第602話 アケミ戦決着! タンマで待ってはくれません。





〈12組〉リーダーアケミ。伊達にクラスリーダーはしていない。


 リーナのバフも掛かっており、アケミは最高に気分が良かった。

 カジマルとワルドドルガも呼んで、さあ行くぞと意気込んだところ。


「いえ、カジマルさんはわたくしの最後の砦なので、申し訳ないですけれどここにいてほしいですわ」


「あら?」


 アケミうっかり、なんのためにカジマルをリーナの側においていたのか忘れていた。


「こほん。ではワルド、援護しなさい! というか私を守りなさい!」


「ひ、人使いが荒いぞい!? まあ、全力を注ぐがの」


「ではそういうことで、リーナ姉さま、ここは私に任せてください」


「……アケミさん、ユニークスキルの効果中ですわ、どんどん攻撃を放ってくださいまし」


「任せてリーナ姉さま! 『フレアストーム』!」


「このーラクリッテちゃんの仇ー! 『マイクオンインパクト』!」


「私も防ぐよ! ――『スピリットバリア』!」


「ッシ! ――『紫電一閃』!」


「へ、ヘカテリーナ様はやらせはしないよ! ――『ウォール・ウォール・ウォール』!」


「ぐっ!」


「カジマルさん! 解いて――『爆発魔砲』!」


「くっ!」


 リーナの指示にアケミが火炎の竜巻を放った。

 威力の高い範囲攻撃だ。

【アークメイジ】は普通に強い魔法使い系の職業ジョブで、パッシブスキル『杖装備補正』や『魔法力上昇』、『火属性魔法強化』などの属性系強化パッシブスキルに加え、アクティブスキルで自分にバフを掛ける『マジックブースト』などを覚える、完全攻撃特化スキル構成な職業ジョブだ。


 そしてアケミは〈火属性〉に自分のビルドを偏らせることで非常に強力な火属性魔法使いとなっている。


 しかし、ノエルたちだって負けてはいない。ノエルが攻撃スキルを放ち、ミサトが魔法バリアを張って竜巻を押さえた。

 その隙にレグラムが側面から回りこんで神速の移動からの斬撃スキルでリーナを狙う、しかしそれはリーナとの間に不可視な壁を作られて防がれてしまう。

 しかもレグラムに至っては壁にぶつかり動きが硬直してしまった。

 その隙にリーナが爆発する魔砲を放ち、これがレグラムに直撃する。


 激しい攻防が始まった。


「ノエルちゃん、うちまだやられてないよ!?」


 ラクリッテはアケミの放った纏わり付く炎から脱出していた。〈火傷〉の状態異常になり危険ではあったが、ミサトに8割方回復してもらい前線に復帰する。


 また、ノエルに「ラクリッテちゃんの仇ー」と言われたのを地味に気にしていたらしい。


 状態異常の一つ〈火傷〉は〈火属性〉の攻撃を受けるとたまに掛かってしまう状態異常で、〈毒〉状態と同じくスリップダメージが発生する。HPが重要となるタンクにとって〈火傷〉は嫌な状態の一つだ。


「私がいるから回復は任せてね!」


「そんなことさせるとお思いかしら! ヒーラーは先に退場しなさい! 『フレアバースト』!」


「むむ! ミサトちゃんはやらせないよ! ポン! 魔法吸収『ドレインシールド』!」


「な! 回復した!?」


 ウィークポイントであるヒーラーのミサトを攻撃しようとしたアケミだが、その攻撃を逆手にとってラクリッテが相手の攻撃をHPに変換してしまうドレインシールドを発動する。

 防御スキルの一種なので普通なら同時にダメージも受けるのだが、パリィに成功すると回復のみを得られるという強力なスキルである。


 そして今撃たれた『フレアバースト』は【魔法使い】系三段階目ツリーの基本魔法。

 メルトやサターンも使っていた魔法なので、ラクリッテはその攻撃を完全に見切り、パリィを成功させたのだった。HPが9割にまで回復する。


「やった、ラクリッテちゃん完璧! 私も援護するね! 歌っちゃうよ~ユニークスキル発動! ―――『プリンセスアイドルライブ』!」


 ノエルのユニークが発動、戦場に似つかない明るい音楽が流れ始める。

 それはバフの効果をがっちがちに高め、戦場全体にバフを届ける【歌姫】の能力。


「あなたに力と元気を与える『アクティブエール』~♪ みんなを守って『ハートエール』~♪ 勇気と希望の『マジカルエール』~♪ 魔法に打ち勝て『マインドエール』~♪ 速さも負けるな『テンポアップエール』~♪」


 全体に歌が届き、ステータスに満遍なくバフを与えてくれる。

 リーナのユニークスキルも非常に強力な支援系全体バフだが、ノエルのバフは本職だ。互角どころかむしろノエルの方に軍配が上がる。

 大量のMPを使う『プリンセスアイドルライブ』は集団戦でこそその真価を発揮する。


 このままではまずいと気がつき、アケミはすぐに行動を起こした。


「その歌を止めなさい! 『マルチフレア』!」


「ノエルちゃんは、うちが守る! ――『ドームシールド』!」


「僕と同じ結界系!?」


 しかし、その連続火球魔法の攻撃はドーム状の結界を作ったラクリッテに防がれる。

 ノエルはダメージ一つ負っていない。


「うおぉりゃぁぁ! 本体ががら空きだぞい!」


 そこへワルドドルガのハンマーがラクリッテに迫った。


「私を忘れてもらっては、困っちゃうな。なんてね――『テラバリア』! 結界の檻――『プリズン』!」


「うおお!? ナニィ!? 閉じ込められたぞい!」


 しかしミサトが、どこかで聞いたことがあるようなセリフで結界を張って防ぎ、続いて結界の檻でワルドドルガを〈拘束〉状態にしてしまう。


「ワルドドルガさん!? 大丈夫ですか!?」


「う、動けないんだぞい!」


「もう! 何やってんのよ! 『フレアギガジャベリン』! カジ、もっと結界で援護して!」


〈拘束〉されていたワルドドルガであったが、アケミの放った『フレアギガジャベリン』により『プリズン』が壊されたため何とか脱出に成功する。


 いつの間にかこの一角ではレグラム、ラクリッテ、ノエル、ミサト対アケミ、ワルドドルガ、遠距離からカジマルとリーナが援護する形で戦闘となり、他の場所では連合VSシエラたち〈1組〉のバトルが繰り広げられていた。


「『四連散弾魔砲』! 『デルタカノン』ですわ!」


「『大結界』! 『デルタバリア』!」


「『ブレイクノック』!」


「ちょっとカジ! 援護がこないわよ!?」


「こっちも今大変なんだってば! わわわ!?」


 リーナに先ほどから近づこうとしているレグラムだが、あの結界が突破できず難儀していた。


 破壊してもすぐに張りなおされてしまうのだ。さらにはリーナの遠距離攻撃で中々近づけない。


「レグラムさんは厄介ですわね。特にパッシブで継続回復を持っているのが強すぎますわ!」


 リーナが魔砲を発射しながら文句を言う。それを言いたくなる気持ちも分かる。

 レグラムにはパッシブスキル『不屈の貴族LV10』がある。これは所謂バトルヒーリングスキルだ。戦闘中、少しずつではあるがHPを自動回復してくれるスキルである。

 しかも、LVが10もあるので回復量は10秒に60回復というとんでもないことになっていたりする。60秒でほぼ全回復だ。パない。まあ上級職になってHPが増えていくと徐々に回復量が厳しくなっていくので超強いのは今だけの話なのだが。


 しかし、リーナにとっては今が重要だ。いくら攻撃してもちょっとしたらすぐに回復してしまうのである。非常に厳しい。


「そこだ! 『電光石火』!」


「!! 『二重結界』!」


「見切られたか。見事な腕だ。これは……リーナは狙えないか」


 レグラムが隙を窺い、いい隙を突けたはずなのに見事防いで見せたカジマルを褒める。

 リーナには中々に優秀な【結界師】が付いていることを知り、一人ではリーナを倒すことは難しかった。リーナも〈エデン〉のメンバーということだ。しかもLVが20くらい差がある。レグラムでは厳しかった。


 とそこへ連合の猛攻を抜いたサチが迫った。


「そっこだー! 『魔剣:ノックバスター』!」


「!! 『三重層結界』!」


「新手、サチさんですわ! 『四連散弾魔砲』!」


「『魔装ガード』! まだまだ行くよ!」


「やらせはしないです。リーダーを守るために僕はここに残ったのですから。――『結界全開』!」


 魔剣が迫るがさすがにカジマルが気が付いて防ぎ、リーナが迎撃する。これをサチは装備全体で防御して防いだ形だ。

 突然の乱入だが、カジマルは一瞬たりともレグラムの意識を外さなかった。


「アケミさん! 狙われています!」


「へ?」


 カジマルが声を張り上げる。

 なんとレグラムが狙ったのはリーナではなくアケミだったからだ。


「〈12組〉リーダーアケミ、覚悟――『雷武功』!」


 レグラムの剣が〈雷属性〉を帯びる。

 このタイミングでレグラムは切羽詰っていたアケミを狙ったのだ。


 さらにノエルがそれを援護する。


「『ボルテージアップ』~♪ どんどん上げていくよ~『ハイテンションエール』~♪」


 巨大なバフ。

『ボルテージアップ』はエール系の効果延長。そして『ハイテンションエールLV10』の効果は次の一撃の威力を3倍にする、だ。


 瞬間、バフが掛かったレグラムが動く。神速の一撃。


「――『紫電一閃』!」


「アケミよー!? うびゃらぁぁぁ…………」


 勝負は一瞬だった。

 レグラムの超スピードから繰り出される下段からの一撃に、咄嗟に反応できたのはワルドドルガだった。アケミの前に飛び出し防御しようとして……、失敗して斬られて退場してしまった。


 さすがはエールで攻撃力、ハイテンションエールで威力を3倍にされた一撃。

 まさに必殺の一撃だった。


「ワルドーーー!?」


 アケミが悲鳴を上げる。

 それもそのはずだ、アケミは純魔法アタッカー。魔法アタッカーはタンクがいてこそ安全に攻撃が撃てるのだ。

 防御を失ったアケミはレグラム、ラクリッテ、ノエル、ミサトと4人の相手をしなければならなかった。軽く見積もっても絶望的だ。


「まっずーい!?」


「逃がさないです『カースフレイム』!」


 すぐにリーナの位置まで引こうとしたアケミだったが、この状況でラクリッテたちが逃がすわけがない。


「『ボンバーフレア』!」


「『アンコール』いくよ~♪ 『ハイテンションエール』~♪」


 ラクリッテの呪いの炎は残念ながらアケミの爆発魔法で「ボカンッ」されて打ち消されるもノエルたちだって逃す気はない。

 ノエルは一回前に使ったスキルをクールタイムを無視してもう一回使うことが出来る『アンコール』で『ハイテンションエール』を再びレグラムに掛けた。

 もう1回3倍だ。


 先ほど一撃でワルドドルガを屠った一撃だ。

 アケミは焦る。なんとアケミ、このタイミングでMPが切れた。

〈エデン〉のメンバーを複数相手にしたため魔法を大量に使わざるを得なかった弊害だ。


「あ、ちょっと待って! 本当に待って!? タンマ!!」


「これで終わりだ! ――『刹那雷閃』!」


「ああぁぁぁぁ!? ―――」


 レグラムの神速の一閃。

 手で待ったのポーズをしながら後ずさっていたアケミにレグラムのこの攻撃を躱せるはずも無く、アケミもすぐに後を追って退場してしまうのだった。




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