第570話 動き出す連合と、〈3組〉に迫る危機。




「ラムダさん、作戦通り行きますわ。主力を投入するタイミングが重要ですわよ」


「任せてほしいヘカテリーナ殿。しかし、本当に〈1組〉は来るのか?」


「来ます。ゼフィルスさんなら、絶対に。要塞へ攻撃を仕掛けてきますわ」


 リーナの自信ある回答にラムダは頼もしさを覚える。


 これからラムダが率いるのは〈5組〉〈12組〉〈51組〉の連合部隊35名。

〈1組〉にぶつけるための連合の主力部隊だった。


 リーナの話では何かしらの方法で必ず〈1組〉は要塞へ攻撃を仕掛けてくるという。カルアがやられたら、まずは連合を叩かなければ〈1組〉は逆に動けないからだ。

 第四要塞と第三要塞が〈1組〉拠点に近すぎるせいで、〈1組〉は動き辛いのである。無視しても改善しないため、絶対に攻撃を仕掛けてくるというのがリーナの予想で、そこに挟撃する形で連合の主力をぶつける心算だった。


 主力の詳細は〈5組〉のクラスメイトが21名を誇る。〈12組〉〈51組〉は残り半々だ。

〈5組〉は精強だ。ラムダを始めとする〈キングアブソリュート〉所属者、その下部組織ギルド所属の者、他にもAランクやBランクギルドに加入している者も多く、平均レベルが他のクラスよりかなり高い。

