第563話 キールの考察、あの両手盾の少女は危険だ。
「ぐっ、なにぃ!? これはいったい何事だぁ!?」
〈10組〉のリーダージェイがいきなりの衝撃に叫び声を上げる。
「……どうやら、僕たちは奇襲を受けたようだよ。〈8組〉にね」
「――何ぃ!?」
隣で片膝を突いた状態から立ち上がり、〈9組〉リーダーキールが冷静に周囲を分析しながら答える。
奥にはいつの間に接近したのか7人の部隊が新しく増えていて、ハクを始めとした〈3組〉は警戒し距離を空けてはいるが炎で牽制しているところだった。
――奇襲。
砂埃が晴れるとその惨状があらわになった。
――数は13人、1人いない。
さらに完全に防げた者はおらず、みんないくらかのダメージを負っていた。
倒れている者はおらず、すぐに奇襲に対処するために行動を起こしつつあった。
それを確認してキールが指示を出す。
「前方に増援、数七! 〈8組〉だ! いったん後ろのマスに退避、防御陣形を作れ! ヒーラーはマスを越えてから回復! 魔法部隊は反撃準備! さらなる攻撃に対処しろ!」
キールの指示によりすぐに下がって隣のマスへと移動し、〈9組〉のタンクが前へ出て陣形を作った。〈10組〉もすぐに協力して合わせ、次の攻撃に対処せんとする。
「ほう、いい練度だな」
〈8組〉のリーダーメルトが〈9組〉〈10組〉の動きを見てそう短く評価した。
追撃を行ないたかったが、〈3組〉のリーダーハクがそれをさせない。牽制され無理に追撃すれば手痛い反撃をくれてやるという気迫もあって、メルトは〈9組〉と〈10組〉が陣形を整えるのを許してしまう。
「メルト様、どうしてここにいるの?」
「ミサト、今は敵同士なんだからそんな砕けた口調は、いや、いい。どうせこいつらだって組んでいるしな」
ミサトの疑問に答えず苦言を言おうとしたメルトだったが、目の前の状況を見てやめた。
今ミサトたちを敵にしても良い結果は出ない。
「みんな、大丈夫だった? 怪我は無い?」
心配げにそう聞くのはノエルだ。さらにその隣には両手盾を構えるラクリッテもいる。
「ノエルちゃんも! それにラクリッテちゃんもいる! みんなでどうしたの?」
「は、はい。哨戒中にカルアちゃんの黒猫が来まして、その手紙を読んだメルトさんがその、介入を決めたので――」
「ラクリッテ、そこから先は俺が説明するがいいか?」
「――は、はい!!」
ラクリッテが丁寧に状況を説明しようとしたので、メルトが周囲を警戒しながら言葉をかぶせた。言葉の途中、まるで都合の悪いことを言わせないように切ったのは気のせいのはずだ。
「ここは一時的に〈1組〉と協力し、相手を叩く場面だと判断した。各リーダーが揃うなんて絶好の機会、逃すに惜しいため介入を決めたに過ぎん」
まるで何かの言い訳のようにも聞こえるが、確かにメルトの言うとおり、〈3組〉〈9組〉〈10組〉のリーダーが一同に集うなんてそう何度もある事ではない。
実際、戦力的には厳しいかもしれないが、チャンスであることには間違いない。
ここでリーダー1人でも討ち取れれば戦況は大きく傾くだろう。
さらにメルトは、この後の展開も見ている。
例の〈12組〉の勧誘内容から〈12組〉〈51組〉が手を組んでいるのは明らか。
後もう一クラスは、ゼフィルスが自分たちに手紙で応援を頼んだ経緯を見れば〈5組〉が向こうに加わっていると見て良い。
今後の展開を考え戦力図を見れば、ここで〈1組〉を助けておくのは重要な一手だとメルトは考える。〈8組〉にとっても、相手のリーダーを討ち取れる大きなチャンスだ、悪い話ではない。
「ミサト、パメラ、リカ、ここは協力して奴らを叩くぞ」
メルトの宣言により、ここに〈1組〉〈8組〉対〈3組〉〈9組〉〈10組〉という構図が完成した。
