第601話 連合主力戦、アケミのユニークスキル炸裂。




「メルトたち、お疲れ様ね!」


「お疲れ様」


〈12組〉を〈8組〉が陥落させたことでとうとう連合の一角を削ぐことに成功した。

 補給を済ませるメルトたちの元へラナが労いに来て〈8組〉学生がざわざわする。


「お疲れ様ですメルト殿、これからは予定通り〈3組〉に向かわれますか?」


「そうだな。俺たちは予定通り〈3組〉を目指す。それしかないだろう」


 エステルとメルトが言葉を交わす。

 現在〈5組〉の状況は分からないが、〈51組〉はここからでもギリギリ見ることが可能だ。全員の視線が〈51組〉へと向かう。

 先ほどからデカイ剣や光の奔流が飛び交っていた。

 間違いなくゼフィルスが〈51組〉の拠点付近にいる。


 この〈12組〉拠点はゼフィルスとの約束で合同で攻め込み〈8組〉が取得することになっていたが、その代わり〈51組〉はゼフィルスが貰うことになっていた。

 割り込んで〈51組〉を狙えば今の〈1組〉との協力関係に亀裂が出来ることは明らかだ。

 なら次に〈8組〉が狙うのは〈3組〉か〈5組〉しかないわけだが、おそらく〈5組〉は位置的に〈1組〉が落とす可能性が高い。

 そうなると、今どこからも攻められておらず、空いているのは〈3組〉しかないというわけだ。


 メルトとエステルたちの戦法で連合はおそらく瓦解するほどのダメージを受けただろう。

 戻ってもあまり役に立てるとは思えないため、このタイミングでさらにポイント差を広げたいのがメルトの考えだった。どことポイント差を広げたいのかは言うまでもない。


「ではここで解散ですね。メルト殿たちもご武運を」


「メルトが〈3組〉の攻略に失敗したら私が貰っちゃうんだからね!」


「……気をつけよう」


 メルトたち〈8組〉とラナたちの共闘はここまでだ。

 ここからは別行動となる。


 この場で別れ、ラナとエステルは再び〈サンダージャベリン号〉に乗り、〈5組〉へと向かうことにする。〈51組〉はゼフィルスたちがいれば十分だからだ。


 そしてメルトたち6人は〈3組〉の拠点方向へと駆け足で向かった。


「じゃあね、メルト。そっちも頑張りなさいよ~!」


「ラナ殿下もな、気をつけるんだぞ」


「私がいるのですから心配はありません」


「……そうだな」


 ラナの激励にメルトがそっちもなと応えると、エステルが自分がいる限り守りきってみせると言わんばかりにグッと握った拳を胸に当てた。

 まあエステルがいるのだから早々遅れを取ることはあるまいとメルトたちも前を向く。



「ラナ様、急ぎご乗車ください。早く行かなければラナ様の出番は終わってしまうかもしれません」


「何ですって! それはいけないわ! エステル、すぐに向かうのよ! 目標は〈5組〉拠点! まっしぐらよ!」


「はい。お任せください」


 エステルは〈蒼き歯車〉を仕舞って〈サンダージャベリン号〉に換装し、ラナも〈白の玉座〉を仕舞って助手席へと座る。


「行きます。――『オーバードライブ』!」


 エステルの〈サンダージャベリン号〉が唸る。

 最高速度上昇スキルで大きくスピードを上げると、ゼフィルスたちが戦っている場所の横を通る形で〈5組〉拠点へと向かったのだった。



 ◇ ◇ ◇




 少し時は巻き戻り、元第四要塞付近、連合主力と〈3組〉VS〈1組〉〈8組〉戦。


 リーナが10人を援軍に向かわせた後、連合主力は16人にまで減ってしまったが、ドワーフや他のみんなが健闘し何とか善戦できていた。

〈1組〉〈8組〉の圧力が減ったからだ。


 今〈1組〉メンバーは6人、前衛シエラを筆頭に、仲良し三人娘のサチ、エミ、ユウカ。そしてクラスメイト女子が2人だ。

 16人対6人ではさすがに対応は出来ないだろう、と思われるが、そこを対処してしまうのがシエラのすごいところで、〈3組〉へ押し込みたい連合はシエラの防御力を突破できず、足踏みしていた。


