第579話 エステルVSラムダ。素早い中距離攻撃の脅威。




 順調だ。

 ああ順調だ。〈天下一大星〉が口ほどにも無かったのを含めても順調だな。


 いや、まさか【カリバーンパラディン】がいるとか、さすがに〈天下一大星〉には荷が重かったらしい。万が一を考えてエステルを援護に向かわせて大正解だった。

 あれが無ければ、足止めのあの字も無く素通りさせていただろう。


 今は態勢を立て直し、【カリバーンパラディン】の相手をエステルが、他の取り巻きの相手を〈天下一大星〉がすることで足止めに成功しているな。


「ラナ、援護してやってくれ」


「任せて! 『大聖女の祈りは癒しの力』! ――『獅子の大加護』! ――『守護の大加護』! ――『聖魔の大加護』!」


「あ、他にも耐魔もつけてやってくれ。【カリバーンパラディン】は攻撃力と魔法力の両方を使ってくるんだ」


「よく分からないけど私に任せなさい! ――『耐魔の大加護』! ――『迅速の大加護』! ついでに回復もあげるわ! ――『全体回復の願い』!」


 ラナがエステルと〈天下一大星〉へ支援回復を送り、先ほどやられた〈天下一大星〉たちを復帰させる。

 さすがはラナの回復。ダウンから回復後すぐ〈天下一大星〉が復帰して戻っていくのが見えた。


「もう、一撃でやられるなんて、まったく足止めできてないじゃない!」


 ラナのお怒りも尤もである。だが許してあげて欲しい。上級職と当たれば蹴散らされても仕方ないのだ。


「エステルは上手くスピードに乗ってるな。ラナのバフが効いてるおかげで押してるぞ」


「わぁ! エステル頑張ってー!」


 さて状況が大きく変わった。

 ふむ、少し状況を整理したい。ラナの声援を耳に腕を組んで考える。


 俺たちは今〈1組〉拠点の唯一の出入り口にして要所の位置(図E-23)まで下がり、追いかけてくる部隊を罠に嵌めて討ち取ろうとしていた。現在地は罠予定地の5マス北にいる。(図F-19)

 そしてエステルが足止めしている位置は俺たちの3マス北の(図F-16)地点。連合の大部隊が来ているのが今やっと東の山を挟んだ反対側(図I-16)辺りだろう。徐々に南西に向かって追いかけてきている。


 このままだとエステルは連合の部隊に挟まれてしまうので(図F-18地点辺りで)下がらせよう、と思っていた。


 しかしだ、あれ? 上級職がこんなところにいるぞ? 討ち取るチャンスじゃね? ←今ココ。


 ここで連合の戦力の要となる人物を討ち取れば、リーナは大きくダメージを受けるに違いない。間違いない。


 まったく、少数で追撃をするなんて討ち取ってと言ってるようなものである。

 ここは美味しくいただかなくてはいけない場面。


 一応、北東の部隊が追ってこられるよう、つかず離れずの距離を保ったままゆっくりと下がっていたが、このまま要所(図E-23)地点まで下がり罠を張って待ち構えてもリーナだと追ってこない可能性もあった。その時は〈1組〉の防衛メンバーも加えた戦力増し増し攻勢でぶつかるつもりでいたのだが、もっと簡単に大ダメージを与える手段を見つけては乗らざるを得ない。


「さてラナ、玉座を仕舞ってくれ。作戦を変更する! 1マス北へ向かうぞ!」


「わかったわ!」


 ということで俺は作戦の変更を決めた。



 ◇ ◇ ◇



「は! 『ドライブターン』! ――『レギオンスラスト』!」


「速い! 『ストライクセイバー』!」


 一方でエステル対ラムダ戦は、エステルが機動力を十全に活かした動きでラムダを翻弄し、バフも掛かって有利に進めていた。


 急加速からのVの字型に急角度に曲がって、ラムダの斜め後ろに回り込み、前列範囲攻撃をしてくるエステルに、ラムダは辛うじて剣で弾いた。

 体勢を崩され、盾を使わせてくれない位置を常に取るエステルの機動力にラムダは翻弄されっぱなしだ。攻撃も重く、中距離攻撃の間合いを詰めさせてくれないエステルにラムダのHPは徐々に削れていく。


「ここです――『ドライブ全開』! ――『戦槍せんそう乱舞』!」


 ここでエステルが強力な〈四ツリ〉のコンボで一気に攻めに入った。

 隙を見きわめつつ体勢を崩すことに注視していたエステルがここだと見定めたタイミング、それは完全にラムダを捉え、後退させるに十分だった。


「!! 『ジャッジソードチェーン』!」


 苦し紛れの連続斬撃でエステルの『戦槍せんそう乱舞』を迎撃するが、全ては受けきれずに鎧がガギィンキィンと悲鳴をならす。エステルは流れるように左からスライドして、常に背後へと回り込もうとするためにラムダは盾も使う事が出来ず、大きくダメージを受けていた。

『迅速の大加護』を受けたエステルの機動力は、ラムダが経験したことの無い領域だった。


「これは一度仕切り直す必要があるか。あまり使いたくはなかったが、――『聖鎧せいがい』!」


 ラムダはこのまま追いかけっこをしていてもエステルは捉えられないと、敢えて機動力と攻撃を犠牲に防御力を大アップする防御スキルで場のリセットを図った。

 つまりは亀が甲羅に潜るがごとく、防御オンリーでエステルの隙をうかがいに出たのだ。

 また、この選択には時間稼ぎも兼ねている。


 ここに〈1組〉メンバーは5人居る。

 自分たちは4人だが、少し待てば援軍がやってくる。

 そうすれば数で勝り、勝利することが出来るだろう。


 騎士VS騎士という戦いに他の援軍を介入させるというのはとても難儀なことではあるが、ラムダは連合の勝利が第一だとエステルとの勝負を割り切ったのだ。


 エステルはダメージが限りなく低くなったラムダを見て、距離を取った。

 仕切り直しに出ざるを得ない。


 とその時一人の少女が戦場にやってきた。それはゼフィルスから伝令を持ってきたパメラだった。


「エステルに伝令デース! あと〈天プラ〉にもデス!」


「「「「誰が〈天プラ〉だ!」」」」


 その伝令に一斉に〈天下一大星〉たちがツッコミを入れる。前に呼ばれて居た〈プラよん〉改め、今では密かに〈天プラ〉さんと呼ばれているのを、この時初めて〈天下一大星〉たちは知ったのだった。まったく強く無さそうな名前に遺憾である。


「ゼフィルスさんから指示の変更デース! この人たちを逃がさないようにとのことですデス」


「ぬう、先ほどの言葉覚えておけよ。我らは断じて〈天プラ〉などと、あげておけば良いみたいな名前では無い!」


「ふふ、我らは〈天下一〉なのです。そこら辺を今一度示さなくてはいけませんね」


「俺たちの〈大〉はどこに行ったんだ!」


「俺様たちの〈星〉が泣いているぞ!」


〈天下一大星〉たちが何か喚いていたが、その内容はラムダたちの援軍の前に、〈1組〉の本隊が迫っているというお知らせだった。


「では続きをしましょう。ラムダさん、お覚悟を」


 両手槍を再び構えなおしたエステルの言葉にラムダは冷や汗を流した。

 時間稼ぎがあだになった瞬間だった。




 ―――――――――――――

 後書き失礼します。


 近況ノートに添付で図を貼り付けました。こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927861976272113


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る