◇ ◇ ◇
マスを移動しながらキールは指示を出し、すぐに体勢を立て直していた。
「まさか、僕の『魂感知』と『波動予測』を悟らせずに奇襲を成功させるなんてね。それを為したのは間違いなくあの両手盾の少女だ。彼女は危険だ。ここで倒す必要がある」
陣形を立て直した〈9組〉〈10組〉、その司令塔たるキールは冷静に先ほどの奇襲を分析していた。
キールの頭の中にはある程度相手の情報も掴んではある。
そうして〈8組〉の増援7名を分析し、先ほどの奇襲を可能としたのはラクリッテだと予想を立てていた。
そしてその予想は当たっている。
ほとんど正面からの奇襲。いくら一斉攻撃のタイミングの隙を突いたからといって正面からの奇襲なんて気がつかないはずが無い。それを為したのがラクリッテの魔法『
自分の周囲を視覚的にごまかすこの魔法により、7人という集団の接近をごまかしたのだ。
しかし『蜃気楼』はそれほど強力な魔法というわけではなく、透明になるのでは無いために、空間の歪みで発見されることもある。本来なら、隣接マスまで見破られなければいいくらいに思っていたのだが、そこに好機が訪れる。
ラクリッテの『蜃気楼』をサポートするようにごまかしたのがハクの使った『炎の陽炎』だった。あれにより空間の歪みを認識しづらい状況になった。ハク本人も「なんか空間が歪んでいる気がするなぁ、先ほどの陽炎の名残かいな?」と無意識に考え、〈8組〉の存在を躱す助けとなったのだ。
さらに相手の『感知』『察知』系をごまかす魔法『ジャミング』も合わさり、キールの索敵系スキル『魂感知』や、攻撃に反応する危険察知スキル『波動予測』をごまかしたのである。
おかげで同じマスへと侵入し、ノエルによって強化されたメルトが放ったユニークスキル『アポカリプス』は、ギリギリまで隠された状態で〈9組〉〈10組〉の集団を直撃し、多くの被害を出させたのだった。
デバフタンクのラクリッテ。
キールは自分と相性が悪く、非常に危険な相手だと認識する。いきなりの奇襲、増援を食らい、多少の動揺はあるがすでに立て直し済み。相手の数は10人であり、こちらの数は17人。しかも強力な戦力たるリーダー格が3人も味方にいる。ここは勝負に出る場面、ラクリッテはここで倒すべきだとキールは判断した。
「ジェイ、ここは戦う場面だ。あの両手盾の少女だけはここで倒さねばならない。また、〈8組〉リーダーをここで倒すことができれば勝利に大きく近づくだろう」
「なるほど。キールにしては端的にして無駄のない説明だ。よし、その話、乗ろう! 全員、ここが踏ん張りどころである! 奮起せよ!」
「陣形変更!
マスを隔てて〈9組〉がタンク二人を前に出しその後ろに接近型アタッカー、その後ろに魔法型という形で陣形を組む。
その陣形を補助する形で〈10組〉が周囲に遊撃として展開。
攻撃の準備を整えた二クラスが一気にマスの境を越え、〈8組〉に向かって
「チャージ! チャージ! チャージ!」
―――おおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!
完全に〈8組〉を狙いに行くその光景にハクはすぐに察して、自分たちの狙いを〈1組〉へと変える。
「んじゃ、うちらも気張らんとなぁ――『炎の大蛇』!」
ハクが再び出す炎で出来た大蛇が出現し、ミサトたちに頭を向け飛びかかる。
「うふふ~、それはさっき防いで見せたよね――『リフレクション』!」
ズドンッと衝撃がおこり、再び大蛇が弾かれる。
――まだまだ、この場所の戦火は収まらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます