第589話 要塞崩落!(あの、渡れないんだけど……?)
―――大きな爆発。
要塞上部は巨大な大爆発で弾けた。
第四要塞に攻め込んでいた〈1組〉〈8組〉も、守っていた連合も、一瞬で全ての注目がそこに集まる。
「な、ヘカテリーナ様!?」
「よ、要塞のHPが!?」
「すごい数の転移陣だぞ!?」
そして連合側に大きく動揺が走った。
あの場所には連合の総大将、ヘカテリーナがいる。
それに加えあの
一瞬の後、爆発の中で多くの転移陣が表れたのが見え、退場者が多く出たのだとも分かり、そのとんでもない威力の爆発にヘカテリーナを心配する声や要塞陥落によりしばらく呆然とする者が続出した。
まさかという驚愕が連合を支配していた。
しかし、その後に放たれた『遠距離集束砲』、リーナのスキルを見たことにより連合はリーナの無事を知る。
「ヘカテリーナ様は無事よ!」
「でも、未だにスキルを使っているということは攻め込まれているんじゃないの!?」
「だが、こっちも手を離せないぞ!」
連合側は正直、追い詰められていた。
今の所なんとか〈1組〉〈8組〉共同戦線の侵攻を押さえつけることが出来ているが、先ほどから要塞上部からの援護が無い。
さらに大爆発により、要塞が陥落。連合側の動揺は激しかった。
「落ち着け! 気を取り直せ!」
そこにラムダの大声が響き渡る。
「ヘカテリーナ殿は見ての通り無事だ! 要塞を落とされたとしても我らの拠点は無事だ! まずは落ち着いて目の前の相手に集中せよ!」
「そ、そうだった。危ない、危うく拠点が落ちたのだと勘違いする所だった」
「そうよ、私たちはまず目の前の相手をしなくっちゃ!」
「ヘカテリーナ殿も護衛がついている。安心しろ。要塞が崩れるまでまだ時間はある! 冷静に対処するのだ」
「「「応!」」」
ラムダの指揮とヘカテリーナへの信頼がすぐに連合を前に向けることに成功する。
しかしラムダの表情には焦りが浮かんでいた。
そんな時、一人の男子から叫びにも似た報告が戦場に響き渡った。
「え、援軍だ! 〈3組〉援軍が来たぞ!」
◇ ◇ ◇
一方で〈1組〉〈8組〉側は士気が上がっていた。
「要塞が落ちたぞ!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「やったぁぁぁ!!」
誰がやったのかは知らないが、あの第四要塞が陥落したのだ。
いや、知ってるけどな。
まさか本当にサターンがあれを使うとは思わなかったぜ。
あれってただのネタアイテムだったんだが。要塞落としちゃったよ。
俺がサターンに渡したのは〈大爆砕の手袋〉。
装備品なのにも関わらず一度使うと壊れてしまう効果を持ち、レシピが無いため作製不可。完全にドロップのみ入手のレア装備だ。
問題は使用すると、使用者が戦闘不能になるところだろう。しかも蘇生系不可のおまけがつくのでダンジョンを出るまで復帰できないデカいデメリットを持つ。
確かに脅威ではあるのだが、射程が短くINT依存なために、大抵は後衛が前に飛び出す形になるため討ち取られて失敗しやすい。しかもフレンドリーファイアの95%カットも無効化されるためタンクが送り届けているとタンクまで巻き込むこともある。発動後、使用者が真っ赤に光り、地味に3秒後爆発というカウントダウンも集団に直撃させるには難易度が高くなる一因になっていた。赤く光ったら退避、これ〈ダン活〉プレイヤーの常識。
うむ。使いどころの難しい装備なのだ。
しかし、それほどの使いづらさとデメリットをもってなお、この〈大爆砕の手袋〉を愛用する者が一定数いたというのだから業が深い。みんなロマンを求めているのだ。俺もサターンに夢とロマンを与えられて満足している。
あれ? そういえば1回しか使えないって言ったっけ? いやそれよりもだ。
すでに要塞のHPも3割程度しか残っていなかったとはいえ、これを一撃で削るか、筋肉たちの〈筋肉ビルドローラー〉より高い威力とは恐れ入る。さらには集団にチュドーンをかませたというのだからすごいぞ、サターンには何か才能を感じるな。
HPの無くなった要塞は崩れて消滅する運命だ。
とはいえ一気にというわけではない。
2分間掛けて徐々に崩れていき、徐々に消滅していくらしい。ゲームの時は一瞬で消滅して要塞にいた人はポイされていたが、それも違うのな。崩落に巻き込まれたら危険だからかな?
また、今の要塞はHPバリアが無いのでスキルを使うだけで崩れてしまうので注意である。
だが崩落に巻き込まれなくて良かったよ。
「『遠距離集束砲』ですわ!」
「ああああ!?」
「あ! ジーロンが要塞から落ちたぞ! 討ち取れー!!」
「おお……、頭から落ちたように見えたが、大丈夫か?」
まあ、アレだ、たとえ崩落に巻き込まれたとしてもHPが仕事するので問題は無い。
落ちたとしてもあの程度なら怪我もしないのだ。
HPって凄く優秀。
◇ ◇ ◇
大爆発の直後、要塞の上部ではジーロンが手足をぷるぷる震えさせていた。
それは、要塞に空いた大きな穴が原因だった。
「渡れないのですが…………」
自爆特攻をやり遂げ、立派に散っていったサターンだったが、その衝撃は予想を超えた。
良い意味と悪い意味で。
「ふふ。やってくれましたよ……。総大将を守る護衛は片付けたというのに、まさか、要塞が崩れ落ちるとは思いませんでした。これ、どうしたらいいのでしょうか?」
そう、ジーロンの言うとおり、サターンは相手9人に1人で立ち向かうという無謀を行なった。それはいい、特攻はまさかの大成功を飾り、連合は二盾使いのトモヨを残して8人が退場したからである。リーナの護衛という最重要ポジションをしていたメンバー達を討ち取ったのだ。
たった1人と引き換えにして勝ち取った戦果と考えれば破格の大戦果だろう。
ここまでならサターンやるじゃないか。となったかもしれない。
しかし、余計なものまで残していった。本来ならサターンが散った後、ジーロンがリーナを強襲するはずだったのに、サターンの大爆発の威力が予想以上に大きすぎたために要塞自体のHPまで吹き飛ばし、道を崩してしまったのである。
これではジーロンは渡れない。どうすりゃいいの状態だった。
ジーロンの口元がヒクヒク震える。
そして唯一生き残ったトモヨもそれを見てわなわな震えていた。
「やってくれたわね! 自爆特攻とかバッカじゃないの!」
「ふふ」
トモヨの激昂にジーロンは笑うだけだ。単に戸惑っているだけとも言う。
ジーロンからすれば最重要目標への道が目の前で崩れたようなものだ、ポツンと1人要塞上部に取り残されたこともあり、フリーズしてしまっていた。
トモヨは、崩れた要塞から下に落っこちて、瓦礫の上から抗議していた。
〈ハイポーション〉をグビッと飲みギリギリまで減ったHPを回復し、下を覗き込んで固まるジーロンをキッと睨んでいる。
トモヨは生粋の盾士だ。故になんとかあの爆発で生き残ったのだった。
剣士の盾使い君は純粋なタンクでは無かったためあの爆発で退場してしまっていた。
ジーロンがようやくこの後どうしようかと、考えるだけの気力が戻ってきた所で、それは起こる。
「――『遠距離集束砲』ですわ!」
「ふふ!?」
ジーロンは、油断した。
サターンがあの守備隊を倒してくれ、ついでに道まで崩してくれたために茫然自失してしまい、魔砲使いのリーナが自分を狙っていると、頭から抜け落ちてしまったのだ。
そこへリーナの、溜めた後に強力な攻撃をぶっ放す『遠距離集束砲』が炸裂。
ジーロンはこれを咄嗟にダイブ避けで回避したが、集束砲は要塞に命中して爆発。衝撃でHPが全損していた要塞は崩れ、ジーロンは瓦礫と一緒に落っこちていったのだった。
「ふぁぁぁぁぁ!?」
「ナイスリーナさん!」
そして下で待ち構えていたのはトモヨ。
HPに守られた学生は多少の高さから落ちたくらいで怪我なんてしない。
無傷で落ちてきたジーロンにトモヨが突撃をかました。
「よくもやってくれたわね! ――『ダブルシールドバッシュ』!」
「ぶ!?」
落下の衝撃でダウン中だったジーロンはこれを避けることもできず直撃。ズザザザザーっとヘッドスライディングするように吹っ飛んだ。
しかしトモヨの追撃は終わらない。終わるわけがない。いや、別の意味で終わる。
「これで、終わりよ! ――『シールドシンバル』! ふん!」
トモヨはジーロンの目の前に立つと、両手の盾を、楽器のシンバルのように広げて持ち、そのままジーロンの顔面を両側からクラッシュした。
「ほびゅるばっ!?」
――「バァァァン!」という、何やら素晴らしい音色が響いた。
ジーロンは素晴らしい音色と衝撃で、〈気絶〉してしまうのだった。
トモヨが〈気絶〉状態になったジーロンをその辺の連合メンバーへ引き渡していると、リーナが要塞から降りてきた。良く見ればカルアを追いかけて行ったはずのアケミたちも一緒だ。
ちなみに引き渡されたジーロンはすぐにお仲間の元へ向かったらしい。
「トモヨさん! ご無事ですか!?」
「リーナさん! でも他のメンバーが、要塞が……」
「終わってしまったことを悔いても仕方有りませんわ。今はそれよりも態勢を建て直します!」
「リーナ姉さま、これからどうしますか!? 後退しますか!?」
「おお!? カジマルが足を滑らせて落ちたぞい!? 大丈夫かぞい!?」
「うう。はい、痛くは無いです」
「まずは陣形を作ります! 『号令』! みなさん! 最後のチャンスです! 攻勢に出ますわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます