第583話 〈9組〉陥落。第四要塞、司令部設置完了。




 時は少し巻き戻り、場所は〈9組〉拠点。


「ぐ、動かなければ、狙われることは無いはずだったのだがな」


「そんな事だろうと思ったよ。だから攻め込んだ」


 片膝を突いて肩で息をする男子にメルトが言う。


「あのキールのことだ。どうせ自分がもしいなくなった後は拠点に引きこもってそのまま他がつぶし合うまで待機とでも言ってたんだろう? あいにくだが、俺は〈1組〉とは違いリーダーを失った拠点をそのままにはしない」


「そうだな。キールは言っていたよ。今までの傾向けいこうから外で活発に動くクラスは狙われ落とされるとな」


 メルトの言葉に答える男子は諦めたのかドカリと座り、胡座をかいた。手に持っていた弓も地面に置き、無抵抗をアピールする。

 彼は先ほどキールの側に居た【大狩人】の男子であった。


 彼はキールがやられる寸前まで近くに居たが、インビジブル系スキルで姿を隠していた。索敵系を持たないレグラムが見つけられなかった理由で有り、キールが最後に作戦を伝えた相手でもある。キールがやられる寸前叫んだことで、レグラムを狙撃しようとした手を止め、〈9組〉に伝言メッセンジャーとして戻ってきていたのだ。


 キールが最後に届けた伝言は単純だ。ただの専守防衛である。

〈9組〉は拠点の位置に恵まれており、罠を通路上に配置しておけば易々とは進行できない。専守防衛に専念されればそう簡単には落とされない位置にいるのだ。

〈10組〉のリーダーが生きていたらその配下に付くべし、という指示などもあったが、あの状況だ。キールはジェイが生き残れるとは思えなかった。


 だからこそ〈3組〉との縁を切り、専守防衛に専念。〈1組〉が暴れて他を全部落としてくれるのを待っていたのである。実際、〈1組〉はまったくと言っていいほど〈9組〉は眼中に無く、メルトたち〈8組〉が〈9組〉に攻めて来なければかなり順位の高いところに位置できたかもしれなかった。


 まあ、もう〈9組〉拠点は制圧寸前まで追い詰められているので残念ながらそうは上手くいかなかったわけだ。

 何しろ〈9組〉〈10組〉リーダーを屠ったのは〈8組〉である。

 この二クラスは最初から〈8組〉に目を付けられていたのだった。


 そうしてそこから二分後、ついに〈9組〉が陥落。目の前の【大狩人】を含む〈9組〉学生は全て退場し、〈8組〉に398点ものポイントが入ってきたのだった。これで〈8組〉は一気に1位へ躍り出る。


〈8組〉が勝利に盛り上がる中、メルトの元へレグラムがやってきた。


「メルト、斥候からの報告だ」


「レグラムか。頼む」


「報告によると〈10組〉拠点周辺は連合のテリトリーだそうだ。出歩けば簡単に捕捉される。実際斥候も伏兵を仕掛けられてかなりギリギリで逃げ帰ってきたらしい」


「〈10組〉は無理か。では〈3組〉は?」


「それなんだが、どうやら〈3組〉は連合に加わる可能性がある。確定では無いらしいが、戦闘では無く、連合が交渉を仕掛けていたところを見たそうだ」


 その報告を聞き、メルトの右眉がピクリと動く。


「〈3組〉が連合に加わる。四クラス同盟になるな」


「あり得ないと思うが、もしゼフィルスが不覚を取れば」


「次に狙われるのは〈8組〉か。……ならば、次の行動は決まりだろう。〈1組〉拠点へ向かおう」


「俺も同意見だ。みんなに伝えてこよう」


 こうして〈9組〉は〈8組〉が討ち取り、〈8組〉は〈1組〉と手を組む道を歩みだす。



 ◇ ◇ ◇



 途中経過――〈残り時間:3時間10分00秒〉

〈1年1組〉『残り人数:27人』『ポイント:0点』

〈1年3組〉『残り人数:17人』『ポイント:0点』

〈1年5組〉『残り人数:20人』『ポイント:45点』

〈1年8組〉『残り人数:24人』『ポイント:398点』

〈1年12組〉『残り人数:19人』『ポイント:40点』

〈1年51組〉『残り人数:22人』『ポイント:315点』

〈1年9組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』7位

〈1年10組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』最下位




〈1組〉と〈8組〉が共同戦線を組んだ。


 これをいち早く察知したリーナは第四要塞へと急いでいた。


「メルトさんですわね。むう」


 リーナの脳裏に銀髪でちょっとショタ気味の美男子の姿が過ぎる。


〈8組〉の動きが読めず、絶対何かしてくるだろうと思いつつも南側に手が出せず、〈1組〉の相手をしているうちに〈8組〉が陰で動いていた。


 移動の途中で送られてきた10分に一度表示される途中経過。

 それにはばっちり〈9組〉を落とした〈8組〉が表示されていた。

 リーナも手が空けばすぐに〈9組〉を落とすつもりだったがために悔しい思いが募る。


 メルトの狙いは分かる。

〈8組〉単体では連合には勝てず、〈1組〉と戦っても勝ちは遠い。

 ならばどちらかと組むしか無い。


 しかし、連合と組むことはメルトはしないだろう。一度断っているのだから。


〈8組〉は結局〈1組〉を選び、連合を倒す道を選んだらしいと知る。


「なんて、羨ましいんですの……」


 自分たちは断られたのに、メルトたちはちゃっかりゼフィルスと行動を共にしようだなんてずるい、とメルトたちに嫉妬するリーナだった。

 自分だって本当はゼフィルスたちと一緒に戦いたかったのだ。しかしゼフィルスが強敵を望んでいるし、ゼフィルスと同じクラスになりたいがためにリーナは正々堂々と頑張って戦おうとしていたのに、メルトたちの行動は抜け駆けだった。とってもずるいと思う。