 突破力が無かったのだ。しかし、それももうすぐ解決する。


「後1分でユニークスキルのクールタイムが終わります! その後一気に攻勢を仕掛けますわ」


「ラジャですぞ」


「分かりました」


 リーナには切り札がある。ユニークスキル『全軍一斉攻撃ですわ』だ。

 クールタイムが30分という膨大な時間が掛かるために今まで使用が出来なかったが、それももうすぐ明ける。そうすれば活路はあった。


〈3組〉のハクが強いのだ。

〈8組〉を翻弄し、時間を稼ぎつつ下がらせて、挟撃になりつつあった。

 ここでリーナのユニークスキルが発動すれば優勢は連合に一気に傾くだろう。


 しかし、ここで誤算が起こる。


「〈8組〉の別働隊が〈3組〉の拠点へ向かうという情報をキャッチしました!」


「何ですって!」


 リーナは一度は仕舞った〈竜の箱庭〉を再び出して確認する。

 もしその情報が本当なら、〈3組〉が引き上げるかもしれない。それはまずい、現在やっと〈1組〉を相手に善戦できている、だからここで〈3組〉がいなくなれば追い込めなくなり負けるだろう。連合が勝つにはここで短期決戦で相手を打ち破るしかなかった。


 その理由はMPポーションだ。

 連合は三クラス30個という〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の中身、そのほとんどを要塞の建材に使用していた。もちろんMPポーションもそれなりな数を持ち込めていたが、〈1組〉を相手に30分以上全力でスキルを使っていたらそりゃあ切れる。


