第553話 メルトたち視点。第一七ブロックの決着。




 また別の観客席では、〈戦闘課1年8組〉のとある集団が第一七ブロックを観戦していた。

 そのリーダーであるメルトが唸る。


「ふむ。さすがだな、俺たちのギルドマスターは」


 すでに第一七ブロックでは〈1組〉の決勝戦進出が半ば決まっていた。

 半数の三拠点を落とし、ポイント1000点オーバーの〈1組〉はどこかから狙われ、拠点が落とされないかぎり決勝戦へと進出するだろう。

 そして、今残っている三クラスでは、たとえ共同戦線を張ったとしても〈1組〉を陥落せしめるとは思えない。


 故に〈1組〉の決勝戦進出はほぼ確実なものとなっている。

 試合開始から僅か40分ほどで決勝戦進出を決めた〈1組〉は今、全員が拠点へ引き上げのんきにティータイムをしているところだ。


 未だ〈クラス対抗戦〉の〈拠点落とし〉の真っ最中で有り、いつ敵に攻められるとも分からない状況でこの余裕。

 メルトがさすがだと言った理由も分かるというものだ。

 まあ、これは様々な索敵を行なっているからこそ出来ることだが。


〈1組〉を指揮しているリーダーは、メルトが在籍しているギルド〈エデン〉のギルドマスターであるゼフィルスなのである。〈1組〉はすでにゼフィルス済みであった。


「なんというか、いつも通りですよねゼフィルス君」


「き、緊張が全く無さそうで羨ましいです」


 メルトの呟きに答えたのは、夏休み前に〈エデン〉に昇格したメンバーのノエル、そしてラクリッテである。


 ノエルは〈1組〉の光景を羨ましそうに眺め、ラクリッテはゼフィルスを羨望の眼差しで見つめている。


 この〈クラス対抗戦〉は、クラス替えが掛かっている。

 学園ではクラス毎に授業の内容が異なり、組の数が若いほど優秀であり、また授業も濃い内容となっている。そして、優秀なクラスで卒業すればそれは実績となり、就職にも有利になる。つまり人生が掛かっていると考えても過言ではない。

 故に誰もが優秀なクラスに入るために〈クラス対抗戦〉に全力を掛けているのだ。


 つまりこんなにのんびりまったりしていることなんて普通はあり得ないのである。


「ここからは、〈1組〉は動かないか……」


 そこへ話しかけたのはレグラムだ。

 現在この四人で観戦していた。

 レグラムの言葉にメルトが頷く。


「まあな。決勝戦進出は決まっているようなものだ、動く必要も無い」


「でも、〈1組〉の動きにしては大人しくないですか?」


「そ、そうですね。てっきり初戦みたいに全部のクラスを落とすのだと思いました」


 疑問の声を上げるノエルとラクリッテ。

 それもそのはずで、〈1組〉は初戦ではかなりアグレッシブに動き、〈15組〉〈45組〉〈58組〉〈116組〉という四クラスを落として決着している。

 準決勝でも派手に動き、最後の二クラスになるまで攻め攻めスタイルで行くものかと思っていたのだ。


「…………確かに、戦力的に出来なくはないな」


 メルトは改めて現在の〈1組〉の状況を見る。

 最初から四つ巴の乱戦に突撃したりとあれだけ攻勢に出た〈1組〉の退場者はなんとゼロである。相手にしたのはほとんどが格下のクラスばかりとはいえ、誰も退場していないとは異様であった。


 これが学園トップである〈1組〉の実力。恐ろしいことである。


 ではなぜこれ以上の攻勢を実行しないのか? 答えは意外なところにあった。


「これは、ゼフィルスが学園側に配慮した結果らしい」


「それって……」


 メルトが語った内容は、要はやりすぎ注意だった。


〈1組〉ばかりが活躍する。

 なるほど、それもライバルを減らす行為だし問題は無い。

 しかし、学園や企業などから見ればそれは困るのだ。


〈クラス対抗戦〉は人材発掘の場。

 しかも今年は初戦のせいで第一七ブロックの観戦者が大幅に増え注目されている。

 それなのに〈1組〉ばかりが活躍し、無双しすぎると、他の学生が活躍する機会を奪いすぎて人材発掘が滞ってしまう。これは困った。


 勝ちすぎて他のクラスに必要以上に恨まれても困るということもあり、そんな事情を汲み取ったゼフィルスが、決勝進出が決定したところで防衛専念という建前でこうして拠点に篭っているのだった。

