第603話 〈12組〉メンバー退場と〈5組〉拠点の状況は。




「〈12組〉リーダーがやられたぞ!」


「なんだと!? あのアケミが!?」


「まさか、あのアケミが負けただと……」


「信じられん。ダンジョンでもしぶとく生き延びるあのアケミが……」


「ダンジョンで一度も戦闘不能になった事の無いあのアケミが……」


 あのアケミ……。〈12組〉のリーダーがやられた報を聞いた連合主力に大きく動揺が走った。


 それはレグラムたちがアケミを倒したという、紛れもない事実だ。


 これで連合主力は大きな戦力を失ったことになる。

 アケミはアレでもダメージディーラーとしてかなりの強さだったのだ。


 さらには動揺する連合に追い打ちを掛けるような出来事が起こる。


「な! これは転移陣ぞい!?」


「そんな! 嘘だぞい―――」


「きゃあぁぁぁ」


「ああー!?」


「じゅ、〈12組〉が!?」


「カジマルさんが!?」


「〈12組〉全員が、退場しちまった!?」


 連合にさらなるどよめきが起こる。

 そう、この瞬間、メルトが最後の止めを刺し、〈12組〉拠点を落とした所だったのだ。


 その余波で連合主力は実に3分の1の戦力を失い、戦力のバランスが大きく傾いてしまう。

 当然リーナの護衛だったカジマルも「うおお『大結界』!」と転移から抵抗しようとして、出来ずに消えていった。転移陣は防げないのだ。むしろ防げたら大変。


「――!! 残念ですが、ここまでですわね……」


 リーナは〈12組〉がやられた時点で敗北を悟っていた。

 色々と頑張ったが、どうしてもゼフィルスにその上を行かれたのだ。

 連合の一角が落ちたことで、すでに連合に勝ち目が無い事は火を見るより明らかだった。

 こうなれば仕方ない。


 リーナは〈竜の箱庭〉を〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に仕舞い、部隊に最後の指示を出す。


「最後まで諦めないでくださいませ!」


「「「おおー!!」」」


 連合の人数は8人にまで減り、すでに勝ち目は無くなっている。

 こうなればリーナのすることはもう1つしかない。


「皆さん、残念ながら私たちの負けのようです。ですが私たちはただでは負けません! ここからは個人戦です! アピールの場です! ここまで生き残った自負を持ち、最後まで戦い抜きますわよ!」


「「「おおおおお!!」」」


 それは個人アピール。

 集団戦の勝敗ではすでに負けが決まってしまったような連合だ。

 ならば、ここからは個人の自由として、観客席にアピールするのだ。


 このクラス対抗戦決勝戦は学園の外から多くの人たちが見に来ている。

 その目に少しでも留まれるように、勝敗を度外視してアピールメインに戦うのだ。

 勝敗が決したアリーナのバトルではよく見られる光景だ。

 むしろ個人の考えで動くために、逆に企業から注目されたりする。自分で考える力が有るのか、個人での実力はどうなのか。そういう面でこれが見たいために足を運ぶ企業もいる。個人アピールで大企業に引き抜かれたという話も少なくない。


 リーナから最後の指示を受けた連合メンバーは目をカッと見開き、全力で応戦した。


「うぉぉぉ!! 誰でも良いから倒すぜ! あの盾操っている人のところには行かないぞ!」


「あ、おい待て! その人は俺が戦おうとしていた人だぞ!」


「へ? なになになに!?」


 急に今までの連携が崩れたかと思うと連合メンバーがバラバラに動き出した。

 シエラを無視して散らばっていくことからシエラは人気が無いらしい。さもありなん。


 逆に狙われたのは〈1組〉では仲良し3人娘のサチ、エミ、ユウカとクラスメイトの女子だ。なんだか〈1組〉で簡単に倒せそうだからという理由で狙われたらしい、そして一番最初に狙われたのは前衛にいたサチだった。


「早い者勝ちだ! 『秘剣・一の太刀』!」


 連合男子がダッシュでサチへと向かい、太刀を抜いて斬ろうとする。

 格上を倒せる力が有ることをアピールするのは結構重要だ。特に〈戦闘課〉で1番のクラスと名高い〈1組〉を個人で倒せれば、〈1組〉と同等クラスの実力を持つという証明になるのだから取り合いになるのもわかるだろう。


 しかし、連携を解くということで自由になるのは相手も同じなわけで。


「私を無視して好き放題出来ると本気で思っているのかしら? 『カバーシールド』!」


「あっれぇ!?」


 それは今まで誰かが相手をして抑えていたシエラが自由に動けることでもある。


「私を狙っちゃうなんて良い度胸じゃない! 『魔装全開放』! 『魔剣・光剣』!」


「へ? ああああ!?」


 シエラの小盾によって受け止められ、その隙にサチが自分に溜まっている『魔装武装』を次の一撃で全消費して大ダメージを与える、全力全開のスキル『魔装全開放』を使った。


【魔装】系の職業ジョブは『魔装武装』を纏うことで『魔装』スキルを使う事が出来る。『魔装武装LV10』なら10回強力な『魔装』スキルを使う事が出来るのだ。そしてそれを次の一撃で全消費する、もちろん纏っている残りの『魔装』の回数分、威力が高くなるのが『魔装全開放』の魅力である。


 そしてサチは7回分を消費し、自分が持つ最強の『魔装』スキル、『魔剣・光剣』で相手をぶった切ったのだった。

 大ダメージを受けて吹っ飛ぶ太刀男子君。自由行動は自己責任という意味でも有るのだ。


 こうして連合と〈1組〉〈8組〉共同戦線の戦闘はまた新たな展開に突入していった。



 ◇ ◇ ◇



 一方、〈5組〉拠点では、カルアとシズによって攻め込まれ、拠点が大変ピンチな状況となっていた。


「ぐっこの! 『メガトンパンチ』!」


「ん。そんな大ぶり、当たらない」


「くそう! 速すぎる!」


 ハイウドの機械の腕によるパンチはカルアに悠々と避けられてしまい、また距離が引き離される。

 ハイウドの職業ジョブは【サイボーグ】。

【闘士】系の特殊職で、機械系の装備を装着すると相性補正でステータスが上昇するユニークスキルを持つ、まさにサイボーグだ。


 これに就くためには〈モンスターを機械系の装備を着けて100体倒す〉をクリアしなければならず、中々に困難な道だ。

 何しろ機械系とは別名〈錆びた〉系装備とも呼ばれており、〈銀箱〉で落ちるレアドロップなのに加え、最大まで強化しないととても使い物にならない装備だからだ。

 つまり入手難度が高いのである。


 別に〈錆びた〉系以外にも機械系装備はある、〈蒼の歯車〉とか。しかし〈蒼の歯車〉は〈乗り物〉装備なので適性が無いと装備はできない。

 このように機械系装備は色々と一筋縄ではいかない類いなのだ。


 それに就いているハイウド君がどれだけ特殊な人材か分かるだろう。


 ちなみにハイウド君が装備している機械系は自宅から持参した腕装備のみなので、全然サイボーグっぽく見えないのはご愛敬。まだ1年生だもの、仕方ない。


「隙有りです。『魔弾』!」


「ぐおおお!?」


 シズの強力な一発がハイウドに直撃し、転がるハイウド。

 その隙にカルアが防衛モンスターを蹴散らそうと動く。


 つまりハイウドはカルアとシズにとても相性が悪いのだ。せめて重火器の機械系を身に着けていれば話は違っただろうが腕だけではどうしようも無かった。


 すでに〈5組〉拠点ではカルアとシズによって攻め込まれ、多くの防衛モンスターがやられていた。さらに援軍として駆けつけた3人はとても運が悪く、シズによって仕掛けられた地雷罠によりボカンッ。3人は吹っ飛んでしまう。

 ハイウドはギリギリの位置に居たためになんとか生き残り、自己回復するスキル『修理』によって復帰したが、残り2人は援軍到着と同時に退場してしまったのである。

 なんて恐ろしい追っ手殺し。


 おかげで現在、〈5組〉で生き残っているのは拠点にいる2人とハイウド、後は防衛モンスターのみだった。




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