第580話 作戦変更に続く変更。〈10組〉が陰で陥落。




 一方リーナは冷静に主力部隊に指示を出していた。


「北から回り込んでラムダさんと合流を目指してください。奇襲で〈1組〉の横を突きます!」


 主力部隊はいつまで経ってもゼフィルスと戦うことすら出来ていなかった。


〈1組〉が後退し、さらに遠距離反撃までされては足が遅くなるのも分かる。

 このまま追いかけるのは悪手と、リーナはすぐに切り替えていた。


 リーナの指示により主力は〈1組〉のいる南のルートを進むことをやめ、ラムダへと合流する北からのルートを進む。(図I-15方向へ)

 ここは南西に山があるために〈1組〉からは見えない。死角になっている。

 リーナの〈竜の箱庭〉を活かした見えない援軍だった。


〈1組〉は主力が南のルートを通って追いかけてくると思っているはず。(図I-18)

 ラムダという上級職を囮にし、〈1組〉本隊が方向転換して(図F-15)に来たところを側面から奇襲したい考えだった。


 そのため、ラムダの部隊にも1マス北へ下がるよう伝える。問題は現在のラムダの近くに〈51組〉がいないことだ。

 今は第四要塞から急ぎ伝令役を送ることを指示している。


 タイミングが重要だった。


「ここでぶつかりますわね。いよいよですわ」


 ゼフィルスの動きが予想を超えすぎて、思った以上に被害が大きかったが、やっと一当てすることが出来ると、リーナは一息ついた。


 とそこへ更なる知らせを持った3人組がやって来た。

〈12組〉のリーダーアケミとその取り巻きであるカジマル、ワルドドルガである。


「リーナ姉さま、報告します!」


「東側に向かっていた部隊ですが、ついにやりました!」


「〈10組〉が落ちたのが効いたようだぞい。奴が連合に加わることに同意したんだぞい」


「本当ですの!」


 それは朗報だった。

 対〈1組〉の動きの裏で行なわれていた、東側制圧戦。

 連合による〈3組〉〈10組〉〈9組〉の攻略だった。〈1組〉を南へ押し込んでいるからこその手の空いている第一要塞と第二要塞の人員を使った作戦だ。


 残念ながら位置的に〈9組〉には手が出せなかったが、〈3組〉には交渉を、〈10組〉には伏兵を仕掛けていた。

 その甲斐あり、〈10組〉は徐々に罠にかかり戦力を討ち取られ、最終的に陥落。〈51組〉が300点を先取することに成功していた。何気に決勝戦で初の陥落である。

 そして手を組んでいた〈9組〉とも分断された〈3組〉が、交渉と衝突の末にとうとう連合にくだったという報告だった。


 そう、リーナは以前アケミを通してゼフィルスに言った言葉「四クラスという半数のクラスが手を組めば4位以上になれる」という話を実行に移す為、四クラス目を引き入れたのだ。


 リーナが〈3組〉を最初に誘ったときにはすでに〈9組〉〈10組〉と手を組んでいたため引き下がるしかなかったが、すでに〈9組〉〈10組〉のリーダーは居らず、〈9組〉は拠点に篭ったまま動かず、〈10組〉は陥落。


 追い込まれた〈3組〉を連合は獲得することに成功したのだった。


〈3組〉のリーダーハク。

〈エデン〉を除けばラムダの次に強いと言われているLVカンスト者の1人、Sランクギルドの一つ、〈百鬼夜行ひゃっきやこう〉に所属する1年生。〈百炎のハク〉。


〈3組〉を連合に引き込めたのは非常に大きなアドバンテージだった。



 しかし、現場の状況はすぐに変わる。喜びも束の間それは起こった。


「!! リーナさん、〈竜の箱庭〉の南西から大部隊が!」


「なんですって!?」


 二盾使いのトモヨからの知らせでリーナは〈竜の箱庭〉へ慌てて戻る。

 するとトモヨの指摘した箇所、〈1組〉拠点のある方角、南西から少なくとも15人の部隊が出てくるところだった。(図E-21)

