第573話 今明かされる『筋肉こそ最強。他はいらねぇ』。




【筋肉戦士】の弱点とは何か。

 言わずもがな、魔法攻撃や状態異常だ。


 物理に関してはめっぽう強いが、遠距離からの魔法攻撃にさらされたり、状態異常攻撃などの搦め手を使われると脆い。対策をしようにも耐性を上げる防具を身に着けられないからだ。付け加えると、〈スキル〉や〈魔法〉の類いを一切覚えない。


 ここまでなら、何それ超弱いじゃん、と思うだろう。

 しかし、【筋肉戦士】のユニークスキル『筋肉こそ最強。他は要らねぇ』はそれを補って凌駕する魅力を備えている。それこそがネタジョブと呼ばれる所以ゆえんで有り、【筋肉戦士】がこの世界で優良職扱いされ、職業ジョブランキングで二冠を達成している理由である! 片方は非公式だが。


 その能力とは、

 ――全ての装備を外し、ユニークスキルLV10の時、〈全てのステータスを3.6倍にする〉というものだ。

 もうバグってるんじゃないか? と思う数値である。


【筋肉戦士】はSUP23、制限〈STR10、VIT10〉を持つ。


 制限に〈or〉の無い中位職なため、STRとVITは強制的にSUP20が振られ、SUP3は自由に振れる数値だ。ぱっと見、偏っていてしょぼいと思うだろう。

 しかしたとえばだ、SUP3を毎回HP、RES、AGIに1ずつ振ったとして、【筋肉戦士LV50】の時のステータスを見てみよう。


 それがこちらだ。

【筋肉戦士LV50】

【HP 280/280】

【MP 20/20】

【STR 510】

【VIT 510】

【INT 10】

【RES 60】

【AGI 60】

【DEX 10】


 そしてユニークスキルがフル稼働かどうしたときの数値がこちらだ。


【筋肉戦士LV50】

【HP 1008/1008】

【MP 72/72】

【STR 1836】

【VIT 1836】

【INT 36】

【RES 216】

【AGI 216】

【DEX 36】


 こうなる。


 思わず「ファ!?」って言いたくなる数値だ。

「ちょ、ちょっと待って」ってなる。

 これでまだLV50だ。マジバグってるぜ。

 完全に脳筋、いや全身筋肉なステータスだ。まさにステータス特化職業ジョブ


 そりゃ装備もスキルも禁止になるだろうと、わかりみしかない。


 デメリットを凌駕して余りある魅力がこれだ。

 確かに非常に強力。物理では絶対勝負したくない。なんだVIT1800超えって。

 何この無駄に硬い筋肉。

 まあ、だからと言って【筋肉戦士】になりたいとは思わないが。


 ともかくだ。

 弱点さえ克服してしまえば筋肉は最強の戦士と言うわけだ。


 ということで、


「ラナ、バフを頼む。耐魔を重点的に、あと――」


「分かってるわ! 状態異常が掛かるリスクを低減する『病魔払いの大加護』ね!」


 さすがラナだ。よく分かっている。

 状態異常は戦況をひっくり返す。故に対策は重要だ。

 今まで下級職では自身にしか効果の無い『状態異常耐性』か、【セージ】など一部の高位職しか状態異常を低減させる耐性を付与する〈スキル〉〈魔法〉を持たなかったが、ラナは【大聖女】になったことで状態異常に掛かりにくくさせる『病魔払いの大加護』を会得していた。


「行くわよ〈マッチョーズ〉! ――『耐魔の大加護』! ――『病魔払いの大加護』!」


「おおお!! 我らの筋肉に足りないエネルギーが満ちるのを感じるぞぉぉ!!」


「「「「おおぉぉぉ!!」」」」


 その感覚はよく分からないが、これで【筋肉戦士】の弱点は限りなく薄くなった。


 ちなみにだが【筋肉戦士】のユニークスキルとラナの魔法は重複する。

【筋肉戦士】のユニークはステータスを上げるものであり、攻撃力や魔防力を上げるものではない。RESと魔防力は別枠なのだ。ダメージ計算時にはこれらにスキルの威力などが加わる計算式で数値が出るのだが、要は【筋肉戦士】はRESを上昇させ、ラナは魔防力を上げる魔法なので、重複に近い形で両方のバフを重ねることが可能なのである!


 さらに【聖女】のユニーク効果も加わり、継続回復が付いている。これは強い。そう簡単に筋肉は敗北しないだろう。

【筋肉戦士】は装備を身に着けるとユニークスキルの効果が弱まり最大HPが減少してしまう。脱げばまた最大HPは伸びるが、一度減ったHPは元には戻らない。ラナの継続回復はこれを補ってくれる。


 何が言いたいか、というと。

〈マッチョーズ〉には足が速くなる装備を身に着けながら要塞へ突撃してもらうのだ。

 そして途中で脱ぐ。パワーアップする。敵をなぎ倒す。筋肉アタック(?)。

 そういうことだ。


「準備は良いな〈マッチョーズ〉! バフのことは気にするな! ダメージも気にするな! 全てはラナがサポートしてくれる」


「感謝しなさいよね!」


「〈マッチョーズ〉はそのステータスで相手をなぎ倒し、要塞を攻略するんだ!」


「「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!! ありがとうございます王女様!!」」」」」


「セレスタン、〈マッチョーズ〉の指揮を任せる!」


「承りました。微力を尽くしましょう」


「よし、作戦開始だ!」


 俺の宣言で攻撃担当副官のセレスタンと〈マッチョーズ〉は要塞に向かって駆けていった。


 今回の作戦は単純明快な要塞落とし。

 先遣隊となる筋肉が暴れ、頃合いを見てラナが遠距離から攻撃を開始して一方的に要塞を破壊する。



 しばらくして接近する六人に気がついた要塞の学生が迎撃に入ろうとした。


 それを俺は単眼鏡で確認しつつ、ラナに指示を出す。


「ラナ、『大聖女の祈りは癒しの力』、発動だ!」


「うん! ――『大聖女の祈りは癒しの力』!」


 ラナが自身にバフを付与する。これで効果が切れるまでラナの魔法には〈回復〉のカテゴリーが付き、『回復減退耐性』のおかげで威力の低下はほとんど無くなる。


「ラナ、迅速だ」


「――『迅速の大加護』!」


 俺の指示にラナが無駄な台詞無く素早さを大きく上げる『迅速の大加護』を使った。


 ラナの魔法は祈り。対象へ魔法を飛ばすのではなく、対象へ直接魔法を掛けるので誤射がない他、この距離でも一瞬でバフが掛かる優れた性能を誇る。まあこれが機能するのが〈白の玉座〉なんだけどな。


〈白の玉座〉に座るラナがタリスマンへ祈る。すでに『大聖女の祈りは癒しの力』は発動されており、マスが離れていてもそのバフの効力がほとんど減退されずに届く。


 遠距離サポートとして本当に優秀だ!


 要塞からの攻撃を受けるところで突如としてスピードが上がり、目測を見誤って要塞組が攻撃を大きく外すのが見えた。


 スピード重視の装備である〈傭兵毛皮装備セット〉に身を包んだ〈マッチョーズ〉と普通にAGIが高いセレスタンが要塞へどんどん近づいていき――。


〈マッチョーズ〉が服を脱ぎさった。



 ◇ ◇ ◇



〈5組〉〈12組〉〈51組〉連合、第四要塞にて、見張りと警戒を任されていた男子がとある反応を掴んだ。


「何か接近してきます! 数六」


 すぐに大声と警戒の鐘を鳴らし、要塞に敵が攻め込んできたことをみんなに知らせる。


 少し前に二名の人影が索敵圏に入ったばかりだ。誰かは分からなかったが当然斥候、つまりは下見だろうと結論づけていたため、次に来るのは本命の攻めだと予測していた。


 鐘の音を聞き、慌ただしくも要塞全体が警戒態勢に移る。


 この第四要塞を任されている部隊長の女子、〈5組〉のリャアナはすぐに要塞の上へ昇ると、双眼鏡で敵を見た。そして別の意味で驚いた。


「うっ!? 数六だと聞いて驚いてたけど、あれってもしかしなくても〈マッチョーズ〉じゃない!?」


 敵の数が少ないと聞いて少し気が抜けていたのだが、その敵の姿を見て大きく仰け反るリャアナ。

 一目で敵の正体を見破る。あれは間違いなく〈マッチョーズ〉だと。


 なぜか蛮族みたいな装備を身に着けているが、全然隠せていない盛り上がる筋肉があれを〈マッチョーズ〉だと全身で訴えていた。


「みんな! 〈マッチョーズ〉よ! 〈マッチョーズ〉が仕掛けてきたわ! 要塞強化班も来て! 全力で迎え撃って!」


「ひえ、〈マッチョーズ〉ですか!?」


 リャアナが全力で叫び要塞全戦力を防衛に当てんとする。

 中には〈マッチョーズ〉と聞いて怯む女子もいたが、四の五の言ってはいられない。

 敵はまっすぐ要塞へ迫ってきているのだから。


「残り三マスの地点で一斉迎撃するわ! 〈バリスタ〉班準備!」


「イエス・マム!!」


〈防壁〉設置型、遠距離攻撃アイテム〈バリスタ〉。

 要塞に備え付けられている、〈防壁〉専用で使う事の出来るアイテムだ。

 この攻撃アイテムはスキルでは無い。通常攻撃扱いだ。そのため威力の減退を気にせず撃つことが出来る優れた性能を誇る。飛距離は三マス。


「放てー!!」


 リャアナの指示で残り三マス地点に侵入された瞬間、五機の〈バリスタ〉から一斉攻撃が放たれた。


「「「やったか!?」」」


「いや避けてる! は、速いぞ!?」


「フラグ立てんじゃねぇ!?」


「いいから次弾装填!! 早く準備して! あれはバフ? 〈マッチョーズ〉たちがブーストして速くなってるわよ!」


「距離的に次が〈バリスタ〉が撃てる最後っぽいですよ!?」


「〈バリスタ〉班以外は戦闘準備! いつでも出られるようにして!」


「〈バリスタ〉班準備完了!」


「残り二マス地点で撃ちます! 放てぇ!!」


「倒れろー!!」


「!! 〈マッチョーズ〉服を脱ぎました!」


「命中!! き、効いていないだと!?」


「筋肉に弾かれた!?」


「きゃあぁぁぁぁぁ!?」


「裸族が迫ってくるーっ!?」


「いやぁぁぁぁぁぁ!?」


 第四要塞の対決は、悲鳴から始まった。




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