 連合にとって本当にここが最後の決戦だったのだ。


 しかし、残念ながらリーナの思惑は外れてしまう。


「〈3組〉のリーダーハク、離脱していくぞい! 残りの〈3組〉は残るようじゃが」


「あ、〈1組〉が完全に挟撃を避けて南へ下がりました」


「もう! デマですわ! 今のところ〈3組〉拠点が襲われる心配はありませんわ!」


「すでに行ってしまったぞい」


「ダメです! このままでは〈3組〉の被害が増すばかりですわ」


〈竜の箱庭〉には〈3組〉へ向かう部隊は発見できなかった。

 明らかな情報操作。ハクが急ぎ撤退するのをリーナたちは見送るしかなかった。


〈3組〉はリーダーハクのワンマンクラスだ。

 正直なところリーナも〈3組〉ではなく、ハクの力を当てにしていた部分があった。


 このままでは〈8組〉は抑えられなくなる。

〈3組〉が決死の抵抗で防いでいるが長くは持たないだろう。〈3組〉がやられれば次は連合主力がこの戦力を全て相手にしなければならない。


 その時、やっと待望の瞬間がやって来た。リーナのクールタイムが明けたのだ。


「! みなさん行きますわよ! ユニークスキル発動!」


「! させるか! ――『魔弓・狙撃!」


「――『大結界』!」


 瞬時にリーナの作戦を悟ったユウカが素早く矢を放つが、それはカジマルの結界によって防がれてしまう。リーナのユニークを防ぐ手立ては、もう無い。


「――『全軍一斉攻撃ですわ』!」


「全軍、攻撃ー!!」


 リーナのスキルが発動した瞬間アケミが叫び、連合のメンバーたちが総攻撃を放った。

 ユニークスキルにより威力に大補正の掛かった強力な攻撃だ。

 そのせいで今まで拮抗していた攻防が連合有利に傾く。


 これはリーナが「ユニークスキルを発動したら一斉攻撃を放て」と指示していたため、素早く連合は動けていた。


「『カバーシールド』! くっ威力が大きいわね」


「シエラちゃん大丈夫!? 『魔本・ビッグヒーリング』!」


 威力の上がった攻撃をシエラが防ごうとするが、あまりの威力にシエラと言えどHPがガンガン減る。

 そこへエミが回復魔法で回復し、サポートする。


 連合の圧力が上がる。

 ここが出しどころだと全力で攻撃を仕掛けてきていた。

 だが、そこで〈1組〉に頼もしい援軍が現れる。


「『ミラージュ大狸様』!」


「な! あれは!」


「ラクリッテちゃんに続いていくよ! 『デコレーションソング』!」


「通りたければ俺たちを倒していくがいい。逆に倒させてもらおう」


 それはラクリッテ、ノエル、レグラムだった。

 巨大狸が出現し、一時的に攻撃が全て狸の顔面に吸い込まれ、狸の頭ごと攻撃が消えていく。

 続いてノエルの歌で不可視の装甲がデコレーションされて軽いバリアを形成した。


「ああ! ラクリッテちゃん、ノエルちゃん、レグラム君!」


 サチが叫ぶ。さっきまで〈3組〉を相手にしていたはずの3人がなぜここにいるのかと。


「あ、私もいるよ?」


 ミサトもいた。


「たはは~あのハクっていうリーダーを追い返しちゃったからね。ハクのいない〈3組〉なら他の〈8組〉に任せておけばいいしってことで、応援に来ちゃった」


「ナイスなタイミングね」


 彼ら彼女らはリーナの強さをよく理解していた。

 故にリーナがユニークスキルを発動したところで慌てて応援に来たと言うわけだ。


 だが、リーナがそれを予測していないはずがない。


「アケミさん! 行きますわよ!」


「おっけー! ――ユニークスキル『アクティビティフレア』!」


 突如として放たれたのは大火球の魔法。突然視界を覆うほどの巨大な火球が放たれた。アケミのユニークスキル、『アクティビティフレア』だ。


 それに狙われたのはノエル、ラクリッテ、レグラムだった。


「わ、私が前に出ます!」


 当然前に出るのはラクリッテ。両手盾を構えてみんなを守ろうとする。


「『ビーム』ですわ!」


「ポン! ――『ギガントウォ――あうっ!」


「ラクリッテちゃん!?」


 発動しようとしたのは巨大盾を顕現させて攻撃を防ぐ防御スキル。

 しかし、『アクティビティフレア』を防ごうとする直前、リーナの『ビーム』がラクリッテの盾に命中し、スキルを失敗ファンブルさせてしまったのだ。

 これは連携の基本、時間差攻撃。

 本命の前に攻撃を挟むことで防御スキルのタイミングをずらし、本命を当てるテクニックだ。


 今回、アケミのユニークスキルがあまりにド迫力な火球だったためにそっちに注目が移り、その着弾の直前にリーナがスピードのある『ビーム』を差し込んで、ラクリッテに防御スキルをさせなかったのだ。見事な連携。


「ひゃあああ!!」


 そしてユニークスキルが盾を構えるラクリッテに命中してしまう。

 アケミの『アクティビティフレア』はユニークスキル。その攻撃はただの攻撃だけでは終わらず、ラクリッテの両手盾にぶつかって炎は暴れ、ラクリッテに襲いかかった。

 威力が上昇していたおかげでラクリッテのHPが一気に8割も減る。


「まだまだ! 『ドリルファイア・シュート』!」


「『ガードシールド』!」


 すぐにサチがフォローに入って。追撃を防いだ。


 あの一目いちもく置かれていたラクリッテに強力な攻撃を直撃させたとして、連合のメンバーが「おお!」とどよめきながらアケミを見る。


「おーほっほっほ! ここは私が相手をしてあげるわ! カジマルとワルドドルガは援護しなさい! リーナ姉さまに私たちの活躍を見てもらうのよ!」


 先ほどの大火球を放ったのは〈12組〉リーダー、アケミ。彼女の職業ジョブは【アークメイジ】。

 ノーカテゴリーの攻撃魔法職の中ではトップクラスと言われている強力なダメージディーラーな職業ジョブを持っていた。




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