第581話 カルア救出作戦、シズの苦難と救出劇(?)
「その光の巨剣を受けきらん! ――『聖光剣現・真斬』!」
連合主力へと迫るラナの四宝剣を、受け止めようとしたのはラムダだ。
『聖鎧』の効果が終わり、エステルと再び打ち合うさなかに打ち込まれた四宝剣を、ラムダはエステルごと薙ぎ払う軌道で巨剣を顕現する『聖光剣現』の〈斬〉を発動した。
しかし、さすがに無理矢理狙ったためと、巨剣を顕現させるためのラグの間に隙が出来、エステルには回避されてしまう。
ただ、大技の薙ぎ払いだったためにエステルが大きく距離を取ったのは上出来だった。
そして巻き込めた四宝剣は2本。残り2本は素通りしてしまう。
「まだだ! ――『聖光盾現・真壁』!」
防御スキルだ。顕現する巨大な盾の壁にラナの残りの2本も命中し、防がれてしまう。
「今だ魔法攻撃! 撃ち払え!」
ラムダの指示に第四要塞と主力の一部が合流し、前に出ていたエステルとゼフィルスに総攻撃を仕掛けた。
◇ ◇ ◇
「おおう。なかなかやるなあの【カリバーンパラディン】の男子!」
「彼はラムダさんと言うそうですよ」
「ラムダ君か。よし、覚えたぜ! やりあってみたいが、連合主力が追いついてきたなら俺が出ないとまずそうだ。エステル、しばらくラムダ君の相手を頼んでいいか?」
「おまかせください」
残念だが【カリバーンパラディン】のラムダ君とのバトルはお預けだ。
俺は回避運動を続けながらエステルと軽く打ち合わせして役割分担を決める。
連合主力はどんどん追いついてきている。人数は膨れ上がっているな。
思ったより速いご到着でラムダ君と戦う時間が捻出できなかったのが残念無念。
こうなれば誰かが主力を相手にしなければならない。
ふっふっふ、腕が鳴るぜ。
リーナの部隊も結構疲弊が見える。ラナの攻撃にさらされて続けて大きくダメージを負った上に、退場者も出たっぽいな。
側面から突いたり、二方面から攻撃しようとした手は全部潰せて、正面からの正攻法の激突に持ち込めた。
こっちは人数は少ないものの、そこはすでに手を打ってある。
さらにこちらは正面からの正攻法にむっちゃ強いぞ?
「――『大聖女の祈りは癒しの力』!」
ほら、途切れないバフと回復の雨を浴びた俺たちを、君たちは倒せるかな?
◇ ◇ ◇
一方、場所は中央山。
「『ファイアバレット』!」
シズの火属性銃撃スキル、『ファイアバレット』が中央山に仕掛けられた〈レムスイカ〉を燃やして消した。
「クリア。進みます」
「にゃあ」
シズは中央山の中腹に来ていた。
黒猫の案内に従い進んできたシズではあったが、その移動は苦難の連続だった。
まず中央山は簡単に登ることができない。
ゼフィルスからカルアを救出してきてくれと頼まれていたシズであったが、いきなり難関にぶち当たっていた。まあ、そこは以前初戦で崖を登った時にも使った山登り用の〈アンカーロープ〉というアイテムがあるので時間を掛ければ登ることは可能だ。
しかし、それは中央山の北側で簡易階段を見つけたことで解決する。
アケミたちが〈レムスイカ〉を回収する可能性があるのでそのままにしておいた階段だ。
敵に再利用されていますよアケミさん。
「あ、そろそろ効果が切れそうなので掛けなおします。『ジャマー』!」
岩陰に隠れて銃を構える仕草をしたシズがスキル『ジャマー』を掛けなおした。
このスキルがシズが〈竜の箱庭〉に捉えられず、自由に動くことのできる正体だった。
――『ジャマー』は索敵妨害スキル。
普通の『索敵』やパッシブスキルなんかの『気配察知』系もごまかせる他、リーナの〈竜の箱庭〉だってごまかせてしまうハイド系の良スキルである。
その代わりインビジブル系では無いので目視されれば普通に発見されてしまうのだが、そこは『索敵』と併用することで見つからずに動くことが可能だ。暗躍に適したスキルである。
そうしてリーナに見つからずに中央山に着いたシズだったが、またもや苦難。
〈レムスイカ〉が待ち受けていたのだ。
これには『罠発見』スキルがむちゃくちゃ警報を鳴らす。
しかし罠はダンジョンの物ではなく人工的に仕掛けられたものならば容易く破壊可能だ。
そこでシズは先ほどから近づかないよう遠距離から破壊して進んでいるわけだ。
〈レムスイカ〉の効果は「花のある場所の近くに長く居続けると、〈睡眠〉のバッドステータスを食らってしまう」というものなので破壊してしまえば〈睡眠〉にかかることは無い。
シズは知らずにしていることだが、〈レムスイカ〉は破壊してしまうことが最適解だった。
何の罠かは分からないが罠はとりあえず破壊するに限る。ゼフィルスの教えが根付いていた。
そうしてシズはとうとうその場所に到達する。
「にゃあにゃあ」
黒猫が前足二本をその建築物にペチペチペチペチ肉スタンプしながらアピールしたのだ。
「…………この中にカルアは居るのですか? ふむ」
それは金属のかまくら型の建築物だった。軽くシズがノックすると、やはり金属の音と感触が返ってきた。
銃撃しても破壊は難しそうで、〈防壁〉アイテムということでもなくHPバーは無し。
とりあえずシズは話しかけてみる。
「カルア、居るのですか? 返事をしてください」
「――ん――んん――」
「微かに人の声が聞こえる気がしますね。分かりました。なんとか撤去してみましょう」
カルアはどんな手を使われたのか、かまくら型の建築物に閉じ込められていた。
あの素早さと直感の鋭いカルアを捕獲するとかどうやったのかシズには見当もつかない。
しかし、現に閉じ込められている以上それが全てだった。シズはペタペタと金属のかまくらを触りながら一周する。
「取っ手や開封口がありませんね。これは組み立てたら破壊するしかない類のものでは?」
一通り調べてみてわかったのはこのかまくら型の建築物がとても頑丈で、窓の類や出入り口が一切無い、閉じ込めるため専用の建築物、ということだった。
閉じ込めるために使ったのだからそりゃあ抜け出せないだろう。簡単に壊すことも出来ない。
もし見つかってもここに閉じ込められている限り救出不可にするという考えが見えるようだった。
「ふむ。とりあえず、壊せるか試してみましょうか。『グレネード』!」
おもむろにシズが放った一発の
「ボカーンッ」「みゃあ!?」「――!?」周りに大きな音が響いた。何やら猫の鳴き声とかまくらの中から悲鳴が聞こえた気がしなくもない。
しかし、かまくら型の建築物はまったく損傷は見られなかった。少し焦げただけだ。
「やはり破壊出来そうにありませんね。……おや? これは――」
近づいて調べてみて、ダメそうかも、と思いかけたシズだったが、一つかまくらの根元が気になりしゃがみこむ。
何やら擦れた後を見つけたのだ。
よく見ると、さっきまでかまくらがあった位置が微妙にズレていることが分かる。
「建築物が、ズレる?」
そこでシズはゼフィルスが以前説明していたことを思い出した。
「そういえば、この山はダンジョンオブジェクト扱いだと言っていましたね。だからこそ自由自在に創造することが可能だと。その代わり破壊不能オブジェクトとも言っていました」
この山はダンジョンオブジェクトだ。
リアル〈ダン活〉では砂浜や隠し扉など、破壊できるオブジェクトも多いが、この山は破壊不能オブジェクトに認定されている。じゃないと破壊で地形が変わったり、穴掘って身を隠したりと色々なことに使えて危険だからである。
この山は穴を掘ることが出来ない。ということは。
「…………なるほど」
シズは頷きながら納得すると、〈
それは地雷。初戦に大活躍し、準決勝で悲劇を生んだ、あの地雷罠であった。
「作業開始です。『地雷罠設置』!」
シズがスキルを発動すると、一瞬でかまくらの根元に地雷罠が仕掛けられ、目視で確認できなくなるくらい気配が薄くなる。
地面を掘ることが出来ない中、露出している地雷を仕掛けても見つからないのはこのスキルのおかげだった。罠設置&インビジブル系スキルである。
「では。猫さん、危ないので下がっていてください」
「にゃ、にゃあ!」
「『弾幕』!」
少し下がった、シズは無表情に散弾を複数回撃つスキルで地雷罠を撃った。
地雷発動。「ボボボッカーーンッ!!」という激しい音と共に大爆発。
「……作戦成功ですね。地面への固定が出来ないのがこの建築物の弱点でした」
そしてかまくら型の建築物はというと、まるでボウルのようにひっくり返っていたのだった。
そう、シズが言ったように建築物は地面に固定されていない。ならばひっくり返せばいいのだ。まあシズの細腕ではどう頑張っても持ち上げるのは不可能なので、片側の根元に地雷を仕掛け、亀をひっくり返すがごとくボカーンしたのだった。
そしてかまくら建築物がどいた後には、目を回したカルアが倒れていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます