブルスレッジハンマー、さらに岩投げ。

 時々ボディプレスまでしてくるのでタンクはまったく気が抜けない。


「! 『ガードラッシュ』!」


 俺は『直感』と『超反応』に身を委ねつつ出来るだけ回避し、出来なければ防御し、カウンターで攻撃を加えてダメージとヘイトを稼ぐ。

 これが勇者のタンク。避けタンク&受けタンク戦法。


 勇者は『直感』と『超反応』が非常に優秀なコンボで、物理攻撃、遠距離攻撃に対し、強力な回避性能を持つ。夏休み前まで割と『超反応』に振り回されていたんだが、何とか夏休みの特訓でコツを掴んだ。

 受けタンクの素の腕前としてはシエラに敵わないが、対モンスターのタンクであれば俺もかなり出来るようになったんだぜ?


「『大回復の祝福』! 『守護の大加護』! 『生命の雨』!」


 さらには我らが王女様、ラナの回復魔法もある。

 防御力はそれなりにあるし回避も結構出来る、しかし純粋なタンクと比べると受ければダメージは結構食らうので優秀なヒーラーがいてくれると大安心だ。


 ラナが後ろにいるからこそ安心してタンクが出来る。もちろん、やばくなったら自分に回復を掛けるという手も残ってる。


 とはいえ今は『勇気ブレイブハート』のおかげで素早さも超上がっているので回避余裕だ。

 これが切れる前に相手の攻撃の速度に慣れるのが目的。

 とはいえゲームでは幾度も見てきた攻撃だ。パターンは分かっているので後は速度に慣れるだけだ。ふむふむ、このタイミングだな。


「ウホ!」


「ここでカウンターの『聖剣』!」


「ウホァ!?」


 ドンコンガがフック系の巻き込みパンチを打ってきたのでバックステップで回避しつつ腕に『聖剣』を叩きこんでやる。

 今のは上手く決まったのではなかろうか? ちょっと格好よかったじゃない?


「もはや勇者君の動きはタンクではないよね。アタッカーが5人みたいなものだよ。中級上位チュウジョウのレアボスを相手にこんな攻撃一辺倒で本当にいいのかね? いや上手くいっていて大変結構なのだが」


 後ろで通常攻撃を「バキュン、バキュン、ニャー」しているニーコの声が聞こえてくる。

 なんだか呆れたようなイントネーションだ。

 照れるぜ。

 当然、こうしていい流れを作れているのは理由がある。


 このドンコンガは物理攻撃特化だ。魔法攻撃は行なってこない。

 近距離が被害に合いやすいため遠距離攻撃推奨、あの素早い身のこなしに遠距離から当てられるのであれば割と余裕で勝てるのだ。

 とはいえタンクの問題もある、ドンコンガはタンクをするのが割と苦しい。自身をドラミングで強化し、攻撃力の強い連打攻撃を放ってくるために受けタンクであっても一気にやられることもあるし、避けタンクであれば避け切れないほど素早い攻撃を放ってきてやられてしまう事もある。攻撃力、素早さを兼ね備えた非常に厄介なモンスターだ。


 理想は受けタンクも避けタンクも出来て、数撃食らっても耐えられるだけの防御力があって、あの素早さに対して避けタンクが出来る者。

 そう、俺だ。つまり勇者タンクはドンコンガに相性がいいんだ。


 まあシエラでガッチガチのタンクをしたり、ラクリッテでデバフタンクするのも全然有りだけどな。リカは、連続攻撃に弱いので相性が微妙に悪い。



「私も負けるわけにはいきません、続きます。『ロングスラスト』! 『閃光一閃突き』! 『トリプルシュート』!」


 うむ、エステルも暴れるドンコンガの側面や後方からヒットアンドアウェイでダメージを稼いでいるな。

 タンクがタゲ取っているからといって深入りしてはいけない。

 ドンコンガはジャンプしてのボディプレスや、手を広げて回転する周囲ラリアット、距離を取って飛び掛ってくるマウンテン突進などで周囲にいるアタッカーも巻き込み攻撃してくる。

 しかもダメージがやたら高いのでアタッカーはヒットアンドアウェイを意識することが重要だ。


「ウホ!!」


「ぐお!? ラナ、回復頼む! やったなこんにゃろめ!」


「いいわ! どんどん私に頼みなさい! 『回復の願い』!」


 3分経過。『勇気ブレイブハート』が解けてスピードが落ちたタイミングでぶん殴りを食らったのでラナに回復を求めた。

 ちゃんとぶん殴るとき引き手をしっかりしているのに開発陣のこだわりを感じる。格闘家かな?


「ウホホ!?」


「お、おあたっ!?」


 またストレートパンチが当たり、反撃に『ハヤブサストライク』を打ち込んでやったが、直後ハンマーナックルが直撃した。相打ちは避けられません。

 スピードが下がったところで被弾が増すようになった。

 くっ、スピードが足りない! 攻撃を挟むのは難しくなってきたな。避けタンク&受けタンクに集中するか。


「ラナ! 迅速と回復を!」


「ゼフィルスしっかりしなさい! 『大回復の祝福』! 『迅速の大加護』! 『守護の大加護』!」


 いやあ、バフ無しでは難しいですわ。さすが中級上位のレアボス。

 素だと一撃で20%から30%くらいダメージを受けるのでバフは必須だな。

 来ると分かっていてもスピード不足で避けられんこともある。


 しかしラナの『迅速』バフを受けたからにはもう当たらないぜ?


「あだ!?」


 あ、範囲攻撃は別な。誰か無敵な回避スキルください!


「もう! ゼフィルスったら、回復するわね!」


 もう、とか言ってるくせにラナの声が楽しそうだ。


「ゼフィルスさん、ヘイトを稼いでくださいませ! ラナ殿下は攻撃を少しお止めくださいませ!」


 おおっと、どれだけ動けるか見てみようとしたら、ヘイト稼ぎが疎かになってた。回避に集中しすぎたな。

 さらに言えばドンコンガの攻撃を受けすぎてヘイトが下がってしまったのだ。おかげでバフ、回復、攻撃をしまくっているラナのヘイトが俺を上回りそうとリーナは懸念したわけだ。リーナナイス!


「『アピール』! 『ヘイトスラッシュ』!」


 隙を突いてヘイトを稼ぐ。

 挑発系スキルは『カリスマ』を除けばこの2つしか無いが、上級職【救世之勇者】には『クールタイム軽減』があるので回転率が高く割とヘイトは稼げる。

 しかし、そろそろ解禁でいいだろう。


「そして『カリスマ』!」


『カリスマ』スキル、解禁だ! 『クールタイム軽減』のおかげでクールタイムは僅か5秒。使いすぎたらMP大ピンチだが、今日はこのボスで終わりの予定なのでMPは贅沢に使っちゃってオーケーだ! 俺が許す。


 ヘイト稼ぎに集中し出すと、リーナから許可が出たのか、またラナが宝剣をぶっ放しはじめた。リーナもニーコも銃撃し、エステルも隙を突いてヒットアンドアウェイで攻撃する。


「ウホホホホ!!」


 するとドンコンガが「ガァンガァンガァンガァン」と激しい金属ドラミングをしだす。


「あ、ユニークスキルが来るぞ!」


 吹き飛ばし効果のあるドラミングを連続で行なって俺たち近距離を引き剥がしたら、次はユニークスキルのパターンだ。

 全体攻撃、シエラの『インダクションカバー』でも防げないアレが来る! しかし、対策はあるぜ!


