第574話 筋肉最強の一撃、〈筋肉ビルドローラー〉!




【筋肉戦士】の集団が攻めてきた。

 しかも迎撃しようとしたら〈バリスタ〉の矢を筋肉で弾いた。


 その衝撃は、第四要塞を一気に駆け抜け、女子たちの悲鳴が木霊した。


「きゃあぁぁぁぁ!!」


「「いやぁぁぁぁぁ!!」」


「みんな、冷静になって、悲鳴をやめて! 指示が聞こえなくなるわ!」


 第四要塞の隊長を務めるリャアナが必死に呼びかけるが、女子の悲鳴は収まらない。

 このままでは指揮系統に支障が出てしまう。

 まさか筋肉をひけらかしただけで指揮系統を乱し、ここまで要塞に影響を与えるとは、恐ろしい話である。


「そこの男子! 鐘を鳴らして! 思いっきり!」


「は、はい!」


 リャアナの指示で最初に〈マッチョーズ〉たちを捉えた男子が思いっきり鐘を鳴らす。


 カーンカーンと悲鳴より耳にクル音が響き、一時的に悲鳴が沈静化した。

 そのタイミングを見計らいリャアナが声を張り上げた。


「鐘の音やめ! みんな聞いて冷静になって! 悲鳴で指揮系統が乱れちゃうわ! みんな落ち着いて、これはリーナさんの予想通りの展開よ、あわてる必要は無いわ!」


「そ、そうよね。リャアナ隊長の言うとおりよ!」


「大丈夫、大丈夫、よね?」


「みんないるんだもん。きっと……」


 リャアナの呼びかけで不安マシマシなれど何とか少しばかりの冷静さを取り戻す女子。

 そこに更なる情報が舞い込んできた。


「!! 確認できました! 敵は〈マッチョーズ〉! それともう一人は――〈微笑みのセレスタン〉です!」


「「「〈微笑みのセレスタン〉!!」」」


 がばっと要塞の手すりに群がる女子たち。

 さっきの不安な様子はどこへやら、ゼフィルスに並ぶ美男子であるセレスタンは、学園ではかなりの人気を誇っている。思わず食いついちゃったという様子で女子が群がってしまった。


「ちょ、あなたたちそんな場合じゃないわよ!? 配置について、早く!」


 不安が晴れたのはありがたいが、これはこれで支障が出てしまう。

 みんな〈マッチョーズ〉の接近に不安だったのだ。思わず救いを求めてしまったことも合わさって女子があわあわする。


「敵、隣接マスを間もなく突破します!」


「!! 仕方ないわ! 男子だけでもいい、まずはデバフを掛けまくって!! リーナさんが言っていたわ、【筋肉戦士】は魔法とデバフが有効よ!」


「イエス・マム!」


 敵はすぐそこまで迫ってきていたが、女子が使い物にならないので男子だけが迎撃の態勢に入った。そして、


「――今よ! デバフかけて!!」


「――『呪いの人形』!」


「――『メンタルブレイク』!」


「――『ブラインドアロー』!」


「――『怪電波・ビビビビビ』!」


 リャアナの指示で【ストリング・パペット】が呪われた人形を特攻させ、【ウィザード】が怪しげな目玉を出現させて見つめ、【大弓豪】が刺さると盲目になってしまう矢を放ち、【マッドサイエンティスト】がなんだか身体に悪そうな紫の電波を放って、一斉にデバフと状態異常をかけようとする。


 しかし、


「そんなもの、筋肉には効かぁぁぁんっ!!」


「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


 デバフも状態異常も、【筋肉戦士】には効かなかった。




 状態異常はラナの『病魔払いの大加護』で耐性を得ていたため、〈マッチョーズ〉メンバーとセレスタンは誰も状態異常に掛からずにやり過ごした。

 しかし、これだけだと状態異常は防げても弱化デバフは無効には出来ない。

 弱化デバフを無効にしたのは、セレスタンの力によるものだった。


「やはりデバフをかけようとしてきましたか。このタイミングで使っておいて正解でした」


「ふはははは! さすがはセレスタンだ! 礼は我らの活躍でたっぷりと支払ってやるぞ!」


 アランが筋肉をムキムキにさせてセレスタンに言う。


 要塞まで残り一マスの地点、多少威力は減退したとしてもデバフを与えてくるならこのマスだと予想し、セレスタンはユニークスキル『皆さまが少しでも過ごしやすく』を発動していた。


【バトラー】のユニークスキルの効果は「周囲にいる味方のマイナス効果の無効化」だ。

 これに状態異常は含まれず、一定時間のみという制限はあるものの、能力値を下げてくる弱化デバフを完全に無効化できるスキルは非常に貴重だ。ミサトの【セージ】ですら掛かったデバフを『クリア』で治すことは出来ても防ぐことは出来ない。