 しかもタイミングが絶妙で、主力と〈1組〉がぶつかっているところに援軍という形で参加だ。これでは〈1組〉は〈8組〉と敵対できない。


 しかしいつまでも膨れてもいられない。


 リーナは一度切れてしまった『ギルドコネクト』のクールタイムが回復すると同時に回線を繋げ、ゆっくりと防御陣形で第四要塞へ下がるよう指示する。


 連合主力は応戦しながら後退するが、ほぼ同数となった〈1組〉〈8組〉共同戦線によって大きな被害を出した。


 主力が大きく被害を受けつつも、〈1組〉〈8組〉戦線を止めて、貴重な時間を稼ぎ、その間にリーナたち司令部は何とか北部から第四要塞の内部に入ることが出来た。


「(とても厳しい状況ですが、まだ挽回の機会は……)」


 すでにリーナが遠距離から指示を出して何とかできる範疇を超えている。

 ここからは連合の全力だ。決戦の地は第四要塞。

 ここで決着をつけるしかない。


 ラムダやハイウドが第四要塞まで引きつけるまでもう少し。




「リーナ姉さま、勝てるのかな?」


「勝つ必要はありませんわ。わたくしたちに必要なのは負けないことですの」


「ん、どういうこと?」


 新しく司令部を移した第四要塞の要塞上部、東屋のような屋根が設置された通路部の中心地で、アケミが少し不安そうにリーナに聞く。

 しかしリーナの答えは予想だにしないものであり護衛のナギが思わずという風に問う。


「そもそもの話、わたくしは〈1組〉に勝とうとはしていませんでしたわ。というか〈1組〉の拠点を攻めてもおそらく勝てません。それほど〈1組〉の拠点は強いのです」


「え、ええ!? じゃあどうやって勝つの!?」


「学年最強は伊達ではないよね~」


 アケミが驚きの声をあげナギが腕を組んで頷く。


「はい。それなら拠点を落とさなければいいのです。〈拠点落とし〉は何も拠点を落としきることが勝利ではありませんわ。〈判定〉勝ちも立派な勝利ですの」


 そう、リーナの狙いは最初から〈判定〉勝ち。

〈1組〉の、いや〈エデン〉の強さを誰よりも知っているリーナだからこそ、〈判定〉での勝ちを狙っていたのである。


 たとえば〈1組〉の拠点を狙った場合、色々ととんでもないものを相手にしなければならない。〈ジェネラル〉さんとか。

 しかし、判定勝ちを狙うのならば〈1組〉の攻撃部隊を倒せばいいだけだ。

 たとえゼフィルスやエステルが残っていたとしても、他の攻撃メンバーが大部分やられていれば思うように攻撃は出来ない。少数では要塞を持つ連合の拠点に手が出しづらい。


 リーナが要塞を建てたのは元々それが狙いだった。

〈1組〉の攻撃部隊を倒すことができればもう連合を倒すことの出来る相手はいなくなる。


 そしてポイントは〈10組〉〈9組〉、それと〈3組〉か〈8組〉を倒すことで〈51組〉〈12組〉〈5組〉は〈1組〉の上を取るつもりだった。

 リーナは最初から〈1組〉に他の拠点を落とされないよう色々と手を施していた。〈1組〉の拠点に若干近いのも然り、〈竜の箱庭〉対策をしてもらうも然り、〈51組〉がわざと狙われるようにしてきた。


 たとえ〈1組〉でも攻撃部隊がやられてしまえば防衛に専念するほか無い。一度マッピングが出来てしまえば連合が有利だ。

 もし、〈1組〉が残りの部隊で出撃しようものなら連合が動く。〈竜の箱庭〉は伊達ではない。

 そうして〈1組〉を封じ、フィールドを支配して判定勝ちを狙うのがリーナの思想だった。


 しかし、結果は厳しい。途中までは順調だったのだが。

 カルアを封じ、〈1組〉の攻撃部隊を削り、〈10組〉を落とした。予定と異なり〈3組〉をこちら側に引き入れることもできた。〈1組〉の攻撃部隊だって狙いはゼフィルスとエステル以外のメンバーで、数で勝れば討ち取ることも不可能ではないと思っていた。


 ラムダにエステルを押さえてもらえればその隙にほかのメンバーを倒すことが出来る可能性は高いと考えていたのだ。

 しかしラナの回復が、遠距離攻撃が、リーナの作戦を大きく狂わせた。


 また〈8組〉が〈1組〉とこのタイミングで手を組むなど、かなり厳しい。


 とはいえリーナは〈1組〉と〈8組〉が手を組むことを想定しなかったわけではない。

 想定はしていた。しかし、その時は野戦で勝つのは不可能と考えていただけだ。

 その時はこうして要塞の力を借りる。要塞もリーナの力も上級職も全部使って相手の攻撃部隊を削り取る、もはやこれしか方法は無い。正攻法だった。


「今は四クラス連合ですわ。私たちが今やるべきことはこの要塞を守り、〈1組〉〈8組〉の攻撃部隊を倒すこと。とにかく人数を減らすことを目標にします」


「アイマムー」


「わかったわ! カジ、ワルド、行くわよ! リーナ姉さまの力になるのよ!」


「いえ、アケミさんたちはここにいてください。むしろ遠距離専門なのですから要塞上部から援護担当です」


「そういうことよカジ、ワルド! 分かったわね!」


「「はは~」」


 リーナたちの迎撃準備は整った。

 ラムダたちの部隊が、ついに第四要塞のあるマスまで下がることに成功。

〈1組〉〈8組〉戦線は、少し離れてはいるがしっかり付いて来ていた。


 ここからリーナの【姫軍師】の真髄が光る。


「反撃、行きますわよ! ユニークスキル発動! ――『全軍一斉攻撃ですわ』!」




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