第588話 サターン切り札発動! 散り様のビッグバン!




「射線を空けろジーロン!」


「ふ! やってしまいなさいサターン」


「我をコマのように扱うんじゃない! 『ツインフレア』! 『フレアバースト』!」


 素早くジーロンが横に逸れると二つの炎の回転弾とサターンの無駄にスキルレベルを上げた『フレアバーストLV10』が敵を飲み込んだ。


「二つの炎は私が! 『盾流し』!」


「『ガード』! ぐおおぉぉぉぉ!!」


 最初の『ツインフレア』はトモヨの二盾に流されたが、剣士風の前衛はサターンの『フレアバースト』を受けきれず吹っ飛んだ。


 その後ろの後衛も巻き込み、勢いを止めることに成功する。


「どうだ! トマ、ヘルクの奴は!?」


 サターンは今のうちにトマへ確認した。


「あいつは、退場しちまった!」


 ブオンと戦斧を振り、トマが悔しさと怒りを滲ませて叫ぶ。

 ジーロンも動揺していたが、すぐに気を取り直すと両手で大剣を強く握る。


 リーナの指揮と攻撃により最高のタイミングで攻勢にでた連合に、ヘルクはなすすべなく飲まれたのだ。


「ヘルク……。ふふ、あなたたち、よくもヘルクを! 許しません、トマ、合わせてください! 全力で行きます!」


「おうさ!」


 すでに手遅れと知り、ジーロンとトマが激昂してユニークスキルを放つ。


「ユニークスキル――『奥義・大斬剣』!」


「ユニークスキル発動――『大爆斧・アックスサン』!」


 ユニークスキルエフェクトを纏った大剣と戦斧を振りかぶり、2人が連合へと突撃した。

 そこにリーナの指示が飛ぶ。


「トモヨさん全力防御ですわ!」


「任せて! ユニークスキル――『大防御だいぼうぎょ』!」


 両手に大盾を持ったトモヨが1人、ユニークスキルを使いながらジーロンとトマの前に飛びこんでいた。

 トモヨは二刀流ならぬ二盾流の使い手。二つの大盾をそれぞれジーロンとトマの前に出す形で全力防御する。


『大防御』は高位職【堅固盾士】のユニークスキル。発動中は受けるダメージが90%減少し、ノックバックもせず、防御を崩されることも無い非常に優秀な防御スキルだ。

「一撃」ではなく「発動中は」というのがみそ。一種の壁となる。その代わりパリィや防御勝ちが狙いにいけない、完全に防御専用スキルである。


 そんな彼女にジーロンとトマは合わせて攻撃してしまう。


「ふ、ふぬ!?」


「な、ナニィ!?」


 大ダメージを期待したが結果はなんと2割しかHPを削れなかったことに目を限界まで見開いて驚愕する2人。

 しかし、彼らに驚いている暇など無かった。


「今ですわ!」


「『ボールアックス』!!」


「『アイシクルジャベリン』!!」


「ふ!? ぐふっ!?」


「ぐああ!?」


 完璧に隙を突いた形でバトルアックスを持つ男子の一撃がジーロンを直撃。

 身体がくの字に折れ、そのまま吹っ飛ばされて要塞上部を転がった。

 トマは女子の放った〈氷属性〉魔法が直撃。大ダメージを受ける。


「ジーロン! トマ! おのれ、これ以上はやらせん、――『メガフレア』! ――『フレアインパルス』!」


「任せて!! 『マテリアルシールド』!」


「何っ!? おのれ!」


 サターンが遠距離から援護するも、二盾使いトモヨの魔法攻撃防御スキルによって全て防がれてしまう。


「くっ、こうなれば。トマ! 少しでいい、時間を稼ぐのだ!」


「へ、いいだろう。俺に任せときな、サターン!」


 リーナの指揮と人数差により〈天下一大星〉は圧倒的劣勢に追い込まれる。

 サターンはなんとか打開策がないかと頭をめぐらし、トマに前を任せて吹き飛ばされたジーロンの下へ向かった。


「ジーロン! まだやれるな?」


「ふふ、誰に言っていますか? この程度の逆境、ゼフィルスのしごきに比べればなんでもありませんよ」


「そうだな。もう我らに残された手段は少ない。我が前に出る!」


「ふふ、まさかあれを? 正気ですか?」


「もうそれしかあるまい。我の遠距離魔法は、あの二盾使いに全て防がれてしまう。ならば、例のあれを使うしかない」


「いいのですか? 退場しますよ?」


「ふ、承知の上だ、ジーロン。後は任せたぞ」


「……いいでしょう。たまにはギルドマスターの覚悟に報いるとしましょうか。ふふ」


 ジーロンは立ち上がると、珍しく真剣な表情のサターンを見て不敵に笑った。

 短い打ち合わせ。すると雰囲気が変わる。

 

 ヘルクがやられてこの状況。

 ここまで追い詰められたのはゼフィルスと戦った時以来だ(2人の中では)。

 サターンは、あの時の事を思い出しながら覚悟を決めた表情で言う。


「万が一に備えゼフィルスに頼んでいたものがまさか役に立つ日がくるとは。ははは、そういえば実地テストをするのを忘れていたな」


「ふふ、それはいけませんね。今が試し時では無いですか?」


「だな、ちょっくら行ってくるとしよう」


 サターンが何やらアイテムを取り出す。

 それは見た目は手袋だった。右腕用手袋、レザー系で作られ手の甲の位置に大きなクリスタルのようなものが輝いていた。

 これこそがサターンの切り札。

 それをすぐに右腕に装着する。


 前を見れば、連合の9人という守備隊集団が体勢を建て直し、トマが退場するところだった


「『アイスクリスタル』!」


「俺は〈1組〉がいぃ―――――」


「残り2人ですわ」


「ふ、我らを見くびってもらっては困るな」


 サターンが前に出る。ジーロンは後ろに下がり、いつでも飛び出せるよう構えた。

 さっきとは逆の陣形だ。


 そしてサターンは、手の甲を相手に一度向けたあと、連合の集団に向かって走り出す。


「うおぉぉぉぉ!」


 叫び声で自分を鼓舞し、杖を正面に向けて相手からの攻撃を牽制しながら突き進んだ。

 次第に手袋が赤く染まっていく。


「突っ込んでくるぞ!」


「!! 何かたくらんでいる!?」


「今更気付いたところでもう遅い!」


 サターンの付けた右手袋のクリスタルが真っ赤に燃えるように光っていた。


「起動! これが、我の覚悟、我の決意! 魔法使い最強の一撃、『プロミネンス・ビッグバン』だ!」


「は、早く倒して!」


 何やら危険な気配を感じ取り、トモヨが両手の盾を前に出し、アタッカーに頼む。今までは相手の攻撃を弾き返して反撃カウンターを決める戦法を取っていたが、これは受けてはいけないとトモヨの勘が警報を鳴らしたのだ。

 アタッカーも何かまずいというものを感じ取り、バトルアックスを装備するアタッカーがすぐにサターンを屠ろうとスキルを発動しようとする。


「『ハードギガントアックス』!」


 バトルアックスがスキルエフェクトに包まれ、スキルが発動。

 紙装甲のサターンでは耐えることの出来ない威力の攻撃が、サターンに迫る。

 しかし、サターンはそれを見ても怯まない。サターンのほうが発動が早かったのだ。


 右手で杖を掴む。しっかり握りこむ。

 すると、杖まで赤く光り出す。


 この手袋は名称を〈大爆砕ばくさいの手袋〉と言う。

 効果は、「自身のMPを全て消費し、魔力を暴走させて大爆発を起こす」だ。

 ダメージは消費したMP、そしてINT依存の数値で決まるが。無視できないデメリットが存在する。使用者は爆発で戦闘不能になり、たとえダンジョンでも復活することは出来ないという大きなデメリットを持つため、その分威力がものすごく高いのだ。


 要は――自爆である。

 ちなみに『プロミネンス・ビッグバン』はサターン命名。


 サターンは自分が活躍できないかもしれないことを、なんとなく、ほんのちょっと、もしかしたらできないかもしれないと、そんな予感がしていた。

 だからこそ、自分が戦闘不能になることと引き換えにしてでも一か八かの切り札をゼフィルスに求めたのだ。まさか本当に戦闘不能、復帰不可と引き換えにする切り札を与えられるとは、サターンもちょっぴり目が点になったのは秘密。


 しかし、ここに来ての特攻は非常に意味があった。

 連合の9人は全員で陣形を取り、言ってしまえば一塊となっていた。

 全員を巻き込むのは難しくは無かった。

 サターンが一塊を巻き込んで全員退場させ、残ったジーロンがリーナを討ち取る作戦だ。

 賭けに出る意義は大いにあった。


「これが我の散りざまよ! 我はサターン、偉大なる【大魔道士】、サターンだ! ジーロンよ、後は任せたぞ! ――『大爆砕プロミネンス・ビッグバン』!!」


 サターンが唱えた瞬間赤い光が弾け、大爆発を引き起こした。


 あまりの威力に要塞のHPが全損して一部通路が崩れ落ち、ジーロンは渡れなくなった。




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