第584話 第四要塞マス大戦『全軍一斉攻撃ですわ』!





 リーナのユニークスキル『全軍一斉攻撃ですわ』は全体強化バフスキル。

 味方のスキル威力、魔法威力を一定時間大上昇させる優れたスキルだ。

 しかもこの「味方の」という部分の解釈がとんでもなく、ギルドメンバーやパーティメンバーという枠組みに縛られないのだ、つまりはリーナが「あの人は味方」と認識している人全員に補正が掛かるというビックリ効果を持つ。


 逆にギルドメンバーですらも「あの人は今味方じゃ無い」と認識していれば効果は及ばない。

 当然〈エデン〉のメンバーでもその効果の対象にはならない。

 そのおかげで現在、第四要塞のマスに集まった連合40名は漏れなくリーナのユニークバフが掛かった状態となった。


 ――「威力が大上昇」。

 攻撃力や魔法力をバフするスキルは数あれど、威力・・を上昇させるスキルは非常に少ない。希少と言っていい。

 このスキルの強みはなんと言っても攻撃力、STRとは別枠という点だ。対象がスキルへの付与なためだ。


 バフは基本的に重ね掛けが出来ない。

 例えば攻撃力を上げるバフを複数掛けられたとき、優先されるのは最後に付与されたバフだ。つまり攻撃力バフが掛かっているところに攻撃力バフを加えても上書きされるだけ、重複するのは効果に「重複する」と書かれているバフだけだ。大抵がユニークである。


 そして大体のダメージを増やすバフは攻撃力上昇、魔法力上昇だ。これと別枠でダメージを増やせるバフを付与できる時点でかなり強い。

 それが仲間なら全員に付与できるという時点で、なんかとんでもないスキルである。


 レイド戦やこのような〈城取り〉〈拠点落とし〉などで猛威を振るう、味方が多ければ多いほど効果が強力になっていく軍隊強化スキルである。全体系スキルなため同じマスの仲間全員に届くのが何よりも強い。


 リーナがこの第四要塞のマスに全軍を集めたのはこのためだった。


「バフを付与してくださいませ!」


 リーナの声に味方からどんどんスキルや魔法が飛び、味方が強化される。

 バフで味方が強化された瞬間、主力部隊を率いて要塞マスまで後退していたラムダが目をカッと開いた。


「今だ! 全力で反撃せよ!!」


「おおおぉぉぉぉぉぉ!!」


「我らにはヘカテリーナ殿のお力が付いている! ガンガン攻撃しろ! ただし深追いはするな!」


「お!? なんだこいつら急に圧力が、あ、わあぁぁ!?」


「きゃ!? うそ、これで終わり――」


〈1組〉〈8組〉戦線が要塞マスへ踏み込み、攻め入ったところで連合は突如猛反撃を繰り出した。これにより戦線に大きな被害が出始める。


「な!? 退場者が!?」


「何このダメージ!?」


「なんだって急にこんな!?」


「い、一撃だとぉぉ!?」


 今まで押せ押せムードで第四要塞まで追い込んだと思っていた〈8組〉から困惑と悲鳴が出る。一瞬で2人も退場者が出たのだ。


〈9組〉戦はノエルのバフに支えられ、ラクリッテの盾に守られて、メルトとレグラムの指揮と戦術によってあまり苦戦しなかった〈8組〉は、連合相手にも苦戦した事が無かった。

 だからこそ、そんな勢いに急に冷や水を浴びせられたことで混乱が増してしまう。


 連合はこれを見逃さずまず〈8組〉に狙いを絞ってきた。


「下がれ下がれ! 体勢を立て直す!」


 そうして指揮を執ったのはレグラムだった。

 全員が浮き足立ち始めた所にレグラムの言葉が染みこみ、前へ前へ出ようとしていた〈8組〉を止め、徐々に下がらせた。


「これはリーナのユニークスキル、『全軍一斉攻撃ですわ』が掛かってるな。リーナは第四要塞にいるのか。んじゃメルト、ちょっと行ってくる。その間に〈8組〉へ作戦周知よろしく」


「了解した。ゼフィルス、頼む。――ノエル、ラクリッテは来てくれ!」


〈8組〉が引き始めると、当然前に出るのは連合だ。

 メルトから離れたゼフィルスが〈1組〉の先頭までやってきて、シエラに言う。


「シエラはここで待機。俺の合図で盾を出してほしい」


「任せて」


「エステル、パメラ、一旦連合の目を引きつけるぞ! 3人で出る!」


「はい!」


「了解デース!」


「俺について来い! おりゃあぁぁぁ!!」


「うわ! 勇者だ! 勇者が前に出てきたぞ!」


 ゼフィルスが〈8組〉と入れ替わるように前に出たことでさっきまでやりあっていた連合主力が若干怯んだ。


「意味の無い目立ちたがりの『アピール』!」


「うお!?」


「なんだなんだ、今度は何のスキルだ!?」


「俺、当たっちまったぞ!?」


 続いてゼフィルスが使ったのは人にはまったく効果が無い挑発スキルの『アピール』だった。

 シャキン、とポーズを決めた勇者を中心にドーム状のエフェクトが膨らみ、敵味方構わずに飲み込んでいく。

 先ほどからゼフィルスのスキルによって散々やられてきた連合だ。初見のスキルに若干ビビリ、やたらと目立つエフェクトによって皆が勇者に注目する。アピールは大成功だ。

 なお、スキルの効果は当然無い。連合は困惑の表情だ。

 おかげで〈8組〉から連合を引き離すことに成功する。


「勇者たち一行が攻めてきているぞ! 下がれ! 一斉攻撃だ!」


 ラムダはリーナのユニークスキルの効果が一斉攻撃によって真価を発揮するものだと分かっていた。

〈8組〉を追い込めなくなったことでラムダは全体を一旦下げ、遠距離攻撃の一斉射撃にて勇者たち一行を討ち取らんとする。


 いくら上級職といえど、この威力が大上昇した一斉攻撃にさらされては生き残るのは難しいだろう。

 しかし、ゼフィルスはそれも読んでいた。


「【姫軍師】のユニークスキルは非常に強力だ。特に〈拠点落とし〉では味方が増えれば増えるほどその効力が顕著に出てくる。だが、あまりにも強すぎるが故に運用場所が限定される。端的に言えばこれの弱点はフレンドリーファイアなんだ」


 ――フレンドリーファイア。

 味方からの攻撃。〈ダン活〉ではパーティであればフレンドリーファイアされてもダメージは95%がカットされる。これはありがたいことにリアルでも同じシステムだった。HPの仕事がすごい。

 だが、このクラス対抗戦はクラスでパーティとされている、逆に言えば仲間でも同じクラスの者でなければ普通にダメージを受けてしまうのだ。


 リーナの『全軍一斉攻撃ですわ』で味方のスキル威力を大上昇するのは素晴らしい。

 それが軍対軍であれば無類の強さを発揮する。


 しかし、ゼフィルスたちのような強力な少人数を相手にするには、運用方法が限定されてしまう。軍で少人数を相手にするとき、突撃で攻めるより遠距離から一斉攻撃するほうが効果的だからだ、その方が数を活かすことが出来る。特にゼフィルスたちのような、被害が増すような敵を相手にしたときは遠距離で討ち取るのが最善だ。


 万が一にも味方は巻き込めない。巻き込んだら退場してしまう。

 だからこそ連合はゼフィルスたちが少人数で前に出てきたところで一度軍を下げたのだった。


 一度軍を下げさせてしまえばこちらのもの。


「よっし、一旦下がるぞ」


〈8組〉と連合を切り離し、陣形を組みなおす時間を稼いだゼフィルスは満足して下がった。

 仕切りなおしだ。

 ゼフィルスの指示にエステル、パメラとUターンしてマスの境へと戻る。


「! 逃がすな! 一斉攻撃!」


 ラムダの指示に多くの遠距離攻撃が襲ってくるが、


「シエラ、盾頼む!」


「――『ディバインシールド』!」


 シエラの自在盾がゼフィルスたちを守るように割り込み、四つの小盾がクロスするように組み合わさり、一つの大きなシールドになって攻撃を防いでしまうのだった。



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