〈竜の箱庭〉の南側は霧に包まれ、観測することはできない。だからこそ今まで気がつかなかったのだ。


 それを見てリーナの表情が一気に青ざめる。


「こ、これは! ま、マズいですわ!」


「り、リーナさん!? どこへ!?」


「ナギさん、トモヨさん、急ぎ仕度を! すぐにここ第二要塞を出ます!」


「え、ええ!? どこへ行くの!?」


「第四要塞へ至急向かいますわ! 司令部を移します!」



 ◇ ◇ ◇



 一方で〈1組〉はリーナの思惑通り、北へと進行していた。


「ゼフィルスさん、東から団体様が迫ってきているデース!」


「そうだろうな! リーナならこのチャンスは逃すまい!」


 知ってた。だからこそパメラを前に出し、伝令を匂わせて索敵させていたのだから。

 戻ってきたパメラの報告は予想通りのものだった。



 エステルと相手の上級職君の戦闘は、エステルが有利だな。

 これ、プレイヤースキルの差だろう。エステルはもう何度も何度もボスを倒し、道場を使わずに育て上げた実力者だ。さらには最強育成論で最高のアタッカーに育てているのだ。そう簡単には負けない。


 それに対し相手の上級職君は、多分道場でレベルを上げたな。まあ〈公式裏技戦術ボス周回〉無しでこんな早く上級職になれるということは、LVロストして〈上級転職ランクアップ〉したか、道場でレベルアップさせたかしかないからな。彼は後者だろう。

 エステルの繊細な動きについていけていない。経験が足りてないように見えるな。その代わり〈四ツリ〉スキルをガンガン使ってくるな。


「というわけで俺があの上級職の方へ行く! 作戦通りに頼むぜ!」


「頑張るデース」


 パメラの見送りに剣を上げて答えつつ、俺は上級職君の下へダッシュする。

 しかし、それを見た連合の人が割り込んできた。


「! 〈1組〉のゼフィルスが来たぞ! リーダーの下へ行かせるな!」


「おおっと『ソニックソード』! からの――『聖剣』!」


「ぐ、ぐああぁぁぁ!?」


 まず1人。

〈天下一大星〉との戦闘で少しHPが削れていたからな。

 素早く斬ったらすぐHPがゼロになった。


「な、い、一瞬だと!?」


 そしてなぜかサターンが俺を見てビビッていた。

 いや、味方が驚くなし!


「うおおぉぉぉ! 『一閃突き』!」


「止まれぇぇぇ! 『ボルテッカーストライク』!」


「おいサターンたち、何逃がしてんだ!」


 ほら、おかげで〈天下一大星〉が足止めしていたはずの敵さんが俺の方に来ちゃったぞ。

 まあいいけどな。


「『シャインライトニング』! からの――『ライトニングバニッシュ』だ!」


「あばばばああぁぁぁ――」


「そして、『ハヤブサストライク』! の――『ライトニングスラッシュ』!」


「ば、ばかなぁぁぁ!?」


 これで3人だ。

 正直に突っ込んできたので範囲魔法をプレゼントして動きを止めつつ、隙だらけなところを捌いて終了である。

〈天下一大星〉が震えているのはなんでだろうな?


「ゼフィルス殿、敵が来てます!」


「!! おっと『ディフェンス』!」


 エステルの声に反応して盾を構えると、いくつかの魔法攻撃が盾に命中する。


 ありゃ。向こうも足並み揃えずに足の速い人が先に来たっぽいな。要塞の方からも人が来ているように見える。んじゃ、こっちも撃とうか。


「連合の主力の到着だ!」


「ラナ、ドデカイのを頼む!」


「行くわよ光の巨剣よ――『大聖光の四宝剣』!」


 合流した連合主力にまず、ラナが一撃を放った。




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