第582話 〈1組〉VS連合主力。合流する援軍に、おや?




〈1組〉とぶつかった連合だが、約3倍の人数差でも有利を取れてはいなかった。


「報告! 相手は常時継続回復を付与されています!」


「回復は〈白の玉座〉だけでは無かったのか!?」


 情報が錯綜する。

〈1組〉の王女様が遠距離から回復出来る上級装備、〈白の玉座〉を所持しているという情報は持っていた、しかしその威力、その強さを連合は改めて思い知らされていたのだった。


「慌てるな! 数はこちらの方が圧倒的に上だ! 前衛は相手1人に対し2人以上で対応! ヒーラーはどんどん回復せよ! HPが厳しい者は引け! すぐに回復して前線に送り返してやれ!」


 連合の指揮をしているのはラムダの副官、ハイウドだった。

 その指揮力は大したもので、連合はHPが減ればすぐに引き、〈1組〉メンバーを数人がかりで相手にすることでなんとか均衡を保っていた。


〈1組〉は王女を3マス南のマスに置き(図F-18)、支援回復を受けながら戦闘していた。前線に出てきているのはゼフィルス、エステルの二大上級職とリカ、〈天下一大星〉の4人、計7人で、ラナとパメラは後方に控えていた。


 エステルは相変わらずラムダを相手にし、ゼフィルスも12人がかりで対応されていた。リカと〈天下一大星〉のメンバーは後方に向かいそうな敵を抑えるのにかかりきりだ。パメラはラナに向かってくる敵への最終防衛ライン、つまり護衛だ。

 人数差は圧倒的で連合が有利なはずだった、しかし。


「ま、また一人勇者に討ち取られました!」


「ぐぬう! これだけの人数で相手にしておいてなぜ勇者一人倒せない! やつは上級のボスか何かか? ええい〈白の玉座〉は近い! そちらを先に止めるのだ!」


「向かわせていますが、止められています!」


「はっはっは! ラナのところに行きたければ俺を倒してからにしてもらおうか!」


「このお! 『メタリック・ウェポンナックル』!」


 ハイウドが声を張り上げながら単体打撃攻撃〈三ツリ〉スキルの『メタリック・ウェポンナックル』を使い勇者を攻撃するが、ヒラリと避けられてしまう。


「やっべぇ、人気者って辛い! ――『ライトニングスラッシュ』!」


 勇者が笑顔で放ったスキルを別の仲間が防御する。

 1対12、いや一人減って1対11なのに、なぜか連合側が押されている。


 さきほどから連合側はジリジリと第四要塞側に後退し、防御メインで戦闘している。

 勇者があまりにも強すぎて、攻撃に移ると逆にやられかねないためだ。連合という、複数のクラスが組んでいることにより連携が拙いのも理由として挙がるだろう。

 これだけの人数がいて勇者には碌にダメージも与えられない。多少与えても遠距離から回復が飛んできて全回復してしまうのだ。悪夢である。

 しかも、徐々にやられて連合主力が少なくなっている。ハイウドは内心非常に焦っていた。


「隙有りだぁ! 『サンダーボルト』!」


「うわああぁぁぁ、みんなごめ――」


「くっ!」


 また一人が討ち取られてしまう。勇者の動きが止められない。




 一方でラムダはエステルを相手に戦法を変え、力強い粘りを見せていた。


「『ホーリーヒール』!」


「また、回復ですか」


 もう何度目かになる回復スキル。

【聖騎士】の上級職である【カリバーンパラディン】は当然のように『ヒール』系の魔法を覚える。


 さらには【聖騎士】の時はタンク系で育つせいでやたら硬いのだ。

 ラムダは〈上級転職チケット〉の試しで【カリバーンパラディン】が発現していると知るLV50まではタンクで育ってきた。

 その後は〈キングアブソリュート〉によるパワーレベリングで一気にレベルを上げ、攻撃と防御に優れるステータスへと振っている背景があった。

 だからこそ、エステルの攻撃力とはいえ中距離安全圏からの攻撃では削りきれていなかった。多少のダメージは回復されてしまう。


 また、ラムダが先ほどから反撃を止め防御に徹しているのも削りきれない要因だった。

 剣をしまい、攻撃を止め、盾を両手で持ち、エステルの攻撃に徐々に対応しながら、連合主力の遠距離攻撃でエステルにダメージを与えるタンク戦法に対応を変えてきたのだ。これはラムダの残りMPの残量も関係していた。大技の連続でMPが心許なくなっているのだ。