 さらにはLV60を越える猛者はなんと5人もいるのだ。

 それぞれがクラスのリーダーになれる程の実力者、それがラムダを抜いて5人もいるという事実。〈5組〉が優勝候補二番目に選ばれている理由でもあった。


 現在5人の内3人がそれぞれ第一要塞、第三要塞、第四要塞の部隊長に選ばれており、すでに自分の部隊で指揮を振るっていることだろう。頼もしいことだ。


 残り2人のうち、1人はラムダの部隊の副官として同行している。


「ハイウド、俺の補佐を頼むぞ」


「ヘカテリーナ様のため! このハイウド、全力で当たります!」


 目が血走ってクワッとしている軍人風の男子がラムダの言に答えた。

 ラムダはそれに頷き、もう1人のほうにも向く。


「ナギ、ヘカテリーナ殿を頼むぞ。絶対にやらせるな」


「アイサー! トモヨさんもいるし安心して!」


 リーナの横にいる軽装で身軽な装備を着込む女子が、リーナの護衛の女子を見ながら答えた。トモヨと呼ばれた二盾女子も「任せて」と請け負う。

 ラムダがこれから出陣するので、自分の代わりにリーナの護衛に付けられたのがナギだ。

 ナギの職業ジョブはサポート系だが、護衛向きなため5人の中でリーナの護衛に抜擢されている。


 ヘカテリーナは連合の頭脳と心臓だ。やられた時点で敗北が決定する。

〈5組〉は〈1組〉や〈8組〉を軽んじてはいない。むしろ脅威だと正しく認識している。

 あのクラスに勝つためには〈51組〉の力が要ることをラムダたちはよく理解していた。


 自分たちだけならばきっと〈1組〉には勝てはしないだろう。

〈5組〉のメンバーは上位ギルドに期待を掛けられている者が多く在籍している。

 無様な負け方をするわけにはいかない。


 そんな背景が有り。準決勝、〈51組〉の〈竜の箱庭〉を用いた戦法を目にしてから〈5組〉は〈51組〉と、否、ヘカテリーナと手を結ぶことを決めたのだった。

 そしてその結果は今の所、予想を上回る成果をヘカテリーナは果たしている。

〈5組〉はその恩恵にあやからせて貰っているため〈51組〉の下の順位でも構わないとすら思っていた。〈1組〉より上の順位であれば絶対に文句は出ないからだ。


 だからこそ、〈5組〉クラスメイト、特に上位ギルド所属の者はヘカテリーナに対する忠誠心が高い。絶対に守り切ってみせるという意識がかなり高かった。


 ヘカテリーナもそれは分かっている。連合の人心掌握は完璧だった。


「頼むぞ、特にナギ。退場と引き換えにしてでもヘカテリーナ殿を守ってくれ」


「アイサー!」


「頼もしいですわね。ではラムダさんはそろそろ出撃してください。わたくしも動きます。まずは近づいてきている〈3組〉からですわね」



 ◇ ◇ ◇



 視点は変わり、場所は〈5組〉〈12組〉〈51組〉が連合で立てた要塞、その第一拠点。(図Q-3)

 第一拠点は中央山の真北にある二つの山々の中間に立ち、東と西の行き来を分断している。


 そこではとある戦闘が繰り広げられていた。


「くっ!? なんだあの要塞。なんでこんなところにこんなもんがあるんだよ!?」


 とある男子が毒づく。

 その男子は〈3組〉に在籍し、西側の地図の作製を命じられている部隊の隊長格だった。


 人数は5人の小隊。

 小隊が西のエリアへ向かおうとしたとき、そこに目を疑う建造物が建っていた。


 それは要塞だった。

 いやいや今は〈クラス対抗戦〉の最中だ。何を言っているのか、と思われるかもしれないが、小隊全員はそろってその建造物を目の当たりにしていた。


 しかも人の姿が見える。

 明らかに人造物。

 小隊長は慎重に、もう少し詳しい情報を得ようと接近した。それが良くなかった。

 気がつけば別働隊が後ろに回り込んでいて退路を断たれたのだ。


 追い詰められた小隊は徐々に要塞へと追い詰められ、崖山を背にしながら背水の陣で徹底抗戦するしかなかった。


「くっ! このままでは!? なんとか情報を持ち帰らないと」


「しかしどうするんだ隊長!? もう包囲されてるぞ!? タンクもヤバい!!」


 相手は人数でこちらを大きく上回っていた。10人はいる。

 さらにはどう見ても一クラスの規模ではない。中には中位職の姿まで見える。

 自分たちと同じく、いくつかのクラスが手を組んでいるのだ。


 この情報は必ず届けなければならない。隊長は苦渋の決断を下した。


「一人だけ、なんとしても逃がす」


「それは!」


 隊長男子は部隊の存続を諦めた。否、クラスに勝機を預けた。自分たちには絶対的強さのハクがいる。ハクにさえ情報が届けられればクラスの存続に繋がるだろう。

 自分たちはここまでだと覚悟して、一番足の速い斥候に情報を届けさせることだけに絞り、決死奮起せよと告げていた。


「俺がまず突っ込む。後に続け、なんとしてもこの情報を届けるのだ」


「くっ、応!」


 すでに小隊は風前の灯火。

 しかし、火は消える間際、凄まじく燃え上がるという。


「これで、倒れろーー!! ――何っ!?」


「なんのーー!! 俺ら〈3組〉の力を、舐めるなぁぁっ!!」


 隊長が守りの陣形から突如飛び出して巨大なメイスをふり回し、無理矢理活路を作る。

 しかし、そんな無謀極まりない目立つ方法、すぐに周囲から狙われ様々な攻撃をその身で受ける。


「ぐあぁぁぁ! 行けーー!! 俺に構わず先に行け!」


「くっ、隊長! あんただけに任せやしねえぜ! ぐあぁ!?」


「おい! やられるな!?」


「いいから斥候は飛び出せ! 全力ダッシュだーー!!」


「みんな、すまねぇ!!」


 隊長とその他犠牲のおかげでなんとか押さえた包囲を、斥候が抜けて駆けていく。


 小隊の想いを受け、斥候はこの情報を伝えに懸命に走り、離脱していった。


 しかし、その後を追う者がいたことに、斥候は気がつくことができなかった。




 ――――――――――――

 明日からゼフィルス視点です。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る