第569話 〈51組〉〈12組〉〈5組〉、序盤戦の終わり。
カルアを相手に封印という形で大勝利を果たしたアケミたち三人組とナギはそのまま中央山を下山する。
登った時と同じように、ワルドドルガによって作られた簡易階段を降りての下山だ。
山を下ったアケミとその取り巻きたちは意気揚々と陣地としている
ここは中央山を囲む山々の北西、第二要塞と呼称されているマス。(図O-8)
なんとここにはバリケードが壁のように立てられ、道を塞ぎ、南や東からの侵入を防ぐように立ち並んでいた。
そうして当然のように壁の北西側には色々な仕掛けやアイテムが常備され、いつでも敵が攻めてきても迎え撃てる準備が整っている。
正直、どこと何をおっぱじめる気なのかと、むちゃくちゃ気になる建造物だった。
当然ながらこれは自然にあったものではない。
造ったのだ。人の手で。
ワルドドルガが対カルア用作戦に使ったように、〈
以前〈2組〉が使っていたのはあまり質の良くない
なぜか〈12組〉に集まってしまったドワーフたちの手によって、バリバリに耐久度の高い
これほど強大な〈防壁〉アイテムは生産職のサポート無しでは建造は不可能で、リーナが〈12組〉と手を組んだ理由でもある。
なお、今現在進行形で要塞はさらに強化され増改築を繰り返している。
そんな要塞を前に意気揚々帰還したアケミたちを見つけて【親方ドワーフ】の一人が叫ぶ。
「おお! リーダーが帰って来たぞい!」
「ぞいぞい!? 俺の出番かぞい!?」
「成果は、どうなったぞい!?」
その言葉にさらに二人の【親方ドワーフ】たちが集まってきた。
どんだけ親方がいるというのだろうか。実は〈12組〉は【親方ドワーフ】だけで六人も在籍していたりする、驚異の親方クラスだ。誰が真の親方なのかで争いが絶えないクラスとも言われている。
こんなことになったのも第一回クラス替えの際、全員LV0だったのが起因している。
実力も同程度、
おかげで〈戦闘課〉の〈クラス対抗戦〉にも関わらず、このような戦法を取ることが出来ていた。ちなみに今の真の親方はアケミの取り巻きであるワルドドルガが勝ち取っていたりする。
「喜んでよみんな! 私たちはやり遂げたわ!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
あまり活躍していなかったはずのアケミのドヤ顔の報告に、いたるところから驚愕の歓声が響いた。
その報告は待望の吉報。
勝利を狙うなら必ず成し遂げなければならない一手。
上級職の一角を封じ込めたとの報告だった。
「やったぞい! うちのリーダーがやり遂げたぞい!」
「祝杯、いやお祭りだぞい!」
「おほほほほ!」
するともうお祭り騒ぎだ。それほど上級職を下すというのは快挙なのである。
おそらく、今年の一年生で上級職に勝ったのはアケミたちが初めてのことだろう。
初の快挙である。リーナのおかげだ。
同じクラスの者はとても鼻高々で、まるで英雄を見るような目でアケミを見つめていた。
そのままドンちゃん騒ぎに突入しようかというところで、そこにやって来た人たちがいた。
「アケミさん、カジマルさん、ワルドドルガさん、おかえりなさい。作戦、無事上手くいったのですね」
「リーナ姉さま!」
そこにいたのはラベンダー色の髪を一部縦ロールにした美人で軍服のような装備をした女子学生。
〈51組〉リーダーにして連合の頭脳と心臓。この勝利のために必要で重要な一手の作戦を考えた、――【姫軍師】のヘカテリーナである。
その後ろに護衛、大盾を両手に一つずつ装備した女子と、白銀色の全身鎧に大盾を装備した男子の2人を連れてやってきていたが、アケミの目には入らなかったようだ。
リーナしか見えていない。
リーナはニコリと微笑みの表情で見事作戦を成功させたアケミたちを労った。
「ご苦労様でした。作戦大成功ですわね。お見事ですわ」
「へへぇ」
「ははぁ」
リーナの言葉に平伏するカジマルとワルドドルガ。
二人の中ではすでにリーナはお殿様になっているらしい。リーナはいったい何をしたのだろうか。いや、カルアを知略で封じたのだ。さすがにリーナVSカルアの知略対決ではカルアも分が悪いだろう。
「リーナ姉さまの作戦通りだったわ! 上級職とはいえ手はあるって本当だった! すっごいわ!」
「うふふ。ありがとうございます」
アケミが平伏する二人をよそにリーナをガンガン褒めまくる。リーナもまた、この二人のことはスルーするようだ。それが正解だろう。
「まさか本当にあんな作戦で上級職に勝っちゃうなんて思わなかったから、もう唖然としちゃって、鳥肌立っちゃったわ! さすがリーナ姉さま!」
「アケミさんたちの作戦が上手くいって本当に良かったですわ。こちらの斥候は南に行った者は全滅でしたから」
その報告にアケミたちは驚く。
リーナはこのクラス対抗戦、決勝戦を長期戦と想定し、初手は要塞の作製、〈竜の箱庭〉の地図構築を目指し、力を付ける事に重きを置いていた。
その甲斐あり、北西に拠点を構える〈5組〉〈12組〉〈51組〉は要塞で重要な道を塞ぎ、進軍をさせない防備がかなり進んでいた。拠点へ向かいたければ要塞を落とすしかない。
要塞にて防衛能力を強化する。その作戦は成功したと言える。
しかし、もう一つの作戦、斥候の方は南に向かった者全てがゼフィルスたちによって討ち取られていた。現在〈竜の箱庭〉の完成度はフィールド北側半分だけが分かるに留まっている。
完全にゼフィルスたちによって防がれた形だ。やはり読まれているとリーナは認識する。
しかし、もう二つの作戦、特にカルアを封じる作戦は成功したのは重要な戦果だ。
初手の動きとしては素晴らしいの成果だとリーナは微笑んだ。
「カルアさんにはとても申し訳ありませんが、さすがに正面からカルアさんを足止め、撃破するのは難しかったですから」
カルアは〈1組〉情報の要。絶対倒す、もしくは押さえておかなければならなかった。そうで無ければ連合は大きく動けない。動いた者はカルアに補足されゼフィルスに伝えられて討ち取られる。初戦、準決勝戦で何度も見た〈1組〉の勝ちパターンだ。
リーナが〈竜の箱庭〉を使って伏兵を仕掛けても、丸見えになっていてはどうしようもない。
しかし、カルアの能力は脅威の一言に尽きる。
純粋な戦闘力より、斥候能力が高いほうが〈拠点落とし〉では厄介なのだ。
そしてカルアはさらに上級職であり、他の追随を許さないほど圧倒的な斥候能力を持ち、さらにこの〈拠点落とし〉では相性が非常に良いのだ。
AGIもダントツであり、おそらく包囲しても倒すことは出来ないだろう。逃げられてしまうのが関の山だった。
しかし、そこに勝機があった。
「カルアさんはその圧倒的なスピード故に共に行動できる人物がいませんわ。つまりは常に単独行動をしている、そこに隙がありますわ」
カルアは一人の方が動きやすい、それも圧倒的に。
一人であれば包囲しても軽々スピードで振り切って逃げられる。一人が最善だと思っている。
しかし単独行動であることは違いない。だからこそやり方と対策を練れば各個撃破が可能なのだ。〈睡眠〉の状態異常は仲間が居れば簡単に破られてしまうが、単独ならどうしようも無い。
リーナは、それを見事成功させて見せた。
「ねぇねぇリーナ姉さま、これで勝てる!?」
「いいえ、まだ〈1組〉は目を失ったに過ぎませんわ。ダメージは大きいはずですが、ゼフィルスさんですもの、きっと新たな作戦を考えてくるはずですわ。まだカルアさんが抜けたことにゼフィルスさんが気がつかないうちに次の作戦に移りましょう」
カルアをなぜ退場させなかったのか。
中盤戦は時間との勝負だからだ。カルアを封じた時間は20分途中経過の少し前だった。倒してしまえば途中経過を見たゼフィルスならすぐに感づくだろう。しかし、人数が減っていなければ、「まさかあのカルアがやられるはずがない」と思い込み時間を稼げる。
そうリーナは考えていた。
動くなら今しか無い。
「――それは、いよいよ自分の出番ということか、ヘカテリーナ殿?」
リーナの後ろに付いて来ていた全身白銀鎧の護衛男子が聞く。
その言葉に、ドンちゃん騒ぎを
リーナは後ろを振り返り、その人物を見て頷いた。
「はい、ようやく〈5組〉の出番ですわ。〈1組〉は動かざるを得ません。ここから中盤戦に突入します。主力をお任せしましたわよ、ラムダさん」
「承知した!」
そこにいたのは〈5組〉のリーダーを務めている者、全身白銀の鎧と大盾を持ち、「騎士爵」のカテゴリーの証である盾の型をしたブローチに馬の絵が描かれた〈盾と馬のブローチ〉を胸に付けた男子。
〈キングアブソリュート〉に在籍し、オークションで落とした〈上級転職チケット〉を受け取り、この一週間でLVカンストまで育成されて上級職へと〈
上級職、高の中―――【カリバーンパラディン】。
上級職同士のぶつかり合いの時は近い。
―――――――――――――
後書き失礼します。
近況ノートに添付で図を貼り付けました。こちらからどうぞ↓
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927861688091465
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