 これにより、デバフも状態異常も効かない【筋肉戦士】が誕生した。

 セレスタンが〈マッチョーズ〉たちの指揮官を務めていた理由である。


 そして〈マッチョーズ〉たちは途中で装備を全て脱ぎ、スピードは多少落ちたものの万全の状態で要塞マスへ侵入することに成功した。



「!! 敵、来ます!!」


「ひぅ!」


「怯まないで! 要塞を最大限活かしながら遠距離で攻撃するのよ! 迎撃して!!」


「う、撃ちます!」


 要塞から様々な攻撃が放たれる。

 すでにマスの境によるダメージの減退は無い。

 これだけの攻撃、いくら〈マッチョーズ〉でもひとたまりもないのでは、と要塞組が密かに希望を抱いたが、それはとんでもない方法によって弾かれる。


「行くぞ! 〈筋肉ビルドローラー〉だ!」


「「「「応!!」」」」


 ギルドマスターアランの宣言に筋肉たちが横一列に並ぶ。

 そして掛け声と同時に太い二の腕を隣の者の首へ回す。右腕、左腕の順に。


「筋肉!」


 ――ガシャン。


「筋肉!」


 ――ガシャン。


「〈筋肉ビルドローラー〉!!」


 完成した瞬間アランが技名を叫ぶ。

 その姿は足を縛っていない二人三脚、否、五人十脚だ。


 これぞ筋肉流、筋肉合体。

 数多くの相手にトラウマを植え付けてきた【筋肉戦士】の技、〈筋肉ビルドローラー〉だ。


「うおおおお!!」


 五人十脚となった筋肉たちが掛け声と共に要塞へ突進した!

「ズドンズドンズドンズドン!」その足音は恐怖を呼ぶ轟き。

 まるで巨大トラックの接近にも似た迫力ある突撃だった。


「わあああ!?」


「き、来たぞ!?」


「筋肉ビルドローラーだぁぁ!?」


「撃て撃て! 撃って撃って撃ちまくってー!!」


 要塞から様々な攻撃が飛び、〈マッチョーズ〉に命中する。

 しかし、〈筋肉ビルドローラー〉は崩れない。


 お互いがお互いを支えあう〈筋肉ビルドローラー〉はたとえ攻撃が一人に命中しようと突撃が途中で止まることはないのだ。

 すべては筋肉が弾く。怯み、ノックバックしようとも隣の筋肉に支えられているため出来ない。無理矢理前へと突き進む。


 素のステータスがアホなほど高いため、多少攻撃を受けまくっても平気だ。

 特に物理はほとんどダメージが無い。

 減ったダメージもラナの継続回復と遠距離回復によってHPゼロまで減ることは無い。


「き、効いていないだと!?」


「か、回復しているの!?」


「ひいぃぃぃぃ!!」


「止まらないぞ!? 筋肉が来るぅぅ!?」


 要塞では恐怖により叫ぶ者が続出。


 そうしてほとんどの攻撃を筋肉だけで弾き返した〈マッチョーズ〉はついに要塞へたどり着いた。


「まずは挨拶だ! 筋肉と要塞、どちらが強いか力比べだ!」


「「「「おおおお!!」」」」


 アランの言葉に筋肉たちの気合は最高潮。

 なぜ気合が高まるのかは定かではないが、筋肉たちはそのまま、まるでラグビーを思わせる突撃で要塞にぶちかました。


 ズッッッッッドン!!!!


「「「きゃああぁぁぁぁぁ!」」」


 衝撃で要塞が大きく揺れた。

 凄まじい威力に要塞ではそこら中で転倒がおこり悲鳴が木霊するほどだった。

 リャアナは手すりに捕まり何とか衝撃に耐えるとすぐに状況を確認し、その顔を青ざめさせた。


「要塞の耐久値が!?」


 この要塞は〈防壁〉アイテムだ。〈防壁〉は非常に特殊なアイテムで耐久値という名のHPバーが付いている。これをゼロにされない限り壊れることは無い。巨城や本拠地、拠点などと同じ扱いだ。故に耐久値はかなり高い、はずだった。


 その耐久値が、たった今の一撃で、試合が開始されてから今まで強化に強化を重ねてきたのに2割弱もダメージを負っていた。そう何度も耐えることは出来ない。


 これが【筋肉戦士】、STR1800超え×五人の攻撃の威力である。


 もし野戦であれば人が轢かれた瞬間退場が決定していたことだろう。

 止まらない突撃、追いつかれて轢かれたら退場。


〈筋肉ビルドローラー〉が多くの学生に恐れられている理由であった。




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