第565話 〈8組〉VS〈9組〉〈10組〉。死神のユニーク。
『
この要塞はあくまで
つまり最初は盾として使えるが、その
しかしその効果は初見では絶大。最初に攻撃を防がれた相手は、最初実体のあった建造物に惑わされ、幻となっても欺かれてしまう。
今のキールたちのように。
「メルトさん、いいですよ!」
「全員、一斉攻撃!」
ラクリッテの合図により塔が実体から幻に変わった直後、メルトの指示により〈8組〉からの攻撃が飛んだ。
「な、何ぃ!?」
「防御を、間に合わないか!」
幻の奥から塔を突き破るようにして飛び出してきた一斉攻撃に〈9組〉〈10組〉の対処は遅れ、直撃するかに見えた、しかし。
「これは使いたくなかったが、仕方ないね――『ソウルフルコンバート』!」
直撃する直前、キールの不気味なスキルが戦場に響いた。
そして衝撃――。
「「「やったか!?」」」
「おい、それを言っちゃだめだろ!」
〈8組〉メンバーが前のめりにしてハモった。メルトが慌てて突っ込みを入れる。
この世界にもフラグの概念はあるらしい。
しかし、時すでに遅し、衝撃に煙が舞う場所から、〈9組〉と〈10組〉が突撃してきたのである。
「何! 無傷だと!?」
〈8組〉メンバーの一人が叫んだ。
相手の損耗が一斉攻撃を加える前とまったく同じに見えたためだ。
しかし、それが違うことにメルトが気が付く。
「いや、違う。攻撃が届く直前に聞こえた『ソウルフルコンバート』、タンクが一人いない! こいつら、タンク一人に今の攻撃のダメージを全部押し付けたのか!」
メルトが険しい表情で言った。
実際メルトの予想は当たりで、【ソウルイーター】のスキル『ソウルフルコンバート』は囮スキル。一定時間の受けるダメージを肩代わり
これにより、先ほどの〈9組〉〈10組〉に大打撃を与えるだろう一斉攻撃は、一人の犠牲で乗り切られてしまった。
「僕だって出来れば使いたくはなかったさ! タンクの
巨大な鎌を振りかぶり走りながらキールが叫ぶ。
その目は怪しい光を放ち、ボロボロのローブをはためかせて走る姿は魂を奪いに来るかのような恐怖を起こさせる。
「だけどようやくぶつかることが出来るよ! 全員突撃しろ――!! 数ではこっちが勝ってる。乱戦に持ち込むんだ!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「「「チャージ! チャージ! チャージ!」」」
キールの指示に〈9組〉と〈10組〉のメンバーがついに〈8組〉と衝突した。
さらに後方にいたはずのキールが瞬間、ものすごいスピードでメルトに接近していた。
「〈8組〉のリーダー! ――『魂の刃』!」
「やってくれたな!」
狙いはメルトだ。キールがソニック系でも使ったのかと言わんスピードで迫り、その鎌はエフェクトに怪しく光る。
しかし、リーダーが狙われるなんてこと、〈8組〉だって分かっている。
「やらせるか!」
「まずは私たちを倒していってもらいましょうか」
〈8組〉のメンバーがメルトを守るように展開する。
しかし、キールはこれでも〈9組〉のリーダーにして二つ名持ち。
そう簡単には止められない。
「どきな!」
「ぐっ!? 何!?」
「盾を、すり抜けた!?」
先制攻撃はキールの大鎌、それが振り下ろされると、盾をすり抜けてメルトを守りに出た男女を切り裂いたのだ。
「【ソウルイーター】は魂を食らう! 防御スキルの無い盾なんかじゃ防げないよ」
「なんだって!?」
その話を聞いた男子が目を見開いて驚愕するが、半分以上はキールのブラフだ。
『魂の刃』は確かにスキルを使っていないと迎撃出来ないという効果を持つスキルだが、他のスキルではそんな効果を持っているものはない。つまり【ソウルイーター】のスキル全体の話ではない。また、わざわざキールは
実際メルトを庇うように出たために男女は防御スキルを使わなくちゃという気にさせられていた。実際は攻撃スキルだろうが魔法だろうがなんでも使っていいのに。
しかし、それをメルトが一喝する。
「相手に惑わされるな! 『フレアバースト』!」
「おおっと、あぶなっ!」
「防御スキルを使って受け止めてやる必要は無い! どんどん攻撃し〈9組〉リーダーの首を奪ってやれ!」
「お、おおお!!」
「分かったわ! さすがメルトね!」
メルトの言葉が効き、男女が反撃に出んとする。
「ちぇ、まあいいよ。――みんな押せ押せ! 数で押すんだ!」
「相手に釣られるな! 弾き返せ!」
キールは男女を引きつけながら下がって仲間と合流し一気に数で刈り取ろうとする。
しかし、男女はそれを見て深追いはせず、すぐにメルトと合流を果たした。
そのまま〈8組〉と〈9組〉〈10組〉は一気にぶつかり合う。
そんな状況下でメルトは冷静に相手の動きを見極め、要所に攻撃魔法を放ち援護していた。
「(思ったより圧力が低い? 数では〈8組〉が負けている。接触する前にある程度数を削りたかったが、それも上手くいかなかったのにこの圧力の低さはどういうことだ? これでは俺に刃が届くことはない。ならば、本命は別にある?)」
無理矢理ぶつかってきたにしては思ったより強くない攻撃にメルトはいぶかしむ。
この程度の攻撃力であの〈9組〉リーダーが勝負に出るとは思えない。メルトは隣のクラスのことをそれなりに知っていた。ならば、狙いは別にあると考えるのが普通だと、メルトが思案したところで気が付いた。
「(待て、キールはどこだ? いつの間にかあいつの姿がないだと? 姿が見えない? インビジブルか!)」
メルトが気が付いた時、〈10組〉リーダージェイはノエルとぶつかり合って、超能力VS歌がせめぎ合っていた。
しかし、肝心の〈9組〉リーダーキールが見当たらない。退いて仲間と合流した所までは目で追っていたのに、部隊同士がぶつかったタイミングで行方を眩ませたようだ。
そのことから隠密系のスキルを発動していると看破したメルトは、ノエルと敵対していたジェイに攻撃魔法をぶち込むことにした。
「はああああ! 『サイコキネシス』!」
「吹き飛んじゃって♪『マイクオンインパクト』!」
「まだまだ! 『超・肉体強――」
「――『ホーリーブレイク』!」
「――ぐわぁぁぁぁっ!?」
聖属性三段階目ツリーの衝撃魔法を真横から不意打ちで受けたジェイが盛大に吹っ飛び転がっていく。ノエルはビックリしたことで歌が止まってしまう。
「メルト君!?」
「ノエル! 隠れている奴がいる、ソナー探知!」
「! 了解――盛大に響け『サウンドソナー』!」
ノエルの歌の探知スキルが戦場全体に伝わり、反響音から見えていない敵の存在を知らせてくれた。
「――見つけた、ラクリッテちゃん!」
「! あそこか! 狙いはラクリッテだと!」
一時的に砂嵐のように、隠れている人のシルエットがノエルとメルトの目に留まる。
その狙いはまさかのラクリッテ、二人を相手に睨みあいをしているラクリッテの背中へ迫り、突き立てるところだった。
「今更気が付いても遅いさ、食らえ即死のユニーク――『ソウルチョッパー』!」
瞬間、隠密系スキル『ソウルコンパクト』が解除され、姿があらわになったキール、そして、その手に持つ大鎌に怪しく黒い瘴気に包まれる。
これこそが【ソウルイーター】の真骨頂。即死攻撃ユニークスキル『ソウルチョッパー』だ。命中したが最後、即死耐性を上げていなければ、かなりの確率で戦闘不能になってしまう強力なユニークスキルである。
キールはこの『ソウルチョッパー』を
キールはAGIとDEX特化のステータスビルドをしており、要は速攻で近づいて即死させる戦法を得意としているのだ。
――即死特化構成。
キールが初戦で4人のクラスリーダーをそのユニークスキルで屠り、その装備と即死構成スタイルから、キールは〈死神〉の二つ名で呼ばれることになったのだ。
いくら状態異常耐性を上げていたとしても、即死はまだまだ先、ダンジョンでは
ユニークエフェクトに包まれた怪しい鎌が振られ、そのままラクリッテを切り裂いた。――ように見えた。
「これで終わりさ、目的は達成し―――何?」
回避不能なタイミング、確信して振るわれた鎌は確かにラクリッテの背中を捉えたはずなのに、しかしキールの手には、まったく手ごたえが無かったのだ。
慌ててキールが自分の鎌を見て、次にラクリッテを見たときそれが幻であることに気が付く。
切り裂かれたところが斬られたままの状態でラクリッテの姿がぼやけていたのだ。
「偽者だと!? ばかな、いやあの塔のときか! ――本物は、どこだ!?」
「「なんだって!?」」
対面にいた二人もまさか目の前のラクリッテが幻と思わなかったようで、勝利を確信したニヤリとした表情から一転、焦りの表情でキョロキョロと周りを探しだす。
いつの間にか偽者とすり替わっていたラクリッテを、タイミング的に幻の塔を出現させていた時に入れ替わったのだと看破したキールは慌てて辺りを探知する魔法を使う。
「――『魂感知』! ――は?」
しかし、その魔法が反応したのは、目の前の幻からだった。
幻だと思っていたラクリッテがクルリと振り返る。
「えい! ――『ポンコツ』!」
「ぐあぁ!?」
「「キールリーダー!?」」
まさかの、――攻撃。
両手盾のコッツンがキールに命中し強力なデバフを付与する。
いや、両手盾の質量がデカイので、コッツンよりドッゴンという感じだったが。
キールが衝撃でひっくり返り、調子悪そうにしながらも慌てて起き上がり、心底理解できないという風に問う。
「ぐっ、なぜ、幻だったんじゃ?」
「は、はい。さっきまでアバターでした、これ『ポンポコアバター』と『ポンポコスワップ』の組み合わせなんです。入れ替わりました!」
「……は?」
ラクリッテの『ポンポコアバター』は自分そっくりの幻を作り出す魔法。そして『ポンポコスワップ』は自分とそのアバターの位置を入れ替える魔法だ。
これにより、幻を出して、本人は『蜃気楼』で隠れていたラクリッテは、斬られた幻が消える前に入れ替わり、その後に不意の一撃を与えたのである。
最近タンクカウンターを得意とするリカから教わった、【ラクシル】のユニーク級スキル、『ポンコツ』を当てるための技術だった。それが見事に決まり、ラクリッテは心の中でリカに感謝を送る。
しかし、そんな短い説明、いや、説明にすらなっていない
「え? いや、それじゃわかんない。もう少し詳しく聞きたいんだけど」
「えっと、
「それ退場しちゃってるやつだし、『ソウル――』」
「やらせません――『パープルタッチ』!」
「ぐっ!?」
キールは時間稼ぎを実行しようとして、出来ないと判断すると逃げるためのスキルを発動しようとする。
しかし先ほどの『ポンコツ』によって動きが超遅くなっているキールは目の前にいるラクリッテからは逃れられない。
この『パープルタッチ』は『イリュージョン』と同じくランダム状態異常魔法。〈恐怖〉〈麻痺〉〈混乱〉などの体内状態異常をランダムで付与する。
これによりキールはステータスがさらに低下しMPにスリップダメージを受ける〈恐怖〉の状態異常に掛かった。
キールの目には、ラクリッテが本物の死神のように見え、恐怖に身体が震え始める。
〈死神のキール〉が死神の幻に怯えるとは因果なものだ。
「ぐ、くっ、誰か――」
「リーダーから離れろ!」
「だ、ダメです。この人は今倒すんです!」
そこへ二人の男子がラクリッテへ槌とメイスを振り下ろすが、あっけなく防がれる。
しかし、時間が稼げれば問題ないと一人が体当たりでラクリッテを押さえつけている間にもう一人がキールを抱えて逃げた。
「逃がさん! 『フリズドスロウ』!」
「そうだよ、ラクリッテちゃんを狙った罰を受けてもらわないとね! 『テラーカーニバル』!」
メルトとノエルがキールに向かって追撃を放つが。
「ユニークスキル、『暴走超能力』! ――『サイコキネシス』!」
そこに割り込んできたジェイが、強力な念動力で防いだ。
強力なバフの乗ったメルトとノエル二人の攻撃が防がれるというまさかの攻撃に、メルトたちが足を止めて警戒する。
「! ――〈10組〉のリーダーか」
「ジェイ!」
「キール、早く下がれ!」
メルト、ノエル、ラクリッテの前に立ちはだかるジェイ。
その身体は今、荒れ狂うような魔力の嵐が渦巻いていた。
空間が歪み、目が血走り、ジェイの周囲にあった石や岩が徐々に宙へと浮いていく。
――暴走状態。
ジェイは不敵に笑うと宣言する。
「三人纏めて、俺が相手してやるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます