第587話 要塞上部、通路での戦闘。最後の大チャンス。




「カルアさん!? なぜここに!?」


「ん。復活」


 右手の甲で口元を隠し左手のナイフを構える仕草をしてカルアがかっこよく告げる。

 もしここにリカが居れば、カルアのことをかっこかわいいと叫んでいたかもしれない。


「ナ、いえアケミさん!?」


 しかしリーナにとっては今までの作戦を瓦解させる大変な出来事だ。

 すぐにカルアを閉じ込める作戦を実行したナギに聞こうとして、ナギがすでに退場してしまったことを思い出し、アケミへとたずねる。


「へ? だって確かに閉じ込めたはずだよ!? ね、ワルド!?」


「わ、ワシは手を抜いてないぞい!? あれはそう簡単に破壊できるものじゃないんだぞい。ワシですら生産スキル『解体作業』がなければ無理だぞい!」


「ぼ、僕も確認しました!」


 しかしアケミもワルドドルガもカジマルも、カルアがなぜここにいるのか見当も付かなかった。

 いずれにしろカルアがここにいるのが全てなのだ。リーナはここに来てすでに道が一つしかない事を知る。


「か、カルアさんを討ち取ってください! もうそれしか方法がありませんわ」


 リーナもここにきて、なぜカルアを閉じ込められ、情報封鎖されたはずのゼフィルスがこんなに早く要塞を攻めてきたのか、その理由が分かった。

 本来ならば、リーナは〈1組〉がカルア不在で右往左往している間に〈10組〉〈3組〉そして〈9組〉を討ち取る心算だった。


 しかし予想以上にゼフィルスたちの動きが早く、第四要塞に攻めてきたがために〈1組〉の対応に集中せざるを得なくなったのだ。

 それもこれも、〈1組〉がカルアの状態を把握していたのだとすれば全ての説明が付く。


 ゼフィルスはカルアがやられた直後からカルアの状態を知っていたのだ。

 とーってもまずい事態である。


 カルアを絶対に倒さなければならない前提が大ピンチだった。

 すぐにアケミがワンドを振るい、魔法を使う。


「『フレアストーム』!」


「ん。ユニークスキル『ナンバーワン・ソニックスター』! ――こっち」


「な! いつの間に後ろに!? ま、待ちなさい!」


「待つんだぞい! 今度こそ倒してやるんだぞい!」


「ええ!? ここの守り……、えっと僕も行きます!」


「あ!」


 アケミの魔法が発動する前にカルアが突如消えたかと思うと、いつの間にか通路の反対側、リーナたちを挟んだ後ろ側にいた。カルアのユニークスキルの効果である。

 ギョッとして振り向くアケミたち。


 幸いにもカジマルが張った『大結界』がドーム状だったおかげか、誰も攻撃されていないようだが、カルアはそのままバックステップで身を引いていく。

 連合の最重要目標がどっか行こうとしていた。とても見過ごせない。


 ビックリした表情のアケミだったが、すぐに最重要目標のカルアに向けて走り出した。

 ワルドドルガもそれに続き、カジマルも少し逡巡しゅんじゅんしたのちアケミたちについていく。

 一度は倒した相手だと、アケミたちがカルアの相手を買って出たのだ。

 見事に釣られている。


 リーナが一瞬だけ「あなたたち後衛でしょ!?」と叫びそうになったが、口を閉じざるを得なかった。


 少し目を離した隙に、いつの間にか要塞通路に飛び移ってきたシズが外壁に〈アンカーロープ〉を垂らしており、4人の人物が要塞に登ってきたからだ。

 その人物は。



 ◇ ◇ ◇



「はーはっはっはっはぁぁぁ!! 我ら〈天下一大星〉――参上だ!」


 それは最近サクッとやられる美味しい〈天プラ〉などと呼ばれ、本人たちとしては望まぬ名声が高まっている、〈天下一大星〉だった。


「さあ、ようやく仕事です。あなたたち、ゼフィルス殿が大活躍の機会を設けてくださいました。ここで活躍すればあなたたちの目的に一歩近づけるでしょう」


 シズが鼓舞するのは〈1組〉に所属する〈天下一大星〉、サターンたち4人だ。

 せっかくの注目の決勝戦なのに、〈天下一大星〉はまだ活躍らしい活躍が出来ておらず、かなり焦りを見せていた。


 そこでゼフィルスは、非常に重要な役目である〈51組〉のリーダー、リーナを倒せという大役を命じていた。黒猫によりカルア復活のお知らせを受けたゼフィルスがシズに本命・・の作戦とにお願いしておいた作戦だ。


 思わぬ大役に〈天下一大星〉のテンションは振り切れる寸前だ。


 ――本当は〈天下一大星〉なら影が薄いから気がつかれないだろうと思ってゼフィルスが送り込んだことを、サターンたちは知らない。

〈エデン〉のメンバーであればいくらなんでも要塞を登り切るまでに誰かしら気がつく。みんな警戒しているからだ。

 この役に必要なのは、見つけても気にならないメンバーだ。〈エデン〉のメンバーでは良くも悪くも目立ちすぎる。そこら辺、〈天下一大星〉は都合が良かった。これ、秘密な。

 本命の作戦は別の場所で進行中だ。まあ、〈天下一大星〉が本当にリーナを倒すことになったらそれはそれで……、うむ、最後のチャンスである。



 作戦に重要な大役を任されたと思っている〈天下一大星〉は今まで以上に決意の顔で頷く。


「我らに任せてもらおう! この作戦を成功させ、我らが〈1組〉にふさわしい存在だと証明する!」


「ふふ、腕が鳴りますね。まさか、あのゼフィルスがこんな大役を任せてくれるとは思いませんでした」


「おう! 俺は信じていたぞ。〈51組〉リーダーは俺が倒し、〈1組〉に残るぜ」


「おいおい、俺様を忘れてもらっちゃ困るぜ? 真打ち登場とは俺様のことだ。ゼフィルスも分かってるな!」


 ちょっと願望と勘違いが漏れていたが概ね問題無いだろうとシズは判断する。



 要塞の上には連絡路があり、その中心地には東屋風の屋根。

 そこにいるのが連合の総大将、リーナである。そしてリーナを守るようにして二盾使いのトモヨ、奥ではカルアがアケミたちを引き付けていたためリーナを守る人員は今たったの9人だった。

 ……何気に〈天下一大星〉の倍近くいるが、大丈夫だろうか?


 シズたちの役割は、ここでリーナを強襲し、〈竜の箱庭〉を使えない状態にすること。難しければ少しの間リーナの目を逸らさせるだけでも良し。

 要塞の上からさりげなくゼフィルスとエステルの様子を確認したシズが作戦決行する。


「では作戦を決行します。行ってきなさい!」


「「「「応!」」」」


「まさか、要塞の上に登っての襲撃とは! 大胆すぎますわね! 迎撃!」


 ヘルクを前にして陣形を組んだ〈天下一大星〉は、シズの言葉と共に前衛3人が一気に駆けだし、後衛のサターンは名乗りを上げる。


「ふははははは! 食らえ! ユニークスキル『大魔法・メテオ』! 我は〈天下一大星〉がギルドマスター、サターンである! お前たちの首をもらい受けに来『バンッ』――あうっ!?」


「誰が名乗りを上げろと言いましたか。さっさと攻撃を続けなさい」


 名乗ったサターンはフレンドリーファイアを食らったようだ。

 本当にフレンドリーだったのか気になる所だ。


「【大魔道士】の『メテオ』だ! 防げ! 『ボーンガード』!」


「任せて、『堅牢の二枚壁』!」


 まさかの奇襲によりにわかに騒がしくなる要塞上部。

 ここに集められていた者たちも優秀だ。サターンの初手のユニークスキルは片手剣に盾を持つ剣士とリーナの護衛のトモヨによって防がれる。


「まさか、この要塞の上で白兵戦を仕掛けてくるのが〈天下一大星〉だなんて!?」


「意外すぎるわ!」


「ふふ、そう褒められても悪い気はしませんが、覚悟してもらいましょう! 『滅空斬』!」


「おらぁ退場したい奴から前に出な! 『アンガーアックス』!」


「俺様――」


「『号令』! 相手は〈天下一大星〉ですわ! 大した相手じゃありません冷静に対処してください!」


「なんだとぉ!? 俺様を忘れてもらっては困るぞ!!」


 ヘルクがセリフの途中で被せられるアクシデントはあったが、概ね混乱に導くことに成功する。


 いや、成功したかに思えた。

 しかし、リーナの『号令』スキルを受けた全員が集まって素早く防御の陣形を取る。

 次の瞬間にはリーナヘのルートが分厚く遮られたのだ。明らかに常軌を逸したスピードの編成だった。しかし、〈天下一大星〉はそんな事には無頓着だった。


「ふふ、こしゃくです! そこを通しなさい! ――『一文字』!」


「おらぁ! 崩れろやぁ! ――『破壊斧』!」


「甘いな、『ニードルシールド』! 『反撃の剣』!」


「そんな攻撃、効かないから! 『堅盾けんたて』!」


「ぬお、なんだと!?」


 ジーロンが斬り、トマが斧を振り下ろすが、防御陣形を取った連合は崩せない。

 前に出ている剣士風の男子がジーロンの攻撃を防ぎ、さらには反撃。そして両手に大盾を装備したトモヨが固い防御でトマの攻撃を弾き返した。


 ほんの数秒で、もう連合は予想外の攻撃に的確に対応してきたのだ。これはリーナの『号令』スキルの効果。位置を指定して味方をそこに移動させるスキルのおかげだった。

 リーナが的確な位置を見極めて『号令』で配置させることにより、バラバラだった連合がすぐに陣形を取る事ができるのである。見方によればユニーク級とも捉えることが出来る強スキルだ。


 さらにリーナはこれだけでは終わらない。砲を〈天下一大星〉へ向けぶっ放す。


「――『紅蓮砲』!」


「俺様がここにいるぜ! 『ビッグガード』!」


 リーナの砲撃をすぐにヘルクが大盾を使いガードする。が、リーナはそれを無視してどんどん放ち続けた。


「――『四連魔砲』! ――『四連散弾魔砲』! 『ショット魔砲ガン』! ――『デルタカノン』! ――『ビーム』ですわ!!」


「な、何!? ――『オーラ・オブ・ボディガード』!」


 ドンドンドンドンドンッ。

 砲撃の連射が〈天下一大星〉を襲う。さらには陣形を組んだ連合からの遠距離攻撃もガンガン飛んだ。

 やや広い範囲攻撃、面による攻撃、散弾や、連続砲撃を食らわされ、ヘルクは仲間を庇うために大きく手を広げて防御するが、その受けたダメージの大きさに驚愕する。


「な、俺様のHPが!」


「ヘルク!?」


 いくら防御に秀でているタンクであろうとも、防御スキルを発動しようとも、これだけの攻撃を受ければ大きくダメージを受ける。さらに言えば、レベルカンストしているリーナの魔法攻撃だ。LV53のヘルクはVIT優先の育成をしているため、大きくダメージを受けたのだ。


 もちろん、回復を受ける隙など与えない。リーナは〈天下一大星〉のタンクが崩れたのを見て、反撃を指示する。


「今です! 突撃! 『指揮砲』!」


「「「「おおぉぉ!!」」」」


「な、何ィ!?」


「俺様、俺様は! うおぉぉぉ―――――」


 一転。

 一気に攻勢に出た連合に〈天下一大星〉の方が押されはじめた。

 さっきとは真逆の構図。

 これが、指揮があるかないかの差。


〈天下一大星〉の奇襲は失敗し、まずヘルクが退場してしまう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る