「全員部屋の角へ避難! エステル!」


「はい! 『アクセルドライブ』!」


 打ち合わせ通りすぐに動く。

 このドラミングが終わるとユニークを使うので時間との勝負だ。


 ニーコが〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から〈サンダージャベリン号〉を取り出した。

〈馬車〉は今回ニーコが持っていた。全てはこのユニークスキルを回避するため。

 取りだした〈サンダージャベリン号〉にラナ、リーナ、ニーコが乗り込むと、すぐにエステルがやってきて装備を換装。〈サンダージャベリン号〉を装備した。


「しっかり掴まっていてください。『オーバードライブ』!」


 そうして三人を乗せた〈馬車〉はすぐに部屋の四隅の一つ、このユニークスキルの安全圏へと避難することに成功する。


「コン、ガァァァァァァ!!」


「鳴き声がさっきとまったく違うぞ!?」


 瞬間ドンコンガが一気に大ジャンプしたかと思うと、その大きさが膨れ上がった。巨大化したのだ。そして四肢を伸ばす体勢で降ってくる。

 これが〈鉄嶽獣てったけじゅう・ドンコンガ〉のユニークスキル――『ドンコンガ流・ジャンボコンガボディプレゼント』だ。


 その巨大さはさっきの10倍を軽く越える。もう部屋一面にドンコンガの体で寝転がるようにしてうつ伏せで降ってくる。

 これ、ぺちゃんこにされたらいったいどうなるのかは定かでは無い。いや知ってるけど。

 下級職のパーティが割と高確率で崩壊する恐ろしいユニークスキルだ。


 タンクはダメージカットすれば生き残れるだろうがアタッカーもヒーラーも全滅するのでその後の立て直しが難しく、これをのり越えることがかなり難しい。


 まあ、即死確定なんてゲームは無いのでちゃんと安全圏が存在する。

 それが部屋の四隅よすみだ。

 ただ壁の側にいるだけだとボディプレスの衝撃だけでなぜか結構ダメージを食らうので、できれば四隅よすみを推奨。四隅なら小ダメージで済むためアタッカーもヒーラーも余裕で生き残ることが出来る。

 逆に言えば、そこにいないと生き残れないのだから恐ろしい。


 相変わらずユニークの範囲と威力がぶっ飛んでるぜ。


 そうしてとんでもないボディプレスを行なったドンコンガはユニーク発動後元の4メートルサイズまで縮み、少しの時間を掛けて起き上がる。

 ユニークの後はダウンが取りやすい。なのに四隅に避難していると攻撃出来ず、ダウンを取れないのがこのドンコンガのいやらしいところだ。まあ、


「『特大回復の奇跡』!」


 俺のHPバーがそれを受けて全回復した。


「防御スキルで耐えれば攻撃出来るんだぜ! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「ウホァァァ!?」


 簡単なことだ。タンクなら防御スキルで耐えられるのだから俺だって耐えられる。

 俺はちゃんとボディプレスを受けていたのだ。結構重かったが、HPが有る限り潰れる事はないからな。結構怖かったけど。


 そうしてドンコンガがゆっくり立ち上がろうとする所に俺がユニークスキル、『勇者の剣ブレイブスラッシュ』をたたき込み、奴はなすすべ無くダウンした。


 いやあマジで潰れるかと思ったぜ。


 大迫力、一面ゴリラのシックスパックが降ってくる。


 なんて貴重な体験だろう。

 だが重さで潰れることも怪我をすることも無く、『ディフェンス』で耐えて耐えて、耐えきったよ。むちゃくちゃ重かったけどな。ステータスってすごい。


「全員、総攻撃だ!」


「行きますわよ! ユニークスキル発動――『全軍一斉攻撃ですわ』!」


「『ドライブ全開』!」


「『大聖光の四宝剣』! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』!」


「撃てー撃てー撃てー!(バキュン、バキュン、ニャー)」


 総攻撃の指示でリーナがユニークスキルを解禁。

 ここで一気に決めてやっぜ! 全員でMPを気にしない全力攻撃を放ちまくる。


 エステルも再び〈蒼き歯車〉に換装してかっ飛ばしてやってくると、ここで屠るとばかりにさらにユニークスキルを解禁した。


「決めます。――『姫騎士覚醒』!」


 こうなったらもうボッコボコだ。ラストだからな。MPを全部消費するつもりで使い尽くす!


「『ライトニングバニッシュ』! 『聖剣』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』!」


「『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『レギオンスラスト』! 「ウホオオオオ――――」 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『閃光一閃突き』! 『戦槍せんそう乱舞』!」


 途中ドンコンガがダウンから復活していたが気にも止めず殴りまくった。

 そしてドンコンガが反撃に転ずるギリギリのところでHPがゼロになる。


「ウ、ウホ……」


 最後に俺へ目を向けたゴリラが悲しげにウホっと言ってきたが、そのまま何も出来ずエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。

 あ、ボコボコにしすぎてニーコの『ラストアタックボーナス』が……。


 しかし後に残ったのは金に光る宝箱が2つだった。セーフ。


 そのうち一つから出たのは、意外にも聖属性に耐性を持つ大盾。

 ―――〈聖銀ミスリルの天盾〉。


 上級装備から手に入るようになるミスリル製、その大盾だった。


 さらにもう一つの〈金箱〉にはなんと、またも〈上級転職チケット〉が入っていたのだった。


 明日は土曜日、ギルドメンバー全員が集う日だ。

 ちょうどいいな。久しぶりにメンバーの〈上級転職ランクアップ〉をするとしよう。



 それはともかく、これだけは言っておかないとな。


 ――中級上位ダンジョン、初クリアだ!




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