 おそらく、何か理由が無い限り〈1組〉はこのままだろう。


「…………」


 ノエルたちは少し苦笑して、とりあえず聞かなかったことにした。

 レグラムもそれを察して別の話題を振る。


「メルトは2位に食い込むのはどこだと思っている?」


「そうだな……」


 すでに〈1組〉が1位になる事を、彼らは疑っていない。

 話題は、ではどこのクラスが2位となるかに移った。


「今のポイント優勢は、〈4組〉を落とした〈6組〉が大幅にリードしている。このまま〈6組〉が守りに入った場合。残っている二つのクラス〈10組〉と〈18組〉のとるべき選択は大きく三つに別れる。すなわち、〈1組〉を共に狙うか。〈6組〉を共に狙うか。共同戦線を破棄して仲間内で争うかだな」


 メルトの〈6組〉が動かないことを前提にした予想にレグラムも頷いて同意する。


「ああ。俺も〈6組〉は動かないと思う。だが、その三つの選択だと最初のは無謀だな」


 最初の、とはもちろん〈1組〉を狙うことである。無謀すぎる。


「そうだな。だから選択肢は実質二つだろう。そしておそらくだが〈6組〉を二クラスで攻めることになる」


「お互いで争い勝ち残ったとして、最後は結局2位の座を狙う〈6組〉と戦うことになる。なら最初に協力して〈6組〉を叩いておいた方がマシ、というところか」


 そうしてメルトとレグラムの予想は当たることとなる。


「あ、〈10組〉と〈18組〉が動きましたよ!」


「〈6組〉へ向かうみたいですね!」


 ノエルとラクリッテがキラキラした視線で男子たちを見る。

 つまりはこれからどうなるのか教えてと言うことだ。

 しかし、メルトは困ったように頬をポリポリかいて言う。


「あ~、悪いがここからは不確定要素が大きすぎてわからない」


「そうなのですか?」


 ラクリッテのきょとんとした視線にレグラムが頷いて答える。


「ああ。ここまで〈10組〉と〈18組〉はなんの行動も起こさなかった。やったのは一つ、共に共同戦線を張る約束を交わしただけ。その他は今の〈6組〉のように亀のように丸まって何もしていなかった」


「つまり、どんな戦力を隠し持っているか分からない?」


「いや、おそらく戦力はかなり高いだろう。ここまでの行動は全て最初から一貫していたように見えた。つまりは作戦行動の内だと考えられる。おそらくは戦力を下手に減らさないよう温存していたと見るべきだろう」


「あれ? それなら〈6組〉が危ないのではないですか? 二クラスを同時に相手にしなくてはいけませんし」


 ノエルが今の話を聞いて顎に人差し指を当てる仕草をしながら聞く。

 その言葉にメルトは頷いた。


「ああ、だから分からないと言ったのは〈10組〉か〈18組〉どちらが2位になるか、だな」


 その答えにノエルとラクリッテは納得した。


〈拠点落とし〉は総取りが基本。

 ラストアタックで拠点を落としたチームが全てを持っていくのだ。割り勘にはならない。

 二クラスで攻めれば勝てる。しかしどちらのクラスが点を持っていくのかは神のみぞ知る、と言ったところだろう。

 メルトの予想は続く。


「そうして〈6組〉が退場したら今度は共同戦線を破棄出来る。相手がいないのだからな。ということで〈10組〉と〈18組〉の争いが待っているだろう。これの勝者が2位になるだろうな」


「クラスの格で言えば〈10組〉の方が上だが、〈6組〉との対戦で大きく消耗すれば分からない。それに〈6組〉をどちらが落とすかによって戦場が分かれる。〈拠点落とし〉は防衛戦の方が有利だ。〈18組〉が〈6組〉のポイントを取った場合、〈10組〉はかなり不利に陥るだろうな」


 メルトの予想をレグラムが補足し、2位がどちらに転がり込むか注目する。


 そして、展開はメルトたちの予想通りに進む。かに思われた。


 30分という時間を掛け、なんどもなんども硬い亀になった〈6組〉を攻撃していた〈10組〉〈18組〉がとうとうその心臓部に手が届いたのだ。

 そうして〈18組〉がとどめを刺し、〈6組〉が稼いでいた〈4組〉の点数ごと獲得することに成功する。


 問題はこの後だった。

〈6組〉が落ちるとほぼ同時に、いきなり〈18組〉の拠点が落ち、試合が終了してしまったのである。


〈18組〉を落としたのは、〈6組〉から救援を求められた〈1組〉だった。

 なお〈6組〉の救援は間に合わなかった模様。




 第一七ブロック試合終了――〈残り時間:2時間42分58秒〉

〈1年1組〉『残り人数:30人』『ポイント:2420点』勝抜1位

〈1年10組〉『残り人数:16人』『ポイント:95点』勝抜2位

〈1年18組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』脱落3位

〈1年6組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』脱落4位

〈1年7組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』脱落5位

〈1年4組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』脱落6位

〈1年37組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』脱落7位

〈1年99組〉『残り人数:―人』『ポイント:―点』陥落8位



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