第564話 激突! ラクリッテの本領発揮! 幻影防御!
――〈8組〉VS〈9組〉〈10組〉。
「ラクリッテは前へ、ノエルは、全力でバフを!」
「わ、分かりました!」
「『広域歌唱』♪ 歌っちゃうよ~ユニークスキル発動! ――『プリンセスアイドルライブ』!」
メルトの指示によりラクリッテが前に出ると、後方でノエルがマイクをエフェクトに光らせ歌い始めた。
アクティブスキルの『広域歌唱』の力も加わり、マス全体に音楽が流れる。
さらに『スペシャルソング』などのパッシブ効果も加わり、エール系にも歌唱効果が乗ってさらに補正が掛かる。
「あなたに力と元気を与える『アクティブエール』~♪ みんなを守って『ハートエール』~♪ 勇気と希望の『マジカルエール』~♪」
戦場とは思えない音楽が流れ、〈8組〉にどんどんバフを重ね掛けしていく。
ノエルの『プリンセスアイドルライブ』はBGMを上書きし、音楽が流れている間はスキルの使用MPが減少するほか、強化の数値も上昇する。
そこにノエルオリジナルの歌詞も加わって、歌いながらどんどんバフを掛けていった。
そうして
「範囲攻撃放て!!」
「タンクを蹴散らすんだ!」
メルトとキールが指示を出したのは同時だった。
続いて〈8組〉から範囲攻撃が放たれ、〈9組〉〈10組〉からはラクリッテを狙い撃ちした強力な単体攻撃と〈8組〉全体を牽制する範囲攻撃が放たれる。
人数の差がある分、〈8組〉の方が手が少ないが、そこはメルトの『クイックマジック』やノエルの『テンポアップエール』により回転力の増した攻撃で補った。
お互いに攻撃が飛び交うと、正面を守るタンクの出番だ。
しかし、さすがに〈8組〉が不利だった。
相手は二タンクで〈8組〉の攻撃を分散出来るのに対し、〈9組〉〈10組〉の攻撃を受けるのはラクリッテただ一人、しかも完全にラクリッテが標的にされている。
数多くの攻撃がラクリッテへと飛び、さすがにこれほどの攻撃を防ぎきれるものでは無い、とキールが目的達成を確信した時、ここで予想外が起こる。
「ポン! 来たれ幻影の巨人――『ミラージュ大狸様』!」
ラクリッテが両手盾を掲げスキルを唱えると巨大な二足歩行の狸が正面に現れたのだ。
「はっ?」
キールの口からマヌケ声が漏れる。
体長10mに迫る巨人、いや巨狸の登場に全員の視線がそっちへ自然と向かう。
これこそが『ミラージュ大狸様』のお力。
思わず誰もが見上げてしまうそのお姿に、攻撃は全て大狸様へ向かってしまうのだ。
「なっ、なんだってぇぇぇっ!?」
ラクリッテへと向かっていた攻撃が全て上空へ逸れ大狸様へと向かってしまい驚愕にキールが叫ぶ。
『ミラージュ大狸様』の効果とは端的に言えば身代わりだ。
攻撃は全て幻影の大狸様へと吸い込まれ、突き抜けて明後日の方向へと消えていく、ついでに大狸様も幻影が破られていなくなった。
たった一手により〈9組〉と〈10組〉全ての攻撃が逸らされたのだからキールが叫んだものわかるだろう。
これがラクリッテの幻影防御。ほかのタンクとは一線を画す高位職、高の上の
しかも、メルトたち〈8組〉の攻撃はしっかりタンクが受け止めていたため、〈9組〉の突撃力が落ちていた。
「くっ、やってくれるね。そんな魔法を持っていたとは情報に無かったよ。みんな、第二波! 今度はあの魔法はクールタイムで使えない、今度こそタンクを撃ちやぶるんだ! こっちのタンクも根性見せてくれ!」
キールはすぐに次の攻撃準備に入った。
このまま回復などで手が止まればいい的だ。ここは攻撃の手を緩める場面では無い。
優秀なクラスメイトたちはすぐにその指示通りの行動を取る。
しかし、彼らはまだラクリッテの本領を知らない。
メルトがラクリッテに指示を出す。
「ラクリッテ、ユニーク頼む」
「は、はい! ――ポン! ユニークスキルは
先手はラクリッテだ。
ラクリッテがユニークスキルを唱えるとこれまた巨大な建造物、四本の塔が〈9組〉と〈10組〉の前に立ち塞がるようにして出現する。
キールは視界を覆う勢いの巨大な塔に一瞬詰まった。
「まだこんなものを! ――これも幻影だよ、範囲攻撃で打ち消し後に本命を放つ! 二段構えだ、粉砕後、本命を当てる!」
キールはすでにラクリッテの魔法が幻影系だと看破していた。
幻影は大きな攻撃を受けると消える。さっきの『ミラージュ大狸様』も攻撃された途端、幻影が破れてすぐに消えてしまった。
この塔のようなものも、下級職で操れる規模では無いと考察し、幻影だとキールは看破した。
「ジェイ!」
「おう! 燃えて消え去れ! ――『パイロキネシス』!」
〈10組〉リーダーが巨大な炎を操り、塔に向かって面でぶつける、これで幻影は破られるかに思われた。
しかし、焼かれたはずの塔は健在だった。
キールが目を見開く。
「何っ! 〈三ツリ〉魔法攻撃にさらされて健在? 威力が足りなかった? それとも魔法に耐性がある? いや考察は後回しだね、ならば、物理的に威力のある攻撃をぶつければ良いだけ」
キールはすぐに持ち直すと続いて物理遠距離攻撃を得意とする弓使いの【大狩人】に指示を出し、こっちもユニークスキルで相手の塔を打ち破らんとする。
しかし、ユニークスキルの矢は塔に直撃したはずなのに、その塔は矢の攻撃を防いで見せた。ユニークスキル同士のぶつかりなのに対し、破壊できなかったのだ。
「なんだって、実体があるのか!?」
「その通りだ」
キールがさらなる驚愕に目を見開いていると、すぐ後ろからその問いの答えが返ってきた。
「なっ!?」
その声に慌てて反応するが、それはあまりに遅すぎた。
「遅い、『紫電一閃』!」
「ぐがあぁぁぁっ!?」
まるで居合い斬りのように速い〈雷属性〉一閃がキールに直撃した。
それを為したのは、〈8組〉所属にして〈エデン〉メンバーが一人、レグラムだ。
キールたちがラクリッテの対処に熱中している隙をついて、陣形の後方で指示を出していたキールに後ろから挟撃を仕掛けたのだ。
「キール!?」
ジェイが叫ぶ。遊撃の〈10組〉が素早く援護に向かうが、距離が遠い。
「まだ、――『刹那雷閃』!」
「『ソウ――ぐあっ!」
レグラムの追撃は止まらない、続いての二撃目の一閃によって、キールのHP危険域へと突入した。キールも反撃に転じようとするが間に合っていない。
レグラムの奇襲は完全に決まっていた。誰もが助けに間に合わない状態で最後の追撃を放ち、キールを討ち取らんとする。。
これで〈9組〉がリーダーは退場するかに思われた。
「これでとどめだ――『雷鳴剣』! ――何?」
とどめの一撃を受け、キールのHPがゼロになる瞬間、キールから生まれた爆発的な衝撃がレグラムを吹っ飛ばした。
「はぁぁぁぁ!! はぁ、はぁ、まさか、僕にこのスキルを使わせるなんてね」
「仕留められなかったか。妙なスキルを使う」
肩で息をするキールのHPは僅か残り1。
確かに仕留めうる攻撃を放ったはずなのに、キールのHPは僅かながら健在だった。
仲間からの反撃をバックステップで避けつつ、レグラムが剣を構えて言う。
その間に仲間がフォローに入り、キールへの攻撃のチャンスを失ってしまう。
「食いしばり系に反撃スキル系の組み合わせの自動発動型。いくつか候補は絞られるが」
「――『ソウルメディカル』!」
「なるほど、【ソウルイーター】だったか。ならばさっきのあれは『最期に燃える魂』か」
キールが発動した回復魔法によってレグラムはキールの
一日一回、HPがゼロになる攻撃を受けたときのみ自動発動するタイプのスキルで、HPを1残し、敵に反撃を与えて吹き飛ばすスキル『最期に燃える魂』。
しかし残念ながらレグラムはここで撤退するしかない。
「大丈夫かキール! くっ遊撃がいたのか! 追い払え! 『念力砲』!」
数人がレグラムの対処に動き、レグラムはバックステップで優雅に避けながら離脱するが、最後に一言だけ言い残した。
「ふっ、俺ばかりに構っていていいのか?」
「何っ!」
ジェイがその言葉に振り向くと、四本の塔から〈8組〉の一斉攻撃が放たれる所だった。
この攻撃により、〈9組〉のタンクの内、一人が退場してしまう。
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イメージ図の添付先はこちら↓
https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927861370797013
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