 しかし、そうとは知らないエステルは、ラムダの防御戦法を反撃が出来ないため対応を変えてきたのだとラムダの対応を評価していた。


 ラムダを倒すためには、火力を出す必要がある。

 該当するスキルは一つ。攻撃一辺倒のスキルなため、先ほどのように大技をされると反撃でやられる可能性があった。しかし、今はその心配は無い。


 連合の魔法攻撃を〈戦車〉で躱しながら、エステルがユニークスキルを発動するか検討を始めた所で――。


 ―――突如連合側から大きなざわめきと動揺の波が広がった。




 ここで連合にさらなる追い打ちを掛ける出来事が起こったのだ。


「ハイウド、あれを!」


「!! 全員退避! 退避――!!」


 仲間の一人が南に目を向け警告した。それにハイウドも反応して振り向き、見つけてしまう。

 南から来る大援軍を。


 ラムダの方もそれを見つけ、すぐに退く体勢に移った。


「む、あれは! エステル女史、この戦い、預けさせてもらう」


「逃がしません! 『騎槍突撃』!」


「『聖光盾現・真壁』!」


「む」


「リーダーの撤退を援護しろ! 撃てー! 撃てー!」


 エステルは逃がさないよう槍突撃の『騎槍突撃』で距離を詰めつつラムダを追い詰めようとする。

 しかし、それは巨大盾壁顕現スキルによって防がれ、連合から雨あられのようにエステルに攻撃が降り注いだ。


 ラムダを万が一討ち取られたらどうなるか連合は良く理解している。だからこそエステルを遠ざけようとする遠距離攻撃の圧力はとても強いものになっていた。皆で協力し全力でラムダの撤退を援護していたのだ。



「逃がさないぜ! 『シャインライトニング』!」


「体勢を立て直すぞ! 一旦下がるのだ! 『メタルハンドガード』!」


 ゼフィルスの範囲攻撃が炸裂。足止め目的で大盤振る舞いする。

 ハイウドが豪腕で味方を庇いながらも撤退を呼びかけていた。


 南からの大援軍、どう考えても〈1組〉への援軍だった。

 すでにラナのいる3マス南を経由し、駆け足でこの戦場に向かってきていたのだ。

 これがゼフィルスが仕掛けていた一手だ。半分は。


「あれ、シエラさんたちだけじゃなく〈8組〉もいるデスよゼフィルスさん」


「メルトが? ……なるほど、メルトはそう来たか」


 連合の後先考えないほどの強い圧力攻撃にさすがに一人でこのまま突き進むのは難しいと少し退いたゼフィルスの側に、ラナの護衛についていたパメラがやってきていた。


 言われてゼフィルスが振り返ると〈1組〉の援軍の他に〈8組〉の姿も見える。

〈8組〉は〈1組〉を援護する気のようだ。それを見て、リーダーメルトの考えを理解する。


「ミサトったらやっぱりメルトを釣ってきたデスね。これはゼフィルスさんの予想通りなのデスか?」


「おいおい、俺がメルトを釣るためにミサトを派遣したみたいな言い方はやめてもらおうか」


 そう、ゼフィルスはこの激戦の前に〈1組〉に向けてミサトを伝令に走らせていた。

 作戦変更のお知らせのためだ。伝令役をミサトにした理由は単純で、ヒーラーはラナだけで十分だったからだ。さすがは【大聖女】。ミサトがとても困った顔をしていた。出番が無くて。


 おかげで伝令しかすることが無くてぴょんぴょんと走って行ったのだ。いや、伝令はとても大切な役割だ。だからパメラの言う事実は無い。


 そうして〈1組〉から援軍が派遣される。メンバーはシエラに仲良し三人娘のサチ、エミ、ユウカ。それとクラスメイトの3人の女子。


 防衛メンバーは女子2人とミュー、ルルとシェリアを残して前線に合流した形、だったのだが、予定にまったく無い〈8組〉まで連れてきたとか、さすがはミサトである。

 何がさすがなのかはさておいて。


 そうしていると、メルトが近くまでやってきた。そうして予想通りのことを提案する


「ゼフィルス、簡略だが、〈1組〉と共同戦線を張りたい。目的は連合を協力して倒すことだ」


「……了解だ。んじゃ、詳しい話は後で詰めるとして、今は目の前の連合主力部隊の撃破に協力を宜しく」


 本当に簡略で、成功報酬の話し合いとかは後になるが、とりあえず目標だけは同じ事を確認し、ゼフィルスも了解する。この状況だ。断って〈8組〉とも敵対、という可能性は避けたい考えだ。

 おそらく、リーナも〈8組〉が来たことは分かっているだろう、手を打たれるより前にとスピードを求めた結果、話し合いは後回しとなった。


 まずは〈8組〉と協力する。人数的にも3倍以上に膨れ上がっており、連合はこれに完全に浮き足立っていた。


「成立だな。こちらこそ宜しく頼む。―――ノエル、クラスメイトに伝達!」


「オーケー! みんな戦闘開始だよ! 〈1組〉と協力しながら連合を撃破するよ! 〈8組〉は右翼から行くよ!」


 ノエルがマイクを手に声を張って伝達する。


「私たち〈1組〉は左翼からよ。ゼフィルス行くわよ!」


「おう! シエラ、後で説明よろしくな」


 シエラに誘われる形で俺もMPハイポーションをクイッと一気飲みしてダッシュする。




 そうして数分後、連合の主力は大きく削られたまま後退することになり、舞台は第四要塞へと移る。




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